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「ハヴァーツCF固定の弊害」~2024.11.2 プレミアリーグ 第10節 ニューカッスル×アーセナル レビュー

プレビュー記事

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レビュー

後手を踏むライスがウィロックを逃がす

 ボーンマス、リバプールとリーグ戦で2試合勝利がないアーセナル。負傷者や退場者という致し方ない理由があるとはいえ、やはり上位勢とジリジリと勝ち点が離されている状況は好ましいとは言えないだろう。苦しむ状況の中で迎えるのは近年鬼門と化しているセント・ジェームズ・パークである。

 アーセナルの入りは非常にオーソドックスだった。高い位置から4-4-2を基調としたプレッシングに行き、バックスからはサイドにボールを付けながら打開をする。細かいことを置いておくと、アーセナルの意識づけはいつも通りの範疇だったといえるだろう。

 しかしながら、この試合ではいつも通りにはいかなかった。まずわかりやすく空振りに終わったのはハイプレスである。ニューカッスルは雑なロングボールではなく、自陣からきっちりつなぐ意識を持っているチームであった。とりわけ、左サイドにボールを集めて低い位置からのパス交換を行うことで脱出を狙っていった。

 本来であれば「左サイドの低い位置からボールをつなごうとするチーム」はアーセナルの得意分野であるはず。アーセナルのプレッシングの強みは特にこの右サイド(=相手から見た左サイド)に追い込むことに定評があるものであった。

 だが、この日はそれが機能しなかった。理由は大きく分けて2つ。まずはアンカーのギマランイスを捕まえる役割がイマイチはっきりしていなかったことだろう。本来であれば2トップで管理しきりたいところではあるが、逃げられることもしばしば。そのうえで機動力に欠けるメリーノがギマランイスの流れるニューカッスルの左サイド側まで出て行くこともしばしばあり、アーセナルの陣形は左右にゆがんでいるにも関わらず、相手を閉じ込めることが出来なかった。

 もう1つ、問題があったのはニューカッスルの左サイドには縦パスの逃がしどころがあったということ。CFのイサク以上に、ウィロックがこの役割で大きな存在感を放ったのはこの試合における重要なポイントといえるだろう。

 先制点が入る12分までの間にウィロックの対面であるライスはとにかくウィロックを逃がし続けた。縦パスでのポストをフリーで行わせたり、味方のポストに合わせての攻め上がりで逃がしたりなど、致命的なものもいくつかあった。

 周囲にほかに気をそらすものがあったなど構造的な仕掛けがあれば、まだこういう現象にも納得感はある。だが、そういう場面はほぼなく、単純に個人のクオリティとしてウィロックがライスを大幅に上回ったように見えた。

 今季のライスは不調とよく言われていたが、それはあくまで「本来であればもたらせるほどの大きな強みを乗せられない」というもたらすプラスの割引というテイストの話だった。だが、この試合では「プレス隊の一員として果たすべき責務を果たせない」というマイナスの穴を空けるという次元の話になっており、この点は今後を見据えても大きな不安要素となるだろう。

 12分のゴールはニューカッスルの攻撃の質の高さもあるが、ウィロックのロングボールに対するアーセナルの対応の不十分さが効いたシーンでもあった。中途半端なクリアとなったトーマスが無理な体勢となったのは同じくライスがウィロックを逃がした影響だろう。落としを拾ったニューカッスルは素早く右サイドに展開し、ゴードンのクロスから先制点を生み出す。

 この試合のニューカッスルはイサク、ジョエリントン、ウィロックなど多くの前線の選手がポストプレーに降りてきたが、ゴードンはあまり降りるアクションでボールに関与せず、右サイドに張り付くことを意識していたように思う。そして、利き足サイドという配置。ゴードンに託されたミッションは開けたスペースにおいて、素早くクロスを入れることだろう。

 もっと言えば、左サイドの密集からの少ないタッチでのポストからの逆サイドのゴードンへの展開というこの日のニューカッスルの狙い自体がこのゴードンの右サイドに集約されていたとも考えることが出来る。いわば、アーセナルの守備ブロックが整う前にゴードンの右足で早々にボックス内にボールを送り込むことがチームとしての狙いだった可能性があるということだ。

 相手から見たアーセナルの強みはローブロックになった際の強度の高さであり、これは10人が相手だろうと簡単に揺らがない。数的不利に陥って負けた試合もシティ戦のストーンズのゴールを除けば、トランジッション成分が上乗せされていたものばかりである。

 完敗という内容によって覆い隠されている部分もあるが、この日のニューカッスルのチャンスはこうしたゴードンにトランジッション成分を残した形でボールを渡せたときに集約されている。狙い通りの数回のチャンスをニューカッスルはきっちりものにしたといえるだろう。

後手を踏むダブルチーム対策

 アーセナルの保持は3-2-5がベース。右SBのトーマスが絞る役割の専門職となり、ライスの隣に並び立つ役割が基本であった。ニューカッスルは高い位置からのプレスを実施。中盤から前で相手を捕まえるような形でアーセナルのバックスを追い込んでいく。

 本来であればアーセナルはここからズレを作って前進していきたいところ。だが、ニューカッスルの人を追いかけるプレッシングは覚悟が決まっており、トーマスのインサイド化を含めた右サイドの移動を無効化することが出来ていた。驚くことに先制してもその姿勢は大きく変化はせず、高い位置からアーセナルのプレッシングを阻害する試みは続くことになる。

 頼みのサカもボールをシンプルに預けてしまうとジョエリントンかギマランイスがダブルチームの相手としてすっ飛んできてしまうので、簡単にこじ開けることはできない。

 可能性が残されていたのは左サイド側だろう。マンツー気味で対応する相手に対して、こちらのサイドの方がまだ受け渡しでミスが出てくる余地は残されていた。

 特に逃がしやすかったのはゴードンと対面するティンバー。もっとも、クリティカルなチャンスだったのは前線に飛び出す形でロングボールを受けた11分の場面。このシーンはゴードンが後方にプレスを受け渡したつもりではあったが、シェアがトロサールを監視しているため、ティンバーへの対応が完全に遅れてしまった場面であった。おそらく、ニューカッスルはサイドフローしたハヴァーツにロングボールが出ると踏んだのだろう。

 このようにティンバーの列上げのアクションからはズレを作ることが出来そうだった。しかしながら、こうした場面は稀であった。SBが高い位置を取るにはざっくりと後方からのつなぎで時間を作るか、あるいはWGにボールを当てて時間を作るかの2つが考えられる。

 この試合でのニューカッスルは先制点以降の時間帯も含めて高い位置からのプレッシングを大事にしようという意識があったので、アーセナルは早めにマルティネッリにボールを預ける選択肢を取ることが多かった。

 このマルティネッリへの供給を無効化したのはゴードンだった。ティンバーを追い掛け回すという点で言えば隙があったゴードンだったが、マルティネッリに対する挟み込みを行うという観点ではかなり実直にそのタスクをこなすことが出来ていた。

 一般的な話として相手のダブルチームを打ち破るためには3つの選択肢を用意して、そのうちいくつかを有効化することが重要になる。多くの場合、守備側は後方の選手が縦のコースを切り、プレスバックする選手が横か後ろのコースを切る。

 この日のゴードンは後ろのコースを切ることが多かった。リヴラメントは縦に専念。とにかく縦に抜かれないことを大事にしていた。マルティネッリは体の向きを変えて駆け引きをしていたが、背を向けた瞬間にゴードンが一瞬で間合いを詰めてくるので一度背を向けたが最後、前を向き直すことができなかった。これでは駆け引きどころではない。

 というわけでマルティネッリに残されていたのは間のスペースである。2人の間を突破することでインサイドにカットインする、もしくはこの間に走りこむ味方にパスを通すことのどちらかが求められる。

 だが、実際はこのどちらも難しかったように思える。まず、単純にパスを出す選択肢としてはマルティネッリと同じ高さに立つ味方がいなかった。メリーノ、ティンバーといった面々はマルティネッリに対して後ろに立つことが多く、列上げが間に合っていなかった。たぶん、初期配置で相手のズレを探る作業が足りておらず、とりあえずWGにボールを預けてしまう傾向があるのだろう。だから、ティンバーにもメリーノにも列を上げる時間がない。

 自分でドリブルをする方に関しては中央で遊軍待機するギマランイスの存在がうざかった。特に正対した状態から相手を抜く場面というのは、ホルダーが大きくボールを動かすことが確定で起きる場面とも言い換えられるので、その瞬間をインサイドでギマランイスが狙っていたのが印象的。抜いた先の一手目を自由にさせることを許さない。

 マルティネッリ目線で言えば、大きいコントロールで中央に突っ込んでロストするというのはカウンターを受けるという観点からも避けたい心理は働くだろう。そのため、もっとも可能性のありそうなリヴラメントの右足側からの縦突破を狙うことが増える。

 ただし、リヴラメントは縦に待ち構えていればOKなので、そんなにマルティネッリへの対応は難しいものではなかった。タイミングさえ間違えなければ方向は決まっている相手への対応は難易度がぐっと下がる。

 ダブルチームにおけるすべての選択肢を抑えられたアーセナルは苦戦。ボールのホルダーが2人に囲まれないようなカウンター局面では存在感を発揮できるが、スローダウンさせられてからはなかなか苦しいものがあった。

 おそらく、アーセナルもニューカッスルと同じく、ある程度早い攻撃でニューカッスルのブロックが固まる前の段階で攻撃を完結させたかったはず。だが、降りる選手のポスト→ゴードンという後ろを急ぐフェーズを活かすために、手前で時間をかけたニューカッスルがスピーディな攻撃を実践しているのに対して、初手で急いでWGに渡したアーセナルがスローダウンをさせられてボックスにも届かないうちにノッキングしているという現象はなかなかに興味深いものだった。

押しこむフェーズへの踏み込み

 後半もニューカッスルは好戦的なスタート。初手で右サイドからゴードンがチャンスを作るなど好調を維持。高い位置からのチェイシングもキープしており、後半もアーセナルと互角に組む覚悟を見せる。

 アーセナルはまずトロサールやハヴァーツが右サイドにフローする形を披露。サカとサリバの間を埋めて右サイドの攻撃の窓口を作りに行く。これで前半は無作為に裏にボールを蹴っていた右サイドの供給は安定するように。

 ただし、左サイドの後ろは後方に重い傾向があり、依然としてマルティネッリをティンバーとメリーノがあまり助けられていない状況だった。そのため、アーセナルは左サイドの停滞感が継続することに。

 左サイドの陣形を整えること、右サイドの押し込んだ際の崩しを強化すること。この2つがアーセナルの後半のミッション。アルテタは選手交代をベースにこれに取り組んだ。

 左に入ったジンチェンコはとりあえずマルティネッリに預けるというプランを回避するために、後方のボールの供給役としてジンチェンコを供給。「とりあえずWGに預ける」ということを回避することを念頭に置くのであれば、ジンチェンコ投入の効果はある程度のものがあったといえるだろう。その一方で精度面では不満はあった。

 また左サイドでボールが落ち着いたことで奥のハヴァーツを狙ったロングボールが増えたのはよかった。前半にはなぜか多く見られなかったが、体の使い方がうまいハヴァーツはニューカッスルのCBに対してかなり優位を取れていたのでもう少し早い時間から使ってもいいプランだったように思う。

 左サイドは後方での球持ちがよくなったことや、トーマスの中盤復帰に伴い左サイドに移動したライスがメリーノよりも効果的にサイドのサポートをしていたため、前半よりは押しこむ準備ができるように。

 ただし、前半の項にも述べた通り、ニューカッスルはアーセナルと同じく引いて受けることに強みがあるチーム。な動的なトランジッション要素を維持したままの攻略方法の模索ではなく、押し込んで動かし続けるという静的なブロック攻略を行ったというこの試合のアーセナルの方向性については議論の余地があるように思う。

 また、静的なブロック攻略において大外のトロサールやジェズスの起用が適切だったかも微妙なところ。マルティネッリはもう少し引っ張ってもよかったように思える。

 右サイドではホワイトの後方支援によりサカを活かすプランはだいぶ道が見えるようになった。その一方で3人目として早い時間からプレータイムを貰うことができたヌワネリはブレーキに。

 おそらくはプレストン戦のようなライン間のハーフスペースでのボールレシーブ&ミドルを軸に狙っていたと思うが、逆サイドから絞ってくるロングスタッフや決め打ちしてバックスから飛び出したバーンの対応を見ると、ニューカッスルはヌワネリがこの試合でやろうとしていたことはある程度見切っていた感がある。ニューカッスルとプレストンでは明らかに勝手がちがうということだろう。

 後方支援役のホワイト、幅取り役のサカが揃っている状況でヌワネリに求めたかったのはやはりポケットの突撃。バーンとホールの間が空きやすいというニューカッスルの仕組みを考えればこれはなおさらである。実際にホワイトが自ら突撃した際のフリーランは効果的だった。ヌワネリのカットインシュートが読まれていることは明らかだったので、手札を変える工夫は欲しかった。

 17歳に求めることとしてはいささかハードルが高いことかもしれないが、リーグで負けている状況でプレータイムを貰っている選手に対して、クオリティの点で特別扱いするのは逆に失礼だろう。試合に勝つためにこのポジションで出た選手に対して、ハーフスペースの裏抜けを求めるのは当然のことだと思う。

 左右のサイドで押し込みながらも解決策を見つけられなかったアーセナル。またしてもセント・ジェームズ・パークで沈黙し、3試合連続でリーグ戦の勝利を逃すこととなった。

あとがき

 直近の負けを踏まえるとブロックが整う前に壊すという戦い方にフォーカスするかセットプレーの二択で先手を奪い、そこから逃げ切るのがアーセナル対策の鉄板ということになる。セント・ジェームズ・パークのようなタフな舞台では先手を奪われると厄介なことはわかり切っていたため、やはり先制点が大きかったなという感じはある。

 後半のニューカッスルが組み合ってくれた方が助かるか(自分はこっち派)、引いて受けた方が助かるかは議論が分かれるところだとは思う。結果的にある程度の時間から押し込んで壊すフェーズに向かうわけだがハヴァーツのトップ固定、カラフィオーリとウーデゴールの欠場が若干フタをしている感があった。

 カラフィオーリとウーデゴールに関しては復帰をしてくれればいい話だが、ハヴァーツのトップ固定による弊害は人員で解消するかは微妙なところ。ハヴァーツとトロサールとの2トップ化がある程度成果を生んだのは中盤にスペースを作ってくれる相手だからこそ。ハヴァーツがサイドに流れ、トロサールがインサイドに残る形は高さやボックス内の瞬間的な動き出しで引いた相手に対してアドバンテージが取れない。

 新たなハヴァーツがサイドに出てくるか、ハヴァーツと役割をシェアできるCFの登場は解決策になりえる。前者はメリーノ、後者はジェズスになるだろう。補強に頼るのでなければ、彼らが何とかしなければいけない部分が出てくることになるというのが撤退守備相手のアーセナルの現状だと個人的には考えている。

試合結果

2024.11.2
プレミアリーグ 第10節
ニューカッスル 1-0 アーセナル
セント・ジェームズ・パーク
【得点者】
NEW:12‘ イサク
主審:ジョン・ブルックス

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