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「腹をくくった赤い悪魔」~2019.10.20 プレミアリーグ 第9節 マンチェスター・ユナイテッド×リバプール レビュー

スタメンはこちら。

画像1

目次

【前半】
ド根性!!

 第8節時点での勝ち点は9、実に30年ぶりの低迷であるマンチェスター・ユナイテッド。2強の一角であるリバプールをホームで迎える一戦には、奥の手を使えるポグバが不在。その上、トゥアンゼベがアップで負傷し、急遽ロホがスライドで先発ということで、試合前の時点ですでに苦しいチーム事情に拍車がかかる形になってしまった。

 そんなユナイテッドの戦い方は序盤からはっきりしていた。象徴的だったのはラッシュフォード、ジェームズ、ペレイラの2トップ+トップ下の前プレ隊。リバプールのボール保持はGK+2枚のCBにさらにプラス1。アンカーのファビーニョなり、SBなりが1枚最終ラインの助っ人として入る。数的にはプレスを行うユナイテッドの方が不利だが、人に強く当たる根性プレスを序盤から見せる。

 特に目立っていたのはペレイラ。基本的にはアンカーのファビーニョを監視するが、機を見て前線に飛び出すプレスを敢行。リバプールの最終ラインはアバウトに蹴りだすケースが増えていく。

図2

 ユナイテッドの後方もド根性対人守備で耐え忍ぶ。基本的には「前を向かせたら負け!」という精神で、人に強く当たる。リバプールはフィルミーノをはじめとして、基準点を乱す動きが多いのが特長だが、ユナイテッドはマークの受け渡しがスムーズ。基本的にはあまりマークを離すシーンは見せなかった。時にはかなりきついコンタクトもあったが、この日のジャッジがコンタクトに寛容だったことはユナイテッドにはポジティブに働いたように思う。

 激しい受け渡しマンマークに対して、リバプールでなんとか呼吸ができていたのはワイナルドゥム。中盤に降りてくるフィルミーノの手助けを受けつつ、広い行動範囲でマークを振り払う。目には目をじゃないけど、運動量には運動量を!みたいな。

 ただ、基本的には出足の良いユナイテッドに近場を塞がれたリバプール 。近場がマンマークで塞がれるとなると、遠方で勝負したいリバプール。しかし、長いボールを使った攻撃はそこまでモノにならず。カメラに映っていないところの話なので想像で申し訳ないが、やや前線の動きが乏しかっただろうか。この日は動き出しと決定力に長けているサラーが不在で長いボールを直接決定機に結び付けることができず。左のオリギは受け手として存在感を出せず、右のマネが抜け出すシーンがあるものの、右では左ほどシュートに向かうコースづくりがうまくいかない。抜け出したまま一気にフィニッシュに行けず、ゴール前で味方を待つことになってしまう。前線のアタッカーが裏抜けで起点を作れなかったことは停滞の要因の一つといえる。

【前半】-(2)
前線にスペースを供給せよ

 非保持ではなんとかリバプールを相手に踏ん張ったユナイテッド。ボール保持でも割り切った部分を見せる。3バックはフラットに横並びの形になることが多かった。ポイントは2つ。1つはワイドのCBが横幅を取ること。もう1つはCBがリバプールの前線を引き付けてから長いボールを蹴ることだ。特にワイドのCBのリバプールのWGを引き付ける役割は大事。ユナイテッドの最終ラインからの長いボールのターゲットはほぼWB固定。彼らがフリーでボールを受けるにはリバプールのWGを引き離す必要がある。そのためのユナイテッドの最終ラインの引き付け。

図3

 WBへのボールはインサイドハーフがスライドして対応。ただし、捕まえるのには若干の時間が必要でここがユナイテッドのボール保持時のギャップの起点になる。サイドチェンジがハマると、リバプールのスリーセンターのスライドが間に合わなくなる。そのため、最終ラインが捕まえに来るとそのスペースに機動力のある2トップとペレイラが流れる。最終ラインを引き出せて、アタッカー陣に裏のスペースを供給できれば完璧である。

図4

 というわけでユナイテッドの攻撃はWBへの長いボールを起点に作り出したギャップを下地に、スピード豊かなアタッカー陣でスペース勝負!という方針だった。スペースを生かすのは当然カウンター局面でも可である。値千金の先制点を挙げたシーンでは、中盤でのボール奪取からロバートソンの裏に流れたジェームスが中央のラッシュフォードにアシスト。リンデロフのタックルは若干怪しかったが、主審がノーファウルというのだから仕方がない。

 アタッカー陣の特性を生かした形で先制点を決めたユナイテッド。それに対して、リバプールのアタッカー陣のスピードが生きたのは43分。ややプレスが弱まってきたユナイテッドの前線から時間をもらえるようになったリバプールのバックスからのロングボール。抜け出したマネがうまくDFに体を入れつつ押し込んだが、これはハンドでノーゴール。

 ともに前線のスピードを生かした少ない決定機だったが、片や得点が入り、片や取り消されるという対照的な結果に。ホームチームの1-0のリードで前半を折り返す。

【後半】
得意技で預けどころを消す

    レスター戦のレビューでも触れた通り、クロップは選手交代をせずに、効果的な配置変更を行うケースが多い。この日も後半のリバプールはメンバーの入れ替えなしにマイナーチェンジを行った。フォーメーションでいえば、4-3-3から4-2-3-1への変更。ファビーニョとワイナルドゥムが中盤セントラルでコンビを組む。トップにはオリギ、2列目は左からマネ、フィルミーノ、そしてヘンダーソンという並びになった。

    おそらくこの修正の意図は、ユナイテッドのボールの預けどころだったWBをケアするためだろう。右は守備もできるヘンダーソンでシンプルに手当て、左はオーバーラップするロバートソンを後方でワイナルドゥムが左に開く機会を増やすことで裏のスペースをケアしていた。サイドの連携においても、マネが通常の左に戻ったことでスムーズになった。

図6

    ただ、一番大きかったのは配置変更でユナイテッドのプレス隊を完全撤退させたことかもしれない。ワイナルドゥムが低い位置を取り、CBとCHでスクエアを形成したリバプール。これにより根性で追い回していたユナイテッドのプレス隊はさすがに降参。プレスをやめて、撤退するシーンが増えるようになる。後半の支配率はリバプールがユナイテッドを圧倒。

図5

    押し込み始めたリバプール。徐々にユナイテッドはダイレクトに前線にロングカウンターを通す以外にボール保持の手段がなくなっていく。もっともそれでだめか?というとそうでもないのが面白いところ。縦にしか選択肢がないなら、ないなりにそれで何とかこじ開けようとするユナイテッドのアタッカー陣。とにかくスペースがあるときの彼らはめんどくさい。もしかすると、ロングカウンター一辺倒の後半の方が相手陣までいい形で運べることは多かったかもしれない。

    リバプールはリバプールでシュート機会が増えたかというと微妙なところ。チェンバレンの投入で、サイドアタック強化+中央のマネとフィルミーノの連携でフィニッシュ強化を狙うが、これもいまいちハマらず。ヘンダーソン→ララーナの交代でさらにサイド攻撃を強化する方向に舵を切る。

    ララーナの投入でオフザボールの動きが活性化したリバプール。5-4-1にシフトで撤退を図るユナイテッドをさらに揺さぶっていく展開に。それでもなかなか中央からのコンビネーションで崩しきれないリバプール。そういう困った時はサイドバックの一芸に頼むしかない。というわけで今日も火を噴いたロバートソンの左足。決めたのは交代で入ったララーナである。ユナイテッドとしてはWBのワン=ビサカとSHのペレイラのどちらがロバートソンを捕まえられていればよかったのだが、このシーンでは受け渡しに手間取り、わずかな時間を与えてしまった。 

   その後もリバプールが一方的に押し込む展開が続くが、耐えるユナイテッド。何とか凌ぎきって、勝ち点1をもぎ取ることに成功した。ナショナルダービーは痛み分け。リバプールの開幕からの連勝は8で止まることとなった。

あとがき

■トリオ不在を補えるか?

   開幕からの連勝は止まってしまったリバプール。それでも何とか追いついて、ユナイテッドの逃げ切りを許すことはなかった。最も気になったのはサラー、フィルミーノ、マネのいずれかが不在の時の前線の組み合わせ。この試合で不在だったサラーがいれば、ユナイテッドの最終ラインはもう少し揺さぶることができただろう。この試合では4-3-3→4-2-3-1への転換自体はよかったものの、選手の組み合わせに関しては最後まで試行錯誤が続いた。

    ララーナやチェンバレン、ケイタなど、この試合の交代出場選手たちはなかなか普段の出場機会に恵まれない選手。この日はララーナが活躍を見せたが、スタメンの選手と異なる役割を果たせる選手の定期的があれば、さらなるチームとしての上積みになるだろう。

   順位は依然、ポールポジション。ライバルのシティが怪我人で苦しんでいる間になるべく差をつけておきたいところだろう。

■愚直なオールドファッション・ユナイテッド

    個人的には就任直後からスールシャールのチームの感想は「古き良きユナイテッドだな」というものだった。月日は経ち、苦境に立たされながらCL王者を迎えたこの日もある意味「古き良きユナイテッド」だったといえる。戦術的な目新しさとは無縁で、愚直に腹をくくって相手に向かっていく姿。リーグでの立ち位置は変わったが、どこか懐かしさを覚えるところがあった。

    戦い方でいえばプレスが無効化された後の二の矢がなかなか出てこなかったのは気になる。この日のベンチでは工夫をしようがないぜ!ということかもしれないが、ただただ先発メンバーが跳ね返し続けてくれることを祈り続けていたよう。先日のアーセナル戦も引き出しの数という意味では不満の残る出来だったので、単に硬直して動けないということでなければいいが。

   これで勝ち点は10。そのうち、ビッグ6相手(3試合)に挙げたものが5、そうでないもの(6試合)が5である。とりわけ、開幕戦以降複数得点がない得点力は深刻。リバプールやチェルシー、アーセナルのように、スペースを明け渡してくれる相手だとまだ持ち味が出る場面があるが、しっかり固める中位下位相手には攻略法が見えないまま。この試合のパフォーマンスは確かに気合のこもったものだった。しかし、高さというわかりやすい武器を失った分、スピード以外にも異なった手段を身に付けて、相手を脅かさないことには、浮上の兆しは見えてこないだろう。

試合結果
プレミアリーグ 
第9節
マンチェスター・ユナイテッド 1-1 リバプール
オールド・トラフォード
【得点者】
Man Utd: 36′ ラッシュフォード
LIV: 85′ ララーナ
主審: マーティン・アトキンソン

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