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「+αの作り置き」~2019.10.2 UEFAチャンピオンズリーグ グループステージ 第2節 リバプール×ザルツブルク レビュー

スタメンはこちら。

画像1

目次

【前半】
フルコースをお見舞いする王者

 ザルツブルクがリバプールを追い詰めたという視点で非常に話題になったこの一戦。とはいえ、前半の多くの時間はリバプールが主導権を握っていた。正直、3点取られた時点でかなりザルツブルクは厳しいじゃないかなぁと思った。スコア以上にやられ方の観点で。

 ザルツブルクのフォーメーションは中盤フラットな4-4-2。特徴的なのは相手のサイドにボールがあるときに中盤4枚が大きくボールサイドにスライドすることだ。サイドに人数を多く割いてオーバーロードでサイドにふたをする!という手法。まずはSHが縦方向に出ていきプレッシャーをかける。このやり方は攻撃面でもメリットがある。ザルツブルクの攻撃は相手のDF-MF間でアタッカーが前を向いてスイッチが入る。この守備のやり方だと、ボールサイドと逆側のSHは自然と中央のDF-MFに位置することが多くなる。特に南野が絞ったときにボールを奪えるとチャンス。スピードあるドリブルから鋭いカウンターが発動する。ファーストシュートの場面も正しくその配置の恩恵を受けたシーンだ。

図2

 しかし、この攻撃パターンはあまり発動する頻度は多くなかった。リバプールはインサイドハーフを中心にサイドのボールホルダーを手厚くサポート。大外に張って行動範囲がやや狭いサラーのサイドはまだ何とかなっていたが、行動範囲も行動量も多いマネのサイドにザルツブルクは苦戦。同サイドを担当する南野のSBへのプレスの出足の良さも相まって、後方はかなり広い範囲のカバーを強いられ、CHのエムウェプはかなりサイドに寄せられることになる。

 となると今度は中央が手薄くなるザルツブルク。中央にはアンカーのファビーニョと十八番の降りてくる動きを駆使するフィルミーノが待ち構えている。ファビーニョには2トップの片方がついていく約束のようだったが、前にもサイドにもプレスに行くため、受け渡しの際に隙が生じる。ここから大きな展開が可能だったリバプール。降りてくるフィルミーノに対しても中央が手薄なザルツブルクの中盤には手の打ちようがない。

図3

 前のフィルミーノ、後ろのファビーニョ。リバプール王道の中央の起点を前後に作られてしまうと、リバプールの選手がハーフスペースに侵入することは容易になる。マネやフィルミーノのアタッカー陣はもちろん、インサイドハーフも侵入。中盤が空けばファン・ダイクからハーフスペースにも直接ボールを通せる。さらにサイドチェンジを受けたリバプールのSBは時間もスペースも与えられるということで、リバプールは長いレンジのボールを操りながら決定機を創出していった。

図4

 フィルミーノとファビーニョで中央で起点を作るのも、精度の高いロングボールを後方からSBが入れるのもどちらもリバプールのおなじみの光景である。そしてもう1つ、リバプールでおなじみなのが強力なWGの突破。最後のおなじみ要素を乗っけたのは古巣対決となったマネ。ワンツーを駆使してザルツブルクの右サイドを完全に破壊。オーバーロードをかけているサイドをガッツリ破られるという、ザルツブルクにとっては非常に悔しい失点となった。マネ相手に荷が重いのはわかるが、対面したクリステンセンにはもう少し粘ってほしかったところだ。

【前半】-(2)
意外な反撃のキッカケ

 リバプールの攻撃のフルコースを食らってる感じで失点してしまったザルツブルク。彼らのボール保持はワイドよりも中央を手早く攻略する志向。おそらくボール奪取時の配置を活かしたものだと考えられる。しかしながら、なかなかボール奪取の機会が少なく、わずかなチャンスもゴメスとダイクのコンビに2トップがつぶされる形に。鋭いカウンターが発動する機会は立ち上がりには見られなかった。

 その後もピッチをワイドに使うことを意識しながらプレス回避を行うリバプールが淡々と試合を進める。2点目は南野の対応が遅れたロバートソンがドリブルから中央に切りこみながら敵陣を侵食。逆サイドで受け取ったアーノルドからラストパスをもらってSB→SBのラインから追加点。

 正直前半だけ見れば南野はロバートソンに手も足も出なかったので、ここから「リバプールファンが獲得を熱望してる!」っていう評価にひっくり返るのは面白い。まぁ、ロバートソンにやられるのは仕方ないかもしれないけどね。中央にサイドにやられまくっているザルツブルクが配置の変更に踏み切ったのが30分のこと。南野がメモを参考にみんなに指示していたぜ。そんなガッツリやっていいのか。

 しかしながら3点目を決めたのはリバプールの方。マークマンがいなくなったロバートソンが高い位置でフリーになったところにファン・ダイクからボールが届く。裏に抜けたマネがCBをエリアから引っ張り出しつつ、フィルミーノにクロスを送る。まるでマークマンが離れていくのを待っていたかのようにたたずんでいたサラーがこぼれ球を押し込んで3点目。ザルツブルクとしてはスタメンがリバプールのフルコースアタックを受けた上に、修正策も空いたSBから破られた格好。これが冒頭で話した「ザルツブルクはかなり厳しい」と思った理由である。

 しかし、同点劇につながるノッチはシンプルにそして意外なところから。ヘンダーソンのボールロストを奪ったザルツブルク。素早くヒチャンにボールを送るとファン・ダイクをあっさり交わして1点を返す。マジか!そこからかよ!っていう。後半につながる1点をギリギリで得たザルツブルク。3-1でハーフタイムを迎える。

【後半】
ハーフスペース封鎖で止まらない勢い

 前半の途中からどことなく前進が苦しくなったリバプール。ザルツブルクのフォーメーション変更が徐々に効いてきている印象だ。配置変更に伴って変化をつけたのはリバプールへのSBの対応。インサイドハーフのショボスライとエムウェプがプレスの担当だったけど、ガンガン人に当たるぜ!の4-4-2フラットよりはSBやアンカー、CBと連携して包むようにサイドを手当てするイメージ。目的としてはSBから斜め方向のパスを遮断することだろう。4-3-1-2はインサイドハーフがちょうどハーフスペースに立つ布陣。後方のパスコースを消しながらプレスに向かっていった。ちなみにこの4-3-1-2は前監督マルコ・ローゼ時代によく採用していたもの。いわば昨季への回帰とも言える形である。

図7

 2トップ+トップ下の3人が中央にいることでファビーニョの監視員も増加。フリーになるタイミングが短くなる。大きな展開が減ったことにより徐々にリバプールのボール保持に停滞感が出るようになる。

 「ザルツブルクはライプツィヒと違ってショートパス主体の組み立てが多い!」って1年前くらいにレッドブル系チームに詳しいあの人に聞いたことある気がするが、この試合のザルツブルクはもっぱら推進力が持ち味。確かにプレッシングを回避するショートパスのスキルは確かなものはあった。ただ、この試合はむしろ前線のアタッカーのスピードを感じるような展開が多く見られた。その中心だったのが南野とヒチャンのアジア人コンビ。4-3-1-2で南野がトップ下に常駐するようになったことで、ザルツブルクとしてはよりカウンター時に理想的な配置になったと言える。ヒチャンがスペースに走れば、南野がドリブルでDFを剥がすというように異なった個性を組み合わせて破壊力を生み出していた。追撃弾となる2点目も彼らのダイナミズムが体現されたゴール。ゴメスがゴールから遠い位置でファウルしたことを利用して、素早くリスタートしたザルツブルク。ヒチャンからのクロスにダイレクトで合わせたのは南野。リバプールのお株を奪うような嵐のような攻撃で1点差に迫る。

 南野、ヒチャンとくればベンチにいるもう一枚の役者が黙ってはいない。リバプールにとって最も嫌なタイミングで、前節ハットトリックを決めたホランドが投入される。リバプールに対するプレスのターゲットは3センターに定められることが多かった。関係ないけど、なんとなくザルツブルクのパスカットって空けたコースをスプリントして狙い撃ちしてインターセプトするパターンが多かったような?リバプールの緩いパスはことごとく食い止められていた気がする。

 ホランド投入時にアンフィールドのサポーターが受けたであろう嫌な予感は60分に的中。南野を譲り合ってしまったダイクとファビーニョがこの試合の展開を象徴しているようだった。ちなみに個人的にはヒチャンに入れたショボスライのパスが好きです。リバプールの中盤が動くのを待って、ラインブレイクできるコースを見つけ出す感じが好き。

【後半】-(2)
システム変更にはシステム変更で

 3点リードを追いつかれてしまったリバプールはシステム変更を実施。ワイナルドゥム→オリギで4-2-3-1へ変更。イメージとしては中央の低い位置で起点を増やし、2トップ+トップ下の基準点を乱すこと。CHが低い位置に降りることでSBは高い位置や内側のレーンを使う機会が増加した。特にミルナーが降りる機会が増えた左サイドではロバートソンが高い位置で受ける機会は増えた。イメージとしては外→中を封じられてしまったので、低い位置のハーフスペースにCHを下すことで大外を内側の2つの選択肢を持ちました!みたいな。

図8

 中央からサイドに人が集まる方向に目先を変えることによって前進の手段を得たリバプール。押し込む場面が増えると、甘くなったクリアをサラーが流し込み勝ち越しゴール。サラー、フィルミーノという動き出しに長けたストライカーを中央に2枚常駐させられるのも、4-2-3-1の利点である。

 さすがに頼みの前線の運動量も落ちてきたザルツブルク。それでも懸命にゴール前までボールを運ぶが、もう一押しが足りない。奥川もプレー機会を得て、いい位置でボールを受けるシーンはあったものの、決定的な仕事はできなかった。

 大健闘をみせたザルツブルクだが、アンフィールドの牙城を崩すまでには至らず。試合は4-3でリバプールが今季CL初勝利を挙げた。

あとがき

■悔やまれる前半と旋風の予感

 アンフィールドを一時は黙らせる奮闘をみせたザルツブルク。ヨーロッパ全体を見渡しても、そんなパフォーマンスができるチームは一握りということで特大の拍手を送りたい。特にハーフスペースを塞いでリバプールを封じた4-3-1-2は絶品だった。前任者が残したシステムをうまく活用した形だ。

    一方で勝敗の話をした時に、リバプールに全面的に強みを押し出された前半は悔やまれるところ。失点は偶発的なものというよりはどれも骨格を殴られてのものだったので、抑えるところをもう少し早く見定めれれば、アンフィールドから勝ち点を持ち帰ることも可能だったかもしれない。

 高い技術と速いプレーテンポ、前線の若いアタッカー陣のカウンターの威力を考えれば、いま欧州で彼らと喜んで対戦したいチームはいないはず。激戦の様相を呈しているグループステージだが、続くナポリとの連戦は運命を握る試合になりそう。なんとしててもノックアウトラウンドの舞台に立ちたいところだろう。

■積み重ねた引き出しの勝利

 序盤はおなじみの4-3-3の良さを押し出して試合を圧倒。一時は苦しめられるも、4-2-3-1に変更後は再度リズムを取り戻して押し切ったリバプール。前半はオーソドックスな4-3-3が、後半は昨年から取り組んでいるオプションが機能していた部分はさすがの引き出しの多さ。去年までやったことをオプションまで含めてしっかりやりました!みたいな試合。前半に1つ目の引き出しでしくじったザルツブルクと比べると、後半に向けてプラスアルファとなる変化を1つ残していたのが勝因だと思う。

 一方で個々のパフォーマンスを見るとピリッとしない部分は否めない。特にこの試合は後方の選手たちのパフォーマンス。とりわけそういう状況でチームを支えるファン・ダイクがややさえないパフォーマンスだったのは気になる。そしてミルナーの安定感は異常。当たり前のように出てきて、当たり前のように仕事をして帰る感じ。

 個々の出来には疑問は残るものの、総力戦でザルツブルクを退けたリバプール。リーグ戦では次の総力戦に向けた引き出しを増やす作業が今後も行われていくのだろうか。

試合結果
UEFA Champions League グループステージ 
第2節
リバプール 4-3 ザルツブルク
アンフィールド
【得点者】
LIV: 9′ マネ, 25′ ロバートソン, 36′ 69′ サラー
SAL:  39′ ヒチャン、56′ 南野, 60′ ホランド
主審: アンドレアス・エクバーク

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