レビュー
トロサールの右が機能しなかった理由
7日で3試合という超過密日程の最後に迎えるのはニューカッスル戦。ホームに戻ってきたとはいえ、相手は直近のリーグ戦では5連勝。トータルスコアは15-1という絶好調のチームを連戦の終わりに迎えるというのはなかなかにハードなものがある。
ハヴァーツ、ウーデゴールと体調不良組のコンディションが気になるアーセナルではあるが、立ち上がりはハイプレスからスタートと前に向かう意識を持っての立ち上がりとなる。ニューカッスルの保持を向こうに回すと、決定的なボール奪取だらけというわけにはいかないが、序盤にエンジンをかけることは出来そうではあった。
保持においてはインサイドに入り込むルイス=スケリーがアクセントに。中央で捕まったとしても縦に向かうことが出来る根性は素晴らしい。いつか大事故を引き起こしそうなリスクの取り方だなとは思うが、ニューカッスル相手に通用してしまうのだから、十分な武器であることは確かだろう。
ただし、インサイドに起点を作れてもそこまでアーセナルは攻撃の手ごたえを感じることができなかった。要因として考えられるのはサイドチェンジの不安定さだ。アルテタが試合後にPLとのボールの違いについて言及していたが、その影響もあったのかもしれない。ニューカッスルの選手からはあまり感じなかったけども。
とにかく左右に振るアクションでニューカッスルのブロックに穴を空けることは困難だった。スローダウンをしてしまうとサイド攻撃が機能することは稀である。
右のトロサールはプレビューでも推奨したが、ニューカッスル相手だとタメがどこかで作れないのがしんどい。トロサールを右に置くメリットは結局順足のクロスの精度なので、バックドアなどで裏に抜けられるアクションと合わせたい。
ルイス=スケリーやトーマスといったニューカッスルのMFブロックよりアーセナル陣側にいる選手のケアは非常に甘かったため、この2人は好きにボールを動かしながらどのルートを通そうか思案することが出来ていた。実際に彼らから縦にパスを通すことはできていたが、ここからパスが通らなければオープンプレーのアーセナルの攻撃は停滞する。
もしくは一気に背後を取ってゴールまで向かうことが出来たパターンでも有効。いうまでもなくマルティネッリが迎えた決定機のことである。この場面のオフザボールは見事。大外で受けたトロサールからファーにボットマンを引っ張ったハヴァーツによって、マルティネッリが侵入するスペースが創出された。何とか決めたかったシーンである。
ではアーセナルの攻撃が何もかもダメだったかといわれるとそういうわけではない。セットプレーでは相変わらずアーセナルの選手が先に触ることが出来ていた。ティンバーのシュートシーンなどはかなり惜しい部類といえるだろう。いつも通りといえばいつも通りなのだけども、サカがいなくなってもセットプレーがそれなりに武器になっているのは個人的には一安心かなと思った。ゴールにはシュートが飛ばなかったけども。
別格の出来だったイサク
ニューカッスルは基本的には中央を固めてカウンターベースで反撃に打って出る形。アーセナルの中央のカットから一気に縦に進む形でアーセナル陣内に迫っていく。
アーセナルの守備は多少前がかりでも後方の個人能力の高さで何とかできてしまうというのが相場なのだけども、この日のニューカッスルはそれを上回ってきており早い時間帯からチャンスをガンガン作っていた。
特に出色の出来だったのはイサクだろう。とにかくオフザボールのランがうまい。相手の背中を取るのが特に巧み。単純にDFラインの裏というだけでなく、DFにつっかけるように背後をとる。具体的には右に流れながらガブリエウに寄せるように背中を取ることが多い。
これができてしまえばサリバをニューカッスルの右サイド側まで釣りだすことが出来る。背後を取られたガブリエウはサリバがいた位置のカバーに入る。このようにDFラインをかき乱しながらアタッキングサードに侵入するのが抜群である。
ニューカッスルはWGをSBでピン留めし、ここを使わずにイサクの裏への抜け出しを使うケースが多かった。これによってCBの守備範囲を歪ませることに成功する。
いつもであれば、多少のピンチはボックス内でサリバとガブリエウが帳消しにしてくれるというのがアーセナルのお馴染みの光景。だが、いくら彼らが優秀なCBでもPAの中にいなければPAのボールを刈り取ることはできない。奥行きのある攻撃でニューカッスルはアーセナルの守備を乱し、イサクの裏抜けからあと1つ(ファーサイドへの速いクロスが仕上げになることが多い)でゴールにたどり着くことが出来る状況を作り出していた。
アーセナルがやや優勢の展開の中で先制ゴールを決めたのはニューカッスル。セットプレーから右のハーフスペースをするっと抜け出したマーフィーがイサクに折り返して先制のゴールを生み出す。アーセナルがより可能性を見せていたセットプレーでニューカッスルがお株を奪う格好となった。
プレスの位置を下げたニューカッスルに対して、アーセナルは保持から勝負をかける。だが、サイドにボールをつけてもなかなかチャンスを生み出すことが出来ない。マルティネッリはたまにSBをどかしてCBと対峙することがあったが、時間をかけてしまいニューカッスルの守備ブロックが整ってしまうことが多かった。
今季のマルティネッリは相手をよく見て駆け引きをして逆を取る意識が非常に高い。なのでクロスを上げるスペースメイク力は高い反面、爆発的な加速からの突破力はやや据え置きな印象だ。この試合で言えば後者が欲しい場面で、前者の駆け引きをしているような印象。どちらもできるようになるサカのようになる過程にいるのだろうなと思う。
中央で進撃するトーマスは好調さを見せるが、サイドからの打開策は見えず。試合はニューカッスルのリードのままハーフタイムを迎える。
世界的にも珍しい5-5-0
迎えた後半もビハインドのアーセナルがボールを持つスタート。ゆったりとした保持から長いレンジのパスを使い、サイドからの攻撃を模索していく。主に攻撃のルートは右サイド。細かいパス交換から打開を狙っていく。
だが、この日の右サイドはなかなかエンジンがかからない。トロサールは一発を狙いすぎてしまい、タメを作ることを放棄するプレーが多く、ウーデゴールはボールタッチが安定せず、狭いスペースでのコントロールがままならない。いかにも体が重そうなハヴァーツも含めて、前線のコンディションは体調不良の影響を引きずっているかのようだった。
そんなアーセナルを尻目にニューカッスルは追加点をゲット。アーセナルの狙いと同じく右サイドからのファストブレイクを完結する。
やはりここでも見事なのはイサク。ライスの背中側を通ることでなるべくインサイドに近い位置に侵入してフィニッシュのコースをギリギリ作っている。
これがライスの手前側を通る動線であればより外に追いやられることになる。そうなればラヤのセーブを促すような枠内シュートのコースがあったかは怪しくなる。
このコース取りとスピードに乗った状態での精度の高いコントロールこそイサクの非常に大きな武器。シュートの跳ね返りをゴードンが押し込むという構図はニューカッスルの仕上げのルートであるファーサイドへのクロスを疑似的に再現したものととらえることが出来るだろう。
アーセナルはジョルジーニョを投入することでようやく右サイドの攻撃が成立。バックドアを連打することで順足WGからのクロスが具体的に得点の可能性を持って放たれる場面が増えることに。
ジョルジーニョの得意なことだしジョルジーニョがいればこれができることはわかっていたが、守備面でのリスクを考えると追い込まれないと発動できないのが苦しいところでもある。ジョルジーニョ投入と共に退いたトロサールは完全に割を食った感。ジョルジーニョとセットで見たかった選手だ。
ニューカッスルはきっちりとリトリートで封殺に動く。主力のプレータイムマネジメントと5バックへのシフトを併用して守備に重きを置く形を経て、最終的には世界的にもレアが5-5-0の守備ブロックに。前半の4-5-1型のトーマス&ルイス=スケリー放置で守り切る形が成功したのだから、MF手前のプレスを放棄しても守り切れる公算があったのだろう。
攻める形を放棄して2点のリードを守りに行くニューカッスルを攻め切るのはとても難しい。ハーフスペースだろうと、ボックス内だろうと人の山。最後まで攻め続けるアーセナルだったが、2nd legにつながる追撃弾を手にすることはできなかった。
あとがき
基本的には決定力よりもより多くのチャンスを作れなかったことに軸足を置くべきという考えなのだが、さすがにこの相手と今のチーム事情を考えればこの展開で先制点を取れなかったことが一番重い事実なのは動かしがたい。2nd legは1か月後なので互いの陣容が大きく変わっている可能性は十分にあるが、やはり2点を追いかけるセント・ジェームズ・パークはタフだなという印象だ。
試合結果
2025.1.7
カラバオカップ
準決勝 1st leg
アーセナル 0-2 ニューカッスル
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
NEW:37′ イサク, 51′ ゴードン
主審:ジョン・ブルックス