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「この枠組みで勝つ」~2025.5.25 J1 第18節 川崎フロンターレ×ガンバ大阪 レビュー

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レビュー

左右をCHを起点に前進する

 ホーム4連戦の最終章は苦手としている大阪勢。G大阪との一戦に挑む。川崎としてはここを凌げばひとまず週2ベースのハードなスケジュールとはお別れ。G大阪もメンバーをある程度入れ替えたとはいえ、磐田でのルヴァンカップの120分の激闘に破れた後の難しい週末となる。

 序盤の落ち着かない時間帯を過ぎるとボールを握るようになったのはホームの川崎。ポイントとなったのはCHの立ち位置。右のCHの河原は相手の2トップの間に立ち、左のCHの山本は相手の2トップの左に立つケースが多かった。

 川崎から見て右サイドは可変で勝負を仕掛けていく形。降りる家長や右に流れる脇坂、それに合わせて高いレーンを取るファン・ウェルメスケルケンなど、高さとレーンを入れ替えながらボールを引き出している。

 個人的にはこの形は非常に理にかなっているように思えた。G大阪の守備は基本的には2トップが川崎のCHを管理する。ただし、G大阪の2トップはCBへのプレスにも意欲を見せているため、河原の位置の選手を空けてしまうことも多い。

 前半の守備基準だとG大阪において2トップが前に出て行ったときに相手のCHを捕まえるのはSHの仕事。河原であればアラーノが見るのが基本ということになる。ということでアラーノが空けた川崎の右サイドは自由になる。

 2トップからSHへの川崎のCHのG大阪のマークの受け渡しはスムーズとはいえず、河原はタイミングさえ間違えなければ、パスを受けて自力で前を向くことが出来ていた。G大阪が川崎のCBとの距離を詰めたプレスができた場面でも、山口→河原のパスコースが生きていることでプレスを空転させて前進する。

 左サイド側の前進ルートは2トップの脇に立つ山本が起点となることが多かった。マルシーニョのダイレクトな裏抜けもしくは大外に張るマルシーニョを佐々木が内外から追い越すような形のオーバーラップでサイドの奥を取る形だ。

 この形もG大阪のハイプレス回避の手助けになっていた。左サイドに追い込んだところから背後を狙うための大外縦進撃で川崎はG大阪のプレスから脱出する。

 試合の途中からはより静的な局面で丸山→マルシーニョへの裏抜け一発も出てくるように。こちらサイドの2トップの一角であった満田は流れてくる山本と丸山のケアに追われていた。

 右サイドへの経由点となる中央に鎮座する河原、左サイド裏への攻め筋の起点となる丸山と山本。この2か所から川崎は前進のルートを確立することが出来ていた。

ネタラヴィ監視をサボらず主導権を渡さない

 一方で相手の陣内に侵入した後の川崎の攻撃のクオリティには向上の余地があった印象だ。サイドと中央の素晴らしいつながりが明確に見えた!といえそうなのは12分の家長のパスを受けた小林の決定機くらい。

 サイドの枚数をかけた攻撃は中盤をきっちりスライドさせてくるG大阪の守備に苦戦。右サイドの裏は抜け出す選手がなかなか自由を得られなかった。左サイドも静止した状態でも対面を剥がせるマルシーニョの威力は健在だが、そのマルシーニョのドリブルに合わせたアクションができる選手がおらず、決め手に欠ける形になっていた。

 CFの小林はロングボールの収めどころとしては一定の働きを見せたように思う。山田やエリソンのような収めて反転して進む馬力はない一方で、相手に簡単に競り負けずに一発でカウンターに進まれるケースは少なかった。どちらかといえば気になるのは味方に合わないことも多い山口のロングキックの精度の方といえるかもしれない。

 長いキックを収めて強引な前進が出来なくても行う意義はセカンド回収の出足で優位が取れるという目論見からだろう。特に両SB,CH、脇坂はトランジッション局面でのボール回収に優れており、この点で優位ができるのであれば小林の状況を含めて、ロングボールを織り交ぜる意義はあったといえる。

 G大阪の前進は神戸戦に続いてロングボール主体でのスタート。神戸戦ではヒュメットがいたのでまだわからなくはない一方で、この試合では前線が宇佐美、満田といった明らかなスモールラインナップだったため、ロングキックを多用してくる理由はあまり見えてこなかった。案の定というべきか、川崎の回収が先行していた印象だ。

 時間の経過と共にG大阪はショートパスでの前進手段も模索。2CBに加えて、2CHが変形しながらビルドアップに関与。サリーをしながらの3バックへのシフトやサイドへの流れるアクションからボールを動かしていく。

 G大阪の攻撃の肝はネタラヴィが自由を得ることができるか?川崎でいうと河原のような位置での組み立てを狙う。実際に彼が浮いたシーンではG大阪はゴールに向かうことが出来ていた。

 しかしながら、河原を逃がしがちだったG大阪に比べると川崎の前線はきっちりとネタラヴィをマークしていたように思う。脇坂の背中でネタラヴィを消しながらのバックラインへのプレスはとても見事だった。

 鈴木→山下のフィードも悪くなかったが、やや苦し紛れな形になっており決め手にはならず。前進は川崎の方が安定していたように思う。

 押し込む機会を得た川崎はセットプレーから先制点。ニアに入ってくる佐々木→マルシーニョの形はデザインされたもののように見える。狙い通りといいたくなる形から川崎は先制ゴールを決める。

 先制点を得てからしばらくは川崎がチャンスを作る。この時間も左サイドのマルシーニョのキレが確かであった。

 だが、前半の終盤はG大阪が押し込むフェーズを確保。右サイドは枚数をかけての崩しにトライ。4人目として顔を出すのはトップ下の満田。中央の細かいコンビネーションだけでなく、サイドの崩しに顔を出せるバイタリティの高さを見せつける。

 左サイドは大外の黒川がアイソ気味。アラーノはインサイドへのコンビネーションに絡んでいくのがメインだ。左の大外の黒川とファン・ウェルメスケルケンのデュエルは見ごたえ充分。ファン・ウェルメスケルケンも充分に渡り合っていたが、前半の終盤は黒川の速いクロスから満田がポストを叩くシュートを打つ流れを作るなど、チャンスメイクに存在感を出していた。

 前半の終盤の押し込まれる時間帯は何とかしのいだ川崎。リードを守った状態でハーフタイムを迎える。

プレスの整理と左ハーフスペースを武器にG大阪が逆襲

 後半頭は前半の終盤以上にG大阪が主導権を握る展開。いくつか変わったポイントはあるが、最もインパクトがあったのはハイプレスをきっちりとやってくることに舵を切ったことだろう。

 特に、河原と山本へのケアに鈴木やネタラヴィがプレスに出てくるようになったことが大きい。川崎のバックラインからすれば、預けどころがなった感覚を受けたはず。前半のビルドアップはCHが自力で反転することで前を向いたことで川崎はスムーズに前に進んでいったが、プレスを受けた状態では前半と同じようにならない。

 バックラインの受け直しからフリーマンを作る動きも川崎はなかなかできなかったので、蹴っ飛ばしてしまうことに。捨てるようなロングボールが増えてしまったことも川崎が後半頭にポゼッションを握れなかった要因だといえる。

 押しこむメカニズムを得たG大阪は左サイドに狙いを定めた格好。サイドのフォローや前プレスに顔を出す河原をローテーションで釣りだし、河原が元いた場所に縦パスをガンガン差し込んでいく。宇佐美、鈴木、満田などはここから浮く機会が増えて、ボックス内の山下の動き出しに合わせていく。

 この左サイドのアクションからG大阪は同点に。左の大外で押し下げた分のスペースを享受した宇佐美がコントロールショット。多くの選手にとってはスーパーショットでも、彼にとってはいつも通り。足を振らせれば日本随一のクラックが試合を振り出しに戻す。

 ハイプレスで勢いに乗るG大阪はそのまま勝ち越しゴールをゲット。右サイドの狭いスペースから一気に相手を追い込んでボール奪取すると、宇佐美のクロスを山下が仕留めて勝ち越しゴールを決める。

 やはりこの場面で悔やまれるのは山口の対応。ファーのケアは必要がない場面で飛び出してしまった。おそらくはキャッチして素早くリリースという普段から意識したプレーをなんとなく選んでしまったのかなと推察する。当然、この場面では取る必要のないリスクだ。

 この場面に限らず、山口のクロスカットからの速いリスタートはリスクに見合っていない部分が大きい。どちらかというこういうプレーをするという目的意識が先行しており、あまり目の前の状況にマッチしたプレー選択になっていないのかもしれない。単純にその場のプレーでのエラーと普段からの意識の両面で気になっているところである。

 川崎からするとCHが捕まってしまい、なかなか前進のルートを敷くことが出来ない状況。選手交代で家長、マルシーニョが下がってしまい、エリソンは不在。ということで出ている戦力の中で何とかしなくてはならない状況だ。

 この状況を切り拓いたのは左サイド。佐々木のキャリーも存在感があったが、伊藤のドリブルはこの日はやはり別格。一度スピードに乗ってしまえば、G大阪のバックラインはファウル以外では手の打ちようがなかった。

 ライン間でのプレーが輝いている大関がさらにここに加われば、川崎の攻撃は活性化。伊藤と大関のコンビネーションから同点ゴールを決める。

 80分まではファストブレイクが機能していたG大阪。山下の脚力や左サイドから奥を狙うアクションはまだ生きていたので中盤からボールを逃がすことが出来れば、陣地回復は可能だった。満田のバイタリティはさすがで後半頭の猛攻を支えた守備力はもちろんのこと、劣勢のところの時間帯でも前からの守備ができていた。CH起用が主だった満田をひとつ前に置いたのはこういうことがやりたいからなんだろうなというのはよくわかった。

 終盤はG大阪のロングボールを回収しながら、攻め立てた川崎。しかし、ゴールをこじ開けることはできず。試合は2-2でのドロー決着となった。

あとがき

 連戦の中で特に前半はきっちりと相手を上回るパフォーマンスを見せたのはさすがだなという感じだった。この日程の中でできるパフォーマンスとしては個人的にはこれ以上は難しいんじゃないかなと。いい意味でも悪い意味でもそう感じる内容だった。

 厳しい日程でパフォーマンスは落ちるのは当たり前で、その上で勝ち点を詰めるか?というチャレンジをするのが川崎の前半戦のリーグ戦だった。まだ一つ残っているけども。ここからは基本的には週1が多い日程になって、パフォーマンスは上がるとは思うのだけども、やっぱりこのACLとリーグ戦を並行するというこの枠組みで勝ち切るという試合を増やせなかったのは個人的には悔しいなと思う。

 過密日程はしんどいけども、強いチームにとってはどの国でも週2で試合をするのは普通のことでもある。強くあり続けるためには乗り越えないといけないというか、ある意味それを当たり前にしないと行けないところがある。ACLという舞台に戻ることを目指すのであれば尚更。よくやった前半戦だったし、その上でもっとやれた前半戦だったなというのが連戦の日程を終えた今の率直な感想だったりする。

試合結果

2025.5.25
J1リーグ
第18節
川崎フロンターレ 2-2 ガンバ大阪
U-vanceとどろきスタジアム by Fujitsu
【得点者】
川崎:32′ マルシーニョ, 79′ 伊藤達哉
G大阪:53′ 宇佐美貴史, 60′ 山下諒也
主審:先立圭吾

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