Fixture
2025.5.3
AFC Champions League Elite
Final
アル・アハリ・サウジ
×
川崎フロンターレ
@キング・アブドゥッラー・スポーツシティ
Match facts
- アル・アハリは24-25のACL-Eで無敗。12戦で11勝を挙げている。
- アル・アハリが2021年以降のACLで勝てなかった試合はエステグラルかアル・ドゥハイルのどちらかが対戦相手。
- 川崎は直近9試合のACL-Eで8勝。うち7試合で3得点以上を記録している。
- 日本以外の地で行われたACLにおいて川崎は直近11試合で8勝。
予習
R-16 2nd leg アル・ラーヤン戦

QF ブリーラム戦

SF アル・ヒラル戦

予想スタメン

展望
最後の壁にふさわしすぎるラスボス
ついに辿り着いたACL-Eのファイナルの舞台。サウジ勢一色の大会に風穴を開ける川崎が決勝で対戦するのは川崎と同じくACL時代から通じて初めての国際カップ戦のタイトルを狙うアル・アハリだ。
アル・アハリは一言で言えば非常にソリッドなチーム。タレント揃いという観点ではアル・ナスルと同じなのだが、攻守の切り替えをはじめとするスピード感はELの決勝トーナメントやCLのグループステージでお目にかかっても全く違和感のないレベルだと言えるだろう。予習を見た試合のパフォーマンスだけでいうのであれば、アル・ナスルやアル・ヒラルといった同じサウジアラビア勢と比べても別次元の強さを持っているチームと考えて良いのではないか。
ビルドアップは2CH+2CBの4枚が基本線。時には2人のCHが縦関係になり、最終ラインに落ちるという点ではアル・ナスルと同じだ。
異なるポイントとしてはCBがボールの供給役として振る舞えること。特に左のCBのイバニェスはボールを前に運びつつ、裏や間のスペースに鋭い縦パスを収めることができる。CBから組み立てができなかったアル・ナスルとはここは明確に違う部分だといっていいだろう。
中央に縦パスを積極的に差し込んでいくところはアル・ナスルと似ている。しかしながら、中央でボールを受ける選手のロスト率が低いのが特徴。相手をきっちり背中で押さえ込みつつ、無用なターンは避けて、フリーの味方をきっちりと使う。構造で相手をずらしていくタイプのチームではないが、インサイドへの縦パスで相手の視線をまずは中央に集約するのが目的となる。
中央に起点を作れればサイドが開くというのはサッカーの定石。インサイドに縦パスで起点を作った後は2人のワイドアタッカーに展開し、縦に鋭くボールを展開する。
知名度的にはおそらく右のマフレズの方が高いのだろうが、自分がチェックした3試合では左のガレーノの方が厄介。1年前にはアーセナル相手にCLで決勝点のミドルを叩き込んだワイドアタッカーはドリブルの馬力はもちろんのこと、相手の背後を斜めに入り込むフリーランから相手を出し抜く力を持っている。サウジリーグにはすでに多くの優秀なアタッカーがいるが、オフザボールの勤勉さが備わっているタイプは厄介さが一段上がる。後方にその動き出しを操ることができるイバニェスも含めて、こちらのサイドは多くの得点を生み出している。
奥を取るアクションが多いサイド攻撃なので、相手チームは背走させられながらの対応を迫られるケースが多い。そうした守備側の一気にラインを下げる動きを見越して、マイナスにパスを入れてのミドルを狙っていくのがパターン化している。飛び込むMFも怖いのだが、逆サイドから絞ってくるWGも怖い。いずれにしても深さを使ったサイドからマイナスで仕留める形が定番化している。
インサイドへの速いクロスはもちろんカットされることもあるのだが、そこからアル・アハリは即時奪回でボールを奪い返しにいく。この即時奪回の強度もアル・ナスルとの大きな相違点。前線のアタッカーの切り替えはとにかく早く、カットをした相手にものすごい勢いで襲い掛かりボールを取り返す。この即時奪回起因の二次攻撃は要警戒。QFのブリーラム戦の先制ゴールはこの形だ。
まとめると、「中央に縦パスを入れて視線を集める→サイドに展開して深さをとる→自らシュートまで持っていくorマイナスのラストパス活用」というのがアル・アハリの攻撃の王道パターン。これに即時奪回による二次攻撃が加わる格好だ。
守備においては高い位置ではオールコートマンツーのような強度の高い守備を見せていく。試合の序盤はこのハイプレスを回避できるかがポイントになる。ロングボールにおいてもイバニェスとデミラルのCB陣は強力で簡単にボールを収めることを許してくれない。
リトリートする場合でも守備の基準は人になることが多い。バックスにプレスはかけなくとも降りていく中盤や前線には徹底的についていきポジションチェンジにも人基準で追い回す。SBが高い位置をとる相手であれば、SHのガレーノが自陣まで下がりまるで5バックかのような振る舞いを見せることも多い。
高い位置でも低い位置でも守備は献身的。特に中盤のデュエルでは無類の強さを誇る。簡単に陣地回復を許さない対人強度とリトリートをサボらない規律面を兼ね備えており、守備のレベルも非常に高いチームだ。
世界に通用するポイントは・・・
一言で言えばACL-Eの決勝に相応しい相手だなと。というか相応しすぎる相手だなというのが率直な感想。川崎の記事を書き始めて8年目になるけども、これまで扱ってきた相手の中で一番強いかもしれないなと思う。これでこそACLのファイナルだ。どう見てもラスボスである。
基本的にはコンパクトな守備ブロックからライン間を締めていきたいという方針は変わらないのだけども、準決勝とは勝手がちがう。1つはCBを放置できないこと。特に左のCBのイバニェスは放っておくと長いレンジのパスからのチャンスメイクとドリブルキャリーでの前進への寄与と好き放題やってくる。中盤のキーマンを抑えておけばよかったアル・ナスル戦とはバランスを変える必要がある。
もう一つはライン間の潰し。もちろんチェックにはいくのだけども、中盤1枚で刈り取れるようなルーズな持ち方や強引なターンをしてくれる選手はこのチームにはいない。奪い取りにいくのであれば、きっちり挟み込むこと。
ただ、そういう失い方をするケースは予習ではあまり見なかったため、ライン間を封鎖してカウンターに移行する難易度は非常に高いと言わざるを得ない。そもそも、CBへの警戒を引き上げなければいけないとなると、FW-MF間のスペースも間延びする。この点もコンパクトな陣形を維持する阻害になっている。
ボールを高い位置で刈り取るのであれば、片側サイドに誘導する守備をしつつ、使えるスペース自体を制限するやり方ができれば理想的。ただし、斬り合いになればあまり分がいいとは言えない。ソリッドな陣形をどこまで崩して勝負を仕掛けるかはスコアと睨めっこしながら考える必要がある。
中央で起点を作られて、ワイドに展開を許すと一気にラインを下げることになるので、帰陣を間に合わせることも非常に重要。準決勝までの相手は変なロストをしなければ、簡単にそういった状況は作り出されなかったが、自陣からの保持でもそういった状況を作り出せるのが決勝の相手である。ボールの失い方をケアするのは前提として、そうでない場合でもボールの雲行きを意識した守備をしていく必要がある。
攻撃はまずは序盤のハイプレスに飲まれないこと。できれば前線のどこかで起点を作りたい。ロングボールの収めどころとして最もイメージしやすいのはアリオスキとマッチアップすることになるであろう家長。ただ、守備でのタスクのハードさと好調だった準決勝のパフォーマンスを考えると伊藤も捨てがたいのは難しいところ。そうなればロングボールの収めどころは見つからなくなる。
中盤よりも前はマンツーベースの守備なので、誰かしらが背負ってフリーの味方を作る形でなんとか剥がす形は作りたいところ。そういう点を優先するのであれば、家長をスターターで起用するという選択もありだろう。
もう1つ、個人的にポイントと設定しているのはロングカウンター。自陣でボールを奪った選手がアル・アハリのプレスを交わし、1本目のパスを通せるかどうかが重要なポイントとなると考える。世界に通用する箇所を作るのだとしたら、おそらくここ。瞬間的にフリーの味方を認知し、そこに正確にパスを届けるという川崎らしい要素を突き刺してカウンターへの道筋を開きたい。
ここまで読んでいただいてわかるように、非常に勝ち筋は想像しにくい相手だ。予習した試合は展開を支配する割にはスコアを動かせていない試合もあるにはあったので、そういう日であることを祈りたいところだろう。
繰り返しになるが、準決勝までの相手と比べても別次元の完成度と言ってもいいだろう。だけども、ここはファイナルという夢舞台。積年の悲願達成まではあと一つ。この状況はやるっきゃない。一つずつ相手の普通の歯車を狂わせて、耐え凌いでチャンスを狙う。これしかない。
完全アウェイの地だが「ここで勝てる」ことを証明してきたのが今大会の川崎だ。強大なラスボスが相手でも夢を見るサポーターが多くサウジアラビアに駆けつけている。彼らの一押しとともに長年の夢を掴む日にしたい。