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レビュー
目立っていたギョケレシュの効果
2試合連続で引き分けとここに来てシティとの差が縮まってきたアーセナル。リカバリーを図りたい今節はノース・ロンドン・ダービー。12日の空白期間を経て、降格回避に向けて監督交代を敢行したローカルライバルとの激突だ。
ハイインテンシティの守備が持ち味となっているイゴール・トゥドールが就任したトッテナムは想定通り高い位置からのプレスでスタート。シモンズ、コロ・ムアニを旗頭にプレスをかけていく。中央にボールがある時は2トップがCHをケアしつつ、アーセナルのCBに出ていく形だった。
意識しているなと感じたのはサイドに追い込むときの縦へのスライド。5-3-2でプレスをかける際には通常相手のSBにプレスをかける距離が遠くなりやすいのだが、トッテナムは特にアーセナルの右サイドに対して早めのスライドで対応。スペンスがティンバーに、ファン・デ・フェンがサカにプレスをかけることで圧力をかけていく。
アーセナルはまずはショートパスから回避の目を探る立ち上がり。積極的なポジションチェンジからショートパスを活用しつつ前に進んでいくトライを敢行。トッテナムのスライドが厳しかった右サイド側でも臆することなくパスワーク。サカとティンバーの上下を入れ替えたり、エゼやトロサールといった2列目もボールを受けに降りてきたりなど大きな動きからフリーマンを作りに行く。
この右サイドからエゼ、トロサール、ギョケレシュなどセンター付近の選手への斜めのパスが通り、ポストから前を向く選手を作れればある程度のプレス脱出は完了。左サイドまで横断し、ここからボックス内に仕掛けていく。
プレス回避の後のフェーズで目立っていたのはギョケレシュだろう。ポストプレーに落ち着きで出てきて、前向きの選手を作るのに貢献していた。さらには左サイドからパリーニャの背後を取ることでシュートまでいくシーンも。オフザボールから左サイドの攻撃も牽引していた。
ロングボールに関してもターゲットになったギョケレシュ。ショートパスがしんどい時は同じく左サイドに流れる形から相手のCBを背負いながらボールを収めに行く。成功率はまちまちで、時間経過とともにトッテナム側の対応が落ち着いてきたように見える。
右サイドはいつも通りサカを軸に押し込む形。こうなるとトッテナムはじっくりと構える形に陣形を組み替える。ティンバーが追い越す形などハーフスペースへのアタックはサールがカバーに入っていく。
ファン・デ・フェンはニア側へのスライドはなく、3CBはボックスややファー寄りに位置し、ハーフスペースなどのカバーには出ていかない仕様となっていた。おそらくはクロスに軸足を置いての対応だろう。アーセナルはサイドの奥を取らない時はファーサイドへのクロスも絡めながら攻撃をしていたので、方向性としては理解できるものではあった。
アーセナルの先制点は右サイドからの突破から。サカのドリブルで右サイドをこじ開けると、折り返しからゴールを決めたのはエゼ。まさしく前回のノース・ロンドン・ダービーで決めた時のようなボックスに入ってくるうまさを再現し、高く跳ねたボールを抑えの効いたボレーで仕留めた。
トッテナムはカバーにしたサールが抜けられてしまったの失点。スペンスは粘り強くサカに対応できていただけにマークがずれた時の失点になってしまったのは痛いところだろう。
見つけた勝ち筋をいなして対応
押し込むフェーズから先制点を決めたアーセナル。しかし、盤石だったかというと微妙なところ。先に挙げたビルドアップにおいては旋回の過程でのミスがあり、相手ボールになることもしばしば。
トッテナムのプッシュアップはやや後手を踏んで間に合ってはいないけども、一歩遅れても食らいつく根性がこの日の彼らにはあった。アーセナルが一手まごついてしまうとミスを引き起こせるような寄せを見せる。
前半はこのミスからチャンスを作っていくトッテナム。アーセナルは保持でのミスのカバーとしてネガトラを素早く行うことでリカバリーすることでなんとか踏ん張っていた。
だが、結局はその保持でのミスが響いてしまって同点ゴールを献上。先制点の直後、右サイドの深いところでやりすぎたライスのロストはさすがに味方がカバーできず。ユベントスで指揮官とタッグを組んだ経験があるコロ・ムアニが強烈な同点ゴールを決める。
ただ、アーセナルのミス以外のところでトッテナムが効果的に前進できていたかといわれると微妙なところ。立ち上がりにみせていたショートパスでのビルドアップはU字ポゼッションに終始。スペースメイクがうまくできないまま相手のプレスをモロに食らってしまった格好だ。
左サイドのパスワークから降りるシモンズも捕まってしまいカウンターの起点に。トッテナムがそうしていたように、アーセナルもまたトッテナムの非保持を咎めてシュートチャンスにつなげることができていた。
リスクを感じたトッテナムはロングボールに徐々に軸足をシフト。しかし、ターゲットとなったコロ・ムアニはいまいち刺さり切らない感じ。ガブリエウ相手の空中戦に苦戦し、少ない手数でゴールに迫ることができない。
なので、同点ゴールの奪い方はまさにこの日の彼らの勝ち筋という感じ。勢いのいい種からビルドアップのミスを引き寄せて前進のきっかけをつかんだ格好だ。
先制された直後の同点弾ということで当然トッテナム・ホットスパー・スタジアムはものすごい盛り上がり。トッテナムは観客の後押しを受けて勢いを持ってプレスにいく流れを作り出す。
だが、同点ゴール以降はアーセナルが落ち着いてプレス回避を行っていく。落ち着きが見えたのは左サイドのインカピエ。右サイドほどスライドが激しくないアーセナルの左サイドはインカピエがぽっかりと空くケースもしばしば。キャリーからサカへの背後のランにダイレクトにシュートチャンスにつながりそうなボールを入れていく。
強気にプレスに来る右サイドは旋回しながら浮くスペースを作り出す。サカとティンバーのスペースメイクにエゼが顔を出してボールを引き出すシーンはこの試合の彼がゴール以外のところでも成長の一端を見せた場面でもある。
トッテナムの勢いに乗りそうなフェーズを落ち着かせることができたアーセナル。押し込みながらセットプレーなどを絡めてチャンスを作りに行くが、こじ開けることができず。試合はタイスコアでハーフタイムを迎える。
CB同士の受け渡しのスキを突く
後半はシモンズのシュートからスタート。カットインからのシュートに対して、アーセナルのDFはコースこそ制限していたが、それにしてもラヤのキャッチは落ち着いた対応だったといえるだろう。
アーセナルは返す刀で反撃。同じような距離のギョケレシュのミドルが勝ち越しゴールとなり、後半早々にリードを奪う。シュートの弾速はさすが本職のストライカーというべきものだった。
この場面ではニアで潰れたエゼにより、ギョケレシュが完全にフリーになったことがトリガーに。ドラグシン1人がエゼとギョケレシュを監視する形となったことで結果的にギョケレシュが浮く形になっていた。
トッテナムが打てた手としては逆サイドのパリーニャが絞るしかないだろう。本職ではないCBにどこまで求めるかは難しいところではあるが、本職のCBでもこうしたスライドがあまり得意ではないのが今季のトッテナムの守備だったりする。
リードを許したトッテナムはショートパスへの保持に軸足を置いていくことでリカバリーを図る。後方ではアーセナルのビルドアップと同じようにバックスの移動からフリーマンを作りに行く。列を上げるドラグシン、インサイドに入っていくスペンスなどから浮いた選手を作る算段。最終的に前を向いたシモンズのキャリーに繋げることができれば上々という形である。
成功例は52分のコロ・ムアニの幻のゴール。右サイドの深い位置での攻撃に対して、トロサールとインカピエは若干守る面を被ってしまっていた。どことなく制限がかからないまま右サイドの奥を使うことに成功してクロスまでたどり着いたシーン。コロ・ムアニのプッシングがファウルかどうかは主審の裁量次第というように思えたが、体をぶつけるとか腕を使うとかあからさまな手のひらで押すアクションではなければ、ノーファウル扱いになっていたかもしれない。
保持では反撃の兆しが見えかけたトッテナムだが、逆に非保持ではプレスに出ていけずに苦戦。アーセナルはリードをしたこともあり保持を増やして落ち着きを取り戻す。守備ではやられた左サイドから背後を取るアクションでやり返していく姿勢を見せる。
押し返していくアーセナルはハイプレスを強めていくことでトッテナムのビルドアップ阻害を強化。マークの受け渡しの整理でトッテナムの旋回に対しての優位をキープ。モスケラとインカピエのSBの押し上げも高いラインをキープする後押しになっていた。
ショートパスで自陣から出られないトッテナムは自陣でのパスミスから3失点目を献上。ギョケレシュの細かいポストはロングボールの的がメインだった前半とは異なる形。ブレントフォード戦でマルティネッリの決定機を生み出したようにポストから奥行きを作るイメージからのチャンスメイク。サカは押し込みきれなかったが、こぼれたところにいたエゼがこの日自身2得点目を叩き込む。
流れに乗ってハイプレスに行くことをやめないアーセナル。支配的なスタンスで一方的な展開に持ち込むことに成功。どの局面で上回れるか迷子になった感があるトッテナムはリシャルリソンを投入。何か相手にミスが出た時にそこをつける選手を入れてきた。
案の定、ソランケへのロングボールからアーセナルの自陣でのミスを引き起こし、リシャルリソンには決定機がやってくる。だが、ラヤのぎりぎりのセーブでアーセナルはこれを回避。前節は終盤に痛恨の連係ミスが出たが、この日のラヤは要所で相手の流れをきるパフォーマンスを見せた。
最後はギョケレシュのゴールでダービーは終幕。得意な左サイドからのCBを引きずる形でのドライブからのフィニッシュ。ギョケレシュよりも外にいたグレイにとってはフィジカル差もさることながら、自分から遠くコントロールされるたびにゴールに近づくという内外が反転している状況では太刀打ちしようがなかった。
本来はこれもCBの受け渡しで対応したいところ。ファン・デ・フェンがウーデゴールに寄っていって、ドラグシンがギョケレシュに対応するくらいしかよりマシな状況を迎えるアイデアはなかった。マドゥエケに背後を取られるかもしれないが、ホルダーがそのままゴールに進める状況を阻害することが優先だろう。
終わってみれば4得点での快勝。アーセナルはホームと同じスコアで宿敵撃破に成功した。
あとがき
ダービーでの快勝はもちろん気持ちがいいし、ギョケレシュやエゼ、インカピエなど賞賛に値するパフォーマンスはあったが、相手のスキがあるプレスに対して多くのピンチを招いて失点までつなげてしまったのは反省材料だろう。特にライスの失点はそこまでドリブルで逃がすことにこだわるべきシーンだったようには思えず、やる必要がないプレーを選択してのミスだったように思える。
当たり前の話だが、今季の最終到達点はこの試合の勝利ではない。今のアーセナルの目標はこのフェーズにない。大いに喜んだあとは大いに反省し、次の試合も喜べる準備を進めたいところだ。
試合結果
2026.2.22
プレミアリーグ
第27節
トッテナム 1-4 アーセナル
トッテナム・ホットスパー・スタジアム
【得点者】
TOT:34‘ コロ・ムアニ
ARS:32’ 61‘ エゼ, 47’ 90+4‘ ギョケレシュ
主審:ピーター・バンクス