
プレビュー記事

レビュー
段階的に回避する前プレ
1st legは1-1のドロー。勝った方が次のラウンドに進むという非常にシンプルな構図のロンドン決戦となった。メンバー選考は対照的だったと言えるだろう。アーセナルは快勝したフラム戦のスターターをそのまま転用。全く同じ選手を揃えてきた。一方のアトレティコは週末のリーグ戦を大幅ターンオーバー。スターターをまるっと入れ替えてこの試合に臨む。
序盤からボールを持つのはアーセナル。フラム戦と同じバランスで2CB+2CHの組み立てが軸。ライスが最終ラインに落ちて、ルイス=スケリーは中盤に残る縦関係への変化による3バック化がメインとなる。SBは低い位置での組み立てへの関与は控えめ。人数の調整役はトップ下のエゼがメインとなった。
アトレティコはまずは5-4-1で受ける構え。1st legの前半と同様にジュリアーノをWBのように置くことで最終ラインを埋める形を取る。ただし、受けっぱなしとなった先週の試合運びではよくないと感じたのだろう。前半の段階から前からのプレスを散りばめていく。敵陣では前からの4-4-2にCHがついていく形、自陣では5-4-1の使い分けとなった。
アーセナルはこのハイプレスをどのように捌くかがまず大事なポイントに。はっきりさせておきたいのはインサイドにパスをつける形から逃げなかったこと。ルイス=スケリー、エゼといったアトレティコのCHのプレッシャーを受ける選手にボールをつけることには積極的だった。袋小路に迷いそうなボールの預けどころにされたルイス=スケリーだったが、序盤10分の反転失敗を除けば、ターンを狙うことを基本線としつつ、戻しながらやり直すことも使い分けるという非常にフレキシブルな対応ができていた。
CHへのパスは相手を動かすようなジャブのようなもの。狙いたいスペースはアトレティコのCHが出てきたスペースの背後。ライスとルイス=スケリーに食いつくような位置どりを取った場合の背中である。この位置に入り込んでくるのはトロサール、サカといったWG組。もしくは高い位置を取るカラフィオーリとなる。

アトレティコはこの位置の選手に対してはSHが絞りながら対応。ルックマンなどはかなり味方のCHの背後をカバーするようにスライドする。こうなったら、今度はアーセナルはファジーな立ち位置を取るホワイトを活用。ルックマンが本来カバーしたいスペースに出ていくことで前から揺さぶりをかける。

もちろん、こうしたズレが全て埋まるパターンもある。その場合はサイドの裏に流れるギョケレシュがメインのターゲットに。中央に位置しながらサイドに流れることで起点になるというフラム戦から引き継いだ流れをこの日もきっちりと続けていく。
サカに対するルッジェーリの前がかりなプレスはかなり顕著だったので、流れるギョケレシュはもちろん、サカ自身も動き直して裏で受けるなどパターンをつけていた。アトレティコはコケやハンツコがこの位置をカバーすることでサカとギョケレシュの抜け出しをカバーする格好だ。
まとめると、アーセナルのプレス回避はとても段階的になっていた。
- CHへの縦パスからのターンから脱出
- アトレティコのCHの背後にWG or カラフィオーリが登場
- 絞ったルックマンによって浮いたホワイト
- サイドの裏のギョケレシュ
明らかに1st legよりも前半から仕掛けてきたアトレティコに対しては十分な対応策を提示したといっていいだろう。
サイド裏のギョケレシュを起点に先制点
敵陣での崩しに関しても手応えは悪くなかったこの日のアーセナル。やはりキーになるのは右サイドのサカからの組み立て。これに対して、アトレティコはルックマンとルッジェーリの2枚がつく形を基本として対応する。
アーセナルは浮いているホワイトが後方からサポートに入りつつ、もう一度大外をつくのか、それともハーフスペースを使うのか?というところを考えながらプレー。追い越してナンボ!という普段の形とは異なるパターンから右サイドの攻撃に貢献した。
基本的にこの日のアーセナルのWGは非常に対応が落ち着いていた。2枚がマークに来たとしても問題なし。浮いたところを探して逃がすというところがかなり徹底しており、変な失い方が少なかった。アトレティコが後方が重たい陣形を敷いていることでガブリエウ、サリバも攻撃のサポートに出てこれたということも後押しになっただろう。サイドから大駒を使って、道筋を探しつつ攻略するというフェーズに腰を据えて挑むことができた。
アトレティコの保持は基本的には縦に速い形を模索するスタート。ガブリエウとサリバを避けるようなWGをめがけたロングボールから少ない手数での抜け出しを探っていく。序盤にジュリアーノがグリーズマンとのワンツーで裏抜けした場面はまさにその成功例だと言えるだろう。
ただし、そうしたファストブレイクは基本的には広い範囲をカバーするガブリエウとサリバに守られてしまった感。そうであればある程度腰を据えたアーセナルの4-4-2ブロックの攻略に挑む必要がある。
ロングボール以外にざっくり見えた方向性としては2つ。1つはトランジッションでちょっとしたズレを狙っていく形。29分のようなエゼの背中を取った場面はリスクを取りながらも中盤で余裕を持って前進できていたケースの好例である。
もう1つは左サイドの旋回。インサイドに絞るルックマンと外を回るルッジェーリといった左サイドの細かい位置交換も打開のきっかけに。低い位置からのポゼッションからサカの背中を取るルッジェーリから前に運ぶことができたシーンもあった。
敵陣に入り込むことがあれば、チャンスがあるのは右サイド。枚数をかけてのハーフスペースアタックを狙うが、アーセナルは問題なく対応。保持での狙いどころをクリーンに潰す。
どちらかと言えば相手を押し下げていく保持の面で手応えがあったのはアーセナルの方。アトレティコは少しずつミドルブロックとなる場面が増えており、なかなか前からプレスをかけていくことができない。
前半の追加タイムに試合を動かしたのはアーセナル。右のハーフスペース裏に抜け出したギョケレシュ。サリバから出たパスはハンツコがカットに挑むも失敗。抜け出したギョケレシュへの対応にアトレティコはやや混乱。ギョケレシュが上げたファーへのクロスを起点にシュートを打ち切ったのはトロサール。こぼれたところをサカが押し込んで先制。
ラインの上げ下げ、左右への揺さぶりなどでアーセナルが一手一手先に行く形から生み出したゴール。貴重なアドバンテージを手にアーセナルは前半を終えることに成功する。
勝負の3枚替えは対照的な効果
後半、リードをしてもアーセナルは高い位置からプレスにいく。アトレティコはこれを回避して敵陣でのプレーを増やしていく。後半の攻撃で目立ったのは右サイド。左に比べると多くの人数をかけがちなアトレティコの右は、ハーフスペースへの抜け出しと早めのクロスからボックスへの侵入を狙う。前半よりも明らかに攻撃参加を増やしたプビルが印象的だった。
最も大きなチャンスだったのは50分過ぎのジュリアーノの抜け出しだろう。サリバのカット風バックパスが中途半端になり、相手に奪われてしまったが、ガブリエウが見事に対処。アルテタのコメントを鵜呑みにするならば、指揮官に走馬灯を見せるような大ピンチを凌いで見せた。
アーセナルは進まれた場合はきっちりと引く形を意識。ミドルからローの4-4-2でまずはブロックで受ける。低い位置で受ける時に重要なのは陣地回復の手段があるかどうか。その点、この日のアーセナルは問題なし。ライスのキャリーと左サイドに狙いを絞ったギョケレシュへのロングボールからアーセナルはカジュアルにプレスを回避する。
アトレティコとアーセナルは58分付近に互いに3枚交代を敢行。この交代から一気に流れを変えにいきたいアトレティコ。ロングボールのターゲットとなるセルロートを前線に投入しつつ、抜け出す選手を作る右サイドの最適化。SB役をプビルからジョレンテにスイッチすることでサイド攻撃をさらに活性化しにいく。
しかしながら、この策は一長一短。右サイドのDF色を減らすことでギョケレシュへのロングボールへの迎撃はよりシビアに。アーセナルは引き続きこのFWにガンガンボールを入れることで対応。高い位置を取りがちなところをひっくり返すことでインカピエ→ギョケレシュの決定機を生み出す場面もあり、右サイドの攻撃力を上げたしっぺ返しをアトレティコはそれなりに食らっていた。
もう1つアトレティコにとって誤算だったのは、3枚交代をしてなお前からのプレスにギアが上がらなかったことだろう。狙うは1st legの後半立ち上がりのラッシュかもしれないが、ウーデゴールを入れてプレス回避能力をさらに上げたアーセナルに対して、ボールの奪いどころを見つけることができなかった。
10分後のさらなる2枚交代はアトレティコの3枚交代がうまくいかなかった裏返しだろう。グリーズマン、アルバレスと得点から逆算すれば欲しいCF陣を入れ替えたのはハイプレスからのギアアップを狙うゆえか。1st legで負傷したアルバレスはこの怪我の影響もあったように思う。普段だったらこの状況で下げるというのはいくらなんでも考えにくい。
いずれにしてもこの一手が文字通りアトレティコの勝負手だったのは確かだろう。ここから2つの交代枠と、まだまだ入れ替えることができる前線の選手を持っているアーセナルにはまだ仕掛ける余裕がある。
そもそも、アーセナルの3枚交代はアトレティコ以上に意味を持たせることができていた。高い位置から追うアクションを交代で復活させたのはむしろアーセナルの方。マドゥエケのように「雑ではあるがなんとなく収めて、かつそこから即時奪回に向かう」という馬力はこの日のアトレティコにとっては嫌だったはず。自陣から脱出するところにエネルギーを使う必要がある状況をなかなか振り払うことができず、セルロートもそうした際のカジュアルな的としては機能しなかった。
きっちりと押し下げることができればサイドからの枚数をかけた攻撃からほんのりチャンスがありそうだったアトレティコ。終盤のパス交換からのサイド突破から生み出されたチャンスの種は、アーセナルが3枚交代で生み出した即時奪回のプレスの正当性を表しているように思う。押し下げて受ける状況を続けるのではなく、前から追ってプレス回避にエネルギーを使わせて、押し下げる時間を減らすという方向性は、アトレティコに対する防衛という観点でも、相対的に充実している前線のリソースを加味しても素晴らしい手当てだったと言えるだろう。
見守るサポーターは緊張感があったが、終わってみれば選手交代以降は主導権を渡さずにゲームをクローズし切ったアーセナル。見事なシャットアウト勝利で20年ぶりの決勝への扉を開くことに成功した。
ひとこと
スコアの優位をベースに試合をコントロールしつつ、相手に先に手を打たせながら対応するという非常にアーセナルらしい勝利となった。この日のアーセナルは特に陣地回復に関して複数の策を走らせることによって、アトレティコの緩急をつけるような前半のプレスで主導権を渡さなかった。こうしたボールプレーでの器用さはここ1ヶ月ではなかなか見られなかったものでもあり、本来はこれくらいはできるやろ!というクオリティの再提示でもあった。
そうしたスキル面や配置面とは別枠で、ひたすらサイドの裏に走りつつ、相手のCBに体をぶち当てながら起点になり続けたギョケレシュには全く別の切り口での賞賛を贈りたいところ。うまくいかない試合もあったここまでのシーズンだったが、大きな試合で勝利を引き寄せる貴重な貢献を果たしたことはここで明確にしておく必要があるところでもある。
ある部分では器用に落ち着いて、そしてある部分では力強く情熱的に決勝の切符を勝ち取ったアーセナル。ブダペストで悲願のビッグイヤーを懸けた大一番に挑む権利を手にした。
試合結果
2026.5.5
UEFAチャンピオンズリーグ
Semi-final 2nd leg
アーセナル 1-0(AGG:2-1) アトレティコ
アーセナル・スタジアム
【得点者】
ARS:45′ サカ
主審:ダニエル・シーベルト