■予定調和を打ち破った数的優位とラストワンプレー
グループステージで内容的にはなかなかパッとしなかった中堅国が上積みを果たし、別の姿でノックアウトラウンドに登場するというのはEURO2020のトレンドといえるだろう。このラインに乗ったように思えた国の1つがスウェーデンである。
確かに、グループステージから3-2-5変形での攻撃は標準装備している様子は見て取れたが、基本的には4-4-2で塹壕戦を築いて相手が焦れるのを待つというのが基本的なやり方のように思えた。だが、この試合においては立ち上がりからがっちりボールを保持する。
ウクライナがこの日採用した5-3-2のフォーメーションに対してスウェーデンが狙い目としたのは3センターの脇のスペース。フォルスベリがこの位置で前を向くのが第一目標である。
しかし、ウクライナがケアすればいいのはこれだけではない。ラインを上げようとするとイサクが裏に抜けだす姿勢を見せていたし、大外にはSBのアウグスティンソンがオーバーラップしてくる。ウクライナは前線のプレスバックの意識がそこまで高くないので、これを最終ラインで処理しなければいけない。手薄なバックス相手に立ち上がりからゴールに襲い掛かるスウェーデンだった。
それに対して、ウクライナはそもそもの立ち位置でできるギャップで勝負。シャパレンコのようにIHの選手がDF-MF間で前を向くことができれば、そこから前に進むことができる。先制点を奪ったのはウクライナ。左のハーフスペースから、逆サイドに一気に展開。サイドチェンジのフォローに入ったヤルモレンコから再び逆サイドにトリッキーなクロスを送ると、これをジンチェンコが叩きこんだ。
追うスウェーデンも絶好調のフォルスベリのミドルから素早く同点に。試合は保持におけるオフザボールが好調な上に、4-4-2でのブロックの強度を備えるスウェーデンがやや優位に立っていた。
後半も積極的な好ゲームとなっていたが、70分を過ぎると強度が一気にダウン。交代策もほぼ講じなかったことから、やはり両チームとも層の部分には不安があるのかもしれない。
延長戦に入っても焦れた均衡が続くと思われたが、風向きを変えたのはダニエルソンの一発退場。これにより、保持するウクライナと撤退するスウェーデンという構図が延長戦でくっきり出ることになった。それでもスウェーデンにとっては撤退守備の局面はお手の物。ウクライナが積極的な攻勢をかけるシーンも目立たなかったこともあり、PK戦を覚悟した観客も多かったはずだ。
だが、最後の最後で試合を決めたのはウクライナ。ジンチェンコのクロスから決勝点を決めたのは途中出場のドブビク。うれしい代表初ゴールは貴重な殊勲弾となった。PK戦の予定調和を打ち破った数的優位とラストワンプレー。ベスト8最後のイスはウクライナが手にすることとなった。
試合結果
スウェーデン 1-2(EX) ウクライナ
ハンプデン・パーク
【得点者】
SWE:43′ フォルスベリ
UKR:27′ ジンチェンコ, 120+1′ ドブビク
主審:ダニエレ・オルサト