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敗れた中で見つけた収穫は?
リーグ戦の延期分、天皇杯など中断期間も公式戦が目白押しだった川崎。G大阪は天皇杯で敗退したこともあり、セルティックとの親善試合を除けば長い休暇明けの1試合目となる。
ここまでの数試合を予習する限り、あまりプレッシングの強度は高くないチームというのがポヤトスのG大阪の印象なのだが、立ち上がりのG大阪のスタンスはかなり積極的なものだった。
シミッチを山本が監視する形で4-4-2型に変形するのがG大阪のプレスの基本。シミッチを2トップで受け渡すのではなく、山本はジェバリとの縦関係を明確にしながら川崎の中盤を捕まえるというスタンスを維持する。
その山本は時には流れの中で大南までスライドしてプレッシングに行くことも。この山本の動きもアグレッシブだし、それに追従するようにスライドするダワンやアラーノからも守備に対するアグレッシブさが見て取れた。
最終的に敗れたこの試合において、川崎にとって最も大きな収穫といえそうなのは、山根のビルドアップにおける関与に大きな進歩がみられていることだろう。2分半と17分のシーンはどちらも山根が高井に時間を与えることで左サイドからの前進を促したところである。
良化が見られたのはボールを出した後、リターンパスを受けるまでの動き。わずかな動きなおしではあるが、角度を変えることで確実に相手から離れてパスを受けている。
わずかな動きで効果を最大化できているというのは勘所を掴んでいる証拠だろう。ショートパスで時間を前に届けるのが得意とは言えない大南やソンリョンを起用しても、左サイドから運ぶことができたのは山根の大きな貢献があったことが大きな要因である。
G大阪のプレスを撃退することに成功した川崎はアタッキングサードの攻撃もデザインされていた。具体的にはダワンの背後のスペースである。
その根拠となる事象は2つ。1つ目は家長の出張だ。もちろん、彼が左サイドに流れることは川崎サポであればだれもが知っている日常茶飯事。それでもワンプレー目から流れていることは稀であり、この日の狙いだった可能性を示唆している。G大阪の中盤の守備は人についていく意識が強かったため、シンプルにポイントを増やせばそれだけ崩し切ることができる確率は上がる。
もう1つの要素として挙げたいのはマルシーニョの復帰である。ダワンの背後で前を向く選手を作れた場合、一番フィニッシュまでの道筋で狙いやすいのはマルシーニョの斜めのランである。これを出口として設計しているのであれば、左サイドでの偏重も理解はできる。
ダワンの背後を経由せず、シンプルに福岡と高尾の間を狙うパターンも。G大阪はことごとくオフサイドを取れていたので踏ん張ることができていたが、ホルダーと抜け出す方のチェックが両方遅れる場面ばかりだったので、川崎のタイミングさえ合わせられてしまったとしたら致命傷になっていた可能性もある。
よって、川崎は保持での手ごたえはそれなりにあったといえるだろう。右サイドではダミアンへの斜めのパスから山根がエリア内に侵入するシーンも。時間は短かったが、ダミアンはダミアンにしかできない役割をできている点もあるので、難しいところであるが、斜めのパスの差し込み先がある分、おそらく山根は彼がいた方がオーバーラップのタイミングを掴みやすそうだなと思った。
伸縮と2人プレスの無効化
前半は機会の頻度こそ川崎に譲ったがG大阪のボール保持のフィーリングも悪くはなかった。プレビューでもある程度予想はしていたが、やはりジェバリは川崎のDF1人であれば簡単に背負いながら収めてしまうので、彼がいることでG大阪はある程度深さを取ることができる。
川崎からすると石毛やアラーノが働くことができるDF-MFのライン間はあまり使わせたくはない。そちらを警戒すると川崎は中盤のラインを下げてコンパクトさを維持しようとする。
しかしながら、そうなってもG大阪には後方からゲームメイクができるネタラヴィがいる。川崎はこの日のトップはダミアンなので、全体の重心が下がったときに絶えず彼を抑え続けるのは難しい。
さらに、ネタラヴィからサイドにボールを展開すると自陣にコンパクトにしていた川崎の中盤が再び出ていくようになる。これが川崎のブロック守備がうまくいかなかった根源である。
G大阪の保持は川崎に連鎖的に異なる対応を強いている。まずはジェバリに収めることで最終ラインの位置を決める。さらにはアラーノと石毛への警戒を強める川崎はここから中盤がラインを下げてスペースの圧縮に動く。いわゆるコンパクトになっていく形である。これがブロックを狭めているフェーズだ。
しかし、G大阪は外でボールを持っていると川崎は中盤を筆頭にやたら相手選手を捕まえに行く。ブロックが再び広がるフェーズである。
このように守備側がブロックを伸縮させる際には選手の距離が不用意に空くことが多い。川崎でその不用意な距離が多くできていたのは橘田-シミッチのラインである。
こうしたギャップが継続してできていたことから、G大阪に得点が入るというのはある意味それなりに見通しが立っていた未来だといえるだろう。先制点の場面はフィニッシュこそ石毛のスーパーゴールではあったが、その前の段階で川崎の守備にエラーを引き起こさせるためのG大阪のフリーランが際立っていた。
まずはダワンの列落ちに橘田がついていく。これで高尾→アラーノへの斜めのパスが通るようになった。
続いてアラーノへのパスに登里とシミッチの2人がついていく。しかし、ここもワンタッチでパスを落とされて逃げられてしまう。
この段階で川崎の左サイドの守備はだいぶ壊されてしまった。石毛がシュートを打つ手前の段階でジェバリにも絶好のシュートチャンスがあったが、その場面の立役者は髙尾。右サイドの奥を取るフリーランで川崎のラインを下げたからこそ、ジェバリが足を振りぬけそうなコースが生まれたこととなる。
この試合の川崎の守備のエラーは「伸縮したところを使われる」ことと「2人がついていったことを無効化される」ことの2つに大別できるように思う。
2人がついていったことを無効化されるシーンについてはもう1つ検証。19分半のジェバリの動きを見ておきたい。右サイドでボールを持つ髙尾に対して、登里は斜めのジェバリのコースを切り、脇坂は真横を切っている。
これでは髙尾はパスコースを見つけることができない。だから登里の外側からボールを受けられるようにフリーランを行う。川崎が2人マークに行ってなお消せてないパスコースを創出する素晴らしいジェバリの動き直しである。
川崎からすれば髙尾の横は誰もいなかったため、脇坂がジェバリが元居た場所へのコースを消して、登里が縦を切るアプローチができていれば問題なさそうだった場面。しかしながら、脇坂はその前のところで中盤でボールをキャリーするアラーノにマークを引っ張られており、持ち場に戻るのが遅れてしまっていた。アラーノ、ジェバリはこのように縦方向を自由に動いてフリーになるので川崎の中盤は彼らにもどこまでついていくかを悩まないといけない。
川崎は押し込まれつつもマルシーニョのロングカウンターからひっくり返すことを狙う。抜けきりそうな分、あきらかにダメな選択肢ではないが、単騎での独走である分、抜けきれない限りは陣地回復の薬にはならない。川崎はこの時間帯はかなり押し込まれることを受け入れることとなる。
しかし、押し上げた状況で保持に回れば希望はあった川崎。再三狙っていたダワンの背後を登里→脇坂のラインで攻略し同点に。ダミアンに引っ張られている福岡と前に出ていった三浦のギャップが空いてしまった。川崎は脇坂と家長が同時に左に流れてのゴール。ややPA内に人が足りないかな?というバランスだったが、脇坂自身がラインブレイクを兼ねて侵入できたので、このシーンではあまり問題にはならなかった。
しかしながら、G大阪は狙った形からすぐに勝ち越し。右サイド側で再びギャップを作る。登里とマルシーニョの2枚をひきつけた髙尾が斜めにパスをつける。橘田がここのパスコースを切ってくれればいいのだが、橘田は斜め方向を空けてしまい、まんまと石毛が入り込むスペースへのパスコースを開けてしまった。3人が近寄っていてこのパスを出されることはまずエラーといえるだろう。
ただ、髙尾周辺の3人は逆に言えば、このパスコース以外は選択肢を削れているとも言えるだろう。髙尾のパスコースは石毛が受けた角度一択でもある。そういう意味では位置的に無理なく石毛がボールを受けた位置を先読みして潰すことができるのは高井。可視化されにくい部分でもあるが、こうしたところにも彼の課題は見て取れる。
最終的にゴールに向かってない相手に不用意なタックルをしたシミッチの不注意だったといえばそれまでだが、そこに至るまでにこれだけエラーがあることには触れておきたい。
前半終了間際に喫した3失点目もミスがらみ。確かに左サイドやや外目でボールを持った高井には縦へのパスの選択肢はなく、大南のパスは厳しいものだった。サポートに恵まれているとは言えない。だが、捨てるためのスペースがないほどタイトだったわけではない分、高井のミスなのは確かだろう。
非保持のエラーとミスが重なった川崎は前半だけで3失点。厳しい状況でハーフタイムを迎えることとなった。
流れを手放した同点以降の振る舞い
後半、2点を追う川崎がプレスの落ち着いたG大阪に対して崩す糸口を探っていく流れとなる。川崎が勢いを取り戻すための急先鋒を担ったのは瀬川。フリーランでマンツー色の強いG大阪に対して受け渡しを強いるような動きを見せることで、左サイドに崩しのきっかけを作る。ダワンの背後のスペースが間延びしやすいということもあり、この日の左サイドは瀬川にはうってつけだったといえるだろう。
瀬川個人にフォーカスすると、サイドでの崩しにやや勢いに陰りが見えたのは同サイドに佐々木が入ってからである。登里とは内外のレーンを入れ替えながらシェアしていたが、佐々木が入ってからは大外を彼が占有する分、瀬川がマークを受け渡すような遊びがなくなってしまった。
それでも逆サイドの家長から大外でサイドチェンジを引き取るという役割で言えば佐々木が投入された意義はあっただろう。家長→佐々木のラインからエリア内へのクロスで勝負をかけていく川崎。瀬川はよりインサイドでクロスをわせる役割に回ることとなった。
この構造が結果を出したのは70分台のこと。押し込むフェーズが続く川崎はスローインでのリスタートから相手を背負った山田からPAに侵入した脇坂にボールをつなぎ、最後は瀬川。1点差に迫ると、同点ゴールはその4分後。左右からクロスとシュートを浴びせ続ける流れからまたしても瀬川が決めて追いつくこととなった。
G大阪は後半の頭から前に出ていけない時間が続くように。ミドルゾーンで踏みとどまりたい守備の意識は見せていたが、前線のガス欠は明らかで、なかなかプレスから陣地回復が難しい状況になる。
ということでG大阪はフレッシュなアタッカーを投入。宇佐美、食野、鈴木と前線を総入れ替えすることで勢いを取り戻しにかかる。
プレスの強度は上がったが、交代で入った前線のメンバー的にも守備に持ち味のある選手は少ないG大阪。1stプレスは空転する厳しい展開が続く。しかし、前線の勢いに答えるようにバックラインが押し上げるムーブを見せ始めたことはG大阪にとっては大きかった。
同点直後までは間延びしたライン間にガンガンボールをつないでいた川崎だが、徐々にアバウトな裏勝負に逃げる形でボールを捨てるように攻撃を終えていく機会が増えていく。山田の決定機以降、川崎はまともなチャンスを作ることは叶わなかった。
どちらに転ぶかわからない終盤戦はダワンのヘッドで決着。高井にとっては後半にも試合を大きく動かす失点に絡んでしまうという厳しい試合となった。
あとがき
読み解くのが難しい試合だったというのが正直なところ。シミッチのPK献上や高井の2つのミスなど、負けに直結する部分は個人のミスに帰結するところが多い。
ただ、今後の課題としてあぶりだされたところはむしろチームとしての出来だろう。前半の4-5-1ブロックの「伸縮」によってできたギャップもさることながら、より深刻なのは75分以降のまともにパスをつなげるシーンがぐっと減ったことだろう。
G大阪の前線からのプレスが刺さっていたとは言えないあの時間帯に、ダミアンもマルシーニョもいない前線にとりあえずボールを蹴りましょうというのはなかなかにつらいものがある。保持からきっちりと押し下げることができれば、G大阪が攻撃に出ていくコストは上がったはず。そういうアプローチができなかったのはひとえに実力不足だろう。
ミスを背負わなければいけないのはDFの宿命ではあるが、ミスのリスクを減らすチームになるにはチーム全員の寄与が必要。効いた時間が短かったダミアンとマルシーニョを含め、その部分で納得のいくパフォーマンスができた選手の少なさを考えれば「個人のミスで敗れた」と片付けるにはあまりにももったいない敗戦である。
試合結果
2023.8.6
J1 第22節
川崎フロンターレ 3-4 ガンバ大阪
等々力陸上競技場
【得点者】
川崎:27‘ 脇坂泰斗, 71‘ 75′ 瀬川祐輔
G大阪:13’ 石毛秀樹, 30‘ イッサム・ジェバリ, 41’ ファン・アラーノ, 90+6‘ ダワン
主審:谷本涼