テンポアップを引き起こした後半に課題を残しつつ4得点での快勝
森保監督の宣言通り、大幅なターンオーバーでトルコとの一戦に臨んだ日本。しかしながら、大枠のチャレンジの内容はメンバーを入れ替えても同じだと言えるだろう。
例えば、立ち上がり。左サイドからのスローイン連打が続く中で、伊藤敦樹と田中が高い位置まで出ていってプレッシングをかける姿は隙あらば即時奪回というスタンスに通じるものがある。
こうしたプレッシングが常に行われるものではないというところもドイツ戦と同じ。トルコのバックラインに対して、日本は定常的にプレスをかけ続けるわけではない。スイッチ役となるのはトップ下の久保。トルコの中盤が積極的に行うサリーなどの列落ちに対して、彼が追いかけて行ったら日本のプレスは始まる。後方はそれに連動してのプレッシングが要求されることとなる。
負荷がかかっている感があったのは右のCBである谷口。こちらのサイドのIHであるコクチュはトルコの中盤の中でも一際動きが大きい選手。彼に目の前の伊藤敦樹が出て行ってしまったら、内に絞って間で受けるカフヴェジと裏を狙うFWのユルドゥルムのどちらをケアするのか谷口が判断する必要が出てくる。
トルコのボールの受ける基準は基本的には降りるアクションが重視されているのだが、例外的に1,2人がその逆の裏を取る動きを行うことがあり、この逆を取る動きに日本のバックラインは苦戦していた印象だ。それでも出て行ったら潰す!というスタンスを貫きながら前線のプレスに食らいついていった谷口はさすがなのだけど、18分のカフヴェジがDF-MFのライン間で前を向いたシーンなど、時折出ていく判断のミスマッチが起こることもあった。
ボール保持においても日本はチャレンジを継続。ショートパスからの繋ぎにトライしていく。2CBにトップのユルドゥルム1枚でマークに来たトルコ。ユルドゥルムは谷口の左側から右サイドに誘導するようにプレスをかけていく。ユルドゥルムのプレスを合図にトルコは同サイドに追い込む形で日本の選手たちにチェックをかけていく。
左を切られた谷口には右側のスペースしか残されていなかったが、ここは堂安と久保を中心によく密集を脱出することができていた。わずかなスペースでも少ないタッチでパスを繋いで強引に前を向いてしまう日本の2列目のスキルの高さを見せながらトルコのプレスを撃退する日本。
日本のポゼッションが良かったのは強引なチャレンジだけでなく、後方に戻して逆サイドに振っていく動きも使えたこと。中村航輔を経由したり、しなかったりしつつ、ユルドゥルムのプレッシャーの外にいる逆サイドの町田からボールを運び直すことができるのはポゼッションの時間を伸ばしたいチームの振る舞いとしては正しい。
町田に対してはIHのウチャンが出ていったため、足元のスキルの見せ所タイム。プレスのタイミングが遅れればライン間のパスを通して、局面を進めることができた町田は一定の存在意義を見せたと言えるだろう。
プレス脱出のフェーズを超えて押し込むことができれば、右サイドは一転日本のストロングになる。目の前が空けば即座にシュートとスルーパスを高精度で狙うことができる久保はクラブでの好調さをワンプレーずつ披露する形でサポーターに刻印しているかのような振る舞いをしていた。
高い位置でも無理なくインサイドに入り込める毎熊と堂安のレーン分けも面白く、高い位置でこの連携が見られたワンプレー目で伊藤敦樹がカットインからミドルを放って先制点を決めたのはとても興味深かった。インサイドに入る毎熊と大外でボールを持った堂安によって押し下げられた中盤のラインを活用した伊藤敦樹のミドルは彼自身のシュートのスキルに上乗せして、右サイドのスペースメイクの連携も見られたいい得点だった。
続く2点目は立ち上がりに見られた即時奪回の意識からのもの。伊藤敦樹と田中の高い位置でのプレッシングからマイボールを奪い返すと、前が空いた久保のミドルからこぼれ球を中村敬斗が押し込んだ。
中村敬斗が更なる得点を重ねた3得点目は毎熊のボール奪取が起点となったプレー。デビュー戦で前向きの矢印から結果を出した毎熊は上々の出来だと言っていいだろう。だが、その後の失点では後手に回り警告を受けた守備と、そのFKで大外での競り合いから失点に関与などミソがついたのも確か。攻撃型のSBが保持面で良いプレーを見せつつ、空中戦や対人守備で課題を残すというのは近年であれば山根が通った道でもある。
トルコは追撃弾の前から4-4-2で前線からのチェイシングを強めていた。これにより、やり直しという安全策が減った日本の保持はチャレンジ性のパスを余儀なくされた部分があり、前半の終盤はその終始がややマイナスに傾いたというところだろうか。ボックス内での空中戦ではトルコが優位に立てそうということもあり、セットプレー絡みでややハーフタイム前にトルコが盛り返した流れとなった。
日本はHTに3枚を交代。肩を痛めた中村に加えてこれで4枚を交代カードで使ったことになる。ちなみにトルコは5枚。チャルハノール、ウンダフ、デミラルなどイタリアに縁のある選手が次々と投入される。おそらくこちらが主力組なのだろう。
日本の前線は高い位置からのプレスに出ていく。おそらくは古橋、前田、伊東のスーパーカートリオを生かしたプレスからの主導権の奪回がテーマなのだろう。メンバーは代わっても後半のトルコもプレスでは高い位置に出てきたため、こうした相手に対する背後へのロングパスという逃げ道を作ったという裏テーマもあったかもしれない。
その割を食った感があったのは日本のCH。縦に早くプレーしていくというのは前半に比べればチームとしてのテーマとして感じるところはあったのでそこは問題ないけども、田中も伊藤敦樹も攻守に早め早めにプレーすることにより、雑さが少しずつ出てきたような印象。特に非保持では1人が釣り出されて、もう1人のカバー範囲が広くなり、その周辺をスペースを使われるところの連鎖からトルコに中央から侵入を許すシーンが頻発。トルコに明確な攻め筋を与えてしまう。チャルハノールであれば、このスペースは見逃さないだろう。
もちろん、伊東を中心に同じくらいは日本もチャンスを作っているので、収支的には極端に悪い感じはしないのだけども、交代策から日本が主体的に行ったテンポアップがそのまま主導権の引き寄せに繋がったかは怪しいなという感じである。トルコの2点目も日本の中盤が後手に回ったところからだし、その直後に遠藤が入ったというのもさもありなんという交代であった。
遠藤の登場とともに日本のプレッシングはミドルブロックの4-4-2に再び収束した感がある。ラインが下がることを引き換えに中盤のスペースをもう一回消すところからスタートするイメージ。こうなると、日本のテーマはトルコが重点を置いてくる右サイドからの攻撃をいかに食い止めるかと、ロングカウンターをどれだけ打ち返せるかとなるだろう。
前者はウンデル、チャルハノールを軸に割と好き放題振り回されつつ、町田とシュミットを軸になんとか跳ね返したなという感じ。後者はさすがは伊東純也というPK奪取でリードを2点に広げた。前田と古橋は是が非でも結果が欲しかった試合だろうが、数あるカウンターから得点に絡むことができなかったのは本人にとっては悔しい思いがありそうである。
伊東のPKからゲームのトーンはだいぶ落ち着く形に。攻める時間を増やしつつ、後方に冨安を投入して自陣を固めることで日本はゲームクローズ。2試合連続4得点で欧州遠征の幕を閉じた。
ひとこと
時間帯ごとにテーマを持ちながらプレーしつつ、多くの選手をテストしつつ、できることとできないことを見分けつつという意味でとても意義がある試合だったように思う。伊藤敦樹や毎熊が点に絡んだからオールOKとはならないように、レギュラー選手に引き上げられるようにその次の層の課題が見つかり、それをクラブで潰しましょう!という循環は回っているのは総じて良いことのように思う。この流れを10月以降も継続しつつアジアカップでは王座奪回を狙いたいところだろう。
試合結果
2023.9.12
国際親善試合
日本 4-2 トルコ
セゲカ・アリーナ
【得点者】
JPN:15‘ 伊藤敦樹, 28’ 36‘ 中村敬斗, 78′(PK) 伊東純也
TUR:45′ レキク, 61′ ユルドゥルム
主審:アラルト・リンドハウト