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「光が見えたゴールのプロセス」~2022.8.20 プレミアリーグ 第3節 ボーンマス×アーセナル レビュー

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目次

レビュー

■引き出す動きもセットになっている

 アーセナルは開幕2連勝。マンチェスター・シティと共に連勝スタートに成功したチームは2つだけである。第2節でそのマンチェスター・シティと対戦したのがボーンマス。昇格組にとってはビック6とのタフな連戦という形になる。

 ボーンマスはこの試合では5-3-2を採用。シティ戦の5-4-1からは少しフォーメーションをいじっての試合になった。2トップのビリングとムーアがアンカーのトーマスを受け渡しながら守るやり方で、アーセナルのバックラインにボールを持たせることはある程度許容する形になっていた。

 特に2トップが中央を閉じることを意識した5-3-2を相手にポゼッションする際には、まずは2トップの脇を取った時の相手の陣形を気にする必要がある。

 ボーンマスは2トップの横の守備の可動域が広くなく、このエリアにボールをつけたときは積極的に後方の選手がプレスに出てくる。2トップ脇の選手を捕まえるのはIHの仕事である。

 こうなると、それに伴って中盤は大きくスライドすることになる。よって、アーセナルのバックラインで横にパスを繋ぐことさえできれば、ボーンマスはかなりサイドへのスライドを強要されてしまう。

 中盤が前に引き出されることでボーンマスの管理が難しくなるのはDF-MF間のスペースである。このスペースを開けることができれば、アーセナルはライン間にパスを通しやすくなる。

 先制点を奪ったシーンも一応ライン間へのジェズスのパスから。まぁ正直、このシーンはライン間を広げたどうこうよりもジェズスが素晴らしすぎることが先に来るけども。背負って、前を向いて、局面を前に進めることができるパスを出せる間合いを作り、マルティネッリにバトンタッチ。最後はウーデゴールが跳ね返りを押し込んであっという間に先制する。

 ライン間のスペースを広げることができれば、アーセナルのアタッカー陣は楽に動き回ることができる。ボーンマスとしてはアーセナルのバックラインの選手も放っておきたくないし、後方も開けたくないというジレンマに悩まされることになる。

 レスター戦のアーセナルももちろん良かったが、相手を引き出す動きは少なく、狭いスペースを調子の良さでゴリゴリ崩していく形で押し切っていく形がメインだった。そういう意味ではボーンマス戦のように引き出す部分が手前にあってその先に崩しがあるという流れの方が個人的には好みである。先制点後にプレスを強めたボーンマスに対しても、落ち着いて対応できたのも上々だ。

 ここ数試合のジャカは高い位置での貢献が目立ってはいたが、この試合のジャカは左のSBの位置まで下がってボールを触ることが多かった。きっちり、相手を引き出すためのフリの部分もきっちりできていたことが大きい。ボーンマスのジレンマをより揺さぶる存在になっていた。

 得点のシーンの話をもう少し。らいかーるとさんの開幕戦のレビューにも書いてあったが、ジェズスがサイドに動いた時に、彼が開けたスペースに誰が入り込むことができるか?という部分は今季のアーセナルのポイントになる。



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 アーセナルファンには馴染みのある話だと思うが、CFが動きすぎてしまうとフィニッシャーがいなくなる問題にぶち当たることになる。ラカゼットがCFを務めていた時は、彼が降りてポストに注力しすぎてしまうとPAに誰もいない!ということが頻発していた。

 新エースのジェズスもラカゼットとタイプは違えどボックス専任のストライカーではない。9番が代わったとしてもチームとしてこの調整は大事になる。

 よって、ウーデゴールがこのスペースに入り込んで結果を出したことは重要である。アーセナルの2列目はこうしたボックス内の動きが昨シーズン以上に問われる年になるように思う。

 ウーデゴールに関しては昨シーズンに比べて明らかにビルドアップにおける負荷が低くなっている。トーマスのサポートに両SB(特にジンチェンコ)が回ることで2列目は高い位置に押し上げられるケースが多いからである。そういう意味ではよりアタッキングサード寄りのタスクが求められる形に状況が変化していっている。

■プロセスと結びつく課題解決

 もう1つ、アーセナルファンが気にしていたのが右サイドの崩しの部分である。プレビューでも述べたが、5バックが相手で撤退を優先する形であれば、大外からWGの優位を用いてWBから崩していく形を活かせるかは非常に重要である。

 この試合で良かったのはサカのサポートをするホワイトのランである。サカが大外でDFラインの高さを決めたことで空いたマイナスのスペースからクロスを上げたり、逆にサカを追い越すことで抜け出してクロスを上げるなど2人の連携で崩す場面が見られた。

 2得点はこの右サイドの連携を活かした形。ジェズスとウーデゴールが同じスペースに入り込んだが、仕留めたのはウーデゴール。この日2点目のゴールをあっという間に決めて見せた。

 アーセナル側からすると「ウーデゴールの存在感の出し方」と「右サイドでのユニットの確立」という部分はどちらも気にしていたこと。この2つに解決の光を見せながら2得点を奪ったというのは内容面でも非常に大きい。

 こうした攻撃におけるトライを多く見せることができたのはアーセナルの波状攻撃が効いていたからである。ボーンマスが縦に急ぐと、長いボールはあっという間にアーセナルのバックラインに回収される。

 プレビューで述べた通り、ボーンマスは左サイドから縦に早く前進しようとする場面が多かったが、アーセナルはこれに対応し跳ね返し続けて見せた。ホワイト、サリバ、トーマスあたりのストッパーしての機能の高さは流石であった。

 ボーンマスは2トップにしたことでロングボールのターゲットをムーアから二分化した分、アーセナルのバックラインは狙いが絞りにくくなった。しかし、これも単体のデュエルでアーセナルのバックラインが劣勢に回ることがなかったので、大きな問題にはならなかったと言えるだろう。

 ただ、ボーンマスは蹴る前にボールを繋ぐことでロングボールの下地を作るチームである。ショートパスでバックラインでパスを回すことに抵抗がない。

 ボーンマスの左サイドにボールがある時、アーセナルは逆サイドのWGであるマルティネッリが中盤までスライドする形で圧縮する。この時にマルティネッリが開けたスペースまでボールを繋ぐことができれば、ボーンマスは落ち着いてボールを持つことができる。

 ただ、アーセナルは逆サイドまでボールを動かされてしまったら、一旦リトリートして立て直す方針になっていたので、特に慌てることはなかった。リードを奪っている分、割り切るところは割り切るという方針なのかもしれない。

 即時奪回で奪いにいくが、空いているスペースまで回されてしまったら一旦引いてボーンマスにボールを持たせて迎撃体制を整える。前半のアーセナルは守備においてもボーンマスにエリアに侵入させる隙を見せなかったと言えるだろう。

■なんで練習していたの?

 後半、ボーンマスは4-3-3にフォーメーションを変化させる。これでペースは徐々にボーンマスに流れていくようになる。プレスを強化したボーンマスに対して、アーセナルはロストのポイントが早くなったこともリズムが悪くなる要因だった。

 ボーンマスは左サイドを軸に押し返しを狙っていく。左に移動したビリングとSBのゼムラのコンビから縦に抉るようにアーセナル陣内に切り込んでいく。

 しかし、この攻め方はアーセナル相手に相性がいいとは言えない。というのはアーセナルのバックラインは横のスライドをかなり長い距離行うので、同サイドだけで攻め切るというやり方に対してはめっぽう強い。

 この試合のボーンマスは同サイドにこだわる傾向が強かったが、50分のレルマのようにサイドを変える大きな展開の方がアーセナル攻略に適していたと言えるだろう。大外で受けたスミスが自由を享受できたことからも、この場面でのアーセナルは同サイド圧縮に失敗してしまったことが読み取れる。だがそうしたトライをする場面はボーンマスは多くなかった。よってPAに迫る機会が大幅に増加することはなかった。

 ペースは握ったが、ゴールに迫る決め手は相変わらず作れないボーンマス。そんな彼らを尻目にアーセナルは3点目をゲット。セットプレーから高い位置をとったサリバが「練習していた」という形で左ハーフスペース付近から逆足ミドルを放って3点目をゲット。なぜ、右CBが左サイドから逆足のミドルを「練習していた」のかはさっぱりわからないが、アーセナルファンの度肝を抜く形でサリバがアーセナルの先制ゴールを決めたことは確かだろう。

 得点シーン以外にもアーセナルはカウンターからチャンスを迎える。序盤はマークがきつくなかなか輝けなかったトーマスだったが、後半はカウンターのスイッチ役として機能。彼が2列目の選手に素早く縦パスを入れることで攻撃のリズムが出てくるようになった。

 オフサイドで幻となってしまったが、ジェズスのネットを揺らしたシーンのように手早い攻撃から決定機を迎えることはできていた後半のアーセナル。隙あらばハイプレスも狙っていたし、ボーンマスにボールを持たれる時間が長くなってもアーセナルは攻撃の脅威を見せることができたと言っていいだろう。

 終盤まで試合をコントロールしながらリードを保ったアーセナル。18年ぶりのリーグ開幕3連勝で久しぶりのリーグ首位に立つことに成功した。

あとがき

次はベクトルの異なるチャレンジに

 3連勝で首位というとそこそこに色気が出てきてしまうそうなものだが、現状でのこの数字にそんな意味はない。CL出場権よりも高い目標を現実的なものとするにはまずはW杯が開催されているときの順位次第である。それまでは無駄な色気は不要。1つ1つ勝ち点を積み上げていくべきだ。その上で、序盤の楽な日程で貯金を作るべく勝ち点を稼いでいることはもちろん評価できる。

 得点の仕方もポジティブ。ゴールにつながるプロセスでは開幕2試合で気になった部分がある程度形になっていたし、ギアを上げている時間帯にきっちり得点まで繋げていることも好感である。

 目の前の相手にできることを積み上げて確実に勝ち点を稼ぐ。アルテタとアーセナルの選手たちは今そこに集中できている。来週からはミッドウィークの連戦が始まる過酷な日程になる。去年は構築できなかった大きなスカッドを作ることができるかどうか、少しベクトルが異なるチャレンジに立ち向かうことになるだろう。

試合結果
2022.8.20
プレミアリーグ 第3節
ボーンマス 0-3 アーセナル
ヴァイタリティ・スタジアム
【得点者】
ARS:5′ 11′ ウーデゴール, 54′ サリバ
主審:クレイグ・ポーソン

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