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「覆い隠されないように」~2022.5.16 プレミアリーグ 第37節 ニューカッスル×アーセナル レビュー

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目次

レビュー

■アーセナルファンは間違いに気づかされる

 順位は確かに中位。残留の心配はなく、欧州カップ出場権の可能性もない。が、個人的にはプレビューで触れた通り、ニューカッスルはモチベーション十分と予想していた。

 ホームの最終節だし、対戦相手はアーセナル。今季トップチーム相手に勝利を手にしていないニューカッスルにとっては一旗揚げるには格好の相手である。かつ、変革期にあるチームにおいては水準に達していないパフォーマンスを見せれば、来季自分の居場所はないのである。そういうチームが最終順位に大きな影響がないという理由程度でモチベーションを落としてくれるとは試合前から個人的には思っていなかった。

 ただ、それでも『もしかすると順位の関係で気が緩んでいるかもしれない』と期待したアーセナルファンはいたことだろう。だが、ニューカッスルの立ち上がりのパフォーマンスはその考えが間違いであることを早々に示すものであった。

 アーセナルは立ち上がりからニューカッスルのハイプレスに晒されることになる。プレスの形はいわゆるWGの外切りが中心の形。CBに利き足の方からプレッシャーをかけて、外へのコースを切る。これによって、CBは外側へのグラウンダーのパスを通せなくなる。

 となればパスが通るのは浮き球である。しかし、浮き球はパスが到達するのに時間がかかる。よって、ニューカッスルはアーセナルが浮き球でCB→SBに通す間にIHがスライドする時間を得ることができる。

 この試合のアーセナルで前進が最もうまくいったのは5分のジャカのターンである。対面のS,ロングスタッフはガブリエウからタヴァレスへのパスが出るものと決め打ちして、タヴァレスの方にスライドを始めた。が、それを見ていたマガリャンイスはジャカに縦パスを入れることを選択。ボールを受けたジャカがターンして前を向いたシーンだった。

 アーセナルがニューカッスルのハイプレスを破るにはこの中央とサイドの連携でIHを振り回すことでビルドアップを成功させるしかなかったように思う。しかしながら、前進がクリーンに行ったのは数える程度、ジャカのターン以外にはタヴァレスの抜け出しとエンケティアのポストから逆サイドのサカに展開したシーンくらいだろう。

 アーセナルは前進のスキームを確立するのに苦しんだ。こういうプレス脱出には受け手となる選手がポスト役になり、フリーの選手にパスを落としボールを前に動かすスキルが必要。だけども、右のエルネニーにはそうしたスキルを要求するのは酷。プレスを受けた際にはボールのタッチも増えるし、コントロールも乱れる。

 というわけでジャカがいる左サイドがこのプレスの脱出に挑むことになる。が、右サイドが怖くないとわかってしまえば、ニューカッスルとしては怖くはない。アンカーのギマランイスやシェアなどがある程度ボールがサイドにある時点決め打ちで勝負をかけることができる。

 後方が連動すれば前線のプレスは刺さりやすくなる。アーセナルはどこからでもビルドアップできない状態ゆえに、袋小路に入ってしまった感がある。後方で人が捕まってしまうのであれば、アーセナルとしては大きなボールで陣地回復したい。

 マルティネッリがいないのならば、そのターゲットはサカだろう。しかし、ここ数試合のサカは負傷気味であり、コンディションを落としている、逆サイドにはマルティネッリではなく、前を向いて持ち味を出せるスミス・ロウを起用していたが、捕まっている状態でさすがに厳しい。とはいえ、この試合でいうと途中から出て来たマルティネッリも明らかにコンディションが悪かったので、ということでマルティネッリを使っておけば完璧!というわけではなかった。

 本来であればバックラインからのショートパスによるプレス回避+WGを使ったロングボールによるプレスの2つを組み合わせたかったところであったが、そのどちらも形にして確立することは出来なかったアーセナル。個人的にはトーマスとラカゼットがいなくなって以降、ウーデゴーアを絡めての中央でのパス交換がグッと減った気がしている。この部分を今の選手たちでも整備できればと思っていたのだが、両WGのコンディションが落ちたタイミングでその部分の整備不良を突かれる形となった。

■あらゆる局面で優位だったニューカッスル

 一方のニューカッスルに対するアーセナルのプレスも前から。いつも通り、2トップに加えてサカも前がかりになる形でボールをひっかけるのを狙っていく。ニューカッスルはアーセナルと同じくロングパスも含めて前進の手段を模索する。

 結果としてはアーセナルに比べると前進のルート確立には可能性を感じた。活用したのはサン=マクシマンのマッチアップ。アーセナルはノースロンドンダービーのソンのようにサン=マクシマンには冨安を張り付けることで対応しようとした。冨安はサン=マクシマンに前を向かせる頻度は限定的で個々のマッチアップとしてはよくやっていた。

 しかし、冨安がサン=マクシマンにプレスに行くことで空けてしまったスペースは狙われたように思う。縦パスを受けたサン=マクシマンは背負いながら味方に落とし、同サイドの裏に抜ける選手に対してパスが出る土壌を整える。自分自身が前を向く回数はいつもよりも少なかったが、味方を使える球離れの良さを示した日でもあった。

 同サイドの選手の抜け出しは主に大外を狙ったもの。抜け出すタイミングさえ合えば中央よりもオフサイドにかかりにくい。タイミングを合わせた動き出しを行うことが重要である。裏抜け役はウィルソンやジョエリントン。しかしながら、アーセナルの最終ラインがなんとか食い下がりオフサイドの山を築く。特にウィルソンは数多くのオフサイドを犯した。

 共に保持において課題があるとは言え、ゴールへの道筋の近さには差があったといえる日だった。アーセナルはプレスを回避して自陣から脱出しなくてはいけないのに対して、ニューカッスルは抜け出しのタイミングを合わせるだけである。課題をクリアする難易度も、クリアした後にどれだけゴールに迫っているかという観点においてもニューカッスルの方が優勢だろう。

 さらにニューカッスルはプレスで相手を苦しめることもきっちり。彼らはアタッキングサードにおいて右サイドに人数をかけてフリーの選手を作ることと、ファーへの深い位置へのクロスを放り込む意識を大事にしていた。ファーへのボールが重要なのは守備側にとってクリアが難しいから。特にCBにとってはファーのボールは下がりながら対応する必要がある。こうなるとクリアに距離が出ない。

 ニューカッスルは右サイドのパス交換で重心を上げることもできている。アーセナルはクリアに距離がない。となればニューカッスルは仮にアーセナルがボールを取り返したとしてとしても、高い位置から人数をかけたプレスが可能になる。

 そうなればプレスにいい影響を与えることは必至。人数をかけた厚みのあるプレスを無理なくかけることができる。保持での脱出手段、相手へのプレス、そして非保持と保持の手法の相関などあらゆる部分でニューカッスルがアーセナルを上回った前半だった。

■前半の課題が失点に

 前半はアーセナルを圧倒していたニューカッスル。内容から踏まえればアーセナルはむしろ0-0で何とかしたなという感じだった。後半まで待てば彼らのペースも落ちるかもしれないという希望を持つこともできる。

 しかしながら、後半もニューカッスルは素晴らしい立ち上がり。アーセナルをプレッシングで追い込んでいく。ペースが落ちないことを悟ったアルテタは後半早々にスミス=ロウ→マルティネッリの交代を敢行する。

 アーセナルにとっては試合をオープンにすることで前半で負傷交代した冨安がいなくなった穴が浮き彫りになる恐れはあったが、前進ができないという状況はどげんかせんといかん!ということだったのだろう。これにより、大外2か所にプレスの脱出先を置いたアーセナル。左右にロングボールを入れながらアーセナルは巻き返しを図る。

 しかし、先に結果を出したのはニューカッスルだった。前半から繰り返し狙っていた形。サン=マクシマンにセドリックがついていく動きと合わせるように、サイドから裏を取ったのはジョエリントン。サイドからの折り返しをウィルソンの前でカットしようとしたホワイトがオウンゴールを決めてしまう。

 まぁ、ここまで追い込まれたらオウンゴールは仕方ないだろう。状況として悪すぎるし、自分が触らなければウィルソンが決めていただけである。

 それよりも何とかしたいのはジョエリントンの抜け出しの方。2列目からこれだけDFライン全体が置いていかれるのはいただけない。セドリックが前に出ていった時点である程度この裏のスペースのケアは予期しておきたいところ。ホワイトにはオウンゴールよりもスライドにより抜け出しを未然に防げなかったか?ということの方が気になる部分である。

 アーセナルはここからアタッカーを続々と投入。個人的にはタヴァレスはもう少し見てみたかったが、大外をマルティネッリとペペに任せるという判断はよくわかる。ペペは終盤のようにファーにクロスを上げるプレーをもう少し増やしたかったところ。PAの枚数を増やした意義はやはりアバウトなクロスでも放れるようにするためだろう。

 先制後も手を緩めなかったニューカッスル。時間を追うごとにアーセナルのバックラインが手薄になったことと、彼らのもう1点取ってやろうという意気込みの強さはある程度のリンクはあるかもしれない。プレスもシュート意識も手を緩めずにアーセナルを仕留めにかかる。

 試合はアーセナルのパワープレーをいなしたニューカッスルが追加点を得る形で決着。抜け出した場面ではセドリックが置いていかれてしまっていたが、これだけスクランブルな対応が続いてしまっては仕方ない部分だ。先制点以降、徐々に状況を悪くしてしまったチームの責任でもある。

 アルテタやジャカも試合後のコメントで認めるように試合は90分を通してニューカッスルの完勝。ニューカッスルはホーム最終節をトップ5相手の今季初勝利という最高の形で締めくくって見せた。

あとがき

■この試合に至るまでの苦境が前面に

 冬にこのスカッドで耐える方向に舵を切って、なんとかここまでやりくりを続けてきたアルテタ。だけども今日このコンディション、この相手では正直勝ち目はなかったと思う。ビルドアップの逃げ道もほとんどなかったといっていいし、ニューカッスルに決定機が備わっていればもっと悪い負け方もあったかもしれない。

 この試合どうこうというよりもこのチームがシーズンを駆け抜ける体力がなかったように思う。冨安は再び離脱してしまうかもしれないし、両CBは強行出場気味のスケジュール。負荷の高い使い方をしてきたマルティネッリとサカは揃ってコンディションを落としている。これではニューカッスルが相手でなくても難しい戦いにはなっただろう。

 2021-22シーズンはこの試合のように課題が浮き彫りになる試合も多くあったが、昨年よりも確実に何か手にしたシーズンでもある。目の前の大目標を自分たちの責任で逃しかけている今、今季の収穫に目を向けることは難しいかもしれない。

 だが、あと1試合チームには試合が残っている。そこにある収穫が残念な結果で覆い隠されてしまうのはあまりにも残念だ。まずは最終節エバートンに勝利を収めること。自分たちが何をしてきたかを示すための最終節にしたい。

試合結果
2022.5.16
プレミアリーグ 第37節
ニューカッスル 2-0 アーセナル
セント・ジェームズ・パーク
【得点者】
NEW:55′ ホワイト(OG), 85′ ギマランイス
主審:ダレン・イングランド

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