①ブライトン【13位】×リバプール【2位】
■持つものによる完璧な制御
インテルという難敵を下して、CLでベスト8に駒を進めたリバプール。休む間もなく、優勝争いを繰り広げているプレミアに舞い戻り、ランチタイムキックオフでブライトンと対戦することとなる。
立ち上がり、攻勢を仕掛けたのは意外にもホームのブライトン。この日は右のSHに入ったマーチを大外の起点にすると、このサイドから攻めいる。確かにディアスの戻りは未知数だし、狙いとしては面白かった。同じサイドのランプティが攻め上がる時間を作ることができていればなおOK。攻撃の厚みは増す。大外とハーフスペースを同時につくことでリバプールのバックスを右から抉ることができていた。
一方のリバプールの保持。4-2-3-1気味のブライトンの守備はアンカーのファビーニョにトップ下のマック=アリスターを付ける形である。中盤の枚数を合わせることを優先した格好だ。バックラインはSBが高い位置までリバプールのWGを追いかけまわして前を向かせないように対応する。
リバプールは右サイドの奥から徐々に盛り返しを狙っていくことに。だが、中盤ではケイタの細かいつなぎのミスが散見され、ブライトンが狙い目にできそうな隙を見せてしまっていた。
しかしながら、ブライトンの仕組み上のミスマッチをリバプールはきっちりついてくる。中盤を噛み合わせる選択をした以上、空いてくるのはリバプールのCBである。インテル戦もこのような工夫は見せたりもしていた。
この試合でも仕組み上、空いたマティプが決定的な働きを披露した。マークがつかないことを利用し、持ち上がると抜け出したディアスにラストパス。抜け出しから危ないコンタクトもあったが、ボールはゴールに無事に吸い込まれていった。ブライトンの守備が諦めたところから攻め入るリバプール。時間の経過とともに保持の支配力を発揮していく。
ブライトンのSBが降りる動きについてくるならば、裏抜けはどう?みたいな揺さぶりをかけられるのが今のリバプールである。これが後出しでOK!という持つものの強みである。
ブライトンは後半も苦しい戦いに。序盤こそ、前半を彷彿させるチャンスメイクだったが、時間とともに再びリバプールに主導権は推移。ビスマを抑えられたボール保持は幅を使うことができずに、直線的なマーチへのチャンスメイクに頼る部分が大きかった。そのため、ブライトンは5バックにシフトし、後方のズレを作ることでピッチをより広く使おうというアプローチに切り替える。
このやり方は一定の効果はあった。だが、同点ゴールまでの道は遠かった。そうこうしているうちに追加点を奪ったのはリバプールの方。ビスマのハンドからサラーがリードを広げるPKを決めると、ここからリバプールは安全運転モード。苦労して探した攻め手も生かそうにもブライトンとしてはボールを取り上げられてしまえば何もできない。
ここ数試合で目を見張るようになったリバプールの試合運びのうまさはこの日も健在。きっちり制御下に置かれてしまったブライトンは抵抗したが、完敗という表現が妥当だろう。
試合結果
2022.3.12
プレミアリーグ 第29節
ブライトン 0-2 リバプール
アメリカン・エキスプレス・コミュニティ・スタジアム
【得点者】
LIV:19′ ディアス, 61′(PK) サラー
主審:マイク・ディーン
②ブレントフォード【15位】×バーンリー【18位】
■一番うまいのはエリクセン
勝ち点的には前にいるブレントフォードだが、消化試合的には十分に降格候補。バーンリーにとっては彼らを残留争いに引き込むための大事なシックスポインターである。
『ブレントフォード×バーンリー』という看板通り、立ち上がりから落ち着かないロングボールの応酬となるような試合。ファウルで試合が止まり、セットプレーが頻繁に挟まる形で交互にチャンスを作り出していった。
平場でのチャンスメイクはどちらも個人依存感が強かった。ブレントフォードは右のSHに入ったムベウモ。前節のノリッジ戦でもそうだったが、サイドにいるだけでもミスマッチを作れる彼の存在を生かしていく。ブレントフォードは基本的にはバーンリーのSB付近のスペースは使えるという判断なのか、大外から裏に抜けるランに合わせてスルーパスを出す形も多用していた。外からバーンリーを押し下げる形で敵陣に迫る。
バーンリーでは前進のキーマンはコルネ。左に流れながら、マクニールとつながりをもち、サイドでフリーマンを作り、対角にクロスを上げていく形。ブレントフォードもムベウモへの対角パスを使っていたので、対角のロングパスは両チームのキーになっていた。コルネが存在感を発揮するのとは対照的に、ここ数試合でバーンリーの前進において大事な役割を果たしていたベグホルストとレノンはこの試合ではだいぶ影が薄かった。
対角パス、セットプレー、時々SBの裏。勝負のポイントははっきりしていたし、後半もそうした展開が続いてく。となると、当然勝敗を分けてくるのはそうした部分の質をどこまで高められるかである。
後半の頭、対角クロスからチャンスを迎えたのはブレントフォード。IHのジャネルトがエリア内に入り込み、クロスに合わせることでファーサイドの厚みを増した対角パスを展開する。
その流れが変わったのが65分のターコウスキの守備。1対1で抜け出したムベウモを完璧に抑え込む形で完璧にシャットアウトする。この守備を境に主導権はバーンリーに。DFリーダーに勇気をもらった形でラインをあげ、敵陣に迫る機会を増やす。
だが、最後の最後で主役になったのはブレントフォードのエリクセン。左足で完璧なクロスを演出し、喉から手が出るほど欲しかった先制点をゲット。ほぼ試合を決めると、仕上げにトニーへの裏へのパスからコリンズの退場を誘発する。
チャンスメイクの質の高さが勝負を分けるならば、最有力はエリクセン。考えてみれば当たり前のことである。その質の高さを遺憾なく発揮した終盤戦でバーンリーを突き放し、シックスポインターを制して見せた。
試合結果
2022.3.12
プレミアリーグ 第29節
ブレントフォード 2-0 バーンリー
ブレントフォード・コミュニティ・スタジアム
【得点者】
BRE:85′ 90’+4(PK) トニー
主審:ポール・ティアニー
③マンチェスター・ユナイテッド【5位】×トッテナム【7位】
■不安定な流れの中で輝き続けたロナウド
マンチェスター・ダービーにおいて惨敗を喫したユナイテッドと、エバートンに大勝したトッテナム。前節の結果は対照的ではある両チームだが、この試合においてはそこまで前節の勢いの差は感じられず。どちらも明白に狙われてしまいそうなポイントがある試合だった。
ユナイテッドにとって怪しかったのはソン・フンミンへの対応。なぜかマンマーク役にマティッチをつけて、機動力で振り切られ続ける対応を見せていた。個人のパフォーマンス面で良くなかったのは左サイドのテレス。軽さを見せてしまい、ユナイテッドのサイドに穴を開けていた。
チームとして気になったのはユナイテッドの守備の指針。全体的にどこに誘導したいのか、どういう形で試合を進めたいのかがはっきりしないように見える。トッテナムの攻撃のスタイルを考えれば、サイドを変えさせて振り回されるのだけはどうしても避けたいはず。
しかしながら、ユナイテッドはそうした制約をトッテナムにかけることができず、トッテナムは自由なサイドチェンジからWBの攻め上がりを生かしてユナイテッドの薄いサイドを責め続けることができた。奥行きを使うソンと大きく幅を使える攻撃の組み合わせでトッテナムはユナイテッドを攻め立てることができていた。
特に良かったのが左サイドの関係性。デイビス、レギロンが前線とつながる意識が高く、幅と奥行きをどちらも使いながらユナイテッドの右サイドを壊すことができていた。
チームとしての穴はユナイテッドほど目立たなかったが、個人のパフォーマンスが失点にダイレクトに直結したのがトッテナムだった。1失点目のシーンがその例である。おなじみとなってきた5-4-1のローブロックを組んでいたトッテナム。どのように動かそうな悩んでいるユナイテッドに対して、フラフラ前に出ていったホイビュア。空いたスペースに入り込んだフレッジのフリックにベンタンクールが釣られ、CH2人がいなくなったバイタルに入り込んだロナウドがミドルを突き刺す。シュートはスーパーだが、5-4-1であれだけあっさりとバイタルを開けてはいけないだろう。スーパーなミドルを呼び込んでしまう下地はトッテナム側にあったといえる。
トッテナムは右サイドからのカットインで同点となるPKを誘発するが、ユナイテッドは即座にロナウドが勝ち越しゴール。この場面はローラインの意識が強いトッテナムの5-4-1ブロックがホルダーにプレッシャーがかかっていないにも関わらず、無理にラインを上げようとした結果、あっさりと裏を取られてしまうという場面だった。裏を取られたドハーティのサイドは確かに再三狙われてはいたが、そもそもラインを上げたいならば、ホルダーを捕まえにいく人を増やすなどやり方を変えないと難しいのではないかと思った。
後半、試合の流れとしてはユナイテッドをサイドに振り回し続けるトッテナムが優勢の流れ。ただし、前半に比べるとサイドチェンジの精度がやや落ちているのは気になるところだった。久しぶりにそのサイドチェンジがスムーズにいったところがトッテナムの2点目。左サイドから奥行きを作り、マグワイアのオウンゴールを誘発する。
しかし、この試合の主役はロナウド。81分にセットプレーからトレードマークの打点の高いヘディングから決勝点をゲット。オウンゴールをしてしまったマグワイアを挑発したロメロもこれには黙るしかないだろう。
試合の流れは行ったり来たりしてはいたが、90分間ロナウドの主人公感が揺らぐことはなし。1点目のスーパーゴールで豪快に口火を切った圧巻のハットトリックでトッテナムを飲み込んでみせた。
試合結果
2022.3.12
プレミアリーグ 第29節
マンチェスター・ユナイテッド 3-2 トッテナム
オールド・トラフォード
【得点者】
Man Utd:12′ 38′ 81′ ロナウド
TOT:35′(PK) ケイン, 72′ マグワイア(OG)
主審:ジョナサン・モス
④エバートン【17位】×ウォルバーハンプトン【8位】
■内容は悪くないが結果が上向かない
ランパード就任以降も成績が一向に上がらないエバートン。降格圏の足音はいよいよはっきりと聞こえてきており、降格回避という命題に本腰を入れて取り組まなければいけない状況にまで来ている。
対するウルブスも直近の成績で欧州カップ戦争いからはやや足が遠のいてしまっている状況。パフォーマンスもなだらかに下降気味でそろそろ歯止めをかけたいところではある。
立ち上がりから主導権を握ったのはホームのエバートン。裏抜けのリシャルリソンをはじめ、エバートンの前線が果敢にウルブスの最終ラインにスピードを勝負を挑む。
ウルブスはミドルゾーンで構える形でコンパクトな陣形を作っていたが、ホルダーにチェックがかかっていないこともあり、縦横自由に展開を許してしまう。機動力に難ありのウルブスのバックラインは特に前線の裏抜け対応に苦慮。序盤はエバートンがゴールに迫る機会を増やしていく。
エバートンはプレッシングが効いている立ちあがり。ハイプレスでウルブスのぎこちないバックラインのパス回しを阻害すると、そのままの勢いでゴールに迫る。加えて、ウルブスはヒチャンが負傷交代と悪い流れが止まらない。試合は完全にエバートンペースで幕を開けた形だ。
徐々にブロックに対して攻めあぐねるU字ポゼッションのような形が増えてきたエバートンだが、この日は大外でのスピード勝負でも優位。外回りでもサイドからの裏抜けで押し込む機会は十分に確保する。
ウルブスも前半終盤から前進のルートを発見。CHがファン・デ・ベーク、SHがマイコレンコというエバートン左サイドの守備の軽さに気づいたウルブスはこちらのサイドを重点的に狙いながら前進を行っていく。
スコアレスで迎えた後半。早々にウルブスが先制。セットプレーの流れで右サイドからネヴェスがクロスに合わせたのはコーディ。前半は苦しんだウルブスが先手を取る。
対するエバートンもスピード感あるカウンターから反撃に。交代で入ったデレ・アリもダイナミズムを見せるなど、反撃の目は残されているように見えた。
だが、ここで痛恨だったのがケニーの退場である。軽率なタックルで10人になったエバートンは攻撃の機会がなかなかつかめないように。11人のウルブス相手に攻め手を見つけられるそのまま試合は終了。
悪くない内容だっただけに石にかじりついてでも勝ち点が欲しかったエバートン。強敵ぞろいの残りの日程がいよいよ現実的なプレッシャーとなってきた。
試合結果
2022.3.12
プレミアリーグ 第29節
エバートン 0-1 ウォルバーハンプトン
グディソン・パーク
【得点者】
WOL:49′ コーディ
主審:マイケル・オリバー
⑤リーズ【16位】×ノリッジ【20位】
■初勝利はドラマチックに
ジェシー・マーシュ就任後のリーズはビエルサと比べると比較的穏当。相対的に見れば試合を制御しようとしているし、ゆったりとしたペースで試合を進めるのがここまでの彼らの特徴だった。
しかし、この試合の彼らはどこか以前のリーズに戻ったような感じを受けた。極端にリスクをとったハイプレスを志向していたわけではないが、プレッシングへの意識が高い。それに対してノリッジはビルドアップで地道に対抗。プレスを外しながら前進することができる。
これまでのリーズは撤退意識が高いというよりは、どちらかというと我慢しながら試合を進めている感があった。だけども、この日はその要素は皆無。ダイエット中の人がチートデイを迎えた感じでオープンな打ち合いを展開する。ノリッジ側もそれに付き合いながら非常にプレミアらしい殴り合いが続く。
特に両チームともサイドがガラ空き。両チームのWGは非常に積極的に攻撃に打って出る分、リトリートは不十分。サイドにボールさえ渡ればチャンスになる!という感じだった。となると、当然保持側はボールをサイドに渡す。そしてWGが攻撃に参加する、そして仕掛ける、引っ掛けて攻撃が終わる、WGが戻れずにサイドを使われる。みたいな流れの繰り返しだった。
そうした流れの中で先制したのはリーズ。今季なかなか安定して出場機会を掴めていなかったバンフォードがロングボールをおさめてエイリングのゴールをお膳立てする。一方のノリッジはサージェントがオフザボールに奮闘。ボールを引き出しながらノリッジの攻撃を牽引する。がなかなかゴールまでは至らない。
後半もそうしたオープンな流れが続く試合に。より一層スリリングになったのは71分にロウのシュートがクロスバーを叩いてから。これがドラマチックな終盤戦の幕開けだった。
どちらかといえばここまではリーズが攻める機会が多かったが、ここからはノリッジの攻めの時間が続く。リーズはラインを下げすぎないように、前線からプレッシングで主導権の取り返しを狙うが空転。ノリッジに押し込まれてしまう。
75分付近のラシツァが得たPKはOFRで覆ったが、リーズが危険なシーンを作られ続けたのは確か。すると90分に入ったところ、右サイドからのタメに走り込んだマクリーンが同点ゴールをゲットする。
ついに決壊したリーズ。しかし、試合はまだまだ終わらない。文字通り、ワンチャンスを生かしたのは同点後に投入されたゲルハルト。メリエからのロングボールに競り合い、ラフィーニャに繋ぐと自らエリア内に入り込み勝ち越しゴールをゲット。アシストしたラフィーニャも含めて、冷静なプレーの連続でここしかない機会を見事にモノにする。
何かが爆発したような雰囲気に包まれたエランド・ロード。マーシュの初勝利はリーズファンにこれ以上ない興奮を呼ぶ刺激的でドラマチックなものとなった。
試合結果
2022.3.12
プレミアリーグ 第29節
リーズ 2-1 ノリッジ
エランド・ロード
【得点者】
LEE:14′ ロドリゴ, 90+4′ ゲルハルト
NOR:90+1′ マクリーン
主審:スチュアート・アットウェル
⑥サウサンプトン【10位】×ワトフォード【19位】
■保持せど崩せず
立ち上がりからボールを保持したのはサウサンプトン。4-5-1で構えるワトフォードに対して、ボールを動かしながら打開を試みる。トップに入ったのは抜擢されたスモールボーン。サイドに流れながらボールを引き出そうと奮闘する。
だが、先手を取ったのはワトフォード。序盤からサウサンプトンの攻撃を跳ね返しては一気にカウンターに雪崩れ込むスタイルでサウサンプトンのバックラインを強襲。ロングボールからのセカンドボール回収もどちらかといえばワトフォードが優勢。保持の時間はサウサンプトンの方が長かったが、決定機はワトフォードの方が多かった。
そうした中で思わぬ形で先手を取ったのはワトフォード。サウサンプトンの最終ラインのパスワークがやたらもたもたしたのを見逃さず、プレッシングからサリスのパスミスを誘発。角度のないところからクチョ・エルナンデスが得点を決める。
この場面のようにこの日のサウサンプトンはどこかピリッとしない。得意なはずのサイドの崩しも3人が絡むことはほとんどなく、オフザボールの動きも乏しい。そのため、1人1人がボールを持つ時間が長くなり、ワトフォードの守備網にパスが引っかかってしまっていた。サイドチェンジもあまり多くなく、ワトフォードの守備ブロックに突っ込んでいっては危ういカウンターを食らうという流れでピンチを招いていた。
2点目もワトフォードのファストブレイクから。サイドの守備が甘くなったところで上がったクロスを沈めたのは再びクチョ・エルナンデスが得点を決める。
だが、前半終了間際にサウサンプトンは反撃。セットプレーからエルユヌシが押し込んで勢いに乗ってハーフタイムを迎える。迎えた後半、サウサンプトンはブロヤを投入し、相手を背負って起点になれるCFを入れる。ここでファウルを奪えて、サウサンプトン得意のセットプレーが増えたことはポジティブな材料であった。
だが、定点攻撃における不甲斐なさは相変わらず。ワトフォードもウルブス戦のような怠慢さは消えて、狭いスペースにサウサンプトンを閉じ込めるのに成功していた。
サウサンプトンは後半の途中にはフォーメーションを4-3-3に変更し、パスコースを増やそうとするが、どこか重たい感じは抜けないまま。結局試合終盤まで個でちぎることができるカウンターを繰り出すことができたワトフォードの方が優位だった試合と言えるだろう。攻めても重たさが残ったサウサンプトンにとっては90分間解決策が見えない試合だった。
試合結果
2022.3.12
プレミアリーグ 第29節
サウサンプトン 1-2 ワトフォード
セント・メリーズ・スタジアム
【得点者】
SOU:45′ エルユヌシ
WAT:14′ 34′ エルナンデス
主審:グラハム・スコット
⑦チェルシー【3位】×ニューカッスル【14位】
■氷のようなハフェルツが決め手
どうしてもピッチの中での状況に集中するのは難しくなっている現在のチェルシー。ピッチ外の雑音と表現するにはあまりに直接的でデリケートな話ではあるが、アウェイでの遠征費用の制限や、ホームにおける観客の制限がかかってしまうのであれば、もはやピッチへの直接の影響は避けられないだろう。
そうした中で対峙するのはニューカッスル。冬の大型補強を足がかりにし、連勝でブーストをかけて残留争いとおさらばしたチームである。
立ち上がりからボールを持ったのはチェルシー。いつもと違う4-3-3のフォーメーションでポゼッションの時間を過ごす。一方のニューカッスルはこちらもいつもと違う5-4-1。中盤のメンバーを入れ替えて、まずは守備から始める形で受けに回る。
序盤はチェルシーの強度の部分にやや気圧された感がある。特にヴェルナーの馬力のところには手を焼いていた印象である。5レーンに並べられたニューカッスルの選手たちは人を捕まえにいくことを厭わないが、ファウルを犯してしまうこともしばしば。逆に言えば、ニューカッスルはファウルを犯してでもそこより前に活かせない状況で粘っている。
チェルシーの3トップは流動的。降りていくツィエクや横への移動が多いハフェルツ、そして抜け出すヴェルナーなどあっちこっちに動き回るので、どこまでついていくかは難しい。よってチェルシーは敵陣深い位置でギャップを突くことはできていた。だが、ツィエクはボールタッチの位置がゴールに対して遠く、ヴェルナーは抜け出した後のプレーの精度が伴わない。ズレができても、それを活かせないというもどかしい状況で試合が進む。
さらにチェルシーはプレスに来られるとSBのところで詰まってしまうことがニューカッスルにバレてしまう。前半の中盤以降は、プレスの積極策に切り替えたニューカッスルに徐々に主導権が移行する。カウンターにおけるアタッカー陣の好調も相変わらずで、ボールを奪った後にもチェルシーに脅威を与えていた。
迎えた後半、チェルシーは保持で3バック気味に変形。左右の大外に選手を置き、ビルドアップで詰まりにくさが出ないように工夫を行う。左の前方のヴェルナーはよりニューカッスルの最終ラインとより頻繁に駆け引きをするように。プレーの精度問題は相変わらずだったけども。
アタッキングサードにおける課題が解決しないチェルシーは後半もニューカッスルのカウンターにより危険に晒される。チャロバーのマーフィーへのホールディングでPKを取られなかったのは、チェルシーにとっては幸運だった。
ルカク投入以降のチェルシーは彼にマークが集まる分、他の前線がスペースを享受できるように。加えて、ニューカッスルの最終ラインが少しでもDFラインを高くしようとしていたため、チェルシーにとっては奥行きとして使えるスペースができていた。
この隙を見逃さなかったのがハフェルツ。裏への抜け出しから吸い付くようなトラップで流れるようにフィニッシュまで持っていき、ニューカッスルの牙城を崩す。裏に抜けられたバーンは前半にハフェルツに肘打ちを食らった選手。さぞ悔しかったことだろう。
苦しんだチェルシーだったが、またしても終盤にチームに救世主が降臨。後半に勝負を決めるしぶとさを見せて逃げ切った。
試合結果
2022.3.13
プレミアリーグ 第29節
チェルシー 1-0 ニューカッスル
スタンフォード・ブリッジ
【得点者】
CHE:89′ ハフェルツ
主審:デビッド・クーテ
⑧ウェストハム【6位】×アストンビラ【9位】
■誰かが勇気づけられることを願う
立ち上がりは両チームとも攻守の切り替えが少ない落ち着いた展開。4-4-2にブロックを組むウェストハムと、4-3ブロックで前後分業制のアストンビラといういつも見る光景でのマッチアップとなった。
どちらかといえば攻撃がうまくいっていたのはウェストハムの方。ライスが降りてゲームメイクを行いつつ、ビラのマークが届きにくいため、低い位置で落ち着いてボールを持てるSBを活用しながら、左サイドを中心に波状攻撃を行う。
サイドの受け方が脆弱なビラの弱みをついた仕組みもさることながら、個人的にはやはり前節不在だったライスの存在感の大きさを感じた。組み立ても安定するし、自身もボール運ぶことができる。彼がいなくてもウェストハムはチームが壊れる印象はないが、彼がいることでチームが一段上のレベルに引き上げられるように感じる。
対するアストンビラは主に遅攻において苦戦。ウェストハムの撤退に対して効果的な手を打つことができず。自由に動き回るコウチーニョはコンパクトなウェストハムの4-4-2ブロックの中で呼吸することができず、いつものような攻撃における重要な役割を果たすことができない。
ビラが光明を見出したのはファストブレイク。アタッカーが少ない手数でゴールに向かう動きはさすが。手早くゴールに向かうことでウェストハムに脅威を与えた。
スコアレスで迎えた後半はウェストハムのアクシデントで始まる。アントニオの負傷は次節以降もウェストハムの大きな悩みの種になりそうだ。
両チームともセットプレーからチャンスを迎える後半の頭。ビラはイングスが、ウェストハムはドーソンがそれぞれ決定機を迎えるが、ネットを揺らすことができない。後半にペースを握ったのもウェストハム。執拗にSB→SB のパス交換を使ってアストンビラを横に揺さぶることで撤退的にビラのスリーセンターにスライドを強要する。
ウェストハムが優勢に試合を進める中で試合が動いたのは70分。左サイドからのベンラーマのカットインを収めて反転シュートを決めたのは途中交代で入ったヤルモレンコ。ピッチの中で最もゴールが必要だった選手によって、ウェストハムに先制点がもたらされる。
だらっと間延びした展開が続く後半の流れを活かしウェストハムはさらに追加点。ライスのドリブル突破からロングカウンターを発動。またしてもベンラーマからヤルモレンコを囮にラストパスを受けたフォルナルスが2点目を決める。アストンビラは90分にラムジーの追撃弾が決まるものの、反撃もここまで。試合はウェストハムが勝利。
だが、個人的にこの試合で最も印象に残ったのは結果よりも、得点を決めた後に涙を流し、喜びというだけでは表現できない複雑な表情を見せたヤルモレンコの顔。このゴールだけでは何も解決しないけども、このゴールが苦しい状況にある誰かを勇気づけるものであることを願わずにはいられない。
試合結果
2022.3.13
プレミアリーグ 第29節
ウェストハム 2-1 アストンビラ
ロンドン・スタジアム
【得点者】
WHU:70′ ヤルモレンコ, 82′ フォルナルス
AVL:90′ ラムジー
主審:ジャレット・ジレット
⑨アーセナル【4位】×レスター【12位】
■後半に見せた大人なアーセナル
レビューはこちら。
連勝中のアーセナルにECLとの二足の草鞋でスカッドが苦しいレスターが挑む構図のこの一戦。レスターは4-4-2でコンパクトなブロックを維持しながら、アーセナルにボールを持たせることを許容する慎重な立ち上がりを見せる。
アーセナルは長いボールを織り交ぜながら最終ラインの押し下げる動きをアクセントに使う。加えて、SBが低い位置で受ける機会を増やすことで、レスターのSHを引き出し、空いたスペースにIHタスクのジャカやウーデゴールをスライドさせる。相手を動かしながら穴を作れるようになったのは後半戦のアーセナルの成長である。
これで相手を動かすきっかけを見つけたアーセナル。レスターの2列目が出ていったSHのカバーに横にスライドするところでできたズレから、コンパクトなインサイドでもパスを回せるようになる。
押し込む機会を得ることができたアーセナルはセットプレーからあっさりと先制。ニアに入り込んだトーマスがヘディングでネットを揺らす。その後も左右のサイドから攻略のきっかけを掴んだアーセナルが試合の主導権を握る。
前半の中盤、徐々にレスターがテンポを取り戻す。攻め手となったのは左サイド。バーンズを軸にデューズバリー=ホール、ルーク・トーマスを走らせる形で、左サイドの空いたスペースからアーセナル陣内に侵入する。このサイドのSBであるセドリックは、以前に比べれば守備も安定はしてきてはいる。だが、さすがに一定のレベル以上の相手だと分が悪い。バーンズはその一定のレベル以上の相手に該当する選手だった。
アーセナルは前がかりのレスターを裏返そうとチャレンジングなパスで反撃を狙う。だが、苦しい流れの中でも難しい難易度のパスは相手に攻撃機会を与えてしまう形で裏目になってしまう。
なんとか苦しい前半を凌いだアーセナル。後半はレスターのハイプレスに屈しない場面も増えていくように。肉弾戦を仕掛けてくるレスターのプレッシングをいなすことで再び主導権を得るように。すると50分過ぎ、セットプレーの流れからソユンクのハンドを誘いPKをゲット。これをラカゼットが技ありのキックで沈めてレスターを突き放す。
ここからのアーセナルは前半の反省を生かしたかのよう。安易にチャレンジを仕掛けて相手にボールを渡すようなことをせず、バックパスや横パスを織り交ぜながら、時計の針を進めることができるように。前半の反省を活かし、一段大人な振る舞いを見せたアーセナル。90分で見れば内容も含めて完勝と言っていいだろう。次節はリバプール。優勝争い真っ只中の強豪に胸を借りる一戦となる。
試合結果
2022.3.13
プレミアリーグ 第29節
アーセナル 2-0 レスター
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:11′ トーマス, 60′(PK) ラカゼット
主審:アンソニー・テイラー
⑩クリスタル・パレス【11位】×マンチェスター・シティ【1位】
■180分間の逃走劇
10月の前回対戦ではショートカウンターから先制パンチを食らわせたパレスが、10人になったシティ相手に追加点まで奪って逃げ切った試合である。シティの今季のリーグ戦の敗戦は3試合。ダブルを達成したトッテナムを除けば、シティに負けを付けたのはクリスタル・パレスただ1チームである。
というわけでシティとしてはパレスへのリベンジ的にも、追ってくるリバプール的にも何としても勝ちたい一戦となった。構図としてはエティハドでのゲームと同じ流れといっていいだろう。ボールを持つシティ、そしてブロックを組んで待ち受けるパレスという構図である。
前半戦での対戦は先制点の場面のように高い位置からボールをひっかけることも狙っていたが、今回のパレスはそこまで前向きな矢印を使ったプレッシングはしてこなかった。重心を決めていたのは中盤で、前向きなプレスに打って出るときはギャラガーをマテタのサポートに加わらせることでプレッシングに厚みを出す。
逆に、最後方のプロテクト役にはクヤテ。撤退させられたときに彼が3バックの中央のようなところに入り、最終ラインを5枚にするような形で相手を迎え撃つ。これは前回のシティ戦でも見られた形である。
全体の重心が下がってもOKと判断したのはカウンターの担い手が増えたからだろう。ザハ頼みだったカウンターはいまやオリーズ、ギャラガーも加わり、チームとして一気呵成に攻め込むことができている。ならば多少重心を下げてでも、まずはじっくり迎撃することを優先したという感じだろう。
一方のシティは左サイドから。いつもなら低い位置を取ることが多いベルナルドはハーフスペースの相手に最終ラインに入り高い位置でのプレーを狙う。左サイドは3バック気味のラポルテがワイドに開きながら全体を押し上げながら高い位置を取ることで攻撃参加を増やしている感じ。ベルナルドのタスク変化はこの押し上げに連動するようなものだろう。
左に流れたラポルテからは右サイドへの対角パスも手段の一つに。アンカーのロドリへのパレスのプレッシャーも緩く、対角のマフレズから仕掛けられるように手薄なサイドへのサイドチェンジを決められるように。ブロックの外からのカンセロからのラストパスもあわやというシーンを演出。
引き出しを見せてゴールを狙うシティ。ラポルトやベルナルドには跳ね返りを押し込みさえすれば点が入るシーンもあったが、これは枠をとらえることが出来ず。枠内シュートもグアイタの奮闘でパレスは0に抑え続ける。
後半のシティはPA内の増員を図り、さらなるゴールに迫る意識を見せる。そんな中でパレスも50分にセットプレーから好機。ここから10分ほどリズムをつかむ。
その後シティが再び攻め込みムードになり押し込む時間帯が続く。最近のシティ、押し込む時間帯になって攻めあぐねるときは大体マフレズにボールを預けてどうしよう?みたいになる場面が多い気がする。流動性の高いチームの中でほぼポジションが大外で固定気味のマフレズ。個で優位を取れないと、流動性を下げてポジションを固定するデメリットがシティのようなチームでは出てくるように思う。それなら動かしまくった方がいい!みたいな。
続く、FA杯においては見事なパフォーマンスを見せたため、個人のパフォーマンスは問題ないのだろう。マフレズの話は足を引っ張っている!というわけではないのだが、流れが悪い時は目立ちやすい!ということである。
結局、最後まで決め手になるルートを決めることが出来なかったパレス。ホームに続いて、アウェイでも勝ち点を落としたパレス戦のシティ。パレスの面々は180分の今季のシティ相手のリーグ戦を無失点で逃げ切ることに成功した。
試合結果
2022.3.14
プレミアリーグ 第29節
クリスタル・パレス 0-0 マンチェスター・シティ
セルハースト・パーク
主審:マーティン・アトキンソン