第6節のハイライトはこちらから。
①オーストラリア×ベトナム
■30分は遅いくらい
オーストラリアがベトナムゴールのネットを揺らしたのはわずかに19秒のこと。OFRで取り消されたものの、この電光石火のシュートシーンはこの試合のオーストラリアとベトナムの力関係をきっちりと表していたもののように思う。
ベトナムは5-4-1であるものの、最終ラインの位置は比較的高め。ミドルゾーンの位置で構えるベトナムの最終ラインに対して、オーストラリアは右サイドから一気に打開。ボイルとカラチッチのスピード豊かな右サイドから一気に切り崩すことで敵陣に進撃していく。
左サイドではロギッチがライン間のパスを受けて前を向き、リッキーの裏抜けを活用。止まる人と動く人のギャップで崩していく。左右ともにラインブレイクの手段を見出しているオーストラリア。先制点は30分のことだったが、個人的にはオーストラリアがようやく点を取ったという感想。ベトナムが30分持ったのは非常に意外だった。
先制点の場面は左サイドからのハイクロス。確かに空中戦ではオーストラリアが有利ではあるが、あれだけ対空時間があるクロスへの対応において、一番気をつけるべき9番に対して誰も競ることすらできないベトナムの守備は切なすぎる。
ベトナムは保持の意識の高さはあり、自陣からのショートパスでの組み立てにはトライするものの、最終的には19番のグエン・クアン・ハイからの一撃必殺スルーパスに頼りがちになってしまう。前線にもフォワードが1枚しか残っておらず、オーストラリアのDFにはバレている状態。これでは流石に厳しい。
ベトナムの守備の不味いところはボールホルダーへのプレッシャーをかけないところ。ラインが高いうえに、相手のホルダーがフリーとなればオーストラリアが裏を取られるのは当然。前半終了間際に2点目を決めて試合の大勢を決める。
後半の頭はややベトナムが盛り返す。エリア内までボールを運んで押し上げることができれば、ベトナムにはチャンスがある。オーストラリアはエリア内の守備はかなりバタバタしており、人数がいてもスペースが空いたりフリーの選手を作ってしまったりなどのリスクマネジメントができていない。
ベトナムには点を返す機会があったのだが、それを生かすことができず。そうしている間にオーストラリアがさらに反撃。ライアンから高いラインの裏に抜けるパスをだすと、抜け出したグッドウィンが沈めて3点目。
直後に4点目を入れたオーストラリア。ベトナムとの力の差を見せつけて、ここはきっちりと上位陣を追走することに成功した。
試合結果
2022.1.27
カタールW杯アジア最終予選 第7節
オーストラリア 4-0 ベトナム
メルボルン・レクタンギュラー・スタジアム
【得点者】
AUS:30′ マクラーレン, 45+2′ ロギッチ, 72′ グッドウィン, 76′ マッグリー
主審:コ・ヒョンジン
②日本×中国
■結果が欲しかった南野
立ち上がりからホームの日本がボールを握って試合を支配する展開となった。日本は左サイドの低い位置からゲームを作り、右サイドに大きく流す形でチャンスメイクを行う。
日本が目をつけたのは右の大外の伊東純也のところ。サイド攻略を主体に置くチームはトライアングルなどの多角形を軸に壊すトライが普通。だけども、この試合においては右サイドは酒井と伊東の2人で十分。なぜならば伊東のスピードが中国のSBを大幅を上回っていたからである。同数でも、どこにボールを運ぶかがバレていても、純粋にスピードで上回ることができるのならば問題なく攻略が可能。この日の伊東はそんな感じだった。
右サイドにボールをとりあえず運んではぶち抜く。この繰り返しで日本はチャンスクリエイト。そして、前半中程の段階で中国のハンドを奪取し、PKを獲得。中国に無理な対応をさせ続けた伊東のスピードが招いたPKと言って良いだろう。
ただ、PK以降においては流石に中国も伊東を警戒。SHが素早くサポートに入り、2対1を作ることでなんとか対応する。さすがの伊東でも対面のSBが縦に抜けることを塞ぐことに集中されると難しい。
その時に日本が目をつけたのが右のハーフスペース。大外の伊東に意識がいっていることを利用し、大迫や田中、南野がこのスペースに入り込む。カバーも含めて外の伊東に集中していたので、この走り込みは効いていたように思う。
この試合において評価が難しかったのは南野。ストライカータスクがメインで中央に絞ることはおろか、逆サイドに流れることも頻繁にあった。ワイドに張るタイプのプレイヤーではないので、本人の資質を考えればもちろんそれで良い。
だけども、左サイドでの仕事はほぼハーフスペースの裏抜けに特化し、リンクマン的な役割はほぼ果たしていなかった。左サイドの攻撃を活性化させる判断より右の優位を利用する判断はわからなくなかったので、できればそれを正当化するためのゴールに絡む結果は欲しかったところ。どこからでも攻められるというやり方よりも、崩しは右サイドに依存してフィニッシャーに特化するのならば、そのリターンを数字でもたらしたかったところである。
中盤や2列目の選手は比較的相手陣側で受ける姿勢が多かったこの試合。50:50状態でもバックラインは躊躇なくボールを入れたので、中国は谷口を中心に狙いを定め、徐々に縦パスをカットしてカウンターに転じる場面が目につくように。
後半に入った前田は一瞬の抜け出しでCBからのパスから決定機まで結びつける役割を託されたように思う。個人的には相手の意識をライン間の縦パスから逸らす役には立っていたと思うけど、トランジッションが多いわけではなかった展開的には不向きだった。むしろ、サウジ戦に向けた試運転の意味合いが強そうに思う。
同じ交代選手の中で結果を出したのは中山。スローインから怠慢だった中国の右サイドの守備からフリーになり、ファーの伊東へとクロスを送る。地味に柏出身のホットライン。中山は大外でもクロスからチャンスメイクができるとは恐ろしい男である。
個人レベルで言うと田中碧はもう少しできても良かったように思う。非保持の守備の強度は十分だったけど、ボール関与の部分はもっとできたかなと。縦にパスを刺す速度や精度とか、攻め上がりの頻度とかはもう少し気にしていきたいところである。
伊東のゴールとPKの2点で安全圏に入った日本。難なく逃げ切りに成功し、3ポイントをゲットし、大一番であるサウジアラビア戦に勢いをつけて臨むことになった。
試合結果
2022.1.27
カタールW杯アジア最終予選 第7節
日本 2-0 中国
埼玉スタジアム2002
【得点者】
JAP:13′(PK) 大迫勇也, 61′ 伊東純也
主審:アブドゥラフマン・アルジャシム
③サウジアラビア×オマーン
■オマーンの4-4-2フラット採用の意図は
中盤をダイヤモンドにする4-4-2が今予選のトレードマークとなっているオマーン。しかしながら、最終予選でホーム全勝という今大会最高難易度と言っていいサウジアラビアとのアウェイゲームで、中盤をフラットに変更する決断を下す。
2トップに早いボールを当てるオマーンの攻撃を見ると保持面であまり効いている感じはしなかったので、やはりこのシフトチェンジはサウジアラビアの攻撃に対抗するためのものと考えるのが自然だろう。
サウジアラビアのビルドアップはCBとCHの4枚にGKを加えたもの。やや右サイド側のカンノが上下することでズレを作ろうとしていた。これに対して、オマーンはカンノにマークをつけつつ、内側を固めることでサウジアラビアの内側をまずは封鎖する。出し手には厳しくチェックには行かないけど、受け手には厳しくチェックをするというメリハリをつけながらオマーンはサウジアラビアを封じる。
それならばということでサウジアラビアは大外を使う。攻め上がりとなればサウジアラビアは左サイドのアッ=シャハラーニーが登場。サウジアラビアはビルドアップで相手をなるべく引き込みながら大きな展開で一気に縦に進めるという緩急の付け方でオマーンを揺さぶる。
しかし、オマーンはこれに対しても準備をしてきた。5レーンを意識した大外を活用した攻撃に対しては、2列目のSHが位置を下げながら最終ラインを5枚にして対応するように。SHは最終ラインに落ち過ぎても重心が下がってアウトだし、もちろん間に合わなくなってもアウト。シビアな状況判断が求められる役割だった。
おそらく、オマーンが4-4-2フラットを採用したのはこの最終ラインの人数調整が容易だからだろう。よって、サウジアラビアの5レーンアタックを意識したフォーメーション変更というのがこの試合のオマーンの意図と見る。
サウジアラビアの先制点はオマーンが最終ラインの人数を揃えることができなかったところから。厳密にはオマーンの戻りは間に合っていたのだが、遅れてしまった分あっさりかわされてしまい、アシストとなるクロスを許してしまう。ある意味、アル=ブライカーンの決めた先制点はオマーンのこの試合の対策の有効性を示したものと言ってもいいだろう。
オマーンは後半になると4-4-2ダイヤモンド採用時のような同サイド偏重な攻撃を見せたり、中央ワイドのプレーエリアを問わずに2トップをサポートできるアルアグバリを投入することで攻撃に厚みを持たせたりなど、サウジアラビアのゴールに迫るクオリティは十分に見せていた。
ラストワンプレーのCKも惜しくも枠外。最後の最後まで得点のチャンスを作っていたオマーンだったが、サウジアラビアの牙城を崩すことはできず。冷や汗をかいたサウジアラビアだったが、なんとか逃げ切りW杯本戦出場に王手を賭ける一勝を挙げた。
試合結果
2022.1.27
カタールW杯アジア最終予選 第7節
サウジアラビア 1-0 オマーン
キング・アブドゥッラー・スポーツシティ
【得点者】
KSA:48′ アル=ブライカーン
主審:ナワフ・シュクララ