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「本当の意味での強さ」~2024.5.19 J1 第15節 ガンバ大阪×川崎フロンターレ レビュー

プレビュー記事

目次

レビュー

一歩先を行く右サイドから見つかる攻め手

 ミッドウィークの対戦は鳥栖に大敗を喫してしまった川崎。このタイミングで迎えるのは苦手な大阪遠征。堅守が光るG大阪との一戦である。

 序盤のバタバタした展開を超えるとボール保持は川崎に。G大阪は4-4-2ベースの守備で非保持からリズムを探る。2トップはアンカーの橘田を交互に監視しつつ、プレスに出ていく。

 G大阪のSHの守備はSBにベッタリではない分、川崎のCBはボールをSBに付ける選択肢を取りやすかった。G大阪からすればおそらくまさにそれが狙いといった感じ。SBにパスが出たタイミングでガッチリとプレスに出ていく。誘導して得意なサイドでの圧縮プレスに引き込むことで川崎のバックスから時間を奪っていく。

 川崎にとって救いだったのはゴミスというキープ役がいたこと。これにより、川崎は最悪の失い方は避けることができた。ボールを失ったとしても川崎は即時プレスに移行。G大阪はネタラヴィ、鈴木といった面々から右の大外に張る山下を目掛けてボールを送ろうとするが、パスの精度のところと山下の大外レーンへの適正に怪しさがある分、威力は微妙。

 どちらかといえば山下は裏との駆け引きを伴うシーンの方が得意なのだろう。4分のシーンのように、半田のスルーパス(欲を言えばもう少しリリースのタイミングは我慢したかったが)に競争する形の方がイキイキしてそうである。

 自陣からのパス脱出がなかなか効かなかった川崎は徐々に保持からリズムを作っていく。札幌戦を見る限り大南とジェジエウのCBではなかなかプレスを外すのは難しいのかなと思っていたのだが、この試合ではかなりきっちりと相手を外すアクションを見せることができていた。

 G大阪のプレスは中央の2トップの献身性ありきという感じなのだが、サイドに揺さぶられることで、2トップが外されるシーンが目立つように。11分のように佐々木に対して坂本が深追いをすれば、中央が開いて橘田から前進をすることができる。

 川崎は中央に瀬川が絞るアクションを見せたり、橘田がサリーしたりなど守備基準を乱す動きを見せたりなどビルドアップには流動性高め。CBの2人もそうした動きに対応するように、縦にパスを差し込むことができていた。先に言ってしまえば、このCBコンビでビルドアップでG大阪のプレス隊を振り回すことができたのは明らかな収穫と言えるだろう。

 2トップが外されてしまうと、G大阪の中盤から後ろの4-4ブロックの負荷は高くなる。そうした際に前に出ていく意識が強かったのはネタ・ラヴィだが、このプレスがワンテンポ間に合わない位置で脇坂が受けて外して前進する場面が出てくるように。また、瀬川が思い切りのいい攻め上がりはウェルトンの背後に入る形でこちらもギャップを作る手助けになっていた。

 ちょっと無駄話を挟みたい。たまに失点シーンとかでクロスへの寄せが甘い時に「なぜもっと全力で寄せないんだ!」っていうコメントがつく時があるけども、この場面のネタラヴィのように距離のある相手に速いスピードで向かって来ると方向転換に対応できない。もちろん、ボールがコントロールできる前に捕まえられるなら一気に寄せるべきであるけども、そうでなければより傷口を拡大させる可能性があるプレーであることは念頭におきたい。「なぜもっと全力で寄せないんだ!」はクロスという結果ありきで、ワンステップでかわされる危険性を考慮していない場合がある。ある選手が違う動きをすれば、他の選手も違う動きをする可能性は常に頭に入れておきたい。

 話を戻す。川崎の攻めの決め手となったのは右サイドのこのギャップ。ウェルトンとネタラヴィに対するズレから加速し、主に脇坂の右サイドのハーフスペースの裏抜けからボックス内にチャンスを作っていく。

 右サイドが主な攻め手ではあったが、左サイドのパフォーマンスも上々。特にこの試合で印象的だったのは遠野。ゴミスの落としを受けられるようにライン間に止まることはもちろんのこと。右サイドからのパスワークを引き取って、左に展開するアクションを見せるなど、高い位置にとどまってフリーになり、淀みなくプレーをしていた。瀬川と同じく2人の運動量は異常で川崎がペースが握ることに大きく関与していた。明確に60分のプレータイムを目処とした出力に見えなくもないけども、それを差し引いてもクオリティは高かった。

 マルシーニョの切れ味も十分。立ち上がりのゴミスへのラストパスやプレスバックへの献身性も含めて、動きはとてもよかった。

 総じて川崎の立ち上がりは良好だった。自陣から引き寄せての時間の創出。広く使う意識とクロスの前に相手をDFラインを上下動させる下準備。そして蹴らせて回収のメカニズム。この日の川崎の前半のパフォーマンスであれば、Jのどのチームの4-4-2に対してもチャンスメイクに不足することはないだろう。それくらい保持からシュートに繋いでいくクオリティは高かった。

超絶美技に潜むオーソドックスな設計

 G大阪の守備に対しては序盤は4-5-1でのスタート。遠野は中盤のプレスとマルシーニョが前線に出て行った背後をカバーする役割の一人二役をこなすことができていた。マルシーニョやゴミスの出ていき方が遠野のフォローが間に合う程度のものだったとも言えるし、逆サイドまで機を見てハイプレスにいった遠野はそれだけ前半からエネルギーを消費する覚悟のプレーだったとも取れる。

 時間の経過と共に川崎は4-4-2にシフト。前プレへの思い切りは少し減ったが、G大阪の対角パスへのスライドとプレスバックも十分にこなしており、即時奪回が効く場面においてはそもそも運ばれる機会を減らすこともできていた。ある程度クロスを上げられてはいたが許容範囲内と言えるだろう。

 15分を過ぎたあたりからは川崎はボールも主導権も握る展開。サイドアタックから枠内シュートを一森がなんとか凌ぐシーンが続くが、川崎は家長のクロスから先制点をゲット。

 このゴールは超絶美技であると共に、セオリーを踏襲したものでもある。家長がクロスを上げる間合いを作ることができたのは大外を上がる佐々木がいたからこそ。家長の外を回る佐々木の動きがなければ、山下→半田による家長の受け渡しは発生せず、左足からクロスを上げることは不可能だった。

 もう1つ指摘したいのはクロスの受け手の方。ファーサイドのCB(福岡)にゴミスが突っかける形でピン留めをし、その手前に瀬川が入ってくる。瀬川はちょうどCBの間に入ってくる動きである。

 この動きのいいところはニア側のCB(中谷)にとっては背後で起こっていることを把握しにくいこと。ボールと瀬川を同一視野に入れられないので、対応することはとても難しい。この場面の家長のクロスの質を考えると、バックステップを踏むことは不可能である。

 一見、なぜそんな超絶なクロスが!なぜそこに瀬川が!というトリッキーなプレーではあるが、クロスを出すところでのギャップ作りとCFの引力を利用したクロス設計は非常にオーソドックス。瀬川に限らず、サイドアタッカーにはこの動きは会得して欲しいところである。

 ゴミスはファーで待機すればこのようにピン留めの効果が期待できるし、ニアに待機すれば札幌戦のようにポストからラインを押し下げることができる。ゴミス出場時には彼を基準にサイドからの攻略を深めていく形を設計していくべきである。

 勢いに乗った川崎であるが、G大阪はセットプレーから同点に。宇佐美のFKがファジーなところに落ちてしまい、上福元は対応できなかった。飛び出すのは無理そうな軌道ではあるが、抜けてきた時に備えてもう少しステップを踏める準備はして欲しいところ。宇佐美はこの場面以前のFKもファー気味に狙いを定めていた節があり、ここに蹴れば何かが起きそう!という感じでキックを狙っていた感がある。ここ数試合の川崎を見れば当然の狙いだろう。

 さらには瀬川が脳震盪のアクシデントに見舞われる。脇坂とともにギャップ作り隊の一員だった瀬川の負傷は川崎にとっては辛いものだった。逆にG大阪はゴールシーンと瀬川の負傷の時間を利用して、戦い方をきっちり整理した感があった。

 低い位置でのビルドアップの落ち着きは遠野が賄いきれないほどハイプレスに出ていくようになってしまった川崎とは対照的。極端に動きが落ちたわけではない川崎だったが、G大阪が慌てる場面が減ったことにより試合はフラットな状態でハーフタイムを迎える。

交代選手の悪循環が続く

 後半はハーフタイムで状況を整理したG大阪が主導権を握る展開に。川崎は瀬川に代わって入ったファン・ウェルメスケルケンの強引なインサイドをつくドリブルからのロストでスタート。ファン・ウェルメスケルケンはこれ以外にも致命的なロスト(ファウルでギリギリセーフ)を1回やらかしかける上に、あわや退場というシーンも作るなどやや不安定だった。ボールを持つ観点で言うと、インサイドに運びたがるので、利き足でボールを隠しやすい左サイド側の方が得意なプレーをやりやすいのかもしれない。

 G大阪側の守備の対応もハーフタイム明けでは光っていた。まずは前半に再三やられていたハーフスペースアタックに関してはCHが落ちることで対応。49分に遠野を潰したネタラヴィのように前半は川崎が先手を打てていた場面を先回りして対応することができていた。

 もっとも、ハーフスペースをCHが埋めるという形は4-4-2で守る上ではオーソドックスな対策の1つなので、川崎もそこに対してCHが空けた中央のスペースからこじ開けることを狙えば良かった。だが、その部分は坂本がプレスバックでケア。こちらもポスト役のゴミスや家長に先回りする形で挟み込んで対応してミスを誘発した。

 G大阪の対応も見事だったが、川崎のオフザボールの右肩下がりな感じもなかなか苦しいものがあった。ゴミスがキープしてもIHが選択肢を提示できずに、無理な体勢から距離のあるパスを出してカットされるか挟み込むかの二択。遠野と脇坂は後半にライン間で輝くことができなかったし、交代で入った瀬古に関しても全く同じことが言える。

 守備では前半終了間際同様にハイプレスが機能せず。瀬古は遠野ほど目の前のマーカーとマルシーニョの背後を埋める運動量を持ち合わせていなかったので、前半よりもむしろ苦しい展開になった。右のCBである中谷がマルシーニョの頭を越すパスを蹴れていれば、よりG大阪は楽に前進ができたはずである。

 ハーフスペース封鎖の手段の確立と坂本のプレスバックによるCFのポスト対策ができたことでG大阪は自陣に川崎を入れる頻度を大幅に下げることに成功。ウェルトンのいる左サイドからカウンターで押し下げると、こちらのサイドから追い越してエンドライン側から抉る黒川と、大外のウェルトンに対してニアサイドのマイナスに構える鈴木の斜めのパスからボックス内に迫っていく。もちろん、ウェルトン自身の突破も有力な選択肢である。

 中盤の守備はもう前半のようなエネルギーは残っていない様子の川崎はボールを自在に回される展開に。押し込まれる時間が増えると押し返せる手段がなくなってしまう。

 そうした中で単体での運動量でリズムを変えることができる山田とエリソンの投入は理解ができる。だが、前節も露呈したようにこの2人はあまり連携がよろしくない。例として挙げたいのは79分。山田がゼ・ヒカルドから縦パスを受けてカウンターを発動した場面。エリソンのPA幅のランはG大阪のDFの横幅を広げる狙いがあったため、ここはシンプルに預けて自分が斜めにボックス内に入っていく動きをしてほしい。鈴木との体の当て合いであれば山田に分があるはず。

 しかしながら、この場面ではインサイドに入り込みながら攻撃をスローダウンさせてしまう。何人もぶち抜く成功実績があるのはわかるけども、シンプルに機会を広げられるシーンに乗っかることができないのはちょっと勿体無い感じがする。重戦車のようなプレーが凄みを増している点とは裏腹にこの辺りの進歩は今季いまだに見られていないなと言う感じである。

 そして、エリソンはCKからのストーン役の際に福岡にあっさりと前に入られて失点に関与。ここはミートしながらボールを弾き返して欲しかったところ。前に入られてフリーでシュートを打たれてしまうのは失策と分類していいだろう。

 連鎖する交代選手の不出来の極めつけとなったのはゼ・ヒカルドのミス。ロスト後に倉田を追いかけないところはまぁもう散々指摘されているから置いておくとして、指摘したいのはパスミスのところ。パスを単純にミスるのであれば、まぁ仕方ないかなと思うのだけども、この場面でノールックで脇坂の方にパスをつけるのはどういう了見だろう。通ったらそりゃ多少はチャンスになるかもしれないが、ロストした時のピンチに対して通った時のメリットが明らかに釣り合わない。

 単純にボールをリリースする前の数秒間は左サイドのことを見ていないので、脇坂が受けられる体勢にあると本人は判断したのだろう。ミスは仕方ないところもある。サッカーはミスがつきものなので。ただ、釣り合わないリスクを天秤にかけた上にこういうミスるべくしてするミスをわざわざ引っ張ってくると言うのは個人的な好みの話になるのだけども本当に嫌いである。

 やや局面の掘り下げにフォーカスした記事になった感があるが、こうした細かい場面でのエラーは失点を含めて1つずつG大阪に拾われてしまった感がある。前半のようにこうした部分を打ち消す力も川崎には残っておらず、残りの時間は左右からの単調なクロスを跳ね返されることで試合終了の笛を迎えることとなった。

あとがき

 G大阪相手に保持でこれだけチャンスを作れるとは全く思っていなかったので、前半の出来は単純に収穫。前節の大敗もあり、もともと立ち上がりにきっちり出力を出していくプランが濃かったとは思うが、瀬川の負傷と同点ゴールにより思ったより早くG大阪が落ち着きを見せたのは誤算だっただろう。

 前半は川崎、後半はG大阪という形で主導権をシェアしていたし、決定機の数も大幅には変わらないだろう。そういう意味ではスコアほど差がある展開ではなかった。それでも自陣守備局面での対応のハードさは両チームの決定的な差になっている。ファー対応が上手い一森が防いだ失点はいくつか存在するし、川崎は低い位置での決定的なミスを後半はそれなりの数出してしまった感がある。ビルドアップからの前進など局面の改良に手応えはあった内容であったが、勝ちに値するかは別の話だ。

 近年の川崎はそれなりにタイトルを取ってきたチーム。この試合で川崎に甘さが見られた部分を突き詰められることが本当の意味での強さであることは他ならぬ自分たち自身がよくわかっているはずだと思う。得点後に喜びをそこそこに話し合い、川崎相手の守備を改良したG大阪のイレブンから何かを感じ取る敗戦にして欲しい。

試合結果

2024.5.19
J1リーグ
第15節
ガンバ大阪 3-1 川崎フロンターレ
パナソニックスタジアム吹田
【得点者】
G大阪:28′ 中谷進之介, 70′ 福岡将太, 81′ 倉田秋
川崎:25′ 瀬川祐輔
主審:飯田淳平

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