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「ふり出しに戻る」~2024.7.6 J1 第22節 ジュビロ磐田×川崎フロンターレ レビュー

プレビュー記事

目次

レビュー

悪癖が出たCBと保持における問題点を露呈した大島

 引き分けが続くフラストレーションが溜まる試合が続いている川崎。新潟、湘南といった近い順位の相手にも勝ちきれないなど、星勘定的にもなかなか満足のいく結果が得られていない。そうした中で今節はまたしても近い順位の磐田とのアウェイゲームを迎える。

 立ち上がりからボールを持つ機会が多かったのは川崎だった。4-2-3-1のベースから、バックラインはファン・ウェルメスケルケンが片上げする3-2-5に近い形でスタート。枚数調整役を担うのは左のSBの佐々木が担うこととなる。CHが最終ライン付近に立ち、高井が外に押し出される形もあった。磐田のフォーメーションは2トップが中盤のケアを重視する4-4-2でバックラインには時間を与えられるような状況というのも予想通りである。

 磐田の方向性は明確にリトリートベース。というわけで川崎は自由の与えられるバックラインがどれだけ1列目をスムーズに超えて、2列目に影響を与えられるか?というところが立ち上がりのキーだった。

 端的にいえば、この点が全くダメだったことがこの試合の川崎の内容の乏しさの出発点である。後方からキャリーのチャンスが一番大きかったのは両CBの大南と高井。大南が2列目の動きを意識しないまま、リリースしてしまうという課題はある意味いつも通り。彼が簡単に右サイドにボールを預けることが後述するサイドの攻撃の停滞の発端になっている。

 左サイドの高井も相手を広げるという意味でほぼ大南とできていることは変わらなかった。車屋とか山村、おそらく丸山もここにカテゴライズできると思うけども、川崎のCBは縦パスを指す能力自体が高い選手でも、試合自体のテンションが落ち着いた内容になると、運ぶことをサボって狭いブロックの中に縦パスを刺す一発芸のようなプレーに走る傾向にある。この試合の高井もまさにそんな感じで、鋭くいい場所に刺す縦パス自体はなくはなかったが、1列目をクリーンに通過し、2列目に影響を与えて陣形を歪ませるというこの展開でボールの持てるCBに最も必要なことができていなかったなという印象が強い。

 加えて、中盤もこうしたバックスをサボートできないまま時間がすぎてしまったなという感じ。相手の中盤を動かすためのオフザボール、ズラすための運ぶ動きというのが皆無。ボールを持っても対面の相手を剥がせず、オンザボールでも違いを作ることができなかった。脇坂やCHの片方を落ちる動きは時間の経過とともに抑制されていたが、結局互いに互いのアクションを使う様子はなかったので、あまり意味はないかなという感じであった。

 その中で前半で良かったなと感じるボールの動かし方は12:30の瀬古がファン・ウェルメスケルケンに送ったパスくらいだろう。このパスは2列目に影響を与える下地を作ることができていた。

 磐田が低い位置のビルドアップ隊に強い制限をかけるわけではなく、4-4-2の網目が粗いということを踏まえると大島が活躍する素地は少なくとも保持面ではあったとは思う。しかしながら、この試合でも大島の保持面でのクオリティを十分とはいえなかった。

 大島の気になったプレーとして挙げたいのは26:46にボールを受けて左サイドに叩いたシーンである。この場面、大島はボールを受けた時点では対面の相手と十分な間合いがあった。中盤が相手を剥がす、もしくはパスコースを作るために必要なことは相手を先に動かして逆を取ることである。そのためにホルダーに必要なのはボールを晒すことと隠すことを使い分けること。奪われないように隠しながら、相手を食いつかせるためにボールを晒すカードを切り、相手の逆を取ることが理想である。

 先のシーンの大島は十分な間合いがあったにも関わらず、ボールを隠しながら逃げの選択肢を打つことしかできなかった。大島がボールを受けた時点でレオ・ゴメスと上原の2枚は大島を意識していた。よって、川崎にとって最善のプレーは上原の背後に立つ脇坂にボールを届けること、次点で右の大南への展開から後方からキャリーを促す展開だろう。

 しかし、そのプレーをするためには一度上原の方向にボールを晒す必要がある。大島はゴメスと上原からボールを逃すように動かしながら、左サイドに叩いている。

 ここからはさらに仮説の色が濃くなるのでそこは承知して欲しい。気になるのはプレーの成否よりも駆け引きができなかったこと。この場面に限らず大島はボールを隠すことを優先するが数年前より格段に多くなった。大島は賢い選手なので、負けるとわかっている勝負はしないと思う。そう考えるとボールを晒せば勝てないと考えていると想像することができる。

 ここ数年の大島のプレーを見る限り、彼ができなくなったことは鋭いターンで狭いスペースで前を向くことと、少ないタッチで強く正確なパスを蹴ることである。十分なタッチ数をかけられる時にいいプレーが見られるように空間認識能力は依然として高い。加えて、この試合で跳ね返りをダイレクトで繋ぐことで局面を進めたシーンがあることを踏まえると、もともと運動量があるボールの方向を変えること(=ボールそのものに強い力を与える必要はなく、方向をコントロールする状況)はできるなという感じである。

 磐田戦に関していえば、自陣からボールを動かして相手のブロックに穴を開けることが求められる場面が多かった。そうした状況において、相手に穴を開けることができるコンディションはないというのが大島の現在地なのだと思う。

1失点目を徹底検証する

 後方でズレを作ることができない川崎は外循環でとりあえず前線にボールを預けていく。したがって、川崎の前線は全く動かせていない4-4ブロックに対して、サイドアタックで挑む構図になる。

 この影響をもろに受けたのが右サイド。オフザボールの動きが積極的な選手が揃っているが、相手を止めながらプレーする選手がいないので、テンポが速いだけで相手を全くはずせていない。大外からハーフスペースに走り込む選手にダイレクトで送る動きは左右共通してあったけども、川崎の大外に他のルート(例えば並行のサポート)はないまま、機械的にハーフスペースの裏に蹴っているだけなので、磐田からすれば簡単に先読みができる。

 ポケットを取る裏抜けは大事ではあるけども、これでは意味がない。ハーフスペースに抜けた川崎の選手は中を見る余裕もないまま、ふわっとしたクロスを苦し紛れに送るだけ。そもそも高さで優位が取れていない川崎がこのクロスから得点に結びつけるのは至難の業だろう。ちなみに大外の選手に分岐を作ってハーフスペースの選手をフリーにする動きはこの試合では磐田の方がよほどうまかった。22分手前のジャーメインの右サイドでの抜け出しはこの典型である。

 遠野が縦パスを中央で受けたシーンもあった。ライン間で逆サイドまでSHが出張するという形は家長オマージュ。遠野のアクションは同サイドで外せないという悪循環から脱するための工夫としてはいいかもしれないが、陣形を崩してフリーロールを与えるほどのバリューが遠野にあるかはわからないので、全体的収支がプラスになるかは怪しいものがある。

 むしろ、インサイドのパスは狭いスペースでも恐れずにつけるという手段の目的化が発生しているような印象を受けており、小林などに強引なパスを受けては磐田のカウンターの起点となるシーンがしばしばあった。

 磐田はカウンターや長いボールを生かしての前進がメイン。縦横無尽に動くジャーメインはやはり捕まえづらく、前半はペイショットと縦の関係性を作りながらフリーでボールを受けていた。川崎が前からプレスに出ていってライン間が間延びしている時は列落ちしながら受ける、コンパクトな陣形の時は裏に引っ張り出しながらロングボールを引き出すという使い分けがジャーメインは見事であった。

 磐田からすれば後方のビルドアップはできるだけ、川崎のDF-MF間を引き出せばOK。ライン間にスペースを開けることができれば、あとは蹴っ飛ばしてOKなので、磐田は上原やゴメスが列落ちすればそれだけで川崎のプレスを回避するのは事足りるという感じであった。

 出ていくのがダメだった川崎の守備だが、引いて受ける守備は輪をかけてダメだった。この試合の撤退非保持のダメだった部分が詰まっているのが先制点の場面だろう。今節の記事はもうすでに長くなっているのだけども、大事なことだと思うので1失点目の場面の要因をじっくりと振り返っていく。

 直接原因は金子がフリーになったこと。それに伴って、DFラインにズレが生じ、ジャーメインがフリー気味にボックス内でボールを受けたことである。ここがズレた要因としてまずは金子に縦パスが入る一手前のグラサがボールを受けるシーンを見てみよう。

 グラサには遠野が松原からマークをずらすように外切りの形で寄せている。よって、遠野の狙いはグラサ→インサイドに絞った金子への縦パスを誘導してカットすることである。ところが後方ではインサイドに絞った金子のマークをしていたファン・ウェルメスケルケンが外の松原のマークをしに外に移動している。先に述べた通り、これは遠野がプレスをかけることによって切っているコースである。

 ということで、金子に一番マークにいけそうなのは大南である。しかしながら、この試合の川崎のCBには磐田のCFと同数でマッチアップするというミッションがある。金子はいわば管轄外の選手である。かつ、大南から見てペイショットもジャーメインも視野に収められていない体勢になっている。なので、金子に出ていくのに躊躇うのは当然のこと。結果的に中途半端な飛び出しになり、ジャーメインがフリーになることを呼び込んでいるので、彼の責任もあるだろうが、チームとしてはそもそも大南にこうした判断をさせる状況がエラーになる。 失点の直接原因は遠野+ファン・ウェルメスケルケン+大南のプレスの画がぐちゃぐちゃだったことにある。

 ファン・ウェルメスケルケンが金子→松原にスライドしない以外で防ぐのだとしたら金子のパスから数えて3手前のところからだろう。レオ・ゴメスが持っているの小林の守備の位置が低すぎる。レオ・ゴメスから上原のルートが通ったことで川崎は磐田にスムーズなサイドチェンジを許している。

 小林は上原へのケースを消しつつ、鈴木へのパスを誘導して二度追いすべき。そうすれば脇坂が上原にプレッシャーをかけることができる。ここまで来れば全体のラインはグッと押し上げられるので、グラサに実際にボールが出る前に遠野が寄せることができる。ここまで時間を奪えば、たぶん磐田は裏に蹴って2トップ勝負に出てたはずである。

 こういう形でラインを上げる守備ができればよりうまく守ることができたはず。新潟戦ではプレス隊の隊長としていい働きをした小林だったが、この試合ではその役割ができなかった。今の彼に求められる能力を考えると、CFとしてボールが収まらないことよりもプレスでチームの手綱を握れない方が大きい問題である。

 ただ、本当に設計として疑問があるのは違うポジションである。得点シーンの金子のように、SHが絞ってライン間にレシーバーとして登場するのはすでに下の図で示す通り磐田が等々力で使った殺法。この形が作られるとこの場面の大南のように手前と背後の両方をCBがケアしなければいけなくなる。

 プレビューでも触れたが、川崎がこの試合でやるべきはまずはこの課題の克服。CBに2トップへのデュエルにフォーカスしてもらう状況づくりである。そのためにはCHがCBの手前のスペースの防波堤になる必要がある。つまり、本来絞る金子をケアすべきはRCHの瀬古である。この失点に瀬古は関与していないように見えるが、失点に瀬古が関与していないように見えることこそが大問題なのだ。顔を出してプレーに関与する役割を他ならぬ彼が果たす必要があった。

 その点では大島と瀬古のパフォーマンスは期待される水準を守備で大きく下回ったと言って差し支えないだろう。同サイドに寄る動きをしているのに簡単に脱出を許す、かつ逆サイドへのスライドが間に合わない。もちろん、こうした事態はこの大島と瀬古のセットがスタメンである時点である程度予測が立つことである。そうした懸念を跳ね返すようなパフォーマンスが保持で見られれば良かったが、こちらも期待よりも成果は大幅に下。すでに述べたようにそうした状況を作ることは全くできていなかった。この2人がCHで起用されることのマイナスばかりが目立つ前半だったと言っていいだろう。

 失点のシーンにはこの試合の川崎の守備の拙さが詰まっている。低い位置におけるプレスの主導役の機能不全、前線のプレスのスイッチ役に対する後方の理解不十分、そしてCHでCBをプロテクトしないという事前に十分に予測できるレベルの設計上のエラー。磐田からすれば等々力のやり方をそのままコピーすれば少ない機会でも得点になるのだから、さぞ簡単だっただろうなと思う。

1点目のシーンは後半唯一の光

 分量が多くなったので後半は手短に。橘田が大島に投入されたことで中盤に降りてきたFWの競り合いはだいぶ整理されるようになった。これにより、磐田のロングボールは前半以上に単騎頼みのシーンが増えることに。

 交代で入ってきた磐田の選手たちがそうした状況に拍車をかけていたことも事実で、例えば古川はその代表格。69分の裏への抜け出した場面では素直にペイショットに折り返せば、川崎の選手にはなす術がなかったはず。一点ものの抜け出しを決めたにも関わらず、切り返してシュートを選んでくれたことは防ぐチャンスをもう一度くれるという感覚であった。苦しい時間帯であったし、東京V戦の素晴らしいシュートの後なので、古川の気持ちもわからなくはなかったが、川崎目線であれば助かる場面であった。

 川崎の同点ゴールは後半早々に。この試合一番にして唯一と言っていい相手の矢印を利用した崩しだった。瀬古の左落ちと佐々木の列上げのコンボで松本の矢印を乱す、瀬古のキャリーから上原を引き付けて橘田にリリース、橘田から出てきたレオ・ゴメスの背後の小林に縦パス、反転した小林が動けなくなったグラサの背後の遠野にスルーパスと芋づる式に磐田の守備を崩していた。

 浦和戦を見れば、このようにバックスから磐田の中盤にアプローチをかければ十分にブロックに穴を開けることはできる。そうしたシーンが前半になかったことも残念だし、後半にもこのシーン以降に見られなかったことも残念。これ以降は脇坂と山内を中心に密集に特攻していくオランダ風味のプレーが横行したり、佐々木やファン・ウェルメスケルケンがインサイドの状況を動かせていないのに早い段階でクロスを入れたりなど、工夫がないプレー選択ばかりであった。

 家長が入ることでリズムは変わったが、単純にボールプレーの精度とキレがなかったため、試合に多くの影響を及ぼすほどではなかったなという感じ。山内はその家長とは逆でプレーそのもののキレは十分にあったけども、相手を惹きつけてどうしたいのかがわからないまま密集につっこんでいっていたので、元気いっぱいだけど何がしたいのかがよくわからないというプレーに終始していた。

 それだけに橘田の2点目のゴールが入ったことはかなり川崎からすれば効率よく点をとったなという感じ。この日の川崎のクオリティからすれば、1点かはたまた0点で終わってしまうことも考えられるチャンス創出のクオリティだったので、この内容で2点を奪えてかつリードして終盤を迎えられるというのは不思議なこともあるものだなという印象を持った。

 土壇場の同点ゴールはジャーメインへの長いボールがきっかけ。後半ここまでのジャーメインへの対応は橘田が競りかけるにしても大南や高井が競りかけるにしても、ジャーメインが加速する前に勝負をつけていて、川崎が完勝という感じであった。それだけに、この場面では大南が加速するジャーメインに対して遅れて出ていく格好になっていたのが不味かった。

 もちろん、失点の直接原因はソンリョンが滑ったことで動かしようがない。いくら相手に隙をつくられたといえ、佐々木の絞りで一度川崎がボールを制御下に置いているので、そこから先の個人のエラーがその手前のプレーよりも責任が軽いわけがない。ただ、終盤に失点が続いている中で個人の判断面でのエラーで改善すべきところがあるとすれば、大南のところ。出て行かない選択はミドルを打たれる怖さがあるので、空中戦の段階で自分が出ていって潰してしまうという判断がよかったのかなという感じであった。

 またしても終盤の失点で勝ち点を逃した川崎。これで4試合連続のドローゲームとなった。

あとがき

 まぁ勝てないよなと。これで勝とうなんて甘いと思う。展開的には勝てる流れを引いてきた試合だと思うけども、1回だけ上手く行った崩しとセットプレーで2得点で他はわかりやすいチャンスがなかったというのは重たい。読んでくれている磐田のファンには申し訳ないけども、磐田の4-4-2ブロックはここまで対戦してきたどのチームの4-4-2よりも動かしやすくて、間を取りやすい仕組みになっていると思うので、その相手にこの出来の試合をしてしまうのであれば、当然他のチームには通用しないだろうなと考えている。

 相手関係のことを加味すれば国立の神戸戦くらい川崎はまずい試合をしたなという感覚。選手もそうだけども、プランニングがまずい。2失点目のソンリョンとか大南とか個人のミスに帰属するところはあるけども、1失点目の全員バラバラの守備とかはチームの守り方の設定の甘さが生んだエラーの連鎖だなと感じる。

 個人的には新潟戦、湘南戦を見てこの方向性を進めばACLを加味しても残留に問題はないだろうなと考えていたけども、この試合を見ると何をいいプレーとするかという基準がここ1ヶ月とちょっと違っているなというのは感じるし、そういう方向性に入るのであれば、前に話した「今季の川崎はもう一つ底が抜ける可能性がある」という危険性を具体的に意識しなければいけないように思う。そういう意味ではこの磐田戦はプレビューでは「悪い記憶を塗り替える」ための一戦と位置付けていたけども、どちらかといえばシーズン序盤の「どうしよっか」という時期に逆戻りする印象を受けてしまったなと。

 数字の話をすればもちろん近い勝ち点の相手に勝てなかったというのはもちろん痛い。だけど、例えばソンリョンが滑らないままこういう内容で勝ったとしても、次の試合にどう勝つかのビジョンは全く見えてこないだろうなという感じはするし、残りの試合数がまだまだあることを踏まえると、むしろ何を良しとするかの基準が無茶苦茶になってしまったことの方が重たいなというふうに考えている。

試合結果

2024.7.6
J1リーグ
第22節
ジュビロ磐田 2-2 川崎フロンターレ
ヤマハスタジアム
【得点者】
磐田:20′ ジャーメイン良, 90+2‘ 山田大記
川崎:51′ 遠野大弥, 80′ 橘田健人
主審:御厨貴文

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