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「分の悪い仕組みの回し方」~2021.8.6 東京五輪 3位決定戦 U-24日本×U-24メキシコ マッチレビュー

スタメンはこちら。

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目次

レビュー

■PKが示唆することは

 サッカーにおけるナショナルチームのメジャー大会としてはグループステージと同じ相手とその後再び戦うというのは結構珍しい。ワールドカップのような2チームがGSを通過する形式なら大体決勝か3位決定戦しかありえない。3チームが通過するグループがあった今夏のEUROでもおそらく同じチーム同士の再戦はなかった。2チームが通過ながらも16チームという少数のコンペティションならではといえるだろう。

 グループステージの日本×メキシコはご存じの通り、日本が勝利。その試合ではハイプレスからメキシコのショートパスのビルドアップを寸断。高い位置から相手のパスワークを引っかけて素早く前線につなぎ、好機を演出することで、早い時間で2得点を挙げてそのまま逃げ切ることに成功した。

 メキシコはショートパスで間受けを狙いながら、強みとなる両WGにどのようにボールをつなぐかを模索するところで躓いてしまった印象だ。そのやり方が日本の同サイドに閉じ込めるプレスの方針に対してドツボにハマってしまった感じ。後半に日本の支配力が低下するまではペースをつかめず。ビルドアップに関しては保持の局面で様々な工夫を施すイメージもあったメキシコだが、この試合ではそれが見られなかった。

 その試合を踏まえての3位決定戦である。この試合の日本のアプローチはグループステージの戦い方の焼き直しといっていいものだろう。久保と林が相手のバックスを捕まえ、それに合わせてSHが出ていく。そして後方からCHとSBが囲い込み同サイドに閉じ込めるというコンセプトである。

 当然、今回の対戦ではこれに対して解決策を立ててきたのはメキシコ。まず変更したのはCBの立ち位置である。グループステージよりもCB間の距離を遠ざけることにする。これによって日本の2トップが広げられてしまい、中央で容易にパスコースができてしまう。

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 時にはアンカーのロモがCBの間に落ちて、最終ラインを3枚にするシーンも。この時にメキシコが狙っていたのは日本のSHの裏のスペースである。日本は2トップのプレスに対して、SHがやや遅れて自らのスペースを空ける傾向がある。これはグループステージの時から。グループステージではこれが致命傷にはならなかったが、この試合では狙われた印象だ。日本のSHが出てきたタイミングで裏に通すことで1つ飛ばしのパスを出すことで、SBが高い位置でフリーでボールを持てるようになる。

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 メキシコの工夫はもう1つ。低い位置でのビルドアップでグループステージの初戦のように詰まりそうになったら、簡単に前に蹴っ飛ばす手段を選ぶようになったことである。引っかけるならば蹴る方がマシ!という指針をもとに設計されていたように思う。

    例えば先ほど図に示した相馬の裏を取る場面。同サイドのSBの中山が間に合うとなるとメキシコはやや苦しくなる。そうなったら同数になっている前に割り切って蹴ってしまう。

 そして、蹴るための準備はされていた。フォーメーション通りの噛み合わせになったら、1トップのマルティンが2CBと対峙する形になるが、右のWGのライネスが高い位置を取ることで数的に均衡した状況を確保する。ポイントは人を狙って長いボールを蹴るのではなく、スペースを狙うこと。身長の面では日本が有利だが、スペースに蹴り、機動力勝負に持ち込むことで日本のDFの優位が消える形になっていた。

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 応用編としてはライネスが降りる形に合わせて、IHは裏に抜けることでボールを引き出す形。メキシコは日本の左サイドの裏を狙い撃ちしてプレスの脱出経路を確保する。低い位置ではサイドに人数をかけてサポート体制を確立。最低限前線に蹴っ飛ばすところまではノルマでこなせる距離感でCBやアンカーがボールサイドに寄っていく様子が印象的なメキシコのビルドアップだった

 前線にボールがつながった後は、広いスペースでドリブラーが躍動。SBとの1対1だけでは止めきれない状況が続く。そういう時にこの大会で何とかし続けてきたのはCHコンビ。特にOAの遠藤航はチームの歪みによって発生した不具合をひたすらに処理しまくっていた。

 したがって、その遠藤航のコルトバへの対応が遅れてしまいPKを与えたシーンは日本のいろんなことを象徴していたといえる。メキシコがグループステージで引っかけた日本のプレスを攻略し、効果的に前進できたこと。前進した後も日本の守備陣内に効果的な侵入ができていること。それをカバーできるはずの遠藤にはもうその体力は残っていないことなど。そういう意味で非常に日本にとっては重い失点だった。VARがファウルがPAの外であるとサポートしてくれなかったからではない。多くの面でそうなる必然性がピッチの上にあったからである。

 残念なのは日本のプランである。遠藤航を使い倒すというのは日本の戦力的な問題としてまだ割り切れる部分であるが、グループステージと同じやり方をしたうえで、それを普通に跳ね返されてしまい、どうしようもありませんというのはちょっとさすがに残念である。初出しの作戦を破られたのとはわけが違うので、二の矢のプランは準備しておきたかった。

■引き出せないゆえのウルトラC狙い

 先制点が入るとメキシコはだいぶ楽になった。引いて受ける機会を増やし、4-3-3で自陣側で待ち構えるメキシコに対して日本は非常に難しい状況に直面する。なにしろ、相手を全く引き出せない。前線は引いて受けようとしたり、ライン間にとどまっていたりはするのだが、裏に流れてスペースを作るような動きを見せることがなかった。

 特に、保持で武器になりそうなのは冨安の持ちあがりの部分だが、ここに合わせる動きがなかなか見られなかった。撤退守備に対抗できる素材はありそうなので、こういう部分は今後、A代表においても整備をしていきたいところである。

 それができないとなると、もう撤退守備に対しては狭いところをスーパーパスを2つつないで崩したり、1人が2人を抜いたりなどのウルトラCを達成するしかない。相手の動きに対して効率的な前進の手段を有しているメキシコに対して、これはだいぶ分が悪い。38分、堂安と相馬のコンビネーションが不発に終わったシーンが代表例だろう。成功すれば相手のDFラインの人と人との間を壊せるのだろうが、その確率はとても低いと言わざるを得ない。

 スペースを空けるための動きができず、難易度の高い技を決めなくてはならない。そうなると、個人での突破力が劣らない日本でも、劣勢になっていくのは当然だろう。

 しかし、メキシコもなぜか前向きのプレッシングを繰り出すことをやめない。自陣撤退さえしてしまえば、中山が大外から上げるクロスを跳ね返し続けるだけとなり、もっと簡単だったような気がする。

 メキシコに前向きにプレスに出てきてくれる意志さえあれば、相手を引き出してスペースを作る手間は省ける。メキシコはそういう意味では日本に付け入るスキを与えてくれたように思う。特に後半はおとなしくしてて良かったと思うけど。

 その隙をついたのは後半途中出場の三笘。大外に張り久保のサイドチェンジからファーストプレーで突破。存在感を見せる。速攻では上田とのコンビネーションを見せてカウンターを効かせるように。得点のシーンにおける大きな切り返しもニュージーランド戦からだいぶコンディションが上がってきた証拠だろう。

 さすがに時間が経ち、2枚マークが来るようになった時の連携までは整えることができなかったが、この大会の中では三笘のベストパフォーマンスが見ることができたように思う。三笘についてはこの試合の出来も含めて以下の記事としてボリスタさんで書かせてもらったのでよかったらぜひ。



川崎のマッチレビュアーが分析する、東京五輪での三笘薫の光と影 | footballista | フットボリスタ


スケールの大きなプレーでJリーグを席巻していた三笘薫。しかし、川崎フロンターレで見せていた個の突破をチームでの崩しに繋げて


www.footballista.jp

 しかし、反撃はその三笘の1点まで。終盤までカウンターの応酬に付き合ったメキシコだったが、日本は三笘の追撃弾以上に得点を挙げることができず。自国開催でメダルを掲げることは叶わなかった。

あとがき

■部が悪い仕組みの連続

 終盤は得点の匂いがだいぶ出てきたとはいえ、後半も完全な日本ペースとは言えたわけではなかった。むしろ3-0以降の終盤の得点機も、メキシコの方が決定的なものはやや多かった印象。機能的な前進とアタッキングサードでのドリブルを仕掛けていたメキシコは、後半も日本に五分以上の戦いをしていたように思う。

 したがって、日本に比べるとメキシコの方がうまくいきやすいプレーを前半も後半もできていたように思う。いわば確率が高いガチャを回し続けていた状態。もちろん、サッカーはガチャほど単純なものではないけども、この攻守の連続ではこの試合の日本がメキシコに勝つのはとても難しかった。どちらかと言えば、これはこの試合にたどり着くまでの準備の部分が大きかったはず。2失点のセットプレーも研究の差が出た部分が否めない。遅攻の連携を整備ができず、プレスが空転した二の矢を準備することができなかった日本は、この日メキシコに感じた差をどのように埋めていくのだろうか。

試合結果
日本 1-3 メキシコ
埼玉スタジアム2022
【得点者】
JPN:78′ 三笘薫
MEX:13′(PK) コルドバ, 22′ バスケス, 58′ ベガ
主審:バムラク・テセマ

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