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「受け止めてこそ王者」~2021.7.21 天皇杯 3回戦 ジェフユナイテッド千葉×川崎フロンターレ レビュー

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目次

レビュー

■3つのプレスの難点

 まず、この試合のポイントは千葉がどういったスタイルで臨むかである。ここ数試合の千葉は5-4-1でフォーメーションは固定。ただ、ベタ引きの5-4-1ではなく、特に中盤より後ろは積極的にボールを狩りに来ることが特徴。そのため、ローラインというよりはラインを中盤にとどめ相手を迎え撃つ。ただ、この日の相手は川崎。普段リーグ戦で戦っているチームに比べて、ボールを保持して支配的に戦ってくる。まずは普段と違う相手に対して、どう立ち向かってくるか?というのがポイントになる。

 結論から言うと、千葉は普段通りの戦い方でこの試合に臨んだように見えた。しかし、ミドルゾーンで捕まえたい千葉の思惑は外されてしまうことになる。ざっくり言えば大きく以下の3つが千葉のプレスの難点だった。

1. 前線の守備の誘導

 プレビューにも書いた通り、千葉は中盤以降のボールの刈り取りには自信を持っている。その一方で、前線がプレスの方向を規定できないのが弱点。そのため、中盤がホルダーにチェックをかけるのがやや遅れがちになってしまう。前線が方向性を見せられないため、中盤のプレスの出足のタイミングがどうしても遅れてしまう。

2. ホルダーへのプレス

 千葉は基本的には枚数を合わせるタイプのプレスではない。中盤にはボールが入って来たら刈り取るが、中盤の選手が飛び出して相手のバックラインに食いつくまでのことはしない。相手がやってくれば迎え撃つ。その分、相手のバックラインは自由にボールを持つことができるし、ここから自在に中央や裏にパスを送ることができる。

3. 先に動いてしまう

 千葉の中盤がホルダーを捕まえようと段階になった際、彼らには一発でボールを取りに行くアプローチをする癖がある。したがって、川崎としてはそれを交わすことができれば中盤に穴をあけることができる!という話をプレビューでした。これが一番きれいに決まったのは18分の橘田のドリブルだろうか。先に動く相手を尻目にスルスルドリブルで進んでいった。この分野のマエストロは大島かと思ったけど、橘田が前半のうちにこれをきれいにやってのけたのには驚いた。

■川崎側も3つの難点

 というわけで広いスペースをケアしきれない千葉。当然、こうなるとバックラインは下がるしかない。8分くらいにはすでにミドルゾーンにブロックを保つのは厳しくなってしまい、自陣に押し下げられてしまうことになる。

 川崎としてはまずはサウダーニャの周辺にフリーの選手を作ることが目的となる。現地で見た人が『鬼木監督はシミッチに降りることを執拗に要求している』といっていたので、鬼木監督としてはまずは自陣深い位置でシミッチにフリーでボールを持たせ、ここから一気にスイッチを入れて攻め込もうという算段だろう。

 スイッチを入れて左サイドと中央を崩すのがこの日の川崎のプラン。家長の逆サイドへの出張が早い段階で解禁された(勝手に解禁した?)ことからもわかるように、川崎は左から崩すことを念頭に置いていたはずである。

 ここで今度は崩しの局面に踏み込んだ川崎側に誤算が出る。

1. 遠野大弥のワイド起用

 大外で起用されている遠野は三笘や長谷川に比べて、より馬力とダイナミズムに特化したタイプ。幅を取って静から何かを生み出す選手ではない。そのため、川崎は左の大外から幅を使った攻撃をする部分が上手くいかない。大外という選択肢が川崎にとっては1つ削られている形といっていいだろう。

2. レアンドロ・ダミアンのポスト

 外が難しいなら中でこじ開ける必要がある。左サイドで積極的にボールを中央に入れていたのは登里。大外の遠野が難しいなら、内に入れる役割を積極的に!という感じで清水戦に続いて、ゴールに迫る楔を入れることに集中。彼なりに三笘がいない現状で、武器をより精度が高い状況に仕上げほしいという話も知れない。

 先にも述べたように千葉のバックラインは上下動に対してボールを刈りに来る要素が強い。したがって中盤のプレスがきつい分、DF-MF間が空きやすい。そのため、ダミアンや他の選手たちがポストをするためのスペースはあった状況である。

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 しかし、先にも述べたように千葉は対人守備には強い。問題なのはタイミングが遅いこと。逆に言えばそのタイミングの遅さの問題さえクリアできればマッチアップできる。タッチ数が増えればダミアンだろうと、怖いものなくぶつかってくる。この日はダミアンとIHのポストでの連携がイマイチ。タッチ数の多いダミアン相手にミンギュが張り合ったのも、ダミアンが少ないタッチでさばけないからである。

3. パスのスピード

 個の攻撃を操りスイッチを入れるのはシミッチ。だが、この日は存在感が後半にやや落ちてしまったようにも見えた。ご存じの通り、シミッチは非常に大きな展開が得意な選手。それもグラウンダーで刺すようにパスを入れるのが上手い。

 だが、この日はフクアリの芝が味方せず。彼に限らず多くの選手が芝においてパススピードが遅くなってしまい、川崎はスイッチを入れるところからややてこずっている印象になった。

 千葉にとっても押し込まれている時間が悪いのか?といわれると難しいところ。何といっても彼らの前線の持ち味はスピード。裏にスペースがある状況でなんぼである。しかし、前に時間を作れる選手はいないので、千葉はカウンターで相手のCBに真っ向勝負を挑むしかない。 

 この部分においては川崎に軍配といっていいだろう。ジェジエウにカードを出させたのは立派だったが、サウダーニャ自身が得点に迫る機会はほぼなし。同じく船山もなかなか見せ場が訪れない展開。

 遅攻はハーフスペースに絞る見木の存在が脇坂を惑わし、田口がフリーになる機会がちらほら。こうなると千葉は自身を持って前進できる。

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 一方でバックラインの保持は苦しい。GKを含めて精度が悪く、後ろから作り直すときに彼らのパスの技術の部分はネックになってきた。

 飲水タイムを挟んでペースを握ったのは千葉。大きな要因は先に挙げたプレスの難点が改善されたこと。見木がややトップに入る機会が増え4-4-2っぽく見えることが増えた。トップ、サイド、中盤でサイドに追い込むようにプレスをかけて閉じ込める。いわゆる誘導がしっかりとできている状況に。

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 千葉は序盤に苦しんだ中盤と前線のプレスの乖離が飲水タイムを挟んで修正する。時には千葉が前から来れない時もあるのだが、川崎が徐々にそういったタイミングで前に行けないようになる。川崎の狙い目は序盤と変わらず、千葉のMF-DF間のスペースなのだが、オフザボールの動きが減少し、相手を動かせない時間が続く。さすがにこの部分は疲れだろう。序盤に見られたプレスも時間の経過とともに目減りしていった。

■流れ着いた形がフィットしたのは?

 後半。川崎が手を付けたのは左サイド。遠野⇒長谷川の交代で左の活性化を図る。これにより、左の大外がよみがえった川崎。家長やシミッチなど左利きの選手のサイドチェンジを受けることで長谷川と登里が仕上げるパターンが増える。

 特に効き目があったのが大外を走る登里。右のWBである安田の意識が長谷川に向いていると思ったのを利用し、内に絞る長谷川が作った大外のスペースに走りこむ動きが出てくる。

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 前半は中央への楔のイメージが強かった登里だが、後半は左の大外を蹂躙。こうやって、展開によって攻めどころを変えられるクレバーさが彼の最大の武器である。そして大外が取れたことで活きてくるのはハーフスペース。IHが走りこむスペースとしておなじみの場所が、左の大外が生き返ったことで活性化する。

 後半はペースを握った川崎だったが、先制点は千葉に入る。得点を決めたのは目下絶好調の見木。左サイドからスモールスペースに入り込みワンチャンスを決めてみせた。

 サウダーニャはこの試合は苦しんでいたが、この場面では効果的な動き。左サイドからワンツー気味に中央に侵入(このプレーは好きみたいで、サイドに流れてから中央に入り込む時はパスを離したタイミングであることが多かった)するとジェジエウがこの動きにつられたことで見木への対応がやや後手に回った。前半のジェジエウへ警告を出させたシーンに続き、少ないながらも効果が大きい仕事をしたといえそうだ。

 しかし、川崎はすぐに追いつく。きっかけとなったのはPK。先に指摘した橘田の走り込みに対して小林が後追いで引っかけてファウル。サボらずに実直にタスクをこなした橘田が勝ち取った大きなチャンスを家長が決めて同点に追いつく。

 ここからは試合は消耗戦の様相に。後半もダミアンのポストを使った中央突破はしつこく狙っていたが、千葉の守備陣の粘り強い対応に苦戦する。ライン間を攻略するなら大島一択!大島が入れば解決する!と思っていたのだが、20分少々でまさかの負傷交代。その時点では脇坂も橘田もピッチを退いており、この段階でポストを主体としたライン間攻略はかなり厳しくなったように思う。

 さらに橘田⇒宮城の交代で4-2-3-1へのシステム変更をしたことで重心が後ろになったのが厳しい。延長戦ではダミアンが下がり、家長が低い位置まで降りてくることで前で時間を作れる選手が不在に。宮城が時間を作れないのは仕方ないとして、知念はもう少しボールを収めてほしいところだが。いずれにしてもライン間攻略が難しくなり、ボールが収まらないことで相手陣に押し込めなくなるという形で、1つ1つ時間と共にできないことが増えてきた印象だった。

 ただ、システム変更に関しては盤面における修正というよりは、動ける選手を残した結果、しっくりくるのが4-2-3-1ということだろう。変えたというより流れ着いた形といえる。同じく、フィールドプレイヤー6人を代えた千葉も最終的には本職CBがミンギュただ一人に。最終的に熊谷や高橋が最終ラインに入るというスクランブルに。

 しかし、この千葉が流れ着いたスタイルは試合にフィットしたといえる。前に出ていける選手が増えたことで、ガス欠気味の川崎相手に出ていける頻度は増えたし、人数もかけられるように。終盤は押し込む場面も増えたが、川崎のブロックを交わしての決定機を作るところまでは至らず。押し込んだ後のアタッキングサードにおける精度の低さは千葉のここ数試合の課題が顕在したともいえる。

 結局試合はそのまま終了。PK戦を制した川崎が千葉を下して4回戦進出を決めた。

あとがき

■プレスの修正はバッチリ

 千葉はリーグ戦で予習した通りのチームだった。守備に関しての激しいスタイルはこの日の川崎を飲み込めてはいたし、川崎に千葉の激しさを交わす元気も前半の飲水タイム以降はなかった。逆に言えば、川崎はおそらくあの時間までに先制点が欲しかったはずである。

 一番目を引いたのは前半の飲水明けのプレスの修正。ユンジョンファンらしい相手の嫌なところを突く守備面からの修正は川崎の攻撃の勢いを止め、多くの時間を互角に戦うことを引き寄せることにつながったように思う。後半戦、どうなるでしょうか。

■だからこそ勝った意味がある

 いやー、しんどいけど突破したことが全て。そりゃ、内容に課題はあるけど、きつい日程の中でよくやったという方が先。なんだかんだ5/26の湘南戦以降は欲しい結果を手にし続けているのだから、文句なんてあろうはずがない。

 特に頼もしいのは跳ね返しの部分。この試合でも千葉に押し込まれるシーンはあったが、基本的には危なげなく対応できたように思う。見ている側はひやひやしたかもしれないが、クロス対応はほぼ完ぺき。あわやオウンゴールのシーンも山根が先にボールに入れているわけで、出し抜かれているわけではない。ジェジエウが一時的に退いていた神戸戦を除けばこういう展開での放り込みには対応しているわけで、むしろ苦しい中でも踏ん張るための武器といってもいいだろう。現状では引き出されて広いスペース勝負に持ち込まれたほうが怖い。

 満足いく内容ではなかったが、劣勢でもセットプレーでもPK戦でもその時に向けてしっかりと準備ができている。押し込まれる時間はあったが、長野戦に比べれば崩されるシーンは少なかったように思う。そこはさすが試合経験豊富なメンバーといったところ。国を挟んだ移動を含む過密日程を飲み込んでなお相手を受け止めて立ち続ける。今の状況でできる限りのことをやる谷口の試合後コメントが、今のチームの現状であり、強みなのだろう。

今日のオススメ

 揉めたシーンの谷口。勝ちとプレーの意義を両方睨める彼があのシーンでピッチにいてよかったと思う。

見返しメモ

試合結果
2021.7.21
天皇杯
3回戦
ジェフユナイテッド千葉 1-1(PK:3-4) 川崎フロンターレ
フクダ電子アリーナ
【得点者】
千葉:53′ 見木友哉
川崎:59′(PK) 家長昭博
主審:清水勇人

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