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「失われた収穫にしない」~2021.5.2 プレミアリーグ 第34節 ニューカッスル×アーセナル レビュー

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目次

レビュー

■プレス、かけたかった・・・?

 プレビューで『基本的にはニューカッスルは3センターなんだよ。アンカーをシェルビーに固定したんだよ。』っていう話を言ったけど、あれは嘘だったすまん。この試合においてのニューカッスルのフォーメーションは5-2-1-2。トップ下にアルミロンを置き、サン=マクシマンと復帰戦のウィルソンの2トップだった。

 この前線の座組の目的はおそらくアーセナルの配球源を断つことである。保持の際には中央に移動してアンカーのような役割をこなすエルネニーに対して、トップ下のアルミロンが監視できる。そして2トップが2CBにつくことで後方は噛み合う。これでアーセナルの保持隊を捕まえて前進を許さないことがニューカッスルの青写真だったように思う。

 いつも、当レビューは割り切ったものの言い方をしないことが多いのだが、『だったように思う』というさらにもうワンランク下のぼかしをしたくなってしまったのは、ニューカッスルが本当にこのプランを実現しようかと思ったのか?というくらいプレッシングの腰が引けていたからである。だから正直自信がない。

 トップ下のアルミロンはまだ頑張ろうという姿勢は見られていたが、2トップのマークはかなりルーズ。アーセナルのバックスが引いたり、開いたりなど行動範囲を広げてしまうと、ついていくことをパタッとやめてしまう。

 というわけでCBの持ちあがりのチャンスがあったアーセナル。普段ならこの場面を活かせない状態ではあるが、この試合では復帰したダビド・ルイスが躍動。彼の武器は何といっても大きなサイドチェンジである。2トップの脇から持ち上がって出ていくだけでなく、5-2-1-2の状況で手当てしにくい5バックの大外の手前に構えるマルティネッリにルイスからのフィードが届くことでアーセナルは攻撃の状況を整えることができる。

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 ルイス⇒マルティネッリのホットラインを整えることができたアーセナル。プレスのエンジンがかからないニューカッスルに対していとも簡単にDFラインを下げることに成功する。

 アーセナルの先制点もルイスを起点としたボール運びから。このシーンでは逆サイドに振るのではなく、同サイドの裏に抜けだしたベジェリンを活用することでラインを押し下げる。これにより最終的に空いたバイタルからエルネニーがミドルシュートを叩きこむ。ニューカッスルの守備の欠陥を突いた見事な先制点だった。

■ベジェリンからの見る攻守の課題

 もう少し、アーセナルの攻撃についてみていきたい。この日のアーセナルの攻撃はバックスが積極的に高い位置を取り、人数をかける。ここまでの試合ではややおとなしかった印象のジャカも左サイドの高い位置までサポートに進出することが多かった。このやり方はサイドの層が厚くなる分、問題もはらんでいる。

 まず前提としてこの日のCFはオーバメヤンだった。2得点目のダイナミックなボレーは見事だったが、一方でDFラインの手前での仕事の貢献度には期待ができない。この試合の後半には何度かライン間でボールを受けて前を向くシーンがあったが、スピードアップもままならないくらい重たかった。

 したがって、この日のアーセナルにとって中央からの攻撃の加速は難しい状況。サイドへのサポートが手厚いというのはこの中央における前進のハードルの高さもあったかもしれない。

 この状況で起こる問題点をこの試合のベジェリンの動きと共に見ていきたい。大外を崩すという部分において、真っ先に問題になるのは人数をかけるバランスである。SBは高い位置を取る、インサイドハーフはサポートに入る、WGは張る。でクロスを上げたとて、中にはCF1枚しかいない。特に左からクロスを上げる時が顕著で、逆サイドのWGのウィリアンはPAに入り込む動きにあまり積極的ではない。

 ニューカッスル相手には大外のWGの対人で簡単にラインを操作できたため、苦しくはならなかった。だが、よりサイドでタイトな守備をしてくる相手には難しい状況になるだろう。その部分で助けになったのはベジェリンのインナーラップ。ウィリアンが張った大外から内側に斜めに入り込むランでエリアに入り込むと、相手陣地にズレを生む動きになる。

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 逆に言えば左サイドはこの部分では物足りなかった。マルティネッリ単騎では好調でマーフィーに対して強みになっていたが、セバージョスやジャカがPA内で働きをする設計にはなっていなかった。特に、セバージョスにはサイドのサポートだけでなく、狭いエリアでの働きを求めたいところ。

 だが、この役割は本人のキャラクターにあっているかどうか。この試合でもライン間への速いパスの受け手になったセバージョスが収めることをせずにワンタッチでリターンをしたことで、局面が前に進まない場面になることがあった。プレッシャーのかからない大きな展開を出すのは得意だが、連携しつつ狭いスペースを攻略するタイプとは少し違うのではないのかな?というのがこのシステムの中で一貫して左のIHのタスクで起用されているセバージョスに対する印象である。

 もう1つのアーセナルが見せた課題は守備の面でのもの。MFの守備範囲の問題である。アーセナルの保持におけるシステムは4-3-3のような形。かつ両IHが積極的にサイドで保持に関わろうとするため、ボールロストの際に中盤中央がぽっかり空きやすい。

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 その上、現状のアーセナルは攻撃に人数をかけたからといって、必ずシュートや押し込んだ状態で勝てるほど完成度は高くはない。したがって、このトランジッションの局面をどれだけカバーできるか?というのが重要。しかし、仮に後方の選手がホルダーを止めて動きを遅らせたとしてもIHの役割の選手が運動量で勝負するキャラクターではないため、カウンター対応でどうしても後手を踏んでしまう。ニューカッスルが作ったチャンスはほとんどがこの空いたシーンを使った単騎ドリブルだった。

 17分のシーン、ベジェリンがニアに絞りつつクロスを被ったせいで大外に走られるピンチがあった。このシーンはトランジッション局面とは言い切れないため、ここの例に挙げるのは適切ではないかもしれないが、中盤中央のMFの裏のスペースはボールを加速させないために何としてでも塞ぎたい部分。

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 ベジェリンは予測、精度、強度すべての部分でDFに不安な点はあるが、このシーンでこの部分をケアするやり方を考えなければ、ビジャレアル戦の1stレグのように簡単に長いボールを運ばれ続けることになるだろう。トランジッション局面や出ていったプレスを交わされた際のMFの裏のスペースのケアの仕方は課題になる。

■ルイスの欠場は痛いが・・・

 最後にビジャレアル戦に向けたこの試合の収穫と課題をまとめたい。生かせそうな部分から。まずはCBからの対角パス、そして裏へのパス。もっとも、これは出し手となっていたダビド・ルイスがケガをしてしまったという大問題があるので、安直に収穫とは言えないかもしれないけども。

 それに伴って見られたのはベジェリンのオフザボールの動き。今季の彼のパフォーマンスは多くの人から批判を受けることが多い。大体はその批判は的を得たものであると思うので、彼を使うことでリスクがあるというのはわかる。ただ、ラカゼットが帰ってこない中でWGに張らせるという仕事をさせがちな現状、内側に旋回する動きが必要なのも確か。

 この試合のルイスの裏へのボールも、それを引き出すベジェリンのランの動きがライドバックになかったことが一因ともいえる。ビジャレアルのようにコンパクトだが、ホルダーへのチェックが甘いチームにこういったWGでのSBのピン止めと後方からの裏抜けのコンビネーションは有用。裏に抜ける動きさえあれば、出し手のホールディングの精度がやや落ちるとしても通用する部分であると思う。

 1つ目のベジェリンを使うメリットである旋回はトップ下とSHにサカやスミス=ロウを使うことで解決するかもしれないし、守備面や最後の仕上げのクオリティの部分でベジェリンには課題があるため、絶対起用推奨!というわけではないが、チェンバースを起用した際とは異なる解決策でビジャレアルを追い込める可能性があるようには思う。

 課題として持ち帰ったのは左サイドからの内に入ってくる動きの乏しさである。この部分は先ほどセバージョスの適性も含めて問題提起した部分。だが、そもそもELでは彼は使えないためこのポジションに誰を起用するかから考えなくてはいけない。

 ティアニーの復帰が難しいことと、セドリックをここ数試合で全く起用していなかったことから、おそらくジャカのLSBスタートは濃厚。となるとトーマスが1列前で起用されるこの試合終盤のパターンが最も可能性が高いか。

 個人的に見てみたいのはスミス=ロウの起用。ペペとの相性はやや未知数だが、内外両方可能なキャラクターはペペとも補完性があるし、外にあるボールをパス交換を繰り返すことでテンポを上げながら内側に入ってくる動きでサイドと中央をつなげるという意味ではアーセナルにおいて最も信頼できる存在といってもいい。

 非保持の面での強度という問題点はある。セバージョスよりも機動力は期待できるし、得点が必須の状況に追い込まれた場合のオプションとしてはなしではないのではないだろうか。ちょっと見てみたさがある。

あとがき

 ダビド・ルイスのこの試合での復帰によって幅方向、裏方向への重要性にチームが気づけたのだとしたら、彼自身の出場が難しくてもこの試合に意味を持たせることができる。彼の負傷をチームが失われた収穫としませんように。次の試合が今季で一番大事。もっと大事な決勝の舞台に進めるようにすべてを置いていけますように。

試合結果
2021.5.2
プレミアリーグ
第34節
ニューカッスル 0-2 アーセナル
セント・ジェームズ・パーク
【得点者】
ARS:6′ エルネニー, 66’ オーバメヤン
主審: マイク・ディーン

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