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「たかが親善試合、されどウルグアイ」~2018.10.16 キリンチャレンジカップ 日本×ウルグアイ レビュー

目次

Welcome to Japan! Torreira!

 中見出しと本文の内容は全く関係ない。親善試合のレビューも今回で2回目である。親善試合のレビューが難しいのは、チームの最優先課題が勝利にあるとは限らないからだ。「勝利は二の次!」と明言する監督はそんなに多くないけども。このnoteのスタンスも難しいのだが、基本は勝利という方針に向けてどう進んでいるかという点を重視していこうと思う。つまりいつもと同じ。 ただ、個々人やチームより少ないユニットについては、親善試合ということを加味しながら評価できたらと思う。

 前置きはこれまで。
日本代表の話をしよう。パナマ戦のレビューはこちら。

「いやもうウルグアイ戦のことで頭いっぱいだから読む気起きねーよ。」って人もいると思うので、簡単に要約しますね。

 【パナマ戦の日本代表の特徴】
・前線+2列目の4人が中央集約、大外はSBがメイン。
・ボランチがCB間に落ちてビルドアップ。
・冨安と青山が供給役。前者は間、後者はサイド裏へのパスを軸に前進。

 パナマに比べれば、ウルグアイのほうが多少はなじみがある。ワールドカップでは2種類のシステムを軸に戦っていた。中盤フラットの4-4-2とアンカーにトレイラを起用した中盤ダイヤモンドの4-4-2。最終ラインのブロックは強固でゴディンとヒメネスは大会屈指のCBコンビだった。ベンタンクールやベシーノなど中盤の若手タレントはセリエA産が中心。トレイラも元々はサンプドリア所属だ。代表監督としては第二次政権のタバレスは就任して12年。今やクラブレベルでも珍しい超長期政権を築いている。ファミリーのような選手と監督の絆の強さも有名だ。あとカセレスはガチムチ。

 というわけで本日のスタメンはこちら。

画像1

【前半】
ラインブレイクの立役者は

 ビルドアップの話だけ、もう少しパナマ戦の復習。パナマ戦のビルドアップはボランチが最終ラインに落ちる形がメイン。
パナマの2トップに対して数的優位を得た状況から以下の2パターンに枝分かれすることが多かった。
① 【冨安メイン】ワイドに開いたCBから縦方向にパス。
② 【青山メイン】最終ラインから2トッププレスを交わして侵入。それを捕まえるために陣形が動いた裏(主に室屋)にロングボールを送り込む。

 しかし、この日は青山も冨安もピッチにはいない。青山と心中感を出していた森保監督は集大成になりそうなウルグアイ相手に柴崎を試す実験をスタート。結構大胆だな。

 というわけで試合の話を始める。ウルグアイ戦のビルドアップは少々趣が違った。最終ラインにフラットな3枚を並べる形はそこまで見られず、柴崎も遠藤も中盤に留まってポジショニングすることが多かった。
ウルグアイの最終ラインへのプレスは1枚だったり2枚だったりだが、日本が自陣いる場合はあまりプレスをかけてこなかった。だから、ボランチはステイ!2人でもいける!って考えなのか、最終ラインに青山や冨安のような球出しに特長のあるプレイヤーが単にいなかったからなのかは不明。

 ボランチコンビの役回りが前節と変わった中でピッチ内を自由に動き回っていたのは中島翔哉。最終ライン近くまで落ちてきたかと思えば、縦方向にパス交換を実施しながら、自分もするするポジションを上げていく動きはとても面白かった。南野や大迫が優れた受け手として、様々な局面で顔を出しているのも中島を手助けしていた。
2分のシーン。

画像2

画像3

 最終ラインに落ちた中島と中盤に降りてきた南野で前進。捕まえに来るベンタンクールを避けつつ、中島が南野とパスを交換し、カセレスとの1on1に。ウルグアイのセントラルMFは配置としてはフラットなことが多いけど、飛び出して選手を捕まえにいくベンタンクールとステイするトレイラで分業している。
図で書くと簡単に突破しているっぽいが、そこまでスペースはない。おそらくこのシーンは南野と中島の間で「ベンタンクールとペレイロの間を通り抜けつつ、中島とカセレスで1on1を作る。」という同じ画が描けていたといえる。

  先制点のシーンはこの場面以上に阿吽の呼吸が見られた。

画像4

 大迫がスペースを作ったとはいえ、中島の位置から南野までは距離がある上に、間にMFのラインがある。この縦パスが通るのは、中島と南野が共通してビジョンが持っている証拠だろう。サイドに流れた大迫と、ラクサールを釣るために逆サイドまで流れた堂安まで含めた見事の連係プレイだった。中島は今まで最終局面の仕上げのイメージが強かったけど、こういう使い方もあるというのは新たな発見だった。
というわけで先制点までのシーンはラインブレイクの立役者は中島。パナマ戦のアプローチとは違う形で先制点までこぎつけた。中島の意図で前線がシンクロする形はとても面白い。空気の読める日本人最高!中島の低い位置からのレーン突破の話しのつもりだったけど、このシーンの南野すんごいね。

【前半】-(2)
ウルグアイのビルドアップを防ぐ

 翻ってウルグアイのビルドアップ。まずはCB2枚とボランチ2枚で四角形を作る。そこからボランチを起点にサイドで多角形を設計するのがウルグアイのボール前進時によく見られた形だった。

画像5

 この形が微妙だったのは出口が決まっていたから。ウルグアイのボランチからボールが出るのを日本のボランチが抑えていた。執拗なマークで前を向かせない。そしてうまくサイドに誘導した大迫と南野の守備も見事。大迫は特に追い込み方がうまく、プレスバックも献身的にこなしていたのは印象的だった。ちなみに、柴崎はそこまで存在感を出せていなかったが、ボランチ封じや攻撃のリンクマンとしての黒子のような役割は最低限やっていたような印象を受けたので、そこまで悪くないのかなとは感じた。ワールドカップと比べるとちょっと寂しいけど。
ウルグアイはボランチが前を向けなければ前進は厳しい。カセレスとラクサールはボールを持たされてやや困惑してる?って場面もちらほら。

画像6

 それまで出口として機能できず、苦しんでいたラクサールのサイドチェンジからの流れで得たFKでウルグアイは同点に追いつく。折り返しのFKの対応はなかなかに厳しい。

 しかし、リードして前半を折り返したのは日本。またしても打開策になった中島のミドルも大迫の詰めもよかったが、堂安のデュエルの強さとリカバリーの早さが一番目を引いた。中島の低い位置での役割同様、これもあんまり印象にないプレーだった。素晴らしい。

【後半】
多角形を作り前進を狙うウルグアイ

 前半途中から、若干ビルドアップの形式を変えたウルグアイ。トレイラが縦横に移動したり、CBが持ち上がることで徐々に日本のマークをずらしていく。

画像7

 後ろからサイドに多角形を作ることで前進することに成功するようになったウルグアイ。「それなら配置的に多角形できやすくしちゃえば?」という感じで後半のウルグアイはやや並びを変えた感じ。数字で表すのは難しいが、選手交代以外では前線が3枚気味になったことと、ラクサールが酒井とデートを命じられたことが前半との変化か。なんとなく配置的に斜めの関係は増えたように見える。前線も3枚いるし、特にカウンター時には相手のDFラインとの数合わせもしやすい。ウルグアイの3点目は実際に同数からのうまく崩した得点であり、効果はある程度見られたといっていいだろう。

【後半】-(2)
再び輝く堂安

 しかし、この日は日本の勢いが止まらない。3点目も2点目と同様にロスト後の素早いリカバリーで今度は得点まで決めてしまったのは堂安。4点目のシーンのミドルシュートも南野の2点目のお膳立てとなった。このシーンは柴崎の縦パスもよかった。
繰り返しになるが、堂安は高い技術とドリブルのスキルのイメージはあったものの、デュエルやトランジッションにはあまり印象がなかったので、ポジティブな驚きである。

 ウルグアイからすると、この日は幸運な2点目が入ってからも波に乗り切れない感じである。本番だと出足も倍くらいよさそうだし、もっといろいろ仕掛けてくるんだろうけども。

まとめ

 前提として、ウルグアイ戦は勝利することができる用兵を第一優先にした印象だ。6つあった交代出場枠のうち、森保監督が使用したのはわずかに2つ。最終盤まで十分なインテンシティを発揮していた前線のメンバーは変えたくなかったのかもしれない。交代で出場した原口や青山も前の試合で十分な出場機会を得た選手。テスト色が強い選手交代を実施したパナマ戦とは一線を画しているような印象を受けた。森保監督はアジアカップに向けて、もしくはこの試合において何かしらのノルマを課されているのか、あるいは監督自身が単純にこの試合をそういう位置づけにしたのかはわからない。

 いずれにせよ、この試合のパフォーマンスがポジティブだったことには変わりはない。ユニットでの熟成度以上に、個々人のデュエルの強度や精度の高さが印象的だ。前線は南野と大迫をはじめ数人がロシア後の新たな核として見えてきた。「大迫、ハンパないって!」という流行語は今年で死ぬだろうが、言葉として死のうが大迫は半端ないという事実はW杯後も残るのだ。やっぱり大迫は半端ない。
おなじみのメンバーでいえば、最終ラインのロシア組も健在をアピール。普通にやっているけど、両サイドバックもやっぱりすごい。実家かよと言いたくなる安心感である。

 ロシアレギュラー組以外に目を向ければ、前線では南野に加えて中島と堂安、中盤では遠藤が進境著しく、CBとして決定的なミスをした三浦でさえ対人の強さという観点では、持ち味を示せたといっていいだろう。ここまでのチームの核として考えられた青山抜きでも、攻撃が機能したのも好材料だ。森保監督にはメンバーを固めることでチームの熟成を優先させるイメージがあったので、少々毛色の異なるアプローチを使い分けて勝利したのは、個人的には少々驚きだった。

 ただし、酒井宏樹が試合後に述べていたように「親善試合なので、勝ったからすべてが良いというわけではない」というのは懸念としてとらえておくべきだ。今日のウルグアイと比べて、アジアカップの対戦相手は鋭い出足で襲ってくる可能性は高い。デュエルで優位に立てないときに肝になるであろう組織の熟成度は完成途上、引き出しの数も中身も整えるのはまだこれからの話だ。
タバレス監督のコメントからも、親善試合と公式戦は完全に別物ととらえていることが強く感じられるし、それが世界の常識でもある。仕組みの優劣は90分間の中で、オセロのように目まぐるしく何度もひっくり返されるのだ。親善試合での素晴らしいパフォーマンスが公式戦での成功を約束してくれるわけではないことは、ブラジルW杯を経験した代表ファンなら身に染みていることだろう。

 過度な期待も、過度な不安も必要はない。観客の熱量を上げるパフォーマンスはできている。親善試合とは言え、ウルグアイに勝ったのはいいことには違いない。ファンの一人としては、次の試合を期待して待てるチーム状況に幸せを感じつつ、アジアカップまでの道のりを見守りたいところだ。

試合結果
2018/10/16
キリンチャレンジカップ
日本4-3ウルグアイ
【得点者】
日本:10′ 南野, 36′ 大迫, 59′ 堂安, 66′ 南野
ウルグアイ:28′ ペレイロ, 57′ カバーニ, 75′ ロドリゲス
主審:コ・ヒョンジン
埼玉スタジアム2002

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