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「スタンダートの置き土産」~2024.12.8 J1 第38節 川崎フロンターレ×アビスパ福岡 レビュー

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レビュー

川崎の左サイドの揺さぶり

 共にクラブに初めてのタイトルをもたらし、歴史に名を残した指揮官のラストマッチ。鬼木監督の川崎と長谷部監督の福岡はこの日曜日の最終節をもってピリオドが打たれることになる。

 序盤は長いボールをベースにした立ち上がり。両チームとも蹴りあうスタートに。少し、気になったのは福岡の村上の2連続でのフィードミス。1つ目は滑ったから仕方のない部分もあるとはいえ、長いボールが正確に届かないのは川崎に対峙する上で少し嫌な感じがあった。

 先に落ち着いてポゼッションを始めようとしたのはホームの川崎。CBが開き、GKを挟む形でボールを動かしていく。福岡はCFのウェリントンが中盤をケア。シャドーの金森と紺野が前にズレてCBにプレスをかける。それと連動するようにCHが列を上げてプレスに行く格好である。

 シャドーが出て行かない時は中盤を監視。出て行くときはCBにプレス。この動きに中盤が連動するのが理想であった。

 川崎は早々に左サイドに家長が出張。左サイドのポジションを乱しに行く。これにより紺野がCBにプレスに行く際の三浦のマーカーがいなくなる。本来ならばマルシーニョを井上に受け渡して前嶋が一列前に行くべきなのだろうが、家長まで出てきてしまうとどうすればいいのか?という感じだろう。

 三浦のポジションは初期位置がCBとフラットな高さを取っているため、前嶋が深追いするのは難しい位置関係。この左サイドからパス交換で縦に前進していく。山本のサリーも織り交ぜながら、左サイドはかなり頻繁に配置を変えていた。

 特徴的だなと思ったのは、マルシーニョのそばに誰かしら選手が立つケースが多いことだ。最初は家長の出張によって生み出されたアドリブなのかなと思ったが、小林と山田も左の大外に立つマルシーニョの隣のハーフレーンに立つ頻度が多かった。

 ここの選手に預けて川崎は加速する。想像ではあるが、川崎は立ち上がりからこちらのサイドにフォーカスして勝負を仕掛けていたのかもしれない。

 このポジションは本来であれば累積警告で出場停止のグローリがいる。グローリに比べると代わりに入った井上は目の前の選手を潰す時に出て行くスピードがグローリより遅い。もしかすると、そこも踏まえて川崎は重点的にこのスペースを狙っていたのかもしれない。

 井上の前のスペースの活用、家長の出張に代表される紺野と前嶋の守備の基準点を乱すスタートとなった川崎。しかしながら、福岡は少しずつ2CHのスライドを圧縮で埋めていくことで川崎のパス交換を誘発しにかかっており、この辺りは互角に渡り合った部分といえるだろう。

プレスのスイッチが入れやすくなる条件

 非保持では川崎の仕掛けに何とか食らいついていった感のある福岡。しかしながら、保持では序盤のバタバタ感をぬぐえないまま試合を進めてしまった。川崎は4-4-2の2トップを旗頭に敵陣からのハイプレスを敢行。構造的にハメるというよりは寄せる速度勝負で福岡のホルダーの判断とキックの精度を奪い取ることでボールを回収していた印象だ。

 浮いている場所があってもそこに届けることを許さずに強度でごり押しする川崎はプレッシングから先制点をゲット。山本のボール奪取から発動したショートカウンターを最後は家長が沈める。

 もちろん、ボールを奪取した山本のプレーはとてもよかったのだけど、この場面の前→亀川のパスのように福岡にマイナスのパスを強いる場面はとてもプレスのスイッチを入れやすい。マイナスのパスに合わせてラインを上げて、圧力を高めるのは定番だ。よって、この場面ではバックパスを出させた橘田の守備によって山本のプレスが促された格好になる。

 福岡はこの場面に限らず、後方で余裕のない状態でボールを受けた選手が一呼吸を入れられずに強引なパスを付けることで再び川崎ボールになることが多かった。特に顕著だったのは攻撃が終わった直後に川崎がボールを奪いに来るタイミング。このタイミングでボールを落ち着かせることが出来なかった。

 21:20の丸山のように、急いで列を上げてプレスに来る対面の選手相手に逆を取って時間を作れれば相手のプレスを折ることが出来る。この点をクリアできなかった福岡は川崎のプレスの勢いを真正面から受け止めてしまった感がある。

 もっとも、得点をとったものの川崎も川崎で完璧な出来ではなかった。プレッシャーをかけた際にはソンリョンはプレゼントパスをしていたし、守りに入る場合でもサイドの守備の連係がイマイチ。特に左サイドの三浦の周辺のスペースは相当紺野に狙われていた。

 失点直後はソンリョンのロストからの流れで川崎から見て左サイドを攻略されたが、これ以降もとにかく福岡の狙いは川崎の左側。ただ、個々のプレーを見ると要因はいろいろある。13分のように単純に三浦が戻り切れない&縦のパスコースを切れないという場合もあれば、11分の前嶋の決定機につながったシーンのように山本と橘田のマーク被りによって、中央で松岡をフリーマンにしてしまうということもあった。

 ただ、一番多かったのはWBをどのように捕まえるかをマルシーニョと三浦で整理できていなかったなと感じるシーン。マルシーニョは前に、三浦は紺野を気にすれば当然前嶋は空く。そういうところのさじ加減があまり整理できていなかった。

 福岡も川崎の左サイドのギャップを使えればチャンスになりそうな反面、自陣でショートパスでの下ごしらえをやっているフェーズでは川崎のプレス隊に捕まってしまう恐怖もある。結局のところ、ウェリントンへのロングボールに頼る場面もそこそこに出てくるように。

 両者ともにペースをつかめない展開の中で追加点を奪ったのは川崎。山本のミドルのこぼれ球を小林が詰めて追加点を奪う。

 失点をゴールに近いところから紐解けば視野が開けている状態であの山本のミドルをファンブルしてしまった村上のエラーとするのが妥当だろう。その一方、手前の場面で福岡がボールを取った後のワンプレー目を丁寧にできずに川崎に渡してしまったシーンは見逃せない。結局のところ、ボールを奪った後のバタバタが原因となり、失点のトリガーを引いてしまっている感のある福岡であった。

 2点をリードしたことで川崎はゆったりと広くピッチを使いながら相手にボールを渡さない戦い方にシフトする。グローリがいないサイドのハーフスペースにボールを付けて時にはスイッチを入れつつ、保持の時間を増やしていく。

 全体的に構図で川崎が圧倒していたわけではない。だが、噛み合わない布陣の中で相手のズレをつくとか、あるいは早いプレスへの対応力とかはすこし川崎の方が元来の特性の分有利に見えた。

 42分に福岡はウェリントンへのロングボールから金森がシュートを放つが、これはソンリョンがファインセーブ。丸山が深追いしすぎたリカバリーを見事に果たしたソンリョンが前半でもっとも大きいピンチの1つを守る。川崎の2点のリードは動かないままハーフタイムを迎える。

ファーサイドに向かうクロスからさらなるゴールが

 後半の立ち上がりも試合のペースは同じ。川崎が広くピッチを使いながら、相手の誘導を外し、ホルダーが複数の選択肢から余裕を持って適したものを選び取ることが出来ていた。

 その甲斐もあって、後半頭もゆったりと押し込む川崎は早々に勝ち越しゴールをゲット。右に開いた家長からマルシーニョがゴールを叩き込み3点目。ファーサイドへの見事な飛び込みで前に入り込み美しいゴールを叩き込む。

 川崎はさらにラインを下げることにより、前半に生まれたサイドのギャップを埋めにかかる。これで少なくとも相手のWBとアタッカーにはきっちりと枚数を揃えて受けることとなる。

 自陣に下がっても大丈夫!シフトとなった川崎だが、それでも福岡は追撃弾をゲット。後方から攻撃参加にやってきた井上のクロスからファーで大外に流れていた松岡がゴールを生み出す。

 しかしながら、このゴール以降も川崎の優勢は揺るがず。前半よりもきっちり押し込んで壊すということを忠実に実行し、押し込む機会を確実に増やしていく。大外を噛ませながらCHとDFラインで素早くレイヤーを変えることで、福岡の前方へのスライドを封じて脱出するという試合運びは見事であった。

 対する福岡は選手交代があまりいい影響を及ぼさず。紺野とウェリントンがいなくなったことで前線での前進の手段がなくなってしまうことに。これで苦しい戦いとなった。

 残すこの試合のトピックは山田の20ゴールが達成できるかどうかだろう。72分のチャンスは本人が強引にこじ開けた反面、直後の3連決定機ではいずれもチャンスを決め切れず、それ以降は元気がないまま神田にスイッチすることとなってしまった。

 少しバタバタした側面もあったが、終わってみれば川崎は完勝。鬼木監督のラストゲームを白星で飾ってみせた。

あとがき

 どちらもアタッキングサードの攻め手は十分にあったので、そこに届けるまでの土台作りに差が出たように思えた。特にバックスの落ち着きの差は大きかった。

 先制点を川崎が得たことで福岡が延々とアップテンポな展開に付き合わされたのも影響はあった。川崎は無理に縦に進む必要はないし、こうした手綱の緩め方ができるようになったのも経験である。

 この試合のように保持では休むところを入れつつ、非保持では強度を押し出しつつ、スイッチの入れどころをコントロールできれば完璧。来季になって布陣は変わるかもしれないが、大枠として今の時代にサッカーをやることでどちらも大事なことなので、鬼木監督のスタンダードの置き土産として来季もこの方向のブラッシュアップは続けていきたい。

 というわけで今年も終わり!長かったね!

試合結果

2024.12.8
J1 第38節
川崎フロンターレ 3-1 アビスパ福岡
U-vanceとどろきスタジアム by Fujitsu
【得点者】
川崎:8‘ 家長昭博, 27’ 小林悠, 48‘ マルシーニョ
福岡:51’ 松岡大起
主審:先立圭吾

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