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「石を1つ積む」~2020.7.4 プレミアリーグ 第33節 ウォルバーハンプトン×アーセナル レビュー

スタメンはこちら。

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目次

【前半】
整理されたアーセナルの守備

 多くのチームが残り10試合、アーセナルは残り11試合で始まった中断明けの過密日程も今節が終われば残り5節。ちょうど折り返し地点である。各チームそろそろ疲れが出始めるころ。ここからアーセナルは地獄の5連戦が始まるわけだけど。

 そんな過密日程もお手伝いしてだろうか。この試合の大きな特徴は両チームとも控えめなプレスで自陣のスペースを埋めることを優先したことだ。ボールを失い、カウンターに転じられそうになった場合は、両チームとも即時奪回を目指す。ただし、これはあくまで基本的には相手の攻撃を遅らせる、もしくはファウルで止めるためのもので、カウンター発動を阻止した後は撤退守備で構えるというのが特徴であった。

 ウルブスのボール保持の局面から見ていく。5-3-2でのボール保持である。アーセナルの5-4-1のブロックに対して、後方は3バック+GKで数的優位。アンカーのネベスも時折受けに降りる。ボールを回しながら、フリーで出せる人を探っていた印象である。

 ウルブスの攻撃の優先事項はヒメネスのポストなどを使って、アダマ・トラオレに前を向かせること。試合開始直後に得た決定機のシーンのような形が狙いではないだろうか。言葉にすると「アタッカーにハーフスペースで前を向かせる」というところが目的だと思う。次善の策として逆サイドの大外に対角を送って1対1を作る形。アーセナルの最終ラインに対して、なるべくダイレクトにアタックをかけるイメージである。

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 ピンチを作られる場面もなくはなかったものの、アーセナルも非常によく対応していたと思う。ジャカとセバージョスがまずは楔の受けどころとなるコースを背中で消す。サイドの守備も改善されていて、特に右サイドはサカが内から外に押し出すようにプレスをかけつつ、後方ではセドリックが高い位置に捕まえに行く形。

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 ハーフスペースに降りてくる、もしくは上がってくるウルブスの選手に対しては、コラシナツ、ムスタフィの両選手が前を向かせないように捕まえに行く。10分のようにトラオレを逃がしてしまったり、22分のように前に出たものの、後方に通されてしまったりなどした場合はピンチを迎える。出ていくタイミングと出て行った時に確実に仕留めるのが重要だった。

 基本的には役割が整理されていた分、ムスタフィもコラシナツも出足が良く相手を捕まえることができていたと思う。成功率はなかなか。トラオレのマッチアップ相手を当たり前しなさそうなコラシナツにしたのは、非常に合点がいく。

 対角への展開も多かったウルブスだが、ボールが鋭いわけでも抜け出せているわけでもない場面が多く、アーセナルのWBがカットできるシーンが多かった。よって、トラオレが前を向けた数回を除けば、ウルブスにチャンスらしいチャンスはあまりなかった。

 アーセナルの守りたいゾーンははっきりしていたし、誰がどこを切ってどこに捕まえに行くのかがめちゃめちゃ整理されていた。アーセナルの守備、ちょーよくなったよ。一昔に比べたらすんごいよくやってるよ。

【前半】-(2)
ぶきっちょな頑張りへのご褒美

 アーセナルのボール保持に話を移す。アーセナル同様、ウルブスの非保持も締めるところを締めてじっと構える形である。彼らの特徴は中盤+前線の3-2の5枚で中央のスペースを閉じること。ジャカやセバージョスがここで持った場合は囲い込めるような構造になっている。

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 その分、空くのは2トップの脇のスペース。ここから持ち運べる勇気はあるか?というのが、ウルブスがアーセナルに課した試練である。コラシナツ、ムスタフィは試されているのである。

 前節のレビューで紹介した通り、ムスタフィはミスを重ねながらもこのお題目にはチャレンジを繰り返していた。

 徐々にこの試みは形になってきているように思う。決して華麗ではないし、探り探りな感じはするがここから持ち上がりつつ、セドリック、サカ、エンケティアへのパスコースを狙うチャレンジは引き続き評価したいところ。理想を言えば、裏を狙った走りを前線にはもっと要求したい。あわや、裏抜け一発で合いそうなシーンもあった。仮に、裏に出せなくても走るだけで表に出しやすくなるし。

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 ルイス、セバージョス、ジャカなど大きく前にボールを進めることができる選手が厳しくマークを受けている中では、このぶきっちょな右サイドからの前進がアーセナルの攻撃手段になっていた。

 裏へのあわやのパスが出始めるとなると、さすがにウルブスもムスタフィを捕まえに出ていかざるを得ない。基本はセバージョスとデートしていたモウチーニョが段々とムスタフィにスライドしていく。そうなると、セバージョスにはスライドの瞬間において時間ができるようになる。アーセナルの右サイドにおいて徐々にアーセナルの選手を捕まえに行くのが難しくなっていくウルブスであった。

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 前半終盤に奪い取った先制点のシーンは、サカが大外に張ることによってセドリックをフリーに。オーバメヤンを起点に逆サイドに展開するとティアニーからのクロスを受けたのはサカ。大外で張る役割をこなした後、エリア内に入り込んでフィニッシャーをこなすという点で100点。ティアニーのクロスも素晴らしかったが、何よりぶきっちょな右サイドからの前進が起点となったのが、頑張ったご褒美をもらった感があって個人的にはうれしかった。

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 前半は0-1。アウェイのアーセナルリードで後半を迎える。

【後半】
手段の目的化疑惑

 メンバー変更こそなかったものの、変更を施したのはウルブス。キーマンであるアダマ・トラオレを右の大外に張らせる役割に変更した。その分、高い位置を取るのはインサイドハーフのデンドンケル。右の外に逃がした分、アダマ・トラオレはボールを持てるようになった。

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 しかしながら、これが妙手だったかは微妙なところ。さすがのトラオレといえども、大外からだと脅威にならない。対面していたティアニーやコラシナツがよく対応していた上に、1人抜いたくらいではクロスを上げるのが関の山。PA内のバランスが整った状態では、アーセナルの脅威にはならなかった。51分のシーンのようにサイドからえぐれれば別だけど。65分の決定機は流れの中のカウンターでまったく別の話だし。

 デンドンケルが高い位置に常駐するなら、そこはそもそもアタッカーでいいやん!ということで彼に代わってジョタが登場する。追いかける展開だし、やりたいことに対しては理に適った交代だとは思う。

 とはいってもアダマ・トラオレにボールを持たせる手段が若干目的化しているような印象を受けたウルブス。むしろ、ジョタとジョニーのコンビがドリブルを開始する左サイドの方がアーセナルにとって脅威になっていた。徐々にハーフスペースへのアタックに行きにくくなったアーセナル。ジョタとジョニーが前を向けるようになり、ウルブスは徐々にチャンスを作れるようになる。これを考えるとトラオレは囮?と思ったけど、かなり後半の頭は固執していたからなぁ。

【後半】-(2)
ウィロックとベジェリンの投入で蘇る

 自陣右サイドから押し込まれていたアーセナルは右を手当て。ウィロックとベジェリンを投入する。この交代によってプレス強度が復帰したアーセナル。ウィロックに引っ張られるように、ジャカとセバージョスが前にプレスに出ていけるようになる。高い位置から奪いに行けるようになったアーセナルは、再びラインを上げられるように。ベジェリンの対人の強さが光ったこともあり、ジョタ、ジョニーのドリブルスペースは徐々に空かなくなってくる。

 ウィロックはカウンターでも前への推進力を見せる。守備ではMFとして後退し、攻撃では運び屋として前に出る形。ちなみにオーバメヤンはサイドの守備を免除されていなかったので、アーセナルは5-3-2というよりは5-4-1を維持したブロック守備だったように見えた。

 息を吹き返したタイミングでラカゼットとトレイラを投入したアーセナル。カウンターの局面が徐々に増えてくると、仕上げはウィロック⇒ラカゼットのラインの追加点。ラカゼットは実に2019年2月のハダースフィールド戦以来のプレミアでのアウェイゴール。今、ファンが最もゴールを待っていた選手の得点で試合の勝敗は完全に決した。

 試合は0-2で終了。難所、モリニューを攻略したアーセナルが今季初のアウェイゲーム連勝を飾った。

あとがき

■さすが!となぜ?

 堅いブロックと前線の強力な武器でアーセナルと対峙したウルブス。アーセナルはブロック攻略にだいぶ手を焼いたし、中央を締めるスリーセンターの精度と連携はさすがであった。しかしながら、アダマ・トラオレのサイドへの移動はどうだったか。アーセナル目線で言えば、中央にとどまられたほうがだいぶうっとおしかったように思う。

 あとはヒメネスを使った攻撃が意外と少なかった。ジョタとトラオレのドリブルからチャンスがないこともなかったが、アーセナルの粘り強い対応に屈したように思う。

 まだまだ欧州カップ出場権争いは続く。固定気味のメンバーの蓄積疲労はやや気がかりだが、最終盤までプレミアリーグを盛り上げる存在として残り5試合を走り抜けたいところである。

■続けたチャレンジで石を積む

 いやー、よくやった。ノリッジ戦で改善が見られた守備は「最下位が相手だったから?」というエクスキューズを払しょくできたし、オーバメヤンとサカはCHの行動範囲が広くならないように、後方を気にかけた守備ができていた。素晴らしい。

 右サイドのボール保持もそうだけど、うまくできなくてもチャレンジし続けたことに進歩がみられると本当にうれしい。進歩の成果が今季からっきしダメだった上位勢とのアウェイゲームで目に見えるというのはなおさら素晴らしいことだ。

 もちろん、アーセナルはまだマンチェスター・シティのようになったわけでもリバプールのようになったわけではない。まだまだできなかったこともある。他のファンから見れば、せいぜい石を1つ積み上げた程度に見えるかもしれない。けれど、ここ数年苦しんだアーセナルを見守ってきたファンは、急にチームが強くはならないことを知っている。モリニュー・スタジアムで積み上げた1つの石は我々にとっては非常に大きな一歩なのだ。

試合結果
2020/7/4
プレミアリーグ
第33節
ウォルバーハンプトン 0-2 アーセナル
モリニュー・スタジアム
【得点者】
ARS:43′ サカ, 86′ ラカゼット
主審:マイケル・オリバー

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