MENU
カテゴリー

「嬉しい初勝利と2つの課題」~2019.3.31 J1 第5節 松本山雅FC×川崎フロンターレ レビュー

スタメンはこちら。

目次

【前半】
2つのかごと安全地帯

 大方の予想通り、試合はボールを持つ川崎とそれを受ける松本の構図で始まった。CB2枚とCH2枚の川崎のビルドアップに対して、前線3枚とCH2枚でプレスをかける松本。CHはCH同士でがっつり捕まえに行く形というよりは、前線とCHの間でボールを持つ選手に対してはかごのように囲い込みを行うイメージだった。川崎はCHの片方が最終ラインに入る形で松本の前線に対して枚数をそろえることが多かった。

 中央のマークがきついカゴ作戦。プレス耐性がべらぼーに高い大島がこの日も不在な川崎が、ビルドアップでサイドを経由したくなるのは当然の流れ。

 しかしサイドにボールが渡ることまで、松本は織り込みずみだったように見えた。というかむしろそこが狙い目といってもいいだろうか。松本のプレスが一層強くなったのは鈴木雄斗がボールを持った時だった。ここでロストする場面が9分までに3回くらいあるのだが、非があるのは鈴木だけではない。右のCBである奈良がわかりやすくゆっくりとしたタイミングで鈴木にパスを出すのも一因。奈良が相手を引き付けてからゆっくりパスを出すため、マークに寄って行ったセルジーニョは奈良→鈴木のパスが通った後に、奈良へのリターンパスを消しながら鈴木にプレスに。きついプレスがいるとはいえCHはパスコースを作れず。家長は裏に抜ける動きがメインだが、鈴木に素早く寄ってくる高橋が邪魔で、前にそもそもパスはできない。元々判断が遅く、トラップが流れやすい鈴木はさらに選択肢も限られたような状態になっていた。というわけで序盤はここが松本のカウンターの温床に。

 中央と右でかごができている中で比較的安全にボールを運べたのは川崎の左サイドだった。ビルドアップにおいては阿部が幅を取ることによって相手のWBをピン止め。そのおかげで登里が自由を享受していた。中央、右サイドの2つのかごが形成されている中で、ここはビルドアップにおける安全地帯となっていた。高い位置までボールを運んでも、ポジション取りが工夫できる阿部と登里はレーンわけができていることが多く、ボール保持で危なっかしさを見せた右よりはいい出来だったと思う。この2人はレーン分けが意識できる縦関係ナンバーワンユニットです。8分のシーンはこの縦関係だからこそ。エリア内に斜めに走りこむ阿部がより効果的だったのは大外にいる登里がいることも効果が抜群。クロスするような動きでフリーになった知念も見事だった。点は決まらなかったけども。

 ちなみに阿部が中に絞る時は、松本のWBは登里にマークに行けるけど、こういう場面はサポートに谷口が行くことで解決していた。なので左サイドはユニットとしてとてもよかった。
それにしても登里は本当にいい。内側のレーンでプレーできるようになったことは以前から触れてきたけど、ビルドアップに顔出したと思ったら、攻撃が加速するタイミングで攻め上がり、相手のPAのサイド付近までオーバーラップをする。そのバランス感覚は絶妙。後述する先制点も彼のオーバーラップがあってこそ。

 そして阿部は相手から離れることと、相手の間に立つのがうまい。個人的にはブロック守備の攻略法は「相手に判断を迫り続けて、エラーを起こさせること」だと思っている。例えば、選手Aはマークを渡したつもりだけど、選手Bはそれに気づかすに放置してしまうとか。このエラーを引き起こすのが阿部はとてもうまい。

 ビルドアップだけでいえば、左サイド以外にも主に家長が手助けにやってくることで、プレスを回避できる部分はあったけども、彼が降りてくる分上がっていく選手がいない。なので上で述べたような「エラー」は起きにくく、前進した後の形がうまく作れないまま知念への負担がただ増えていく形に。ちなみに憲剛が落ちてくるのはいつもより少なかった気がした。
川崎の右サイドは前進した後も課題の積み残し感があった。多角形は形成するが、中盤中央の選手+家長、鈴木の多角形はマークの受け渡しを強いるような動きが乏しくぐるぐる回る程度の効果しかなかった。大外でフリーになることが多かった鈴木のクロス精度もイマイチで連携から右を崩した場面は多くなかった。守田の球離れの遅さも序盤は目についた。

 ロジカルにボールを運べる左サイドとちぐはぐな右サイド。それでも得点は右サイドの突破から入るから不思議なものである。個人技を見せた家長の突破から、流れたボールはタイミングよくオーバーラップした登里のもとに。知念のヘッドで先制した。知念、エリア内の動きうまくなっただろうか?相手のマークを外す機会が増えてきた気がする。

 上に触れた以外の場面で気になったのは、ボールを奪った後の松本の動き。「俺たちにもレアンドロはいるんだぜ!」っていうレアンドロ・ペレイラへのグラウンダーのパスとハイボールが松本の前進のメインの手段だったんだけど、結構それが発動するまでにショートパスをつないでいたのは不思議。プレビュー書くために見た大分戦でも割とそうだったけど。結構危ういパス回しで川崎のカウンターの餌食になる場面はあった。相手からのハードなプレスはまだ少し苦手な守田と田中も、相手にプレスをかけるのは上手なのでネガトラの部分でのボール奪回で彼らは目立っていた。ガンバ大阪と違ってボールを捨てるのが少しうまくなかった気がする。そこは不思議だった。

【後半】
徐々に変化を見せる右サイド

 ボールをもつ川崎、追いかける松本という大枠の展開としては変わらない後半。両チームで前半と違うところは見受けられたけど。例えば、川崎は序盤に見られた鈴木雄斗を経由するビルドアップはあまりなかった。前半からみられた登里のビルドアップ参加に対しては、松本のWBが気合を入れてプレスにいくぜ!安全地帯を許さない!っていう気概は感じた。たまにパウリーニョもサイドのプレスまで顔を出すこともあった。人についていく意識が強かっただけかもしれないけど。川崎は阿部が低い位置のハーフスペースに顔を出して多角形を作る形で対抗。中央のかごの中にとらわれていた守田や田中も徐々に慣れてきて前を向いて楔を入れるシーンは増えていった。時間がたつとともに松本のプレッシングは効力が薄れていった印象で、川崎のボール保持時の前進がうまくいくことは多くなっていった。

 松本側の変化としては、深い位置から長いボールでレアンドロ・ペレイラをめがける展開から、相手のプレスをずれを狙いながら前に進む狙いにシフト。特に仕組みの上で空きやすかったのはWBで、CBは川崎のSHを引き付けつつ、WBに出す形で前進する場面はちらほら。前半の川崎の保持で鈴木がつかまった形だけど、3バックのWBが撃退に出てきた非保持の松本に対して、非保持の川崎は相手の3トップに対して4バック。4バックのSBが決め打ちでWBに出ていくのは結構リスクが伴うので、どうしても遅れるのは仕方ないかも。松本は前進した後もCBがサポートするなど積極的な攻撃参加を見せたが、サイドの連携からクリティカルな崩しまでは至らない印象だった。

 そんな状況で試合にとってクリティカルな一撃を決めたのは川崎の方だった。エリア内で達人みたいな間合いでボールを持つ家長と、遅れてエリア内に飛び込んできた守田に引っ張られた松本の守備陣。人が引き寄せられることで空いたバイタルからミドルシュートを放ったのは阿部浩之だった。

    1点返せばわからない状況ではあったものの、プレビューでも書いた通り松本は得点が遠い。塚川や杉本を投入するが、ボールの収まりどころになっていたレアンドロ・ペレイラと縦横無尽にボールを受けに奔走していたセルジーニョが下がってしまった影響もあり、なかなかボールも持てず。終盤に高崎が入って再びハイボールを割り切って始めたり、エドゥアルドがガンガン上がってきたりしてたけど、こっちの方が可能性はあったように感じた。

    ちなみに川崎は最後にカイオ・セザールがお目見え。結構わーわーしてたら終わってしまったので、プレースタイルはちっともわからなかった。実況の桑原さんが「でかい!」って言ってたのだけは記憶に残ってるぜ。
というわけで試合は0-2で川崎の勝利。待望のリーグ戦今季初勝利だ。

まとめ

 これでリーグ戦は3連敗。直近の310分はゴールがない松本。得点に向けたバリエーションが乏しい現状はこの試合でも見受けられた感じ。続出している怪我人や、この試合で怪我から復帰したレアンドロ・ペレイラのフィットでなんとかリカバーしていきたいところだろう。この試合に関して言えば、セットプレーでもう少し川崎を脅かしたかったんじゃないかなというのが率直な感想。高崎とペレイラを併用してWBからのクロス爆撃とか面白いかなと思ったけど、まだペレイラは90分プレーは難しいのかもしれない。仕方ない部分も多いのかもしれないけども、本文中でもふれたボールを低い位置で回した結果、ペレイラに長いボール蹴るっていうのはリスクと収支が合ってない感じはした。現状では先制されるとかなり苦しい。初のJ1残留に向けてここから修正していきたいところだろう。

 川崎のこの試合の第一の目標が勝ち点3であったことに疑いはないので、それを達成したことはまずはハッピーである。終盤に今季不調だった家長がやや復調した形を見せたのも好材料。本文中でめっちゃ褒めた阿部や登里は素晴らしかったし、知念も存在感を発揮。エリア内での巧みな動きは徐々に増えてきたし、ポストは相変わらずうまい。開幕から改善したところといえば、ボールが来ないで焦れてしまい、降りて受けることが減ってきたことだろう。高い位置で彼が我慢しながらボールを引き出すことで川崎は深さを作れていたし、間受けが得意な中村や阿部が活躍するスペースを創出していた。チームとしてそれぞれの長所を生かすシーンは徐々に見えてきた印象だ。

 ただ、積み残しの課題も依然ある。1つはビルドアップの経路だろう。川崎のプレーの肝は「使いたいスペースを選び取れること」だと先日の記事で書かせてもらった。

    この試合は左サイドからの前進はうまくいったといえるが、右サイドからの前進が同じように機能していたかは微妙。右サイドからの前進がうまくいかなかったために、左サイドからの前進を選び取らされた形ともいえなくはない。この試合では後半に守田や田中が徐々に中央に受けれるようになったので問題はなかったが、前節のG大阪や次節当たる昨季のC大阪など、片側に寄せるような守り方をするチームが相手だと、サイドに閉じ込められて困難に陥る可能性はある。この試合では阿部や登里など気が利く選手のポジショニングや後半は家長のキープや打開力で何とかしていたが、個人スキルへの依存度が高いと苦しんだ3月シリーズに逆戻りする可能性も否定はできないだろう。これはサイドバックの人選だけの問題ではないはずだ。

 もう1つはCHのタスクオーバーだ。田中と守田はいいパフォーマンスだったと思うが、共に終盤足を気にする素振りを見せていた。守田は負傷明け、田中は90分でのJ1のプレーに慣れていない(去年の知念がそうだったように)など差し引いて考えないといけない部分もあるものの、休養たっぷりの中断明けの試合で2人のCHが共に終盤足を気にする状況はやや気がかり。大島も負傷が多い選手であるし、ここで今季起用されることが多い中村憲剛も運動量に限りがある。横浜FM戦のように終盤でCHが押し上げられなかったことが勝ち点を失った一因である試合もあるし、ここは引き続き懸念点になるだろう。

    ここから連勝を重ねて、タイトル争いに舞い戻るためにはまだいくつか調整すべき課題がある。初勝利の喜びと共に、そんなことをかみしめるような試合だった。

試合結果
2019/3/31
J1 第5節
松本山雅FC 0-2 川崎フロンターレ
【得点者】
川崎:44′ 知念, 64′ 阿部
松本平広域公園総合球技場 サンプロ アルウィン
主審:山本雄大

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次