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「逃げ場としてのロングボール」~2025.4.20 J1 第11節 川崎フロンターレ×東京ヴェルディ レビュー

プレビュー記事

目次

レビュー

プレスを回避しきれなかった理由

 川崎にとってACL前の7連戦の最後の試合。ホームに東京Vを迎える一戦で勝ち点3と共に景気よくサウジアラビアに向かうための90分にしたいところだろう。

 川崎のメンバーは直近のプレータイムが長い選手を継続。前線で山田と家長を入れた以外はスターターが続いている選手をこの試合でも起用。一方の東京Vもミッドウィークのルヴァンカップで120分消耗した選手を考慮しつつメンバーを組んだ形だ。

 東京Vは5-4-1にであるものの、プレスの矢印としては前向き。3トップはナロー気味に組みつつボールサイドにスライドすることで圧力をかけていく。東京Vはボールサイドへのスライドをきっちり行ってはいたが、枚数的には足りていない部分もある。前が漏れた時の後方のスライドも少し甘く、この点は十分に保持側がボール回しで突けるギャップができていた。

 例えば、左のWBの翁長のところはこの点が顕著。翁長が家長によって位置を決められている状態で、高井に新井が食いつくと佐々木の位置が空く。佐々木のスキルを考えてもこの形を組めれば川崎は問題なく前進が可能だろう。

 あるいは仮に新井を食いつかせるのが佐々木の役目になったとしても、CHがサイドに流れれば相手に駆け引きを強いることが出来る。41分のシーンのように河原がサイドに出てくると平川が同じくサイドに流れる。山本、脇坂をここで利用できれば川崎は東京Vの中盤を蹂躙することができるはずだ。

 しかしながら、東京Vのプレスを向こうに回した際に、川崎はボールを逃がし切ることができなかった。理由はいくつか考えられる。

 まずは川崎の左サイドはこうしたズレが生み出すことが出来なかった。WBの宮原のスライドは早かったし、マルシーニョもあまりこのサイドの裏を抜けるような縦に引き出す動きもなかった。インサイドの山本が浮いている瞬間はあるが、三浦はまず裏を見ていたので、裏に誰もいないことを把握した時にはもう相手の寄せが間に合ってしまう。

 右サイドは翁長が高い位置の家長を意識している分、こうしたズレを作れる土壌があった。こちらの問題は固定する側の家長が低い位置に降りてこようとしてしまうこと。基本的には固定する家長によって浮いた佐々木をどう捕まえるか?から始まるはずなのに、家長が降りることによって、翁長が家長と佐々木の両方を管理することが容易くなってしまう。

 家長からすると追い越すアクションを誘発するためだったのかもしれないが、佐々木のキャリーに任せていい場面だと思う。この試合の川崎の傾向を考慮すると、前に人が足りなくなることが多かったので、そういう意味でも家長が下がらずに済むところは後方に託したいところだった。

ままならない両軍のチャンスメイク

 もう1つビルドアップにおいて気になったのは山口を絡める頻度が少なく、高井が広がる形をあまり多く作れなかったこと。山口をパスワークで絡めなかったのは風の要因ではないか。川崎のGKは誰であれショートパスからつないでいくところに優れているわけではないので、ショートパスで組むにしてもロングボールという逃げ場が欲しいところ。

 ところが、この試合の前半は川崎陣内に向けて強烈な向かい風が吹いており、ロングボールの距離が出なかった。実際に長いボールを蹴った際にもかなりボールは押し戻されていたし、つなぐ陣形の時に相手ボールになってしまうロストはかなり危ういカウンター対応になっていた。

 仮に風の問題をクリアできるボールを蹴ることが出来たとしても前線の山田はなかなかボールを収めることが出来ず。おそらくは相手を抑え込みながら飛ばさせないまま体を入れ替えて反転!とかのイメージだったのかもしれないが、結果的には相手に先に飛ばれてしまって跳ね返される時も多かった。

 結果的にはロングボールというセーフティネットがないことによって、ショートパスがプレスに捕まりやすくなり機能不全を残している。個人的にはショートパスで組み立てるチームにおいて長いボールの逃げ場があるかは重要だと思っていて、この試合はその重要度が実証される内容になったと思う。

 というわけで川崎はチャンス創出に苦戦。仮に前にボールが届いても、手前の部分で家長が関与することが多いため、前に人数が足りなくなるケースが頻発。2分のマルシーニョがアウトサイドパスから山田にラストパスを送った場面のように、バレていても間に合わないケースを作るしかチャンスの作りようがない。

 それだけに9分の山本のボール奪取からの脇坂のカウンターの場面は残念だった。4対3の場面という速攻で、素早く山田にリリースしてしまうという判断はもったいない。去年遠野にも散々指摘したが、ホルダーが自分の足を埋める前にリリースすればより難しいプレーを成功させる必要が出てきてしまう。

 この場面であれば山田の左側にいる林が山田にフォーカス(谷口は家長を気にしながら山田をケアしている)状態なので、脇坂は林につっかけるようなドリブルをしつつ、彼が止まったら山田が背中を使うのが理想。

 仮に谷口や千田が裏抜けに合わせて絞るポジションを取るのであれば、外に開く家長かマルシーニョを使えばよい。

 うまく行く行かないはおいておいて少なくとも、こうした駆け引きはしてほしかったところ。駆け引きせずに狭いところに突っ込んでいくということは避けてほしかった。体も頭もつかれているのはわかるけども、少ない状況をより良くすることで勝ってきたのが今季の川崎なので。

 相手を動かしながら前進するという点では川崎よりも東京Vの方ができていたように思う。主に左サイドで家長を手前に引き出しつつ、奥をズラしていく形は川崎の往年の攻略パターン。高井、佐々木のスライドで後方のブロックをカバーするというDFの能力マターによる防衛となっていた。

 中央ではCHの縦関係の構築で川崎のCHに先手を取る形も。構造を利用してショートパスから一歩先にいくことは東京Vの方ができていたといっていいだろう。

 誤算だったのはアタッキングサードにおける丁寧さの欠如という点では川崎とクオリティがそこまで変わらなかったこと。このパスを通せていればというシーンを通せずにことごとく台無しにしてしまうことが非常に多く見られた。

 木村へのロングボールも昨季ほどは効いていなかった印象。予習でも感じたところなので、今季はそういうパフォーマンスなのか、あるいは追い風なら追い風でやりにくさというものがあるという可能性もある。

 ということで前半は得点どころかシュートすらままならなかった両チーム。スコアレスでハーフタイムを迎える。

決め手は最後まで迷子

 東京Vはメンバーを2人入れ替え、川崎はメンバーをキープした立ち上がり。川崎にとっては向かい風が収まるサイドにエンドが変わったことが前半からの最大の変化である。

 東京Vは逆にマテウスのロングボールが跳ね返される現象にさいなまれるように。ただし、立ち上がりの一発目はそれでも前線がボールを収めて敵陣に侵入。セットプレーから谷口がチャンスを迎えた。

 東京Vは前半を見ていても思ったのだが、セットプレーが狙い通りいっている割には決まらないのがもったいないところ。このシーンの谷口も前半の16分のファーに抜けるボールもデザインされたもののように見える割には完成形があまり見えてこないというか。裏をかくところの先に行けていない感じがする。

 川崎は後半の頭もトランジッションから山本がパスの出しどころが見つからずに速攻のチャンスを潰してしまったりなど、重さ起因の不振さが前に出る立ち上がり。しかしながら、50分が過ぎたところで徐々に東京Vのプレスを見切れるようになりスムーズな前進に成功。後半になってようやく左サイドの三浦が攻めあがれるようになる。

 ただし、攻めあがった三浦の破壊力は据え置き。サイドを抉らずに早い段階で上げるクロスの精度はイマイチ。上がるのに時間がかかるこの日の川崎の前線との相性も悪く、あまり効果的な攻め上がりができていなかった。

 逆に右サイドは落ち着いたポゼッションから枚数をかけた攻撃が効果的に繰り出せるように。出るのがわかっていたとしても防ぎにくい河原の急にテンポを上げるスルーパスはとてもいいアクセントになっていた。58分手前のシーンは脇坂ではなく、バイタル手前の山本を使ってほしかったけども。

 ただし、この川崎の右サイドはトランジッションからピンチに陥ることもしばしば。自陣への戻りが間に合わずにピンチになることも。後半頭から入った山見の鋭さはこの点では明確に脅威になっていたが、後半途中からハイプレスがかからなくなったことを問題視した城福監督はインアウトでの交代を選択する。

 交代で言えばエリソンを投入した川崎はファストブレイクの手段を手に入れた。78分の山見のカットインからのピンチを防いだ直後にマルシーニョと2人で持って行った場面はさすが。決め切るところまでは持って行けないが、河原のスルーパスのコントロールに迷いが見られた山田との差は感じられる体のキレだった。

 川崎は前線の入れ替えから再び高い位置でのチェイシングに行くが、ハイプレスは明確には刺さり切らず。山見の交代以降は前線への推進力を失った東京Vもプレス回避から加速ができない状態に。

 最後まで互いの攻撃における決め手を備えることが出来なかった両チーム。納得のスコアレスドローで勝ち点1を分け合う結果となった。

あとがき

 しんどい中で勝ち点をあげて行かなきゃいけない試合になることは明白ななかで川崎はまたしても勝ち点を積むことが出来なかった。シーズン序盤は入れ替えが多かったメンバーも固定化が進み、三浦など出ずっぱりなスターターのクオリティの低下につながることとなった。

 難しいのは固定化に異議を唱えたくなるほど、入れ替わったメンバーが納得感のあるパフォーマンスを見せられなかったことだ。新たな主力の台頭どころか、伊藤や山田といった開幕時は大活躍が期待できたメンバーが徐々に存在感を薄めているのは深刻で、この部分が長谷部監督の選択肢を狭めているのは明白だ。

 特に山田は正念場だろう。昨年は「どうなの?」と言いたくなる判断も少なくなかったが、ゴールに向かう動きに迷いがなかったのも確かである。今年はちょっと受けてからどうしようかと考えているうちにボールをかっさらわれてしまう場面も少なくない。どういった部分が不調の原因なのかは難しいところだけども。

7連戦で勝ち点10は相手を考えるともう少し乗せたかった感じがあるが数字としては悪くない。過酷なスケジュールを乗り越えた安堵がある一方で、戦力が先細りな運用になったことは不安要素。乗り越えた以上のものは得られなかったように見えるが、それをサウジアラビアの地で覆したいところだろう。

試合結果

2025.4.20
J1リーグ
第11節
川崎フロンターレ 0-0 東京ヴェルディ
U-vanceとどろきスタジアム by Fujitsu
主審:池内明彦

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