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「重馬場にキラリ」~2025.6.14 J1 第20節 横浜FC×川崎フロンターレ レビュー

プレビュー記事

目次

レビュー

落ち着かない展開での差別化

 後半戦のスタートとなる一戦は横浜FCとの対戦。川崎は2年前に敗れたアウェイの地で勝利を飾り、後半戦を今年初のシーズンダブルでスタートしたいところだろう。

 序盤はロングボールの応酬。まずは縦に抜けるボールを当て続けるという落ち着かない展開だった。攻撃の方向性ももちろんのことだけども、守備側の前からのプレス制限の姿勢が保持側に影響を与えていたことも確かである。

 そうした状況の中で差別化を図ることが出来ていたのは川崎のCH。相手に捕まる前の素早いリリースでボールを逃がし、大きな展開を作り出していく。さすがというべきか山本と大島のCHコンビであればここで差別化できないでどうする!というべきかはわからないが、少なくともこの部分が横浜FCにない要素だった。。

 川崎が良かったのはマンツー気味に捕まえに来る横浜FCに対して、CHのボールスキル以外にも解決策を準備していたこと。川崎は横浜FCのCHの背後のスペースにSHのマルシーニョや伊藤が入り込んで、CBからの縦パスをレシーブする形からも陣地回復を狙っていく。

 このパスは横浜FCのCHが川崎のCHをきっちりと警戒してくれなければ始まらない。引いて受けるアクションをフリにするには川崎のCHが放っておいたら怖いという印象を植え付ける必要がある。山本と大島はそれに向けての十分な働きをしたといっていいだろう。

 後方の選手たちは目の前の相手を剥がすアクションでも活躍。12分のシーンの山本と佐々木は体の入れ替えから見事にシュートまで持っていった。

 というわけで徐々にボールを持つ時間を増やしていったのは川崎。ポゼッションの機会を増やしていきながら、敵陣でのプレータイムを増やしていく。惜しむらくはよりナローなスペースにおいてのサイド攻略がそこまで機能しなかったこと。

 ここでもCHが影響力を抜群に発揮してくれれば文句はなかったが、連携面でもコンディション面でもまだフルパワーというのは難しいだろう。大島に関しては時折輝きを見せる場面もあったが、低い位置でのミスからカウンターの決定的なピンチを招いてしまうなど、まだフルに整ってはいないなという感じ。記事の時間軸的には少し先の話だが、60分までのプレータイムというのはある程度計画されていたように思う。

 後方からの長いボールに関してもこれまでの試合では武器になっていたが、この試合ではそこまで。前線の収める力がなかったというよりは後方からのパスワークが合わず、近頃は抜群だった長いボールからの攻勢は鳴りを潜めた感がある。

環境変化への対照的な対応策

 一方の横浜FCは序盤に保持の時間を確保することが出来ない苦しい立ち上がり。川崎の押し込む攻撃に対して、ルキアンを始めとするロングボールで回復を狙うが、よくて敵陣に運ぶところまでが一杯。

 きっちりとした形で敵陣に進むには後方でサイドに大きく川崎の守備を揺さぶり、中央のポストなどを起点に横断。逆サイドのWBのオーバーラップの活用ができないと難しい。そうしたパスワークはあまり頻度が高くない。

 10分過ぎからは保持からの時間を作っていく横浜FCだったが、20分を過ぎると保持の主導権は川崎。高い位置をキープするためにCBのデュエルが冴え渡り、押し込みながら勝負を仕掛けていく。

 それでもこの日の前半の川崎はもう1つが足りない。奥を取った後にもう一度手前を使うための工夫とか、2人がいっぺんにボールにアプローチしてしまうという事故的な詰まり方をしてしまったりなど、アタッキングサードのスムーズさは期待されていた以上のものにはならなかった。

 30分になると少しテイストが変わり、重馬場の中でのオープン合戦に試合は変貌した感がある。横浜FCのロングボールは少しずつ刺さるように。ルキアンと鈴木が縦関係に並ぶなどそれ以前までにはなかった工夫が見られた。川崎だと家長の得意技である。

 前線にボールが収まりさえすれば山根や駒井といった選手たちの飛び出しも効いてくる。ピッチが重く大きな展開の走り合いっこであればこうした武器はより生かしやすいシチュエーションだ。

 逆に川崎はあくまでもこの日のメンバー構成を生かした特色で勝負。39分手前の佐々木の大きなサイドチェンジや、前半の追加タイムにおける2人のCHのパスワークは見事。特に後者のシチュエーションにおける山本→マルシーニョのパスは絶品。重くなったピッチなどは関係なく、抜群のコースを攻撃のスピードを落とさない状況を作り出す。

 正直に言えば展開的には山本-大島のセットの持ち味は出しにくい環境だったように思う。オープンな攻防は続いていたし、パスもきっちり転がらない。頻度は少なかったが、彼らを起用する意味は確実にあることを証明する前半の終盤となった。

花道を進むスーパーゴール

 後半、川崎は前回の横浜FC戦の前半のような苦しい立ち上がり。横浜FCは左サイドから3人が縦に並ぶ奥行きを使ったポゼッションを見せたり、あるいはCHを振り回すような右サイド起点のパスワークから川崎の陣形を後手に回し、駒井のシュートが枠をとらえたりなど惜しいシーンが続く。

 ハイプレスに出ていっても見事な脱出を見せる横浜FC。この時間帯は川崎がなかなかペースを掴むことができなかった。そうした中で川崎の保持はファストブレイクよりのトライ。山田のポストやマルシーニョの裏抜けなど、前半のような中盤の足技から前線の馬力を生かした前進の方法で劣勢の状況を打開しにいく。

 しかし、面白いもので川崎が横浜FCを打ち崩す最後の決め手になったのは中盤のスキル。中盤でボールを奪った山本がそのままボールを運ぶと、自らのシュートでフィニッシュ。この場面でも重馬場を感じさせない軽やかな一連のプレーで山本が先制点を奪い取る。

 手放しで川崎のゴールを賞賛したいところだが、この場面は横浜FCの守備の脆さも気になるところ。まず、川崎から見て右サイドへのロングボールに競るのも、左サイド側の山本のドリブルを追うのもどちらにもユーリ・ララが関与しており、この間山田はララが横切るのを見ているだけ、競り合いかホルダーを止めにいくアクションかのどちらかでも山田が引き取ることができればまず山本はこんなにドリブルで加速することはできていないはずだ。

 山本が加速した後の山根と山﨑の対応もいただけない。どちらもどこか背後のマルシーニョに出ることを決め打ちしているかのような守り方しかできず、山本が右足でドリブルしてシュートを打つコースを全くケアできていない。ホルダーがフリーでシュートまで行けるのであれば保持側としてはこんなに楽なことはない。山本の素晴らしいゴールは横浜FCの脆い守備によって敷かれた花道の上を歩いたようなゴールだった。

 この時間帯以降、延々と横浜FCはサイドから押し込んではフリーでクロスを上げる場面を作ることはできていた。その一方でクロスそのものの精度は明らかに割引だった。おそらくは足元が悪いピッチの中でいつものようにクロスを上げることができなかったのだろう。

 クロスの名手が揃っている左サイドからは素晴らしいボールが上がってくるはずなのに、この日はそうではない。川崎も家長や小林といった前線の選手たちを入れ替えてもペースを握り返したとは言えなかったが、押し込まれている時間がこんなにも長いにも関わらず、被シュートは0。横浜FCは最後までゴールに辿り着くことができず。試合は川崎が逃げ切りでシーズンダブルを達成することとなった。

あとがき

 相手にゴールを許さないことと、ボールを相手のゴールに入れることの難易度は基本的には後者の方が高いし、荒天であればその難易度の差はさらに広がるというのが個人的な考え。横浜FCのプランはそうした難易度の乖離が比較的小さいものであると思うが、それでもこの試合の後半ははっきりと目に見える影響を受けたという感じだ。

 その乖離が相対的に大きなものになるであろう川崎が仮にこの試合で追いかける展開になったら、より影響は甚大なものになる。そうした流れを回避したのはもちろん先制点。重馬場にキラリと光る山本のプレーが過酷な環境で点を取らないといけないというプレッシャーを横浜FCに押し付けるトリガーになったのは明らかだ。

試合結果

2025.6.14
J1リーグ
第20節
横浜FC 0-1 川崎フロンターレ
ニッパツ三ツ沢球技場
【得点者】
川崎:58′ 山本悠樹
主審:上田益也

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