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レビュー
前線は幅ではなく奥行き勝負
クリスタル・パレスのFAカップ準決勝進出により、ミッドウィークにスライドした第34節。パレスはウェンブリーでアストンビラと、アーセナルは来週の火曜日にエミレーツでパリとそれぞれ今季の命運を決めるカップ戦準決勝を控えての一戦となる。
試合は落ち着く前にスコアが動く展開に。左サイドでファウルを奪取したアーセナルがFKからゴールを奪う。先制点を決めたのはキヴィオル。近くにいたエンケティアがマークをあっさりと外してしまい、 あっという間にアーセナルがリードを生み出す。
ただし、序盤でセットプレーに可能性を感じさせたのはパレス側も同じ。CKのこぼれからミッチェル→ムニョスのファーへのクロスにはアーセナルは警戒をすることができなかった。もっとも、アーセナルもこの攻撃をカットしたラヤがカウンターを狙っていたけども。
試合が落ち着くとボールを持つのはアーセナル。ビルドアップはいつも通りアンカーのトーマスをSBのルイス=スケリーとIHのウーデゴールがサポートする形となっていたが、この2人のパフォーマンスはやや不安定。パスを引っ掛けてしまうなどで流れを作ることができない。
アーセナルはそれでも自陣深い位置から試合を組みたてていく。パレスの守備陣を誘引し、縦に間延びさせてギャップを作りにいく。特に狙っていたのはシャドー。ややナロー気味に立つパレスのシャドーに対して、インサイドとアウトサイドを使い分けることでマークを外して前進する。
大きく動きを見せていたのはトロサール。サイドの低い位置に落ちることでボールを引き出しにいく。この日の3トップは幅よりもこうした縦の揺さぶりに終始をしていた感がある。トロサールが低い位置に落ちるのであれば、マルティネッリやスターリングは絞りながら前でロングボールを受けにいく。時には背後に抜けるアクションからウーデゴールなどから裏へのパスを引き出していく。
高さを使ったギャップに関しては悪くはないが、幅をうまく使えないという弊害もあるこの日のアーセナル。22分には右サイドからややインサイドに入る動きから横断を狙っていたが、マルティネッリが絞ってしまったせいで幅を使いきれなかった感がある。ライスのミドルも悪い選択肢ではないけども、この場面ではライスが結果的にミドルを撃つにしても横断をし切ったほうが良かったと思う。
沈黙の展開を強引に動かす
アーセナルは自陣にパレスのプレス隊を引き付けながらパレスの陣形を縦に間延びさせるトライをしていた。それに対して非常によく対応していたのはパレスのバックライン。特にライン間で受けようとするアーセナルの選手に対してのCBの潰しは非常に効いていた。
アーセナルが強引にライン感を活用しようとすれば、カウンターに移行することができる。ラクロワやレルマといったバックスの潰しはパレスの攻撃の起点にもなっていた。
攻撃に移行すると、幅を使うアクションからゆったりとポゼッション。リードをしたこともあり、やや低めに構えるアーセナルの4-4-2に対して、ピッチを広く使って前進をしていく。
押し下げることに成功したパレスはこちらもセットプレーから同点ゴールをゲット。ボックスの外に構えていたエゼが技ありのシュートを見せてアーセナルのゴールをこじ開けることに成功する。
このゴールによってアーセナルのリズムは悪くなった感がある。アタッキングサードには進めずに手前やライン間への縦パスで引っ掛けるシーンが増加。パレスはライン間の潰しから素早くサイドにボールをつけることで、カウンターからチャンスメイクを狙っていく。
苦しい時間帯に輝いたのはキヴィオルだ。20分のシーンでは逆を取られてサリバにお尻を拭いてもらったが、それ以外の場面においては軒並み冷静に対応。レアル・マドリー戦から続く好調をキープしているパフォーマンスをこの日も遺憾無く発揮した。
ただし、前から出ていく積極策はパレスにとっては時間限定。徐々にパレスは5-4-1できっちりと低い位置に構える守備に移行する。アーセナルもこれに対して、強引な姿勢は見られずに試合はゆったりとしたテンポに変化をする。
この時間帯はアーセナルの裏抜けがめっきりと減っており、ライン間をコンパクトにキープするアーセナルにとっては攻略の糸口を見つけにくくなっていた。この日のパレスのDF陣の潰しの精度を考えると、とりあえず縦パスを入れるというアクションはリスキーなものになる。パレスも攻撃に転じることを踏まえると、低いライン設定は諸刃の剣感がある。どちらのチームもチャンスを作れない展開が延々と続くこととなる。
停滞した局面を強引にこじ開けたのはアーセナル。きっかけとしてはここしかない!という感じで、ティンバーがエゼのマークを外してブロック内に侵入すると、わずかなコースを通してトロサールに横パス。近頃得意な2枚のDFに対しての駆け引きからゴールに持っていく。ラクロワが右足側を切っていることを踏まえれば、レルマには左足を切って欲しかったところだろう。
停滞しそうな展開を強引に動かしたアーセナル。リードでハーフタイムを迎える。
再びの沈黙をマテタが破る
迎えた後半は非常にドタバタとしたスタート。ミス絡みからのトランジッションが頻発し、攻守がスピーディに切り替わる展開となった。アーセナル陣内のピッチが滑りやすそうだったので、この環境もバタバタとした状況を誘発する一因だったのかもしれない。
セットプレーからチャンスを生み出したのはアーセナル。前半と異なったのは仕留めきれなかったこと。共通点はヘンダーソンと衝突したエンケティアが傷口を広げた感があることである。
試合は徐々に停滞。アーセナルは前半と比べると、ティンバーはきっちりと低い位置を取るケースが増えたように思えた。ネガトラでサイドを抉られるケースが多かったので、リードを踏まえるとまずは安全にということだろう。先にあげた滑りやすいという状況もこの判断の後押しとなった可能性がある。
パレスは相変わらずライン間の封鎖は好調。バックラインの潰しは後半も冴えており、出ていくCBに呼応するWBのアクションも含めて守備の連動は非常に良く機能していた。ただし、ポジトラでスムーズにカウンターに移行できたかは別の話。主力組を欠いているこの日の前線のカウンターは淡白で迫力に欠けていた。
そうした中で光ったのはパレスの押し込んだフェーズにおける崩し。左サイドには鎌田や代わって入ったサールがハーフスペースを抜け出すことで活性化を狙っていく。右サイドはキヴィオルとルイス=スケリーのシンプルなギャップをつく形でサイドの裏をつく。
60-65分の時間帯は主導権を握ったのはパレスの方。だが、アーセナルもスラロームのように縦パスの連打で70分くらいの時間帯にリカバリー。この時間帯からアーセナルが押し返しに成功する。
右サイドからチャンスを作ったのはアーセナル。ウーデゴールの浮き玉からティンバーが抜け出し、折り返しをマルティネッリが沈める。だが、これは折り返す前のティンバーのところでラインを割っていたとの判定でノーゴール。試合を動かすことができない。
それでも、ゆったりとボールを回すことで時間を使っていったアーセナル。この状況を打開するためにパレスが送り込んだのはマテタ。投入直後にそのマテタは同点ゴールを生み出すことに成功。サリバのパスミスを誘発すると、ラヤがゴールマウスに戻る前にボールを打ち込む。

グラスナー監督はこのゴールについて「狙い通り」と話しながらも、それ以前の2つのシーンではチャンスを掴めなかったというのも事実。このシーンのマテタはボールを奪った直後の高い認知能力と優れたフィニッシュ能力が兼ね備わったもの。ミス起点とはいえ素晴らしいゴールだ。
サリバのパスミスに関してはウーデゴールのポジショニングやラヤのパスコースを作らない動きに言及する意見もTLでは見られたが、サリバ自身にそこまでプレッシャーがかかっていたわけではないし、大外のティンバーは十分にパスを受けられる体勢。それを踏まえると、サリバ自身のミスが第一に来るというのは動かし難いだろう。
同点ゴールを生み出したパレス相手に終盤は勝ち越しゴールを狙うアーセナル。左サイドに入ったティアニーをキヴィオルが押し上げることで、こちらからもチャンスを作りにいくが、最後までゴールは奪えず。試合はドローでの決着となった。
あとがき
あくまでCL出場権の5位以内を意識するのであれば、勝ち点1は大きな前進。おそらくは70ポイントを積むことができればクリアするであろうこのミッションは、サウサンプトンを残している状況で67ポイントを乗せた現状は悪くはない。たとえ、セント・メリーズ・パークをアーセナルが苦手にしていたとしても、今季のサウサンプトンは問題なく下さないといけない相手だ。
一方でパフォーマンスは気がかり。ここまで出場時間が嵩んでいるメンバーはややデキ落ち気味。前線のトロサールとマルティネッリはともかく、中盤から後ろは疲れを感じるパフォーマンス。その中でもキヴィオルとともに気を吐いていたのがパリ戦に出場停止でいないトーマスというのも不安ではある。
しかし、CLの深いラウンドに挑むのにおいてこうした低調なリーグ戦を挟むのは良くあることなのだろう。アーセナルにとっては慣れない環境だが、マガリャンイス不在という大きな不安感を抱えて臨んだマドリー戦のように、パリ戦で二度目の不安感を払拭してくれることを期待したい。
試合結果
2025.4.23
プレミアリーグ
第34節
アーセナル 2-2 クリスタル・パレス
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:3′ キヴィオル, 42′ トロサール
CRY:27′ エゼ, 83′ マテタ
主審:マイケル・サリスベリー