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「猛追の代償を支払わせる」~2022.12.31 プレミアリーグ 第18節 ブライトン×アーセナル レビュー

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レビュー

先制点の偶然と必然

 流れが決まる前に早々に先制点が入ったこの試合。得点を決めるきっかけになったのは即時奪回。自陣でのブロック守備からボールを奪い取ったランプティのドリブルをトーマスがカットしてカウンターを発動。左サイドのマルティネッリからのクロスが相手に当たって逆サイドのサカに届き、アーセナルが早速先制ゴールを生み出すことに成功した。

 トランジッションが発生した時にランプティが前方にいた関係もあり、得点シーンでマルティネッリと対峙したのはダンク。となれば、逆サイドまでボールが届いたのは偶発的でも、サカが余っていたのは必然である。

 試合が落ち着いたのは先制点の後だった。プレビューでも触れた通り、この試合におけるアーセナルがうまくいっているかのポイントは敵陣まできっちりとボールを運ぶことができるかとボールを高い位置で奪うことができたかどうかである。

 ボールを運べたか?についてはアーセナルはそれなりにやれていたように思う。アーセナルのバックラインに対してはブライトンのバックラインがプレッシャーを積極的にかけていく。CBにはララーナとトロサールがマーク、アンカーのトーマスにもグロスが出ていく。その分、相手中盤のスペースにウーデゴールが侵入して相手のエリアに切り込んでいく。

 もう1人、ボール保持で印象的だったのはジンチェンコ。ポジションを流動的に取るという部分は最近のティアニーも大幅な進歩が見られているが、相手と対面した時の駆け引きや細かいスペースへのパスの精度の部分ではジンチェンコは別格。プレスで人を捕まえてくる志向の強いブライトンに対して、プレス回避の局面で大活躍した。

 そんなアーセナルの保持で誤算だったのは左サイドの1on1である。マルティネッリがランプティと正対する局面をこれだけ作れればもっと圧倒できるという算段だったのだけど、時間の経過とともにランプティの粘り強い対応が目立つように。ブライトンは比較的ランプティに1人で任せる形でマルティネッリをケアしていたが、問題なくやり切ることができていた。

良さを消すことを優先する

 2つ目のポイントはボールの奪いどころの話である。アーセナルは非保持でも高い位置からボールを奪うことができていなかった。ブライトンのボール保持に対してはアーセナルも人を捕まえる傾向が強かった。ハイプレスをかけるスイッチになっていたのはマルティネッリ。彼がCBまでプレスをかけにいくか否かでアーセナルのプレスがどこまで前がかりかが決まる。

 アーセナルは単純にそこまで前から強引に捕まえにいく回数は少なかった。ブライトンというチームのプレス耐性とリードしているという試合の状況を加味してのことだろう。効果的に攻撃に出ていける頻度は低かったが、攻撃をきっちり受けてブライトンの縦パスを受けるスペースを消すという意味では悪くはない。

 ブライトンの保持はライン間に縦パスを刺し、そこから裏抜けする前線にラストパスを送る形が最も効く。だが、ブライトンの前進はアーセナルに刺さるほどクリティカルではなかった。理由はまずブライトンの縦パスの精度がそこまで高くなく、アーセナルのプレスの網に引っかかってしまったことが挙げられる。縦パスのズレ、ワンタッチのズレから攻撃が終わってしまい、アーセナルに対して仕掛けから速い攻撃に移ることができなかった。

 もう1つはアーセナルの守備ブロックをうまく動かせなかったことである。アーセナルのバックラインはきっちりとついていくことを徹底しており、なかなか対面の選手を振り切ることができなかった。大きな対角のパスで三笘に繋ぐ形も悪くはないが、ホワイトとの1on1を制さなければチャンスを作ることができない。

 カラバオカップでアーセナルにブライトンが保持で優位をとったのは、起点を作りながらサイドを段階的に変えていくことで、アーセナルの守備ブロックの同サイドへの圧縮を裏切ることができたからである。この試合の前半ではそうした動きはできなかった。ライン間で受けた選手から裏の三笘へのパスが出たこともあったが、背後のスペース一択な状況に対してはアーセナルのバックラインは根性で回避してみせた。

 前半の中盤以降、試合はどちらでもないものとして推移する。中盤でのプレッシングが遅れれば、ともに相手にボールを運ばれてしまうことはここまで肌を合わせた感覚で理解できたのだろう。互いに中盤に積極的なプレスを仕掛けていき、ボールをハントしにいく結果、ファウルが増える流れになった。

 なかなか主導権を引き寄せきれない中でウーデゴールがセットプレーから沈めた2点目はアーセナルにとっては大きかった。立ち上がりの奇襲と終盤のセットプレーで要所で得点を挙げたアーセナルが前に出て複数得点のリードを手にすることに成功する。

グロスの攻め上がりがもたらしたもの

 後半早々にアーセナルは追加点をゲット。マルティネッリの仕掛けからエンケティアのゴールでさらに突き放すことになる。ポイントになったのはサイドチェンジである。右サイドからの持ち上がりをトーマスが引き取り、逆サイドにクリーンにボールを運ぶことに成功する。

 前半はランプティに苦しんでいたマルティネッリだったが、縦に進み左足を使うことでランプティを置き去りにし、サンチェスを脅かすことに成功した。左足からコースのないところからゴールを狙いにいく形は前節のウェストハム戦のゴールと似たような形であると言えるだろう。

 3点目のシーンで右から左へのサイドチェンジをスムーズにこなしたのはトーマス。アンカーは動かずにゲームメイクできるのは前提だけども、動けないスキルを身につけた上で列を上げてのプレーができればさらにワンランク上にいける感がある。最近でいえば、この部分でロドリは明らかに別格感がある。このシーンのトーマスの列を上げてのプレーも非常にスマートであり、左サイドでマルティネッリが素直に1on1ができる形まで持っていくことができていた。彼もまたエレガントなアンカーである。

 この追加点で試合は決まったかと思われたが、アーセナルのゲームクローズはそう簡単には行かなかった。60分に両チームが2枚ずつの選手交代を実施。サルミエント、ファーガソンの2人のアタッカーを投入したブライトンと冨安、ティアニーという2人のSBを投入したアーセナルとポジションは対照的な交代策をとる。

 この交代で試合はブライトンの攻勢に傾くようになる。中でも効いていたのは列を上げての攻撃参加の頻度を増やしたグロス。ブライトンの追撃の始まりは彼が冨安につっかけるところからである。冨安の目を自らに惹きつけることで、裏の三笘をフリーにすることに成功。三笘にそのままラストパスを預けて2点差に迫るゴールを奪って見せる。

 冨安からすると苦しい対応になったシーンだろう。歪みの元となったのはトーマスが前に出ていったこと。本来はグロスを監視すべき彼が1列前のギルモアをケアしたことで、冨安は1人で2人を監視しなければいけない状況になってしまった。グロスへのパスコースを作るためにスペースメイクするファーガソンの動きもニクい。

 その手前を辿ればウーデゴールがサイドに振られてしまったところからズレが始まっているので、誰がどこまで責任があるかは難しいところである。冨安がグロスまでリスク覚悟で出て行って止めるか、トーマスがギルモアを放置するかというのがパッと思いつく対応策であるが、どちらにしてもギルモアがウーデゴールを外して受けることができた時点でアーセナルにとってはリスクのある選択となる。

 逆にブライトンとしては前半になかなか作れなかったアーセナルのバックラインのズレをようやく実現できたという形。グロスが前線に顔を出す分、三笘が余るという構図は後半にようやく顔を出すように。これがブライトンの後半の優勢の決め手と言ってもいいだろう。

 グロスと三笘で冨安を挟み撃ち作戦はその直後全く同じ構図で再現。グロス、三笘の2人でジレンマに苛まれる冨安にとっては苦しい試合に。バックラインの手当て役としてはエルネニーも登場していたが、彼もまた人を追いかけまわす守備に馴染めなかった感があり、グロスを放置し続ける状況を改善することができなかった。個人的には後方の選手が途中から入るには難しかった試合だったように思うので、その部分の同情の余地はある。

 失点シーンでは何かしらのリスクを取る必要があったアーセナル。だが、リスクをとっているのはブライトンの方も同じである。グロスが攻める頻度を上げるということは、裏を返せば中盤のプロテクト役が1人減るということでもある。しかも、中盤に残るのはカード持ちのギルモア。3点ビハインドの状況をひっくり返すためにはこれくらいのリスクは仕方がないとはいえ、カウンター対応の脆弱さは否めない。

 アーセナルの4点目はウーデゴールの素晴らしいラストパスが冴え渡ったシーン。パス自体はウーデゴールを褒めるべき案件だが、中盤のスペースに隙ができたのはブライトンが反撃に出た代償でもある。3点目のエンケティアのゴールにおいてもこのスペースはトーマスによって使われている。ブライトンが攻勢に出ただけの代償はアーセナルによってきっちり払わされているということである。

 再び3点差にしたアーセナルが今度こそ試合を終わらたかと思いきや、まだまだ試合は終わらない。ロングボール処理の対応をし損ねたサリバのところをファーガソンがつっかけて追加点をゲットする。サリバにとっては少し対応しにくい軌道だったようにも思うが、アーセナルのCB基準でいうとなんとかしてほしかった場面でもある。

 これで再びブライトンの構成は点火。アーセナルは最後までブライトンの猛攻に対する対策をうまく見つけることができなかった感がある。対人の強い冨安とティアニーの投入、エルネニーでのクローズ、5バックへのシフト。いずれの手も左サイドの旋回に対する特攻薬にはならない。

 さらにはボール保持においてもロングキックのターゲットは揃って疲弊。ベンチにも交代できる選手はおらず、じっくり保持においてもアンカーがエルネニーとなれば、耐性に不安がある。アーセナルが無理に持たず、積極的に蹴る選択を繰り返す理由はよくわかる。大外からPA内に走り込むことを繰り返す三笘を軸に組み立てられたブライトンの攻撃は最後まで衰えることはなかった。

 2-0にして以降は2点差より迫られることはなかったアーセナルだが、余裕があるスコアとは裏腹に終盤までヒヤヒヤが止まらない一戦。アーセナルからするとこれだけ苦しみながらの4得点での勝利というあまり記憶にない非常に奇妙な体験となった。

あとがき

代償はきっちり払わせている

 終盤だけ見ると悪いところにばかり目が行きがちな試合だったが、要所で得点を重ねての大勝というのはこれまでにはない形であり、その部分はポジティブに捉えられる。今季のアーセナルはハイテンポで自らのペースに強引に持ち込むことが前提で、その中でゴールを奪えるか否かを繰り返してきた。よって、割と試合展開に素直な時間帯のゴールがこれまでは多かった。

 このブライトン戦はそうしたこれまでの傾向にはない試合である。しかも、ブライトンが前に出てきた部分のリスクをきっちり顕在化させるあたりは非常にしたたかである。ブライトンが終盤の攻勢により主導権を握ったのは明らかだが、アーセナル相手に猛追を仕掛けるにはそれなりの代償もあるということ。2点差からスコアが縮まらなかったのは、グロスが開けたスペースから後半に得点を重ねたから。言い換えれば、アーセナルがブライトンに猛追の代償をきっちり支払わせたからである。

試合結果

2022.12.31
プレミアリーグ 第18節
ブライトン 2-4 アーセナル
アメリカン・エキスプレス・コミュニティ・スタジアム
【得点者】
BHA:65′ 三笘薫, 77′ ファーガソン
ARS:2′ サカ, 39′ ウーデゴール, 47′ エンケティア, 71′ マルティネッリ
主審:アンソニー・テイラー

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