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「化学反応を利用する」~2024.1.30 プレミアリーグ 第22節 ノッティンガム・フォレスト×アーセナル レビュー

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レビュー

やりくりが厳しいフォレストのプラン

 日程的には両チームには明確に差があるスケジュール。フォレストは欠場が噂されたフェリペ、エランガ、アウォニイといった面々がベンチに滑り込むことができたが、やりくりが厳しいのは確か。少なくともアルテタが「リーグで最も薄いスカッドの一つ」と述べたアーセナルよりはスタメン選びに頭を悩ませたはずだ。

 そんなフォレストが選んだプランは4-4-1-1。フォーメーション的にはどちらもあり得るかなという並びではあったが、ネコ・ウィリアムズを右のSHに置く形で4バックをキープした。

 ただし、重心はあくまで後ろ。アーセナルのバックラインにはほとんどプレッシャーもかけず、後方のスペースを埋めることを圧倒的に優先する。正直、今どきのサッカーにおいてここまであっさりと押し込まれることを許容するケースは珍しいレベルである。

 リトリートでアーセナルを相手に守る場合、まずはWGを軸としたサイド攻撃にどこまで対応するか?というところが争点になる。具体的には大外のWGを何枚で捕まえるか、そしてハーフスペースをどのように埋めるか?である。

 フォレストがより厳重にプロテクトをかけたのはアーセナルの右サイド。ハーフスペースを埋めるのはマンガラ。この役割は昨季のシティ・グラウンドで完璧に遂行できることを彼はすでに証明している。

 さらに大外のサカにはダブルチーム。ドミンゲスが下がる形でサカを挟み込む。マンガラが最終ラインに落ちる分、ギブス=ホワイトが中盤のフォローに入るので、重心はかなり低い形になっている。

 当然その代わりロングカウンターの成立頻度は低め。抜け出しからシュートまで持っていけるアウォニイやスペースさえあればいくらでも勝負をかけることができるエランガが不在となれば、なおさらその望みは低くなる。やはり、機動力の観点で考えるとウッドに運ぶところまで担わせるのは厳しい。前半を通してもパスミスからのダニーロのミドルくらいしかフォレストは惜しい場面を作ることができない。

 というわけで試合はアーセナルがフォレストの守備陣形を崩すことができるかどうかにフォーカスされた展開となった。即時奪回の回収以外は無理にボールを回収に行かないアーセナルだったが、そもそも落ち着いてポゼッションをする機会はない。そういう意味では消耗の少ない展開になったといえるだろう。一方的にアーセナルはフォレストの守備陣形を押し込んでいくというのが前半の構図となった。

オフザボールが冴えるジンチェンコ

 立ち上がりは右サイドを中心に攻めていくアーセナル。しかしながらハーフスペーススライドを中盤が行い、SHがダブルチームを仕掛けてくるという最大限の警戒を払われてしまっているので、なかなか突破をするのは簡単ではない。

 サカが1枚はがした程度では何かが起きるわけでなく、ボックスの中に侵入できたと思っても遊軍として待ち構えるCBがクロスやシュートをブロック。1つくらいのトラブルであれば守備が間に合う状況を作られていた。無論、ロングカウンターの脅威とトレードオフの強固さなのだけども。

 それに比べると、逆サイド側のマークは緩かった。マルティネッリのマークがトフォロ1枚になるケースは多かったし、ハーフスペースを埋める役割となったダニーロはマンガラほどこの役割に適しているとは言えない。モンティエルやオモバミデレといった面々の連携面にも不安がある。

 ざっくりとした攻略のイメージとしては大外、後方支援、ハーフスペース、ハーフスペース裏の4つの場所に出たり入ったりしながら勝負を仕掛けていく。3人であれば空白が1つできる。そこにいるか、いないかも乱数に組み込むイメージである。

 こうしたポイントを使った攻略が一番初めにハマったのはその左サイド側。12分のスミス・ロウの折り返しがジェズスに届く前にムリージョにクリアされた場面である。

 左サイドの攻撃の潤滑性を担保したのはジンチェンコ。この日の彼のオフザボールのフィーリングはとてもよかった。バックラインにプレッシャーがかかっていない分、ビルドアップの負荷はいつもより軽く、ライスの相棒役としてインサイドに絞るケースは稀。その分、サイドのローテーションに組み込みながら勝負を仕掛けることができていた。

 高い位置のインサイドに入っての意表を突くパスも素晴らしかったが、個人的にはこの試合でインサイドに入ることが多かったマルティネッリをカバーするように大外を回って相手を広げるアプローチが最高だった。今のアーセナルのSBに求められる能力は大外専用機ではなく大外「も」できる能力なので、この試合でジンチェンコがそこをきっちりやれたのは大きいと思う。外に流れるという柔軟性を見せた分、ジンチェンコとスミス・ロウのエリア被りはかなり少なかった印象だ。

 特に左サイドの崩しに関してはかなり整理することができていた印象のアーセナルだが、少しずつ守る側のフォレストも慣れてくるようになる。そのため、アーセナルは片側サイドに前の選手を集約することで先に挙げた4つのポジションを埋める頻度が増えていく。

 パターンとしてはCFであるジェズスがサイドに流れて4人目になる形が1つ。マルティネッリのインサイドに入っていく動き(とそれをフォローするジンチェンコの大外)が重要だったのは、ジェズスが持ち場を離れる上にIHからボックスに陣取るタイプであるハヴァーツがいないことも関係している。

 さらにはウーデゴール、サカ、マルティネッリといった本来は逆サイドの面々が同サイドに出張することが多かった。崩しのポイントとしてはペナ角付近のハーフスペースに止まっている人を置きつつ、その裏を走らせる人を作ることで、DFの対応をばらけさせることである。1人が手前、1人が裏に食いつけばそれによりギャップが生まれる。

 話は後半と前後するが、ジェズスが縦に抜け出して迎えた決定機は誰も彼をケアできなかったパターンである。このように単純についていけないことでも当然チャンスはできるようになっている。

 こうした形でアーセナルはサイドでパスコースを作り続けるが、フォレストのバックラインは封鎖が間に合う状況が継続。前半はスコアレスで幕を閉じる。

アウォニイ投入がもたらしたもの

 フォレストの前半の評価は難しいところである。前半のメンバーで前半の展開を後半も焼き直したとして、守り切れる可能性は相当に低いだろう。しかしながら、前半だけでも凌げればいいのだとしたら話は変わってくる。ベンチにはアウォニイ、エランガといった攻撃の切り札がいる。ウッドであれば、チャンスにすらならない状況も決め切るところまでもっていくことができるジョーカーである。そういった選手を投入し、ある程度勝負の時を後半に計算できるのであれば、前半を沈黙させたことにも価値は出てくる。

 というわけでフォレストは後半からアウォニイを投入する。アーセナルは後半の立ち上がりこそ押し込み続けながらトライを続けるという前半の文脈の中でプレーを続けていたが、少しずつ状況は変化。カウンター時にギブス=ホワイトにアウォニイというボールの預けどころを作ることができたのは大きい。前がかりにバランスをとっているアーセナルに対して、2人だけで崩し切ってしまうようなシーンも見られた。

 カウンターに手ごたえを感じたのかフォレストは前半には見られなかった人数をかけた攻撃を披露。トランジッション時において、サイドからトフォロやウィリアムズが上がっていく形で攻撃に厚みを出していく。

 前半のプランからウッド→アウォニイの変更のみで少人数のカウンターの精度を上げるという選択肢もフォレストにはあったはずだが、フォレストの面々はアウォニイの手ごたえを見てどんどん攻撃に出ていくように。まさに化学反応というような形でカウンター時には腹をくくって攻めていた。

 当然前半よりは失点の可能性が出てきたアーセナル。しかしながら、特に悪い状況ではなさそうである。というのも、フォレストのチーム全体に攻め気が出てきたことで試合全体の展開が流れるようになったからである。特にアーセナルのスピードに乗ったカウンターが刺さるケースも増えるようになり、アタッキングサードではサカへのダブルチームが間に合わないままアーセナルの攻撃をフォレストがモロに食らう場面も増えた。つまり、フォレストの得点の可能性が増えたことと同じようにアーセナルの得点の可能性も増えたということになる。

 試合がオープンになった流れで先制したのはアーセナル。スペースを見つけるフィーリングに優れていたジンチェンコがスローインから裏のジェズスにボールを渡すと、エンドライン側からターナーの股下を破る形でゴール。直前の決定機を逃したことを帳消しにする先制点を手にする。ターナーからすればコースはほぼなかっただけに、股下を利用されたことは屈辱といってもいいだろう。

 先制直後はバタバタしたアーセナル。ロストを繰り返しながら相手に簡単にチャンスを与えてしまう。オープンでイケイケなところから追いつきたいフォレストだったが、モンティエルのミスからカウンターを食らって失点。数的優位のカウンターをサカが完結することでアーセナルは追加点を手にした。カウンター部隊もさることながら、インサイドできっちり跳ね返せるハヴァーツが交代で入ったのは地味に大きかった。

 2点目でかなりソリッドさを失ってしまったフォレスト。ウーデゴール、ハヴァーツを起点にカウンターからチャンスを量産していく。アーセナルからすればクリスタル・パレス戦と似たような展開になっていく。

 しかしながら、追加タイム直前にフォレストは1点を返す。大外からの折り返しに対してアウォニイがサリバを吹っ飛ばしてゴールを決める。サイドでロングボールに競れなかったジンチェンコは試合終了後にホワイトと少しもめている。個人的にはサリバを吹っ飛ばしたアウォニイはさすがだなと思ったけども。

 続くコーナーからのフォレストのチャンスではゴールを再び脅かされたアーセナルだったは、ラヤのキャッチでなんとか封じる。それ以降は試合をコントロールして逃げ切り勝利を果たした。

あとがき

 2点のリードを溶かしかけたのには肝を冷やしたが、試合の大半をきっちり制御しての勝利というのは悪くないと思う。この後に控えるリバプール戦の負荷を考えると、プレスに走り回るフェーズがほぼない状態で前半を終えられたのはよかった。

 個人的にはアウォニイを投入してなお我慢のフェーズを続けられたらかなり嫌ではあったのだけども、試合の展開ごとオープンに舵を切ってくれたおかげでアーセナルはだいぶ恩恵を受けた。オープンにしてくれる分には問題ないというのはプレビューの想定通り。アウォニイを投入して発生したフォレストの化学反応をうまく利用したなという印象だった。

試合結果

2024.1.30
プレミアリーグ 第22節
ノッティンガム・フォレスト 1-2 アーセナル
ザ・シティ・グラウンド
【得点者】
NFO:89‘ アウォニイ
ARS:65‘ ジェズス, 72’ サカ
主審:サイモン・フーパー

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