第一弾はこっち。

【6位】アストンビラ
19勝9分10敗/勝ち点66/得点58 失点51

ピッチ上では「賭け」は成功に見える
上位勢を切り崩し、CL出場というプレミアクラブにとっては非常に高いハードルに挑んだシーズンとなったアストンビラ。得た結果は6位というリーグ順位とCLベスト8の称号。来季のCL出場権を逃してしまいはしたが、CLでは王者相手に爪痕を残すという成果も得られた。
攻守のスタイルは今季も不変。ビルドアップで相手を引き寄せつつ、加速できるポイントに縦パスを差し込んで一気に仕留めるというプランは今季も健在だ。前からのプレスでリズムをつかんでいくということに関しては相変わらず苦手なのだが、それでもミドルゾーンから加速させることが出来れば、その破壊力は欧州でも通用することが分かったという意義は小さくはない。
このスタイルでのコミットに関してはセクションごとに差があったという感想。その影響がリーグ戦で一歩力が及ばなかったところに通じるように思う。
もっとも目を見張るパフォーマンスを見せたのは中盤だろう。昨冬にやってきたロジャーズは2年目のジンクスなどものともしない大暴れ。ミドルゾーンでの反転からのドリブルに寄るチャンスメイクに加えて、フィニッシュにまで絡むスコアリング能力の高さを披露。プレミアで十分に通用するタレントであることを本格的に証明するシーズンとなった。
ティーレマンスはパフォーマンスを上げることで存在感を増した選手だ。軽さや線の細さが先行していたこれまでのシーズンだったが、24-25はその部分を補って余りある攻撃の貢献度で活躍。糸を引くようなラストパスの精度や射程の長めのフィニッシュで加速した攻撃の仕上げにおいて見事なパフォーマンスを見せた。
一方でややバックスは安定感を欠いたか。昨季は大車輪の活躍を見せたコンサやマルティネスの今季のパフォーマンスはやや割引。パウ・トーレスは昨シーズンに続き、欠場で穴を空けてしまうことによって、チームのスタイルの根幹の維持に影響を及ぼしたといえるだろう。
前線は逆にクラブ事情によってがらりとカラーが変わった感がある。デュランの放出は明らかにクラブの財政的な観点を見据えたものに思われたが、冬にマレン、ラッシュフォード、アセンシオという大量補強を敢行。移籍金はデュランの売却益で賄うことはできただろうが、明らかにボリュームアップした給料は問題ないのかが気になるところではあった。
ややプレースタイルと不一致感が出てきそうな前線の面々のようにも思えたが、戦力的には問題なかったのは救いだろう。特にラッシュフォードとアセンシオはチームの重要な局面での苦境から救うゴールを決めており存在感が抜群。来季の編成はまたやり直しであることや高い給料に見合ったか?という観点は別にあるとして、ピッチだけを見ればこの賭けは成功だったかのように思える。
ただし、昨季の時点ですでに財政的な問題を抱えていたのでCL出場権を得られなかったことは収支の上では非常に苦しい。今のところ、主力のバーゲンセールのようなことは行われていないが、競技面で成功していてもチームが救われる結末になったかはオフシーズンの動向が答え合わせとなるだろう。
Pick up player:マーカス・ラッシュフォード
もともと波の大きな選手ではあったが、新しくやってきた監督に「あいつをつかうくらいならGKコーチをベンチに入れた方がマシ」という悪口を公言されてユナイテッドを放逐されてアストンビラに移るというシーズンはいくら何でも波がありすぎるだろう。ただ、ビラではキャリアの立て直しに成功。アモリムが居座るユナイテッドに未来がないのは明らかだが、来季以降のパフォーマンスに期待が持てる半年をアストンビラで過ごすことが出来た。
今季の道のり

【7位】ノッティンガム・フォレスト
19勝8分11敗/勝ち点65/得点58 失点46

手堅い土台構築と前線のタレントの融合で台風の目に
今季のプレミア最大の台風の目といっていいだろう。最終的にはCL出場権という大目標は逃したものの、昨シーズンが17位での32ポイントということを踏まえれば今季積み上げた65ポイントに価値があることは一目瞭然。大きな仕事を果たしたシーズンとなった。
最も大きかったのは手に入れた質実剛健さだろう。ネームバリュー先行でタレント力はあるが大味というパブリックイメージを一新したのが今シーズン。礎となったのはバックスのブロックの強度。
ラヤと並んで最多のクリーンシート数を記録したセルスはミスが少ないながらもビックセーブを連発できるクラック。足元に特徴があるわけではない現代的な選手というわけではないが、安定感と爆発力を備えたセービングを始めとする高い完成度はここ数年のプレミア中堅クラブの中でも屈指だといっていい。
ムリージョ、ミレンコビッチの両CBも素晴らしかった。中でもミレンコビッチはプレミアで数年過ごしているかのようなボックス内での落ち着きと対空性能での高さで守備の土台をどっしりと築いていた。ムリージョはどちらかといえばチャラ要素先行の足元系テクニシャンというイメージだったが、今季は堅実なスタイルに様変わり。要塞の一員としてチームの躍進に貢献した。
前線は従来のタレント性を優先した方向性が奏功。ユナイテッドからやってきたエランガはすっかりチームを背負うことが出来る選手に頼もしく育った。爆発的な加速力をベースにフィニッシュ性能も顕微。自陣からの猛チャージでロングカウンターを一人で完結させた古巣相手の一戦はプレミアリーグの中でもハイライトとなるべき一幕だった。
エランガ、ハドソン=オドイという活きのいいワイドプレイヤーとは対照的に前線にはウッドが鎮座。経験十分なベテランはアウォニイの穴を埋めるどころか、20ゴールを決める大車輪の活躍で前線に君臨。ジョンソンを失ったギブス=ホワイトの新しい相棒として素晴らしい1年を過ごした。
大枠としてはいうことなしなのだが、やや気がかりなのはプレッシングのところ。4-4-2でブロックを普通に組む分にはいいのだが、シーズン後半から取り組んでいた左右非対称でエランガを前に押し出すような変則的な4-4-2の完成度はイマイチだった。やたらと採用した試合で結果が出ていたため継続されていたが、シンプル4-4-2の時に見られなかった穴が中盤にボコボコと空いていた。
独断専行型のオーナーもここまでは収支はプラスに来ているだろうが、シーズン終盤にはピッチに降りてきてチームに激怒するなど感情型の側面が目立つ。大ナタを振るうタイミングを間違えば、今季積み上げたものが一気に泡となって消えてしまうこともない話ではない。
Pick up player:モーガン・ギブス=ホワイト
前線が入れ替わり、新しいスタイルにチャレンジする難しいシーズンではあったが、泥臭い守備のユニット構築に汗をかきつつ攻撃で見せることを完遂。フルシーズンを通してフォレストの王様であり続けた。
今季の道のり

【8位】ブライトン
16勝13分9敗/勝ち点61/得点66 失点59

若き指揮官の柔軟性で来季はさらなる成長を見込む
長らく独自のスタイルを築いてきたデ・ゼルビに別れを告げ、今季はヒュルツェラーというこれまた独自路線の監督人事に踏み切ったブライトン。ブライトンウォッチャーではないので、クラブがどのような目標設定に挑むシーズンだったかは把握してはいないが、一般論で考えればまずはスタイルの確立が優先されるシーズンなのだろう。
序盤戦はシステム先行の様子が見て取れた。SBは低い位置からパスの出し手として組み立て役に徹し、WGとIHがレーン交換をしながら敵陣に迫っていくという形での打開。ただし、ブライトンのSBは多様なので役割固定で回していくとなるとリスキーだなと思いながら推移を見守っていた。
時間が経って感じたのは役割固定による硬直化は杞憂であったこと。ヒュルツェラーは用兵によって役割を変えることが出来る非常に柔軟な指揮官であったということだ。若くして大きな仕事にチャレンジする人物にありがちな頑固さはヒュルツェラーには無縁のものだったらしい。
SBはエストゥピニャンやランプティを起用する際にはきっちりとランナーとして活用。キャラクターが変わればチームのバランス(主にWGのプレーエリアで調整をかけていたように思える)を変えて対応する。
マック=アリスター、カイセド後の中盤の形探しはデ・ゼルビ政権からの置き土産となっている課題だ。24-25シーズンはそこも目途が立ってきた1年だったといえるだろう。
バレバ、アヤリの中盤は新しい時代の軸となりそうな予感があるコンビ。後方での組み立てからキャリーまでこなすバレバと前に出て行きながら前線の攻撃に絡むアヤリのコンビネーションはシーズンが深まることに完成度が高まっていった感がある。バレバはまだ波の大きさこそあるが、上を引いた試合ではビッグマッチでも制圧できるスケール感を持っている。
逆に既存のタレントが踏ん張った感があるのは前線。ミンテという新星も輝かしい働きを見せたが、三笘とウェルベックというここ数年のブライトンの前線を引っ張ってきたコンビの底力を感じるシーズンでもあった。
ウェルベックは前線の核としてキャリアハイの2桁ゴールを達成。縦パスの収めどころとしても別格感を出すなど、組み立ての局面でも不可欠な存在であることを引き続きアピール。
三笘は今年も幅取りながら突破して得点に絡めというハードタスクを遂行する1年。個人的に印象に残っているのは10人になって追い込まれたブレントフォード戦で行っていたストライカータスク。この人は前線に飛び出すのもうまいよなということを感じさせられたし、次のウェストハム戦でもこの三笘のストライカー役が逆転勝ちのきっかけになっていたのは感慨深い。
ジョアン・ペドロには退団の可能性があり、三笘にはほんのり他からの引き合いがあるが、この時期にほかの選手の移籍の噂が聞こえてこないということは中盤から後ろのユニットはおそらく来季も固定できるのだろう。若いチームと指揮官はそれくらいのスパンで見たい。
チームとして今季は流れに飲まれるシーンも少なくなく、その点がヨーロッパ出場権争いに絡みきれなかった一因ではある。だが、継続メンバーで天井を上げることが出来れば来季も面白いチームになるだろう。
Pick up player:バルト・フェルブルッヘン
ギリギリまで相手のプレスを引き寄せるチャレンジなスタイルは致死性のミスと背中合わせという印象だったが、すっかりそうしたリスク要素の排除に成功。安定感を備えて、頼れる正守護神に成長したシーズンとなった。
今季の道のり

【9位】ボーンマス
15勝11分12敗/勝ち点56/得点58 失点46

若き才能とアグレッシブなスタイルの融合でジンクスを吹き飛ばす
今季のプレミアの特徴の1つとしては中堅クラブに2年目のジンクスが適用されなかったことだろう。トッテナムは例外的かもしれないが、アストンビラと同じくボーンマスはイラオラの元で順調にステップを踏んで競争力を高めている印象を受ける。
なんといっても旗印はアグレッシブな前がかりなスタイルだ。新戦力のエヴァニウソンはソランケがいなくなったCFの枠にぴったりと収まり、スタイルの維持には成功。前からのチェイシングをエネルギッシュに行い、奪ったら縦に速くというランアンドガン寄りのスタイルはEURO明け、欧州コンペ拡大で疲労したクラブに刺さると悪夢のひとこと。アーセナルは見事に飲まれてシーズンダブルを食らってしまった。
前線はこのスタイルに応えることが出来るタレントがズラリ。セメンヨはより規模の大きなクラブが獲得を打診するなど強引に攻撃を完結させる能力は国内で非常に評価されている。爆発力もさることながら、こうしたタイプにありがちな精度が伴っていないということもないし、左右もできてロングボールも収まるなど幅も広い。
バックラインではケルケズとハイセンの2人がメガクラブに旅立っていった。高い位置での潰しとキャリー性能の高さと空中戦の強さを持つハイセンは今季のプレミアのベストCBの一人。バイアウトもスペックに比べれば格安なので多くのクラブがアプローチをかけたが、射止めたのはマドリー。プレミア勢はせめて国外に出て行ってくれたことを慰めにすることしかできなかった。
ケルケズは大外を駆け上がるオーバーラップだけでなく、長いレンジのシュートも見事。高い攻撃性能はやや衰えが目立つようになったリバプールのLSB陣にはうってつけの補強といえるだろう。
若く伸び盛りなタレントと前向きなスタイルは見ていて気持ちがいい。ただ、チームのアグレッシブなスタイルは負傷のリスクと隣り合わせでもある。シーズン中盤は怪我人だらけでベンチにはやたらと名前が長く、背番号が大きいユース選手がズラリと並ぶようになった。このスクランブルな時期にCFに入ったワッタラはSBからCFまで幅広くこなす波乱のシーズンとなった。
面白いのは負傷だらけの時代よりも復帰してからの方が星勘定的には苦労していたこと。メンバーは戻ってきても成績がついてこないというのはサッカーの面白さを感じるところだった。
ザバルニーにも退団の噂があり、ケパの退団も決定。GK+DFラインには多くの離脱者が出ることが確実。来季はここの再構築に挑みつつ、さらに高みを目指すイラオラ政権3年目となりそうだ。
Pick up player:ジャスティン・クライファート
シーズン中盤戦の輝きは今季瞬間最高風速としては個人単位では最高峰。全部俺に任せておいて!と語るかのような左サイドでの大暴れはとても印象に残っている。
今季の道のり

【10位】ブレントフォード
16勝8分14敗/勝ち点56/得点66 失点57

過去最大級の壁にどのように立ち向かうか?
主力の入れ替えは毎年絶え間なく行われ、今年こそやばいのではないか?という感がなくはないブレントフォードだが、今年もそんな形はどこ吹く風。トニーの退団に関してはそもそも前年度に「シミュレーション」できていたこともあり、形としてはすでに予習済みということで今年の難易度は相対的に低かったかもしれないが。
例年は強豪必殺モードの前がかりな3-5-2と静的な4-3-3を併用するイメージであったが、今年は4-2-3-1にシステムを固定することで一本化。その代わり、GKを絡めたボール保持にもトライ。不調のピノックや長期離脱からなかなかカムバックすることが出来ないSB勢などDF陣が揃わない状況では、保持で守備の機会を減らすことは重要ということだろう。今季のプレミアリーグにおいて、ブレントフォードはプレスが来ても最もつなぐことへの諦めが悪いチームの一つだった。
これまでがシステムを変えることによって幅を持たせるのであれば、今季の取り組みはあくまでシステムは変えないままでやることを増やしていくというイメージだろう。取り組みを人によって変えながら異なるスタイルを植え付け、さらには結果も出すという三方良しのトーマス・フランクの仕事には今年も頭が下がる。
トップハーフという充実の結果に関して語るのを避けて通れないのはFW陣だろう。ウィサ、ムベウモという2人のエースはシーズンを通して大車輪の活躍。あらゆるところに顔を出してキャリーやクロスからのアシストもこなす万能型のムベウモと、ゴール前に常駐してきっちりとマークを外して仕留める職人型のウィサのコンビは対照的であり、24-25を代表する攻撃のデュオだった。
バックラインにビルドアップの負荷をかけた分、SBにはルイス-ポッターという前がかりな人選をするトライにも成功。左のWGとして定着したシャーデとの左サイドの縦関係はとても攻撃的でワクワクする。
こうした変わりゆくシステムやスタイルを変わらず支える中盤の質実剛健さも健在。ノアゴール、ジャネルト、イェンセンといったおなじみの面々が構える中盤は安心感があった。
来季はムベウモ、ノアゴールという主力の退団をトーマス・フランクという指揮官不在で臨む必要があるという過去最大難易度のシーズンとなるだろう。だが、アグレッシブでどんな相手にも立ち向かう彼らならそうした高い壁も難なく乗り越えてしまう未来も想像できてしまうのも確かだ。
Pick up player:ミッケル・ダムズゴー
直線的な前線に一味を加えることが出来るテクニカルな中盤。相手を1枚剥がしてのサイドチェンジによる味変も今季のブレントフォードを彩る大きな武器だった。
今季の道のり
