Fixture
FA Cup 4回戦
2023.1.28
マンチェスター・シティ
×
アーセナル
@エティハド・スタジアム
戦績
過去の対戦成績
過去5年の対戦でマンチェスター・シティの11勝、アーセナルの1勝。
マンチェスター・シティホームでの対戦成績
過去10戦でマンチェスター・シティの7勝、アーセナルの1勝、引き分けが2つ。
スカッド情報
- 足の怪我をしたフィル・フォーデンは出場が微妙。
- ガブリエル・ジェズス、モハメド・エルネニーは欠場。
予想スタメン
予習
第20節 マンチェスター・ユナイテッド戦
第7節 トッテナム戦
第21節 ウォルバーハンプトン戦
展望
突きつけるビルドアップの効果と弊害
1試合消化試合が少なく2位との勝ち点差は5。内容面では文句がなく、ローカルライバルと優勝候補に名乗りを挙げようとしたユナイテッドを挫くという勢いも十分である。それでも、アーセナルの優勝で決まり!とするにはいささか早計な感じが否めない。
層や優勝経験といったファクターももちろんあるが、最も大きいのは2位で虎視眈々と首位の座を狙うマンチェスター・シティとの直接対決を2回残していることだろう。アーセナルのFA杯4回戦の相手はそんな優勝争いのライバルであるマンチェスター・シティだ。本来であれば、このラウンドのプレミア勢同士の対決が今季初対戦になることはないのだが、日程の延期の影響で2回のリーグ戦での激突を前にFA杯で戦うことになった。
今季のシティの特徴はビルドアップの配置にある。とりわけキーファクターになるのはSBである。シーズンの序盤はカンセロが左の大外で暴れまわり、右サイドのウォーカーが絞りながらアンカーのサポートを行うことが多かった。
だが、ウォーカーは今季負傷がちで安定した出番の確保ができていない。そんな右のSBにおいて中断明けから急激に存在感を高めてきたのがリコ・ルイスである。ウォーカーよりもボールプレイヤー寄りのキャラクターであるルイスは、より明確にロドリの横を定位置にし、中盤のサポート役を行う。これにより、後方のブロックは比較的くっきりと3-2として組まれることが多かった。
ルイスはアタッキングサードにボールが入ると、ポジションを一列あげてWGのサポート役として機能する。直近のウルブス戦では大外のマフレズからのマイナスの折り返しをひたすらファーに蹴り込み続けるなど、WGが生み出した時間をエリア内に昇華する形で攻撃に関与していた。
シティのSBがロドリのサポートを行いにCHのロールをやるかどうかは日によるし、どこまでそこに定住するかはその日の展開やメンバーによる。だが、SBにルイスが入った場合はインサイドを定位置としてアタッキングサードになったら出て行く形が多い。ルイスが出ない試合においてはIHにベルナルドを起用し、低い位置まで下りてロドリの横に並べることも。いずれにしてもロドリの周辺スペースにサポートを入れながら前進をしていきたいというグアルディオラの意向は読み取れる。
このように右のSBがワイドで仕事をしなくなったり、左のSBにもともとCB色が強いアケを起用することが増えたシティ。そうなるとワイドにおける裁量が増えるのがWGである。自陣の低い位置までボールを引き取りつつ、縦方向に進んでいく。グリーリッシュはこの役割が非常にうまくフィットしている印象だ。
バックラインにおけるCBの貢献度も高い。シティのCBはとにかく広がることが求められており、中盤をやらないサイドのSBと逆サイドのCBはタッチライン際まで目いっぱい広がってビルドアップを行う。よって、インサイドでも中央レーンでもボールが持てるCBは非常に貴重である。
そもそもエースキラーとしてSBとして起用されることがあったアケは中央もサイドも!という役割として計算できる戦力として数えられていたかもしれないが、同様の役割を右でこなすことが出来ていたアカンジの存在は大きい。ラポルトもディアスも十分に稼働できない今季のシティにとって早期フィットで大活躍しているアカンジがいなければ、より守備陣は厳しい戦いになったはずである。
では、そもそもこうしたCBが外に開く動きは何のためにやっているのか。基本的には相手の配置の的を絞らせないためだろう。CBが目いっぱい広がれば相手のWGは外切りが難しい。となると、プレスをかけるならば高い位置から相討ち覚悟でプレスに行く必要がある。
だが、ワイドなCBをケアするために前線は広い距離でのプレスを狙えば、その分ロドリとルイスがボールを受けるためのスペースが空いてしまう。
フリーでCHにボールが入れば中央への楔が見えてくる。結局、ライン間でデ・ブライネが前を向くことがシティの攻撃において最強。自分でも決めきれるし、前にいるのはハーランド。強くないわけがない。よって、中央で自由にボールを持たせることはこのルートを活用することを許してしまうことになりかねない。
となると多くのチームが中央を締めることからゲームを組むのは当然となる。そうなれば、プレス隊の陣形はナローになり、ワイドからCBがボールを持ってスムーズに前進するルートが阻害されにくくなる。
最近のシティは均衡した展開をグリーリッシュとマフレズが打開するケースが多い。おそらくこれはワイドからボールを運ばれることを消去法的に行うチームが多いためだろう。シティは空いているサイドから攻略を選び、こじ開けていく。
しかしながら、サイド攻撃のメカニズムはやや機能低下している側面もある。ビルドアップで中央とサイドの2択を突きつけるために人数を割いている、ハーランドがサイドの崩しに関与しない、デ・ブライネの行動範囲が徐々に狭くなっているなどの結果、WGの相棒は左サイドがデ・ブライネとロドリ以外の中盤(フォーデンorギュンドアン)、右サイドがSB(ルイス)と1人に限定されることが多い。
その結果、十八番といえるハーフスペースの突撃は減少。今のシティはドリブラーの打開力、キックの精度、そしてエリア内の破壊力の3つで勝負をしている感がある。
序盤戦は乱戦を打ちあいで制することで黙らせてきた感があるシティだが、ルイスが台頭後のシティは少しテイストが変化。理不尽さをビルドアップの仕組みという土台の上に載せようとしている真っ最中のように思う。
殴り続けることで消耗させたい
要は今までに比べれば振れ幅が大きくなったのが現在のシティである。デ・ブライネ、ハーランドのコンビで「どうしようもないやんけ・・・」と絶望させることもあるし、逆にピリッとしない戦いで支配される状況も出てくるようになる。
今のシティが90分を落ち着いて支配できることは稀であり、どの試合に置いても相手に時間を奪われるタイミングが存在する。ただし、相手が首位ということになれば、モチベーションは底上げされるはず。となると、普段のリーグ戦よりは集中力と強度を高く維持できる時間は増えるはずだ。
試合の序盤を決めるのはハイプレスだろう。アーセナルのプレスがハマるかどうかは非常にきわどいところ。シティのビルドアップは下手を打てばミスを連発する日もあるし、つなぐ局面に全く問題を抱えていない日もある。アーセナルのプレスが効くかは読みにくく、先に挙げたタッチラインまで広がるCBへの対処法をどこまで実践できるかはわからない。アーセナルにとってハイプレスの腕試しとなる。
一方のシティの前線は今季相手のビルドアップをそこまで強度を高く長い時間追い回すことはできない。ハーランドとデ・ブライネが併用されていればよりこの傾向は強い。よって、アーセナルはきっちりショートパスでの自陣からの脱出を図りたいところ。「シティにプレスをハメきれるか?」に比べれば、「シティのプレスを脱出できるか?」の方が可能性が高いといえるだろう。間延びした中盤からスピードをアップを図り、シティの陣内を一気に切り裂きたい。
そして、試合の終盤を支配的な状況で迎えたいアーセナル。ニューカッスル戦、マンチェスター・ユナイテッド戦は結果は違えどどちらも後半に押し込みに成功。相手の得点の可能性を削ることができたという面ではやや似たところがある。リードさえ奪えればゲームクローズも力強いのが今のアーセナル。例外は三笘が大暴れしたブライトンくらいのものだろう。
ユナイテッド戦もそうだったが、シティはリードをされて終盤を迎えるとやや淡白なボール保持に逃げがちで、クリティカルなチャンスを生み出すのに苦労をしている。こういうシティの一面を引き出すことができれば、アーセナルはかなり勝利の可能性は高まってくる。
有利な終盤の局面を引き出すためには、前節のレビューで述べたような得意な分野で相手に消耗をしいるのがベスト。この試合のポイントもアーセナルの強みもハイプレスとビルドアップでボールを持ち続けて殴り続けることにある。そうなれば、シティにとっては嫌な時間帯が続く。このように自分たちの強みに対応させながらの逃げ切りが今季は格段に得意になった。
プレス合戦で主導権を取ること、自分の強みを相手に押し付けること、そしてその結果、終盤に余裕を持ったゲームクローズを迎えること。勝利ももちろん重要だが、アーセナルとしてはきちんと肩を並べる権利を得たことを直接対決で証明したいところだ。