第一弾はこっちだ!
【6位】ブライトン
5勝4分2敗/勝ち点19/得点19 失点15
個人の成長がチームの成長を促す可能性
デ・ゼルビからヒュルツェラーに引き継がれたブライトン。監督が代わってもチャレンジングな人事とスタイルという姿勢自体は同じ。先鋭的で独自の立ち位置を切り拓いている印象だ。
ボールを大事にするというコンセプトに変化はないが、フリも決め手も縦パス主体だったデ・ゼルビの方向性からベクトルはだいぶ変化をしている印象だ。バックラインからは幅を使った組み立てを行っており、これは狭い縦のスペースで奥行きを活かしながら相手を動かしている前任者のコンセプトとは1つ大きな変化となる。
基本的なシステムは非保持の4-4-2から保持においてはCHの片側がアンカー役、もう片方がトップ下役と並んでIH役を務める。WGのレーン固定の要素が前任者よりも薄いのも特徴の1つで、大外のレーンはIH役とWG役がシェアをすることが多い。
この影響を受けて前任者から大きく求められる要素が変わっているのはSBである。後方から組み立てに参加し、低い位置からWGとIHを活用する役割がこれまでよりもはるかに求められるようになる。
従来のブライトンのSBは三笘を追い越すエストゥピニャンやボックスに突撃するヒンシェルウッドなどアタッキングサードで使われる側の選手か、あるいはフェルトマンのようなCB型のSBが使われていた。だが、いま求められている要素としては新加入のようなカディオールのようなゲームメーカー型に傾倒している。
ただ、ここまで話した内容はあくまで序盤数試合の話。システマティックな序盤戦を経て、徐々にアレンジも進んでいる印象だ。具体的にはアンカー役をサリーさせてバックスに組み込み、CBを外に押し出す形にして後方のゲームメーカー役をSBから引き取る。これにより、エストゥピニャンのような使われるSBも充分に枠組みの中で機能することになる。
もちろん、こうした変化はトッテナム戦でジョーカーとして活躍し、逆転の立役者となったエストゥピニャン自身の貢献があってこそである。ただ、システマティックに選手をハメる以外にも引き出しを見せたことは、自在に欲しい戦力を補強できるわけではなく、選手の流動性が高いブライトンのようなクラブでは個人的には大きいと思う。
ということで今後のブライトンの伸びしろになるのは選手個々の成長ではないかと考える。CHのアヤリ、バレバは共にポテンシャルは感じるが、試合ごとの波はまだ大きく、安定して柱と呼ぶにはまだ早い。グロスのような安心感を持てる中核の台頭が待たれる部分だ。
前線やバックスも含めてここまで若手選手の安定稼働は少なくミンテ、ペドロ、イゴールあたりはもう少しプレータイムを伸ばしたいところ。三笘、ウェルベック、そして両CBなど信頼のおける中堅やベテランの依存度はそれなりに高い。
エストゥピニャンの例を見れば選手個人の成長がシステムの幅を広げる可能性は十分にある。個人の成長が全体の成長を引き起こせるのであれば、選手にとってもクラブにとってもまさに理想的な環境といえるだろう。
Pick up player:ダニー・ウェルベック
普通の顔をして前線で柱になっているが、プレミアでも最も先鋭的なクラブでウェルベックが欠かせない戦力になっているというのはよく考えたらめっちゃ驚きである。今季は交代の時間もそれなりに遅く、ここまでは絶対的な戦力といっていい立ち位置だ。
今季の道のり
【7位】フラム
5勝3分3敗/勝ち点18/得点16 失点13
センターラインで躍動する新戦力
昇格以降、残留争いとは無縁のシーズンを過ごしているフラム。今季も前半戦は好調。やや、元気のないチームが多い中堅勢の中では群を抜いて安定した戦いをしているといっていいだろう。
目下の課題となったのはパリーニャがいなくなるCHのユニットの再構築だ。仕組みではなくキャストの入れ替えで対応するマルコ・シウバのフラムにおいて、戦力の入れ替えはクリティカルにダメージを受ける要素だ。
この点で予想以上の成果を早々に挙げたことがフラムが早い段階で軌道に乗った要因だろう。序盤戦で踏ん張ったルキッチは前線への積極的な潰しと後方のスペースを守る意識を両立。パリーニャほどの全能感はないが、できる仕事をきっちりこなすことで中盤の崩壊を回避した。
そのルキッチからバトンを受け取ったベルゲはバランサーとして十分な働きを披露。いい意味で全く気にならない振る舞いを見せることでコンパクトに守るフラムの守備の重心の中央を問題なくこなしている。
ペレイラとスミス・ロウの併用は序盤こそ出来不出来のムラが目立ったが、試合を重ねるごとに高止まりするように。中でもスミス・ロウは右肩上がり。プレミアリーグでは昨季の倍以上のプレータイムを記録。イウォビの手助けを受けながらフラムのサイド攻撃の薫陶を受けると、ここ数試合では完全に独り立ちした感がある。
師匠のイウォビを右サイドにおいても、ロビンソンを自在に使いながら自身もボックスに迫ることで怖さを出すことが出来ている。序盤戦のトラオレ依存フェーズが早々に終わったのはスミス・ロウのフィットが大きい。同じくアーセナルからやってきたネルソンも徐々に出番を増やしている。
ジョーカーとしてここ2試合で暗躍しているのはウィルソン。交代で出てきては得点に絡みまくるという相手にとっては地獄のようなパフォーマンスで試合終盤をかき乱す。デュランと並んで、瞬間最高風速的にはいま最も勢いのある交代選手だ。
バックラインでは復帰となったアンデルセンと昨季から出て行くスタイルが好調なバッシーの組み合わせが安定。高い位置から潰すことも難なくこなして見せる。その背後を支えるレノもハイパフォーマンスを維持している。
コレクティブで強度が高いスタイルはニューカッスルやブレントフォードといった力のあるチームを圧倒することもあり完成度は高い。一度試合の中で波に乗ることが出来れば、90分間持続することも多い。
トッテナム、ブライトン、アーセナル、リバプールと12月は上位チームとの対戦を控えており、ここで真価を問われることになるだろう。だが、現状ではこの並びの相手にどこまでやれるのか楽しみさが先行する出来だ。
Pick up player:ケニー・テテ
石川さゆりの紅白歌唱曲とフラムのRSBは隔年で入れ替わる法則。一昨年はテテ、去年はカスターニュ、なので今年はテテがレギュラー。そして、きっと今年は天城越えのターン。
今季の道のり
【8位】ニューカッスル
5勝3分3敗/勝ち点18/得点13 失点11
連勝の勢いでスタンダードを引き上げられるか?
CLとの二足の草鞋は強度を武器とするチームにとっては苦しいということがわかった昨シーズン。心機一転、今季は欧州カップ戦なしで臨むシーズン。夢舞台に返り咲くための1年である。
理屈の上で考えれば、高い位置から追い掛け回す強度は週に1試合という試合間隔が解決してくれるはず。序盤戦は結果こそ悪くなかったが、内容としては不安定であり、もっと勝ち点を落としてもおかしくはない展開だった。
その懸念が一気に爆発したのがフラム戦。プレスを脱出できず、裏を狙ってもオフサイドと駆け引きに惨敗。逆に出て行ったプレスはトラオレにひっくり返されてしまい、スミス・ロウとイウォビはアタッキングサードで大暴れという得意な速い展開でなかなかな完敗を喫することとなる。
それ以降も、堅さはベースになるものの決め手に欠ける試合が続くことで勝ち点を積み重ねられないシーズンに。この閉塞感がフラム戦と逆側に爆発したのがアーセナル戦。素早いリトリートで自陣を封鎖しつつ、少ないチャンスで前線が起点となることでアーセナルを撃破。リードを活かした手堅い戦い方で2年連続優勝候補ストッパーとなった。
その後も勢いのあるフォレスト相手に逆転勝ちを飾るなど、今のフォームはやや上げ潮。年末にかけての対戦相手もリバプールを除けば、比較的平易な相手が並んでいる。年明けにはCL圏内を見据えられる順位にというのがニューカッスルの目論見となるだろう。
やはり懸念となるのは速い展開における優位が揺らいでいることだ。バックスはSBが対人強度に優れているとは言えず、CBは広いカバー範囲をカバーできるわけではない。ニューカッスルが今季生み出している強固さはバックラインを過負荷に耐えることが出来るMF陣がカバーをすることで成り立っている感がある。
攻撃の基盤ももう一息といった印象。イサク、ゴードンに加えてのもう1枚の前線のピースは未だに試行錯誤が続いている。ジョエリントンのコンバートはアーセナル戦のような守備の負荷が高めの試合であれば特に問題はなさそうだったが、フォレスト戦のように攻め込む時間が長くなってしまうとやや物足りなさがある。イサク、ゴードンの健康問題も含めて前線は懸念がある。
バックスは内でも外でもプレーできるリヴラメントからの横断が攻撃の新しいレパートリーになっている。4-3-3のまま攻めることが多かった保持時の形も3-2-5などやや変形の兆しも見せている。
前と後ろはプレースタイルを成り立たせる試行錯誤が続く中で、トナーリが帰ってきた中盤は充実。マイリーの離脱も気にならないくらいには無理なく回すことが出来ている。
基本的にはスタンダードをどこまで引き上げられるかだろう。リードをすればアーセナル戦のような鉄板パターンに持ち込む道が開ける一方で流れが二転三転する展開では自分たちの強みを押し切れるすごみはない。上位勢に挙げた連勝の勢いでこの部分の圧力を上げる冬にしたいところだろう。
Pick up player:ジョエリントン
4-3-3から5-4-1に移行するのが今季のニューカッスルの非保持だけども、保持時にIHに入っているジョエリントンがWBに移動するのは結構変態だなと思う。なんで普通にやっているのだろう。
今季の道のり
【9位】アストンビラ
5勝3分3敗/勝ち点18/得点17 失点17
気の利く中盤登用が持ち直す最短ルート
シーズン序盤は悪くない立ち上がりだったが、リーグ戦に関しては直近6試合でわずかに1勝と勝ち点推移的には右肩下がりという現状。CLでもバイエルンを撃破するなど向かうところ敵なしだったところに足元をすくわれる格好でついに黒星を決している。危機的状況ではないが、少しブレイクスルーが欲しいという状況はアーセナルと近い部分があるだろうか。
ここまでの成績を見れば傾向ははっきりしている。勝利したチームはフラムを除いて明確に順位が下に沈むチームが多く、敗れたチームはアーセナル、リバプール、トッテナムとスタイルが確立されている上位チームが多い。
勝利していた序盤戦を含め、例年に比べるとややスタイルの完成度自体は低かったかもしれない。デュランの爆発、ロジャーズの台頭など国際大会をオフに経験したワトキンスがやや出遅れ気味の出来だったとしても前方の中央のところはある程度クオリティが担保されている。
その一方で少し気になるのはCHである。ドウグラス・ルイスがイタリアに旅立ち、マッギンやラムジーは1列前のSHが主戦場となっているこのポジション。オナナ、ティーレマンスというレギュラークラスは悪い選手ではないのだが、あまり機能しているとは言い難い。
一発でスルーパスを通したくなるティーレマンスは散らして組み立てるよりも一発のスルーパスを狙いたがる仕事人であり、中央の奥行きを作るのは得意な一方できっちりと押し込んで組み立てる司令塔としては適性が怪しい。途中出場がメインのバークリーが一番幅を使って押しこむ際のCHとしては適切なキャラクターだ。
オナナも組み立てと守備の両面で気まぐれさが目立ち、あっと驚くプレーを見せたかと思えば攻守に怠慢さが顕在化するシーンもしばしば。このムラの収支はここまでのところはマイナスに働いている。
おそらく、カマラが安定稼働すれば多くの問題点は解決に向かうと思う。気の利く中盤は攻守両面に欲しいところ。ビルドアップは後方の枚数調整を適切に行いたいし、ティーレマンスやオナナを組み立てから外せるならそれに越したことはない。守備でもバックライン個々のパフォーマンスがあまり上がってこない状態なので、最終ラインにきっちりカバーに入れるカマラの資質は貴重。
いずれにしてもトップハーフで最も多い17失点というスタッツを改善する解決策は必要。カマラがその救世主の役割を担うことが出来れば、アストンビラは最短ルートで内容の向上を期待することが出来るのではないか。
Pick up player:ジェイコブ・ラムジー
MF型のSHって個人的にはあまり好みじゃないのだけども、今季のラムジーくらい運ぶイメージを持ちながら下がって受けられるならば全く問題にはならない。
今季の道のり
【10位】トッテナム
5勝1分5敗/勝ち点16/得点23 失点13
個々の出来ることの幅がボトルネックに
ポステコグルー体制は二年目。スタイルを浸透させるというミッションを達成した初年度から、勝てるチームにできるか?というところに求められる基準はステップアップしなければいけないシーズン。いい意味でも悪い意味でも哲学に殉じる傾向があるポステコグルーにとってはこの二年目を越えられるかが個人的には分水嶺となる気がしている。
勝ち点的には4位と3差と聞けば悪くないのかもしれないが、間に多くのチームがいることは懸念だし、内容面でも改善の余地は大いにあるだろう。勝利した試合はいずれも3点以上を決めており、ブレイクスルーを見つけることで一気にその攻略法から突破まで進むことが多い。
その一方で刺さらない時は地力が下のチームでも完全に後手に回っている。パレスとイプスウィッチはどちらも今季挙げた唯一の勝利がトッテナム戦である。
ファストブレイクが刺さった時の爆発力はさすがであり、この点は去年のいい部分を踏襲している。一方で押し込むフェーズにおける改善はまだノルマ未達という感じだろう。ひとまず預けることが出来るソランケの獲得自体は悪くはないが、サイド攻略に関しては上積みがなく、もしかすると昨シーズンの方がいいかもしれない。
個人的にはCHのパフォーマンスはもう少し求めたいように思う。ほかの上位チームと比べると、できる役割の幅が狭く、その中で能力が突き抜けているわけでもないので物足りなさを感じる。具体的にはサイド攻撃においてWGとSBで相手の守備を動かしたスペースをもう少し活用できてほしい。サールは突撃する側としては優秀だけども、突撃した後のスペースから何かを生み出す側になると改善の余地はある。
こういうCHの攻撃におけるできることの幅の狭さは押しこむ相手の攻略において現代では重要になると考える。だからこそ、マディソンとクルゼフスキがIHでの出番を増やしているのだろう。
マディソンはともかく、クルゼフスキをここに置くと右サイドの攻撃にバリエーションが出なくなる。ジョンソンは縦への裏抜け特化型(CH陣と同じくできることの幅の狭さに課題がある)なので、現状ではここがボトルネックになるのではないか。クルゼフスキが大外に立っている時の相棒がいればよりアタッキングサードに幅は出てくるはず。
今の状況だと押し込む環境自体がカウンターでしっぺ返しを食らうデメリットを上回れない。中盤にフィルターキャラは不在で、SBの対人強度は去年よりも脆さが目立ち、CBが外に釣りだされて潰せないと大混乱というのが現状。イプスウィッチ戦などは収支が合わなかった典型例だ。
そういう意味では若手有望株に振り切った今夏の補強は現状の課題を打破するためにはちょっとミスマッチ感がある。唯一即時戦力として期待ができるオドベールが特効薬になれば面白いが。
Pick up player:ミッキー・ファン・デ・フェン
快足CBはユナイテッド戦でアシストを決めるなどスケールの大きさを感じさせているが、外に出て行ったときにすれ違ったり潰し切れなかったりなど多少気になる部分も。さらなる過負荷に応えられる力があることを証明したいところだ。
今季の道のり
つづく!