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「3バックへの評価を考える」~2026.5.10 J1百年構想リーグ 第16節 柏レイソル×川崎フロンターレ レビュー

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レビュー

不十分な明確化

 まず、真っ先に触れる必要があるのは川崎がこの試合に3バックを採用したということだろう。試合後の長谷部監督のコメントは以下の通り。

 開幕戦で(柏と)試合をしたときからずっと頭にあり、コーチと揉んだりしていました。ただ練習は昨日1日だけです。それにしては十分できたと思います。とくに前半はいいプレーをしていたと思います。結局、負けてしまいましたし、最後は少し変えましたが、自分たちの今まで通してきたスタイルはありますが、今日勝つためにということで選手に伝えて、形を少し変えました。ただ、自分たちの考え方のところで言うと、攻守において前からどうするんだ、ミドルサードでどうするんだ、ということを話はして、大きく変えることはないので、立ち位置が少し変わっただけと思っていただけたらいいと思います。

 要は「柏対策として」「わずかな準備期間で」「従来自分たちが目指したいものを形を変えて」行うことができているか?というところが検証すべきポイントとなるだろう。

 一般的にフォーメーションを噛み合わせることには、マーカーをはっきりさせる効果があると考えられる。3-4-3の相手に対しては、4-4-2で組み合うよりも3-4-3で組み合う方が、「目の前の相手をしばけばいいやろがい!」となりやすいからだ。

 川崎も実際、立ち上がりはそのように見えた。前線はマーカーを噛み合わせながら対応し、高い位置から追い回していく。その意図自体は行動から見てとれた。しかしながら、すぐにいくつかの問題点が出てくることとなる。

1. 一人一殺の基準違い

 マンツーを前提とした時の大きな問題点の1つは、いくつかのポイントにおいて「マンツーでしばく」という前提が成り立っていない領域が見られることだ。最もわかりやすかったのは低い位置に立つシャドーストライカーだろう。汰木、小泉の両シャドーが降りて受ける際に、松長根と丸山が迷わずついていく場面はあまり多くはなく、彼らが自在に浮く場面があった。

 これが指示なのか、あるいはやろうとしてできなかったのかは区別がつきにくい。丸山や松長根が広い範囲を潰さないという方向性自体は、今季の川崎の守備傾向と一致している。となると、この領域だけは一人一殺の原則を適用しないと考えることもできる。橘田がロングボールが出た瞬間に最終ラインへ戻るなど、ある程度後方を同数にしないためのリスクヘッジが見えたのも、「仕組み説」を否定しきれないポイントである。

 だが、指示にせよサボりにせよ、実際のところ降りていくシャドー、特に前半に多かった汰木をうまくケアしきれなかったのは事実だろう。汰木自身のプレー精度が高くなかったので大事には至らなかったが、あまり整理できていないなと感じる場面だった。

 また、丸山と松長根に比べて、中央CBに位置した佐々木は明らかに一人一殺の意識が強かったのも問題の種になっていた。佐々木と他のCB陣との意識のギャップが問題になったのは5:20のシーン。左サイドに流れた垣田に対して、佐々木がマークについていく。しかしながら、松長根は持ち場を動かず、目の前に現れた三丸のマークを受け渡している。

 佐々木は他に引き取る人がいなかったため、三丸のマークを引き取る。その結果、松長根と左右が入れ替わる形となった。だが、サイドから中央に戻る垣田には、松長根はついていかなかった。結果的に大事故にはならなかったが、5:29のタイミングで中川が垣田にボールを入れていれば、反転からGKとの1on1になる状況だった。

 中央の佐々木は目の前の相手を潰す意識が高く、ワイドの松長根は持ち場を守る意識が高いという守備のスタンスのギャップがある。その結果、一番空けたくない中央がぽっかり空くという、何とも危険なシーンだった。

2. 前からはめ込む機能不全

 これは1とも絡む話ではあるのだけども、川崎の前からのプレス隊は、後方を気にしながらプレスを行う必要があった。一番わかりやすいのは、ロングボール対応のために後ろに下がって挟み込みとセカンド回収に走る橘田だが、シャドーの背後に顔を出す小泉をどうマークするかに悩まされた山本も同じだ。

 川崎のCHが後ろを気にしようとすればするほど、柏のCHへのマークが疎かになる。特に最終ラインに落ちるか落ちないかの位置に立っていた小西には、マークに出ていけない場面があった。その部分をカバーするのはエリソンと長。もしかすると、この部分もあらかじめ試合前からある程度約束事として仕込まれていたのかもしれない。

 だが、背後を気にしている割には、あまりうまくいかなかったというのが正直なところ。背後を気にしながらも、自分のマーカーを捕まえにいきたいというジレンマを抱えたまま後方をカバーする状況では、それぞれの思惑が独立して働いてしまうと意味がない。

 小西を捕まえるのはエリソンと山本のどちらかでいい。どちらも捕まえないのもダメだし、どちらも捕まえにいくのも潰しきれない限りは他が空くという意味では受け入れ難い。実際、川崎には「どちらも捕まえないケース」でのミスも、「どちらも捕まえにいくケース」でのミスも見られたように思える。結局のところ、「どう受け渡すか?」「今の状況は前に出ていっていいのか?」という判断を、その都度選手がしているように見えた。

 一般論から言えば、ミラーフォーメーションの採用は、噛み合わせによって目の前の相手を封鎖するという「やることの明確化」である。しかしながら、この試合の川崎は、その明確化を仕組みでサポートしようとした割には、効果を得られていないように見えた。

 結局のところ、誰かが浮いたり、誰かに2人がマークへ行ってしまって間を割られるというシーンは少なくなかった。浦和戦でサヴィオを捕まえられなかった問題は再燃しているようなものであり、相手と噛み合わせる3バックにしたからといって特に整理されていたわけではない。

 確かに浦和戦に関しては、途中就任の監督が布陣の整理をしたという点で情状酌量の余地はあったと思う。しかしながら、柏がこうしたミラーを敷いてくるチームに対して、シャドーやCHの移動から撹乱を仕掛けてくることは明らかにわかっていたこと。初手の配置からの揺さぶりに対する川崎の掘り下げは、あまりにも足りないように見えた。

勝てるマッチアップ探し

 マンツーベースの試合において、保持側にとって重要なのは、勝てるマッチアップやユニットを見つけることになる。柏にとっては、対面がついてこない小泉と汰木のところが、勝負をイメージしやすいポイントだっただろう。

 特に橘田を手前に食いつかせることができれば、そこからのロングボール→セカンド回収で橘田を解除できる。そうなれば汰木はより浮きやすくなる。

 逆に言えば、前半に柏が攻めきれなかったのは、仕組み上は浮くことができていたにもかかわらず、浮いた選手が仕事をできなかったからとも言える。フィフティー気味に裏へ蹴ったり、パスがズレたりなど、明らかにいい時の状態ではなかった。

 川崎が勝ちたいマッチアップは、やはりエリソンだろう。しかしながら、序盤はそもそもエリソンにボールを届けることができない。中盤以降は少しずつ収まるようにはなったが、味方につけるところの連携がうまくいかず苦戦する。

 対面への優位という意味では、久保と対峙した三浦が一番手応えを感じさせた。正対した状態からでもクロスを上げることができるなど、WBとしての仕事は果たせたと言えるだろう。

 14:40の場面では、脇坂のフリーランに対してカットインから見事なドリブル。さらに縦方向にスピードアップすることで中川を置き去りにする完璧なプレーを見せる。しかし、この場面も前で止まってしまった脇坂とエリソンの影響でスローダウン。見事なプレーの出力に見合わない、残念な結末となった。こういうところを減らさないと、川崎のチャンスはいつまで経っても増えない。

 左が三浦なら、右サイドは連携で崩すイメージ。保持では山本がサリーして4バック化し、シャドーがIH、WBがWGとなる4-3-3のような形への変形を見せた。

 サイド攻撃ではスムーズに多角形を作りやすい状況ではあったが、右サイドは人数をかけている割に効果が薄い。SBロールの松長根は、こういう時こそ狭いスペースへチャレンジングなパスを差し込めればよかったが、そうした機会を活かせず。長もインサイドで窮屈そうにプレーする場面ばかりで、なかなか持ち味を出せなかった。

 勝てるマッチアップはあるが活かせなかった柏と、そもそも見つけられなかった川崎。異なるフェーズで手詰まりとなった両チームの対戦は、スコアレスでハーフタイムを迎える。

繰り返し表現される優位性

 後半、川崎は長に代えて伊藤を投入。前からもう一度マンツーで行こう!という整理をしたかのような敵陣プレスを再開する。しかしながら、ワイドCBが出ていけないという展開は同じ。結局のところ、後半もハイプレスへの腹を括りきれなかった感があった。

 それでも敵陣で脇坂がマークを外したところから伊藤の決定機を迎える。後半、先に得点の匂いへたどり着いたのは川崎の方だった。

 流れを大きく変えたのは、細谷と瀬川の投入だろう。この2人を中心に、柏は川崎のワイドCBの手前を使うことを徹底。特に山本の背後、丸山の手前のスペースに立つことで縦パスを引き出していく。

 瀬川と細谷が効いていたのは、手前で受けるアクションの後に裏抜けを連続して行えること。この2つを続けるだけで、遅れて出てくる丸山が簡単に穴を開けてしまう。

 柏はかなりこのポイントを集中的に狙った印象。ここに人を集めることで、一気に勝負に出た。原田→馬場の投入も、前線へ出ていくことで丸山が空けたスペースを有効活用するための交代だったのだろう。

 遅れて出ていき、なおかつ本来守る場所を簡単に空ける。CBが個人で行うプレーとしては最もクリティカルに自軍へダメージを与えるアクションを繰り返したことで、川崎の左サイドは壊滅。佐々木のスライド、三浦のカバーで何とか耐えていたが、佐々木のカバーが間に合わなかったタイミングで、馬場→細谷のクロスから柏が先制する。

 質問箱に「川崎の失点は個人のクオリティに原因があるだけで、チームとしての守備は良くなっているのではないか?」という主旨の質問があった。自分の持っている答えを返すのであれば、この失点シーンは典型例な今年の失点パターンに当てはまる。まず丸山の前後を狙い撃ちすることでチームとしての形を壊され、その上で最終的には細谷に競ることすらできない松長根のように、個人のクオリティが最後のとどめになっているケースが多いように思える。

 特に川崎は失点の前後(失点前から延々とこの形は使われていた)で対策を打たなかったため、柏は再現性を持って丸山周辺を攻略。ミラーで激突する際のポイントである「優位を取れるユニットを作る」という部分で、明らかに柏が優位を見出していた。

 逆に川崎は後半、このユニット面でのアドバンテージを見出せず。パス回しから穴を開けにいくが、2人分働く気満々の細谷のプレスバックなどもあり、柏の守備網を振り切ることはできなかった。

 最小得点差ながら、後半は明暗クッキリ。柏はホームで連敗を止めることに成功した。

あとがき

 詳細は本文で散々述べたので、あまりここに書くことがない。3バックの評価としては柏ほど保持の素養があるチームに対してはあまりにも掘り下げが浅く、保持時の変形も含めて通常の4-4-2から形を変化させて望む意味づけが薄かった。

 また、丸山周辺のスペースを再三突かれて致死性のピンチがありながらも、ピッチ上の選手と監督の双方が修正を行わないまま失点を指を咥えて見ているだけになった。初期プランの精度と、目の前の状況への対応力のどちらもJ1で勝利を挙げるという水準にはなく、極めて妥当な敗戦だったと言わざるを得ない。

試合結果

2026.5.10
J1百年構想リーグ
第16節
柏レイソル 1-0 川崎フロンターレ
三協フロンテア柏スタジアム
【得点者】
柏:73′ 細谷真大
主審:大橋侑祐

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