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「FIFA World Cup QATAR 2022 チーム別まとめ」~ブラジル代表編~

目次

第1節 セルビア戦

■枠内シュートが0という『健闘』

 W杯もここまで30カ国が登場。第1節の最後を飾るいわば大トリは優勝候補筆頭であるブラジルである。対するはポルトガルを下してストレートインを勝ち取ったセルビア。ブラジルは難敵相手に開幕節を戦うこととなった。

 ブラジルに対してセルビアの立ち上がりは強気だったと言えるだろう。高い位置からのマンマークハイプレスで敵陣の深い位置からのボール奪取を狙っていく。

 しかし、ブラジルも簡単には屈しない。前線のアタッカー陣にとっとボールを当てるとあっさり反転して広いスペースに展開。セルビアのプレスに早々に対応し、速い攻撃に移行する。

 それでもセルビアの守備ブロックは粘り強かった。リトリートの速度は早くインサイドは強固。ブラジルは簡単にボールを入れることができず、ボールを外に追いやることはできていた。CFのリシャルリソンをボールを触らせずに苛立たせる下地は整っていたと言えるだろう。

 インサイドには簡単に入り込めなかったブラジルだが、外から切り崩すことは十分にできていた。中央からはネイマールが、外からはヴィニシウスとラフィーニャがドリブルでガンガンセルビアの守備ブロックを削っていく。特に左サイドのヴィニシウスは凶悪。1枚はもちろん、2,3枚は余裕で引きちぎる暴れぶりでブラジルの攻撃を牽引していた。大暴れのブラジルアタッカー陣に苦戦するセルビアだが、バックラインの粘り強いクロス対応を軸になんとか攻撃を跳ね返していく。

 セルビアのボール保持はアンカーのグデリが最終ラインに入り4バック化。中盤を空洞化させる配置で前線とバックラインに人を割く。この形でのビルドアップは予選と同じようでセルビアにとってはお馴染みのシステムである。

 ブラジルの非保持はオーソドックスな4-4-2。敵陣の高い位置から是が非でもボールを奪い取ってやる!というスタンスではないが、要所ではきっちり強度を発揮するソリッドな組織。攻撃で目立っているヴィニシウスやラフィーニャも非保持に回ればきっちりと4-4-2の一員としての仕事をこなしている。

 ボールを持つターンになれば落ち着いたポゼッションをしたいセルビア。細かい立ち位置の調整など、システム自体の成熟度を見せることはできていたが、なかなかスムーズな前進を連発することはできなかった。

 迎えた後半はブラジルがプレスのギアを一段階あげて奇襲をかけてくる。ボールを奪ってから敵陣までのフィニッシュまでの迫力やセットプレーの圧力など、ブラジルは明らかに勝負どころと設定した形である。

 セルビアは50分過ぎに数回セットプレーのチャンスを得ることができてはいたが、これ以降はシュートどころかブラジルの陣内に迫ることすら至難の技。一方的に攻め立てられる展開に苦しむことになる。

 ブラジルが狙い目にしたのはセルビアの3センター。まず右サイドに彼らを寄せて、逆サイドに素早く展開することで3センターの脇から侵入をする。巧みだったのはアレックス・サンドロの立ち位置。逆サイドからきっちりボールを引き取り、大外のヴィニシウスに1on1を行える舞台を整える役割を果たして見せた。

 セルビアは前半に比べると中盤のスライドが苦しくなった。ボールを自由に動かすブラジルに対して明らかに後手を踏むようになる。その上、大外には1枚も2枚も剥がすヴィニシウスがいる。かといってCHがそちらに注力すればネイマールがカットインするためのバイタルのスペースをあけ渡すことになる。どちらにしても厳しい。

 セルビアの守備が決壊したのは60分過ぎのこと。ネイマールのターンから相手を外して左サイドに展開すると、エリア内に入り込んだヴィニシウスのシュートの跳ね返りをリシャルリソンが押し込んでみせる。

 ようやくこじ開けたブラジルはここからさらに畳み掛ける。セルビアはだんだんと横幅だけでなく、MF-DFのラインも広がるように。アンカーの脇のスペースも新しく狙えるポイントに設定できるようになったブラジルはさらに勢いを増すばかり。先制ゴールを奪ったリシャルリソンが試合を決定づけるゴールを奪うのにそう時間は掛からなかった。

 以降もブラジルは攻撃ユニットを総入れ替えして勢いを途切れさせない。ジェズス、アントニー、ロドリゴ、マルティネッリは自信をアピールすべく張り切るのでセルビアからすれば傍迷惑な話である。

 前半はもちろん、後半もセルビアは健闘したと思う。おそらく、欧州の中でも完成度は高いチームだろう。だが、善戦したとしても枠内シュートはなし。好チームが踏ん張るパフォーマンスを見せてもアリソンに冷や汗をかかせることができないという事実は、ブラジルがいかに強大なチームであるかを示すのには十分すぎるだろう。

試合結果
2022.11.24
FIFA World Cup QATAR 2022
Group G 第1節
ブラジル 2-0 セルビア
ルサイル・スタジアム
【得点者】
BRA:62′ 73′ リシャルリソン
主審:アリレザ・ファガニ

第2節 スイス戦

■ミッション失敗の諦めのつく決勝点

 第2節も残り2試合。だが、ここまで連勝のチームはただ1つ。連勝を決める可能性を残した3チームのうち、トリ前で登場するのはブラジル。ゴリゴリの優勝候補としての貫禄を見せつけた彼らが2節目に戦うのは初戦を勝利ししたスイス。こちらも勝てば連勝で突破を決めることができる。

 試合は非常に手堅い展開になった。ボールを持つ機会が多いのはブラジルの方。バックライン+アンカーの組み立てにIHが時折降りるというオーソドックスな形で試合を組み立てる。なお、右のSBにはミリトンというゴリゴリのCBが入ったが、左のサンドロとはそこまで高さを変えておらず、明確に3枚のCBでビルドアップ!といったようなことは見られなかった。

 スイスの非保持のスタンスは明快。ブラジルのCBは完全に放置。優先事項はコンパクトな陣形の維持で、裏へのパスは全て根性でついていく形である。ライン間で前を向かせることは御法度であり、この部分はブラジルにはほとんど許さなかった。

 というわけでブラジルの組み立ての鍵になるのはCB。マルキーニョスがボールを持ちながら左サイドを押し上げて組み立てを行っていく。ヴィニシウスの対面相手が1枚になるような形を作ることができればうまくいくが、その状況を作り出すことができない。

 右サイドにおいてはハーフスペースの裏抜けを狙っていたが、これも折り返しのクロスを入れる前にカット。前半唯一の決定機だった右サイドからのクロスをヴィニシウスがヘッドしたシーンは守護神ゾマーが立ちはだかりシャットアウトする。

 スイスの色気がなかったのはボール保持でも同じである。トランジッション局面で何度か中央で縦に早く進める局面を迎えていたが、彼らの優先事項は一度ボールを落ち着かせること。下手にボールを失って、ピンチを迎えることは避けなければならない。ドローは彼らにとっては悪くない結果。それでいて、ブラジルの前線のチェイシングをいなせるくらいのポゼッションスキルがあるのだから、相手からするとスイスは厄介極まりない。

 後半、ブラジルはロドリゴを投入。パケタに比べるとさらに攻撃的なタレントを置くことに。保持では4-3-3をキープしつつ、非保持は4-4-2に移行する。スイスのスタンスは前半と同じ。エンボロを前に残して9人でブロックを組んで手堅く試合を進める。

 4-2-3-1になり、ブラジルの前プレの脅威が減った分、スイスは前に進む機会が増えた後半の立ち上がり。サンドロの裏をとった右サイドからの侵攻はこの試合最大のチャンス。しかし、これをブラジルの守備陣がきっちり引っ掛けて凌ぐと、以降はブラジルのペースに再び傾いていく。

 徐々に中央への縦パスが増えていたブラジルの攻撃。スイスは段々と中央を開けていくシーンが増えていくようになる。リシャルリソン、ロドリゴとポスト役が増えたのはスイスにとって厄介。中央の縦パス→サイドへの展開→フィニッシュという流れもこれまで以上にスムーズになる。

 ヴィニシウスがネットを揺らしたシーンもややアクシデンタルではあったが、中央を破られた結果、大外のケアの枚数が足りなくなった形。スイスからすると0-0をキープしたいのだから、アクシデンタルなことが起きていること自体がありがたくない。

 するといよいよその時がやってくる。サイドからヴィニシウスがドリブルから横パスを仕掛けるとここからワンタッチを2連発。ロドリゴのポストとカゼミーロのフィニッシュはあまりにスピーディー。スイスからすると気づいたらネットが揺れていた状態だったのではないだろうか。

 静的に試合を運びつつ、最後にはこじ開けられてしまったスイス。ドローで最終節を有利に迎えたかったスイスだが、その願いは叶わず。しかし、まぁあれだけのスキルのブラジルの決勝点をまざまざと見せつけられた諦めもつくのかもしれない。

試合結果
2022.11.28
FIFA World Cup QATAR 2022
Group G 第2節
ブラジル 1-0 スイス
スタジアム974
【得点者】
BRA:83′ カゼミーロ
主審:イヴァン・バートン

第3節 カメルーン戦

■記録と記憶両面に残る金星

 グループステージの大トリで登場するのはすでに突破を決めているブラジル。首位通過がかかっているのはもちろん、勝てば32カ国の中で唯一の3連勝を達成することができる。

 だが、ブラジルはそうしたことはどこ吹く風。メンバーをほとんどそう入れ替えする形でギリギリ突破の可能性を残すカメルーンを迎え撃つ。いや、それでも普通に強そうだけども。

 勝利が最低条件のカメルーンは非常にはっきりしていた。高い位置から相手を噛み合わせる形を見せるプレスを行うカメルーン。2トップは中盤を受け渡しつつ、交互にファビーニョをケアしていく。サイドはSBがSHを追い回す形である。カメルーンはサイドでも枚数を嵌める形でプレスを行なっていく。

 しかし、徐々にペースはブラジルに。マンマーク気味の相手に対しては動きながらどこまでついてくるかを探るという王道パターンで解決を図る。動き回る前線をカメルーンが捕まえられるかどうか?はこのプランの肝である。結論としてはギリギリだろう。カメルーンの中盤から後ろは1on1の対応が後手になってしまい、警告を受けること必須のファウルを連発。30分までに3枚のイエローカードが提示されることとなった。

 ブラジルの保持において特に活性化したのは右サイド。横のレーン入れ替えだけでなく、奥を取る縦の動きなどバリエーションを見せながらカメルーンの守備ブロックを壊す。しかし、ブラジルはフィニッシャーが不在。マルティネッリ、アントニー、ミリトンなどチャンスをことごとくものにできない。

 とはいえ、カメルーンの積極策も得点に繋がったわけではない。前半の終盤までほとんどチャンスがない状態で推移する。だが、前半終了間際に左サイドからのクロスをフリーのファーの選手に届けた形から決定機を迎えたカメルーン。しかし、そこはエデルソン。世界最強の第2GKが立ちはだかり前半でリードを許さない。

 後半もテンポは同じ。カメルーンは前半以上にDFを交わして早い攻撃をシュートに持っていくことは彼らにとっては朗報と言えるだろう。しかし、ブラジルが高い位置から守備をセットしたこともあり、前半よりもオープンな展開が増えていく両チームだった。

 そうした状況を活かしたいのはカメルーン。左サイドにトコ・エカンビの登場をアクセントに前半以上に攻め込むブラジルに対してサイドから牽制をかけていく。

 ブラジルは後半も決定機でシュートが枠外に飛んでいく機会が目についた。枠内に飛んだシュートはことごとくエパシのファイルセーブに咎められてしまい苦しい戦いが続く。エパシはファインセーブでカメルーンの突破の可能性を繋いでみせた。

 ブラジルは得点を得ることができない焦りからか徐々にプレッシングの位置を高めていく。カメルーンもこれに合わせてテンポをあげることでだんだんと両軍の中盤には間延びが発生するようになる。

 終盤まで攻撃の手を緩めなかったブラジルだったが、得点の歓喜が訪れたのはカメルーン。90分過ぎにゴールを決めたのはアブバカル。抜け出しから決勝点を生み出す。

 興奮のあまりすでに警告を受けている状態でシャツを脱ぐというパフォーマンスで退場するというのはなかなかの名場面。本人、全然気にしてなさそうで笑った。審判も思わず苦笑い。カメルーンはブラジル戦勝利とアブバカルの退場という記録と記憶の両面でインパクトのある試合となった。

試合結果
2022.12.2
FIFA World Cup QATAR 2022
Group G 第3節
カメルーン 1-0 ブラジル
ルサイル・スタジアム
【得点者】
CAM:90+1′ アブバカル
主審:イスマイル・エルファス

Round 16 韓国戦

■韓国のプレスがブラジルに火をつける

 カメルーンに意地の一発は喰らったものの、依然として優勝候補の最有力と言っていいブラジル。ジェズス、テレスとメンバーの離脱が出てきたのは気がかりではあるが、ネイマールの復帰は彼らにとっては何よりも朗報だろう。

 一方の韓国は後半追加タイムの勝ち越し弾でラスト1枠を最後の最後で強奪に成功。劇的な初勝利で逆転でグループステージの突破を決めてみせた。

 韓国のプランは4-4-2。ソンを中央に移し、左サイドでは逆転突破の立役者になったファン・ヒチャンが今大会初先発を飾った。韓国のプランは良くも悪くも普通だった。2トップは中盤のパケタ、カゼミーロを後方に受け渡しながらバックラインにプレスにいく形を採用した。

 ブラジルはこれに対してミリトンがCBとフラットに立つ片上げ型の3バックで後方に人数を確保しつつ韓国のプレスをいなしていく。この試合のブラジルは立ち上がりから行くぞ!という雰囲気はそこまで感じなかったのだけど、韓国のスタンスが前プレも捨てない4-4-2だったことがブラジルがプレス回避を伴いながら加速していく流れを誘発したように見えた。

 バックラインは後方のプレスを引きつけつつサイドに大きく展開。ヴィニシウス、ラフィーニャの両翼にボールを預けることができればそこを前進の起点にすることができる。中央にはネイマールもおり盤石。韓国のプレッシングがハマる気配は皆無だったと言えるだろう。

 そうした状況で先制点の起点となったのはラフィーニャ。右サイドに引き寄せた韓国の選手を一網打尽に切り裂いて、逆サイドで待ち受けていたヴィニシウスにラストパス。コースが開くのを待っていたかのように狙い澄ましたコントロールショットで先制点を奪い取る。

 2点目はPKから。チョン・ウヨンの大きなキックモーションに入り込むように入り込んだリシャルリソンがファウルを獲得。個人的には取る必要はなかったように思えたが、審判はペナルティスポットを指差した。これをネイマールが決めてブラジルは追加点。直前に日本のPKを見ていただけに、キム・スンギュを完全に上回っていたネイマールの駆け引きは非常に印象に残るものだった。

 正面からぶつかった結果、実質10分強で試合の決着はついてしまったと言えるだろう。韓国はグループHでどのチーム相手にも結構互角に組みながらやれていたことで、極端なプランをグループステージで敷いてこなかったのは痛かったかもしれない。ともすれば、ポルトガル戦よりも前がかりな姿勢であっという間に終戦してしまった印象だ。

 精神的に余裕ができてくるとイキイキしてくるのはリシャルリソン。敵陣でのリフティングから時間を作ると、自らPA内に侵入しゴールを決めてみせる。相手をおちょくる余裕がある時のリシャルリソンは有能である。

 韓国の前進はここまで見たように背負う選手+落としを拾う選手の連携で設計されている。しかしながら、ブラジルの後方の押し上げを前にあっという間に囲まれてしまう。前進のメカニズムはほとんと機能せず、韓国のアタッカーはブラジルにことごとく潰されてしまう。裏を狙ってはブラジルのラインコントロールにひっかかりことごとくオフサイドになってしまう。

 意地を見せたと言えるのはファン・ヒチャン。左サイドからの強引なカットインでなんとかフィニッシュまで持っていく動きを見せていた。とはいえ、ブラジルのゴールに届くには遥か遠く、韓国は得点の匂いがしなかった。前半のうちにブラジルはパケタのゴールで4点差に。試合を完全決着させた状態でハーフタイムを迎える。

 後半、韓国はプレッシングからテンポを掴み直そうとするが、ブラジルのプレス回避は後半もサビつかず。ここまで追い込めばいけるのでは?というところからひっくり返すスキルは流石である。

 60分も過ぎればブラジルはプレッシングのテンポを下げてリズムを調節。韓国はボールを持ちながら敵陣に攻め込むことを許される。アタッキングサードにおけるポストで前を向かせる状況も作れるように。ソンが徐々に存在感を取り戻してきた後半だった。韓国はセットプレーからのミドルシュートで意地の一撃。一矢報いて見せる。

 緩んだまま試合を終わらせることを嫌がったのか、チッチは交代選手で再度プレスを敢行する。次のラウンドを見据えた引き締めで再び韓国から主導権を取り上げてみせた。

 更なる追加点を奪う事は敵わなかったがペースを落としてのベスト8は悪くないだろう。ブラジルが韓国を一蹴し、クロアチアが待つ準々決勝に駒を進めた。

あとがき

 ブラジルは圧倒的だった。そちらがテンポをあげるならあげますけど?と言った形でエンジンを入れると韓国を粉砕。遊び心あるキープに当たり前のプレーを高速で繋げながら具現化させる形は唯一無二である。底を見せるのはまだ先。強豪ぞろいのベスト8でもブラジルはやはり本命と言える存在だ。

 本文中でも述べたが韓国は正面衝突しすぎてしまった感がある。とはいえ、引いて受けても完全粉砕の可能性もあったので、この敗戦をどのように納得感を持って受け止められたかは気になるところ。それでもグループステージの戦い方は胸を張れるもの。このラウンドで敗れたのは残念ではあるが、顔を上げて帰国して欲しいところだ。

試合結果
2022.12.5
FIFA World Cup QATAR 2022
Round 16
ブラジル 4-1 韓国
スタジアム974
【得点者】
BRA:7′ ヴィニシウス, 13′(PK) ネイマール, 29′ リシャルリソン, 36′ パケタ
KOR:76′ スンホ
主審:クレマン・トゥルパン

準々決勝 クロアチア戦

■大会のトレンドに沿った前半の流れ

 優勝大本命であるブラジルが日本を下したクロアチアと戦う試合から準々決勝はスタート。グループ後半側の両チームはかなり日程がきつい状況だが、ここまでくると大幅にスタメンを入れ替えることはなし。どちらのチームも多くのメンバーをRound16からキープしたまま臨む。

 Round16で韓国を電光石火で下したブラジル。だが、試合の内容を見てみると韓国にけしかけられる形でのペースアップというのが実情だろう。韓国が4-4-2で前線がプレスに来たからこそ、それをかわす流れでゴールに早い時間からゴールに迫ることができていた。

 クロアチアは韓国に比べればそうしたプレスの意識が特別高いわけではない。よって、ブラジルは韓国戦と異なり急ぐことはなし。バックラインから繋ぎながらチャンスを伺っていく。唯一、プレスの意識が明確に変わったように思えたのはモドリッチ。中盤から出ていくプレスのスイッチ役として奮闘。カゼミーロのマンマークをやりながら時には穴を感じさせずにバックラインにまでプレスをかけにいくバイタリティは恐ろしい。

 自陣に押し込まれた後のクロアチアの守り方は日本戦で三笘が出てきた後のイメージと似ていただろうか。ヴィニシウスに合わせるように全体がブラジルの狭いスペース側に圧縮をかけるように左サイドにスライドしながらスペースを消していく。ヴィニシウスにはパシャリッチがマークし、斜め後方に抜かれた時の際にモドリッチが待機しているという二段構えでヴィニシウスに挑む。

 日本はこうしたクロアチアのプレスに対して、狭いスペースの圧縮で発生する中央のスペースまで展開することができずに苦しんでいたが、ブラジルは狭いスペースは狭いスペースのままで攻略していた印象。ヴィニシウスやネイマールがスペースに突っ込みながらそのまま打開するという反ポジショナル的な発想で開拓に挑む。リシャルリソンまで絡めたポストからの抜け出しでブラジルがないはずのチャンスをいつの間にか作り出している。そんな流れのブラジルのチャンスメイクだった。

 一方のクロアチアはバックラインからゆったりと保持の機会を確保。ブラジルがきっちりとハメ切るプレスを仕掛けてきたわけではないので、クロアチアはのんびりと中盤を外しながら前進する。

 ブラジルの守備で気になったのはフラフラと前に出ていく2列目のプレス。後方がろくについてきていないのに不用意に前向きのプレスを仕掛ける姿勢はクロアチアにとって美味しい以外の何者でもない。モドリッチ、ブロゾビッチ、コバチッチの3枚はブラジルのプレッシングのスピード感に十分対応しながら自陣からボールを脱出させていた。

 トランジッションにおいて好調さが光ったのは右サイドのユラノビッチ。対面のダニーロの裏を取る形で攻め上がりを行っていた。右サイドからの攻撃のアクセントとして機能していたと言っていいだろう。

 クロアチアはボールを持てばプレスを回避できるが、ゴールに向かうまでには至る感じはしなかった。インサイドでは制空権が握れるわけではなく、ブラジルは余裕を持って跳ね返すことができる。ブラジルにとっては難しい状況。チャンスは作れていないわけではないし、クロアチアがゴールに迫る様子もない。別に急いで改善をする必要もない。

 ゴールには迫れていないが、ボールを持てていてブラジルの攻撃の時間を減らすことができるという状況はクロアチアにとっても悪くはない。悪くはない状況であれば、リスクを冒さない!というのはこの大会におけるトレンドである。どちらのチームも悪くないこの状況を受け入れながら時計が進むのを受け止める。そんな前半の45分だったと言えるだろう。

 後半の頭、仕掛けたのはブラジル。畳み掛けるようにゴールに迫り、クロアチアに冷や汗をかかせる。しかしながら、クロアチアはCBの両雄が強力。体を投げ出しつつ、広い範囲をカバーできるグバルディオルは特に厄介で、彼をどかすことができなければブラジルはチャンスを作ることができない。

 それを超えたとしても待っているのはGKのリヴァコビッチ。日本戦ではPKストッパーとして活躍したリヴァコビッチだが、ブラジル戦では流れの中でも存在感を発揮。抜け出したブラジルの選手に対して、シュートコースを消しながら飛び出し、ことごとくチャンスを防いでいた。

 ブラジルはチャンスを作りながらもゴールを得ることができない。気がかりだったのは即時奪回に甘さが見られたこと。確かにクロアチアのプレス回避は圧巻ではあったが、それでも押し込んだチームにとっては即時奪回からの波状攻撃は非常に有効なチャンスを掴むきっかけになる。ブラジルの前線はそうしたセカンドチャンス創出のための汗をかく動きが少なかった。

 前線の選手交代によってブラジルの停滞はさらに強まった印象。大外でアイソレーションする役をヴィニシウスからロドリゴに代えたが、ユラノビッチに対して優位を取ることができない。逆サイドのアントニーもやや強引な攻め筋が目立った。狭いスペースに対してつっかけるという前半は力技でねじ伏せてきた部分が徐々にこの時間からマイナスに触れてきた。

 逆に動き回るWGに対してついてくるクロアチアの選手が空けたスペースにパケタなどが走り込むことができればチャンスになる。ブラジルはアントニーがボールを持った時よりも、彼を囮に使えた時の方がうまく攻撃が流れていた印象だ。

 ブラジルの攻撃さえ終われば、きっちりボールを持つことができたクロアチアもゴールが遠い。単発でのプレスからカウンターが発動できそうな形を作ってはいたが、直線的にゴールに迫る手段は皆無。それを理解していたかのように、端から急がすに落ち着かせながら押し込む流れになった。ロブレン、ブロゾビッチが流れながら保持のサポートをする右サイドは中でも安定感が光る。押し込んだ状態からロブレンがクロスを放り込む形は日本戦のリバイバルである。

 しかしながら、クロアチアは空中戦で勝機を見出せないという状況は変わってはおらず。得点が取れる香りはしないまま時間だけが過ぎていく。

 膠着気味になった延長戦で躍動したのはネイマール。中央をこじ開けるという狭いスペース狙いの前半に近いスタンスでクロアチアのブロックを破壊。強固な最終ラインを飛び越え、飛び出してきたリヴァコビッチもかわし、厳しいコースにボールを蹴り込み先制点を奪う。

 長い時間通してゴールに迫ることができなかった分、クロアチアの反撃の目はあまりないように見えた。モドリッチとペリシッチの2人が流れる左サイドにクロスを上げる機能を集約し、ひたすらエリア内にボールを入れていく。

 それでもなかなか打開できないクロアチアはクロスを上げる機能に特化した左サイドにオルシッチを投入。すると、このオルシッチが左サイドから抜け出す形からワンチャンスを決めたクロアチア。ペトコヴィッチのシュートはDFに跳ね返り、アリソンの手が届かない位置に吸い込まれていった。

 120分では決着がつかなかった試合はPK戦にもつれ込む。まるで試合前のような涼しい表情でPK戦に臨んでいたリヴァコビッチと中央に連続で蹴り込む強心臓ぶりを見せたキッカーの活躍により、クロアチアがPK戦を制し大本命のブラジルを止めてみせた。

あとがき

 勝負どころを先送りにしていたブラジルからするとしてやられた感があったはず。エンジンをかけるタイミングを見失いながら、だらっと時間を過ごしてしまいクロアチアに時計の針を進められてしまう場面が多かった。試合が進むにつれて集中力が増していったクロアチアの中盤より後ろに比べると、ややブラジルは淡白さが目立った。

 それでも、ネイマールにこじ開けられた時は「終わった」と思った人も多かったはず。ほとんどシュートが打てていない状況から、クロアチアに1点を奪うというミッションを強いるところまでは悪くはなかったがワンチャンスを沈められてしまった。

 エンジンをかけきれない理由としてはクロアチアのプレス耐性の強さが挙げられるだろう。軽い気持ちでクロアチアの保持を深追いすればダメージと消耗の盛り合わせとなってしまい、スカッドに疲労が溜まってしまう。そうしなくても良さそうな戦況ゆえに、勝負所を見送り続けた結果、いつの間にかPK戦に臨んでいたのは少し勿体無いように見えた。そういうところに持ち込むのがクロアチアのしぶとさなのかもしれないが。

試合結果
2022.12.9
FIFA World Cup QATAR 2022
Quarter-final
クロアチア 1-1(PK:4-2) ブラジル
エデュケーション・シティ・スタジアム
【得点者】
CRO:117′ ペトコビッチ
BRA:105+1’ ネイマール
主審:マイケル・オリバー

総括

■相手なりのリズムが命取りに

 グループステージでの安定感は別格だった。セルビア、スイスなどのブロックを固めて我慢をしてくる相手に対しても粘り強く保持で動かしながら対抗。狭いスペースでも躊躇なく突っ込んでいき、崩してゴールを奪ってくるという強引さにおいては別格。この分野においては今大会はブラジルに比肩するものはいなかったと断言できるレベルである。

 攻撃は大外レーンをWGで固定しつつ、インサイドの選手たちには自由度を持たせたポジショニングを許容するという感覚。中央でプレーした選手はみんな自由にやれていたように思えたが、中でもネイマールはやはりスーパークラック。ボールを低い位置で引き取ってもドリブルで簡単に陣地回復でペイしてしまうあたりは他のブラジル人選手にはマネができない芸当である。

 想像よりうまくいったなと感じたのはリシャルリソンである。他に9番がいた方が活きるタイプではあるように思うが、このブラジルにおいては9番の役割をスマートに全うする。ほかにエースがいたり、得点源がチームの異なる部分にあるとチームの勝敗に関わらずメンタルが安定しないことが多いのが彼の難点だが、ネイマールに対してはそうした部分をほぼ見せなかったのはとても興味深かった。

 中盤ではパケタ、カゼミーロも攻撃に絡むことが出来ていたし、ワイドのヴィニシウスの凶暴さも健在。固めるところと自由なところを混在させながら、フォーメーションを変えつつ相手を攻略していくスタンスはネイマールを軸とした代表チームとしてはとても完成度が高いものになっていた。

 CHが前への意識が強くなると守備における怖さは一般には増幅するが、チアゴ・シウバ、ミリトン、マルキーニョスと猛者揃いのバックラインが簡単に食い止めることが出来ていた。敗れたクロアチア戦すら、そうした部分が問題になる場面は少なかったといえるだろう。

 ノックアウトラウンドにおいて気になったのは「相手なりに戦う姿勢」である。高い位置からプレスをかけるチャレンジをしてきた韓国に対しては、ひっくり返して得点を重ねるリアクションが成功した。これは相手なりに戦う姿勢がいい方向に転がった例だといえるだろう。

 一方、韓国よりもボール保持が優れている上、無理にプレスをかけてこなかったクロアチアに対しては、付き合って沈黙する場面が多かった。それでも勝つ確率はブラジルの方が高かったとは思うので、一概にブラジルの戦いが悪かったとは思わない。ネイマールが決めた時に勝ったと思ったし。だけども、自分たちから試合の流れを作り出していくことがあまり得意なチームではなかったように思うし、その姿勢がクロアチアに何が起きてもおかしくない点差で推移することを許してしまった。リードを守れなかったという観点で言えば先制後の振る舞いが問題になるだろうが、これまでの戦いを踏まえるとこの部分が引き金になっている気がどうしてもしてしまう。

 グループステージ第3節をまるっと入れ替えたチームがチーム作りの幅を広げられずに敗退!というのはEUROでもよく見た現象であり、今回のブラジルにも当てはまる部分。自分たちからリズムを変える手段の模索の欠如が早すぎる敗退を招いた一因であるように思う。

Pick up player:ヴィニシウス
大外におけるアタッカーとしては世界最強クラスとして君臨していることを示した大会といえるだろう。大外に張るだけで相手の守備のバランスは崩せる上に中に侵入を許すと、恐ろしいくらい冷静なフィニッシュを決める。アタッキングサードにおける武器としては今現在のサッカー界においても随一であることに疑いの余地はない。

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