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「俺もカタール行きたかったな」~FIFA World Cup QATAR 2022 全チーム総括 part4~

敗れた各国の生き様を振り返る。その4。

その1

その2

その3

目次

【ベスト8】ブラジル

■相手なりのリズムが命取りに

 グループステージでの安定感は別格だった。セルビア、スイスなどのブロックを固めて我慢をしてくる相手に対しても粘り強く保持で動かしながら対抗。狭いスペースでも躊躇なく突っ込んでいき、崩してゴールを奪ってくるという強引さにおいては別格。この分野においては今大会はブラジルに比肩するものはいなかったと断言できるレベルである。

 攻撃は大外レーンをWGで固定しつつ、インサイドの選手たちには自由度を持たせたポジショニングを許容するという感覚。中央でプレーした選手はみんな自由にやれていたように思えたが、中でもネイマールはやはりスーパークラック。ボールを低い位置で引き取ってもドリブルで簡単に陣地回復でペイしてしまうあたりは他のブラジル人選手にはマネができない芸当である。

 想像よりうまくいったなと感じたのはリシャルリソンである。他に9番がいた方が活きるタイプではあるように思うが、このブラジルにおいては9番の役割をスマートに全うする。ほかにエースがいたり、得点源がチームの異なる部分にあるとチームの勝敗に関わらずメンタルが安定しないことが多いのが彼の難点だが、ネイマールに対してはそうした部分をほぼ見せなかったのはとても興味深かった。

 中盤ではパケタ、カゼミーロも攻撃に絡むことが出来ていたし、ワイドのヴィニシウスの凶暴さも健在。固めるところと自由なところを混在させながら、フォーメーションを変えつつ相手を攻略していくスタンスはネイマールを軸とした代表チームとしてはとても完成度が高いものになっていた。

 CHが前への意識が強くなると守備における怖さは一般には増幅するが、チアゴ・シウバ、ミリトン、マルキーニョスと猛者揃いのバックラインが簡単に食い止めることが出来ていた。敗れたクロアチア戦すら、そうした部分が問題になる場面は少なかったといえるだろう。

 ノックアウトラウンドにおいて気になったのは「相手なりに戦う姿勢」である。高い位置からプレスをかけるチャレンジをしてきた韓国に対しては、ひっくり返して得点を重ねるリアクションが成功した。これは相手なりに戦う姿勢がいい方向に転がった例だといえるだろう。

 一方、韓国よりもボール保持が優れている上、無理にプレスをかけてこなかったクロアチアに対しては、付き合って沈黙する場面が多かった。それでも勝つ確率はブラジルの方が高かったとは思うので、一概にブラジルの戦いが悪かったとは思わない。ネイマールが決めた時に勝ったと思ったし。だけども、自分たちから試合の流れを作り出していくことがあまり得意なチームではなかったように思うし、その姿勢がクロアチアに何が起きてもおかしくない点差で推移することを許してしまった。リードを守れなかったという観点で言えば先制後の振る舞いが問題になるだろうが、これまでの戦いを踏まえるとこの部分が引き金になっている気がどうしてもしてしまう。

 グループステージ第3節をまるっと入れ替えたチームがチーム作りの幅を広げられずに敗退!というのはEUROでもよく見た現象であり、今回のブラジルにも当てはまる部分。自分たちからリズムを変える手段の模索の欠如が早すぎる敗退を招いた一因であるように思う。

Pick up player:ヴィニシウス
大外におけるアタッカーとしては世界最強クラスとして君臨していることを示した大会といえるだろう。大外に張るだけで相手の守備のバランスは崩せる上に中に侵入を許すと、恐ろしいくらい冷静なフィニッシュを決める。アタッキングサードにおける武器としては今現在のサッカー界においても随一であることに疑いの余地はない。

今大会のハイライト

【ベスト8】オランダ

■最高の悪役、ファン・ハールの大立ち回り

 オランダは4-3-3!という固定観念も今や昔。ファン・ハールのオランダは本大会では一貫して3-4-1-2というフォーメーションを貫きながら戦っていた。

 グループステージの使い方は理想的だったといえるだろう。7,8人を固定しながら軸を固め、残りの数ポジションをメンバーを入れ替えながらコンディションを定めていった。浮かせたポジションは右のCB、フレンキーの相方となるCH、そしてガクポ以外の前線2枚だろう。

前線はおそらくデパイのコンディション回復待ちだったところもあったはずなので実質浮動枠は3つである。個人的にはグループステージではこれくらいの「遊び」を持たせているチームの方が後々で幅が出てくる感じがしている。EUROでも感じたところである。

 守備は基本的にはマンマーク志向。特に中盤はかみ合わせる意識が強い。前線のプレスは同数で受けるよりも相手のビルドアップ隊を余らせる形は許している。

 前線に枚数をかけすぎない分、後方ではファン・ダイクが余っているのがオランダの強み。左右のCBのフォローにファン・ダイクが遊軍として出ていく形は強力。特に左サイド側はそもそも対人の鬼であるアケの先に待ち構えるファン・ダイクを越えなければシュートにたどり着けないという難関である。マンツー色の濃いオランダの守備はコンパクトさとは無縁だったが、対人守備の強さでごまかしでいた感がある。

 攻撃においては中央のコンビネーションによる少ないタッチでの崩しが主体。この部分は機動力と技術を併せ持つ、2トップ+トップ下の3人が担当。ボールに近寄る、離れる、相手を外すという味方と相手の関係性をうまく使いながら狭いスペースを攻略して見せた。

 特にPSVではサイド専用機なのかな?と思っていたガクポが中央でのプレーを違和感なく高いクオリティでこなしていたのが印象的だった。イメージを変える必要があると思った。

 右WBはダンフリースの推進力が武器。彼が抉る形からインサイドへのマイナスの折り返しでアメリカ戦は勝ち上がりを決めたようなものである。右サイドのCBにティンバーが固定されてから押し上げが効くようになったこともダンフリースの活躍とはリンクしている。

 PK戦で敗れたアルゼンチン戦では2失点するまでの試合運びがよくなかった。1失点目はファン・ダイクとアケの壁をメッシに破られてしまった形。オランダはバックラインを破られてしまうと、後方に控える守護神のやや存在感が薄いという難点がある。ベスト4に進んだチームと比べてしまうと物足りない。2失点目のPKにおけるダンフリースの軽率なファウルも大舞台においては致命的だ。

 だが、ある意味2失点のビハインドを背負ってからがファン・ハールの真骨頂だったともいえる。いつ使うの?と思っていた長身FWたちをこれでもかと投入し、ファン・ダイクを前線に上げて総攻撃を仕掛ける。デパイを早々に諦めたのはこれまでのスタイルをきっぱり捨てる合図である。

 勝つために準備してきたモデルを捨ててどこまでも現実的になれるのがファン・ハールの強みだし、彼が嫌われる理由なのだろうと思う。メッシの冒険を終わらせるために長身FWを並べ立てて放り込みまくるファン・ハールはSF映画のラスボスのようだった。追いついたけど勝てなかったところまで含めて。自分の国にいたらどう思うかはわからないが、傍から見ている分にはこういう悪役は好きだなと思った。

 スカッド的にはベスト8あたりが妥当な気もするし、ファン・ハールがあらゆる手を使ってもどうしようもなかった感があるので、個人的にはよくやったチームという位置づけだ。終わりが終わりなのでオランダ人がこの結末をどのようにとらえるかはちょっとわからないけども。

Pick up player:ボウト・ベグホルスト
アルゼンチン戦ではベンチで警告を受けるという自業自得のハンデを背負いながら途中出場し、アルゼンチンに冷や汗をかかせる2ゴールを記録するという暴れぶりを披露。試合後にインタビューしてるメッシに「こっち見るな!!」とブチギレられるなど試合中の煽りの効果は絶大だったようで、最後までファン・ハール卿の忠実な僕として完璧な役割を果たした。

今大会のハイライト

【ベスト8】ポルトガル

■専制守備第一主義からの脱却

 ロナウドがユナイテッドにブチギレて退団!というポルトガルに一見何も関係ないニュースから今大会のポルトガルはスタート。セットでクラブ批判も思い切りしたことで、ロナウドとブルーノ、ダロトには不協和音が!みたいなことも危惧されたが、そんなことにはならず。ベルギー、セルビア、カメルーンの内紛3兄弟と比べればどうということない波風だったといえるだろう。

 基本システムは4-3-3がベース。ただ、役割は基本的にはアシンメトリー。右WGのブルーノ・フェルナンデス、左IHのベルナルドは実質フリーマンとして縦横無尽に動き回る。左WGのジョアン・フェリックスもかなり自由が許されているが、先に名前を挙げた2人に比べるとややアタッカー寄りで、PA内に顏を出すことは求められている。

 IHのもう1枚も比較的アタッカー寄りのオタビオがメイン。アンカーはゲームメイカー型のネベスと汗かき役のカルバーリョの2択。一見保持の視点でいうとネベスの方がうまくいきそうだが、大外で勝負するアタッカーが実質不在だったこととカルバーリョの方が機動力があり即時奪回が機能しやすいなどの点から後者の方がうまく機能していた印象。

 ネベスのアンカーはややチームが前後分断していたイメージがある。SBのカンセロもだが、ゲームメーカータイプの選手が中盤より前に多い分、後方の司令塔タイプの選手たちは持ち味が死にやすいように思える。

 基本的にはポゼッションを即時奪回で回していくスタンスがベース。あまり撤退守備で我慢という要素はなく、高いラインで守りつつ敵陣でプレーする時間を増やしたいチームである。Round16でCFをロナウド→ラモスにスイッチしてからはより前線からのプレスに躊躇がなくなる。シティでバリバリのディアスはともかく、39歳のペペが躊躇なくラインを上げられるのはすごいというしかない。

 ラモスはロナウドよりも攻守に広い範囲で勝負することが可能。前線の流動性にフィットする人材であり、ペナルティエリアでの勝負力もスイス戦では存分に発揮。今大会ここまでで唯一のハットトリック達成者でもある。

 ラモスを登用したスイス戦は面白いようにポルトガルの前線のアナーキーさがハマっていった。ブルーノの左サイドへの移動や、ベルナルドの上下動、そして相手を剥がしまくるジョアン・フェリックスなどありとあらゆる方法でスイスのマンツーマンを破っていった。

 モロッコ戦での敗因は大きく分けて2つ。1つはハイプレスがハマらずにモロッコに対してショートカウンターから得点を奪えなかったこと、もう1つは保持でテンポを落としモロッコが自陣側にボールを運ぶ機会を制限したにも関わらず先に失点を許してしまったことである。

 このせいでモロッコの組織だった4-5-1の攻略に挑むことになり、最終的にはロナウドとラモスの2トップにクロスを放り込む形を作れずに終戦。ジョーカーのレオンの使い方と本人のコンディションがいまいち定まらないという懸念は最後の最後に当たってしまう形になった。

 専制守備を代名詞にしていた時期に比べると保持の手段は豊かになり、面白いチームになってきた。CFにラモスという光が見えつつあるのはポジティブな兆候のようにも思える。おそらく最後のW杯になるであろうロナウドのことを考えると大きな成果をあげたかったはずだが、EUROや次のW杯でも楽しみなチームといえそうだ。

Pick up player:ジョアン・フェリックス
大会前はロナウドの就活が噂される状況になっていたが、本当の就活に成功したのはこちらの方かもしれない。役割次第で解きはなれることがポルトガルで証明できたタイミングで移籍報道が加熱したのは偶然ではないはずだ。

今大会のハイライト

【ベスト8】イングランド

■プレータイム管理の域を出ないターンオーバー

 イランをボコボコにするというロケットスタートで好調な滑り出しを決めたイングランド。次節のアメリカ戦ではドローながらもほとんどノックアウトラウンド進出を確定させると、ターンオーバーをしながらウェールズを蹴落として堂々首位でのグループステージ通過を決めた。普段から競争力では世界トップクラスのプレミアリーグで鎬を削る選手たち中心に構成されたメンバーはグループBでは別格だったといえるだろう。

    前線は軸として完全に君臨しているケインとの関係性を2列目が構築しながら攻撃を組んでいく。右に流れることが多かったケインに対してはサカがかなり良好な関係を築いていた。ボールの預けどころとしてもおとりとしても使えるケインを軸にワンツーからの抜け出しや、インサイドのカットインを使い分けつつ侵攻する。IHではベリンガムがサカの相棒を務めていた。ホワイトがいなくても、サカが攻撃面で躍動できたのはケインとベリンガムの存在に拠るところが大きい。

 左サイドのメンバーはフィニッシャーとしての関与が多かった。左に流れるケインからラストパスとして鋭いクロスがやってくるのを仕留める役割。前線への飛び出しという点ではスターリングの動き出しは悪くなかった(繋ぎの局面ではもう少しインパクトが欲しい)し、ベリンガムはここでも別格であった。

 バックラインに目を向けると、プレータイムがクラブで稼げていなかったマグワイアの出来はイングランドの懸念だった。そんな彼が比較的安定したパフォーマンスを見せることが出来たのは中盤で君臨するライスのおかげだろう。バックラインを強力にプロテクトする用心棒の存在はチームの大きな助けに。マグワイアとストーンズをPA内に専念させることができたのはイングランドにとっては大きい。

 質の高さでグループステージを突破したイングランドはノックアウトラウンドの初戦でセネガルと激突。力業一辺倒のセネガルは自分たちの土俵の中で対応可能。実力というよりも相性の面でやりやすい相手を引くことが出来たのは幸運だったといえるだろう。

    互いに順調に勝ち上がった中で激突したフランスとの試合で彼らの真価が問われることになる。PK2本でフランスに食い下がるチャンスを得たイングランドだったが、2つ目のPKをケインが外してしまい優勝候補に一歩及ばずに敗戦してしまう。

 試合の展開を動かすことができなかったという点では他の敗退国と近い部分はあるが、ことイングランドに関してはベンチに十分にジョーカーたりうるメンバーがいたため、十分に生かし切れなかったサウスゲートの責任を問う声は大きい。大事なフランス戦で動けないのであれば、ウェールズ戦やセネガル戦の終盤のメンバー入れ替えは単なる疲労のマネジメントの域を出なかったということだろう。

 若いスカッドと豊富なタレントを見れば十分に4年後も優勝候補に名前を連ねるタレント力はあるだろう。だが、豊富な人材をどう生かしていいかわからない!という壁を乗り越えられるかどうかは現段階では未知数と言えそうだ。

Pick up player:ハリー・ケイン
PKを外そうと今のイングランドのエースはあなた。僕自身がアーセナルファンだからといってこれを否定してしまうのはあまり誠実ではない。クラブシーンであれば応援することは決してないが、また4年後に愛する国のエースとして君臨し、イングランドを勝利に導いてほしい。

今大会のハイライト

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