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「悲願達成に問われる未履修ポイント」~2022.12.5 FIFA World Cup 2022 Round 16 日本×クロアチア マッチプレビュー~

目次

Fixture

FIFA World Cup QATAR 2022
Round 16
2022.12.5
日本
×
クロアチア
@アル・ジャヌーブ・スタジアム

予想スタメン

ここまでのクロアチア

展望

■お馴染み3センター以外の強みは?

 まず、クロアチアの特徴として挙げておきたいのはスタメンの固定されているということである。予想スタメンを考える際に悩む必要はあるのはCFただ1つ。このポジションはリヴァヤとペトコヴィッチの2択であるが、それ以外の10人の選手はここまでは全試合でスタメンで出場している。

 ボール保持における特徴は大きく分けて2つである。1つは中盤3枚によるゲームメイクだ。モドリッチ、コバチッチ、ブロゾビッチで構成される3センターは世界屈指のレベルと言っていいだろう。自陣からボールを運ぶ、パスを刺す、そしてミドルを放つ。オールラウンダーが揃っており、できないことが少なくいずれのスキルも高レベルで兼ね備えている。

 この3枚は非常に均質的。特にモドリッチとコバチッチは低い位置でも高い位置でも何不自由なくプレーすることができる。3センターが均質的であることゆえに許容できるのは大きな移動だ。アンカーはあまり動かないことを決まり事としているチームが多いが、ブロゾビッチは左右に動きながら+1としてゲームメイクをする。その際にはモドリッチやコバチッチが中央に移動しながらアンカータスクを遂行する。相手からすると、移動してくる3センターにどこまでついていくかは悩みどころになるだろう。タイプとしては遠藤、田中、守田の3センターの構成のイメージに近いかもしれない。

 もう1つ、組み立てにおけるクロアチアの特徴はバックラインの左CBのグバルディオラからの配球である。今や、バックラインにパスワークの主役がいるのはクラブチームにとっては珍しいことではないが、今大会においてはあまりCBが存在感を発揮しているチームは多くはない。パウ・トーレスやシュロッターベックなどと対峙した日本はレアケースなのである。

 グバルディオルは彼ら2人と比べても配球時の存在感は大きい。ボールを正確に配球するのはもちろんのこと、自らがドリブルをしてプレッシングのラインを超えることが多く、相手のDFに穴を開けてみせる。相手のブロックが撤退気味の時は彼がズレを作るための主役になる。

 攻撃の流れはバックラインからの組み立てと中盤の移動でまずはフリーの選手を作る。ショートパスを繋ぎながら中盤を経由し、サイドに展開する形が王道パターン。相手を中盤や右サイドに集約しながら、左サイドのペリシッチまで大きく展開する。右WGのクラマリッチはペリシッチと異なるストライカータイプで左右対称に同じタイプを置いているわけではない。大外で勝負するならペリシッチのサイドだろう。

 クロアチアの左はストロングサイド。ペリシッチは独力で何枚もビシバシ抜けるほどの選手ではないが、SBのソサ(発熱で練習欠席とのこと)の攻撃のフォローが的確。中盤がサイドに顔を出すこともあり、ユニットとしてゴールに迫っていく形は非常に多様である。第3節のベルギー戦では2センター脇の左ハーフスペースにモドリッチが定住することで、敵陣攻略のポイントを作っていた。

 クロアチアの不確定要素はクラマリッチである。GS第2節のカナダにおける彼は試合単位で言えば今大会のストライカーでもかなり屈指のものだった。長い距離からの正確なフィニッシュ、ボールを収める能力と細かいパスワークを使い分けながらあらゆる手段でカナダのゴールを脅かし続けた。だが、第3節のベルギー戦ではそこまでのパフォーマンスを発揮したとは言い難い。試合ごとの出来にはまだムラがある印象だ。

 それでもそうした前線の選手が出てくることはクロアチアにとってはありがたい話。1年半前のEUROを見た時、クロアチアはかなりがっかりしたチームの1つだった。自慢の中盤がどれだけ動こうと前線が棒立ちをしてパスに動かない。モドリッチが「ここに動いて受けろ!」というパスを出してようやく動き出す始末だ。クラマリッチやペトコビッチが前線でボールを預けられる立ち位置になったことは今大会のクロアチアの復調の要因の1つと言えるだろう。カナダ戦のクロアチアは前回のW杯以降のビックトーナメントの中ではベストなパフォーマンスと言える。

■未履修ポイントを克服できるか

 非保持においては4-5-1でWGが中盤を同じラインに下げるのが特徴。ここから2人目のプレス隊として中盤からもう1枚プレスに出ていって4-4-2に変形することも許容されている。中盤はインサイドを固める意識が強く、日本はバックラインにはボールを持つことが許される一方、中盤は捕まる可能性が高いと言えるだろう。

 バックラインにおいて強力なのはやはり左サイド。PA内では壁になるグバルディオルがいなければ、ベルギー戦の無失点は怪しかっただろう。グループステージを通して、攻守ともに高いパフォーマンスで欧州移籍市場における注目銘柄であることを示してみせた。左サイドのソサも粘り強い守備をすることに定評がある。

 ただ、最終ライン付近はボール保持側の狙い所にある。対人守備に集中できる状況であればグバルディオルは壁になるが、そもそもDFラインとしての動きで後手を踏み、手遅れになることも珍しいことではない。中盤がプレスに出た時の押し上げをサボり、DF-MF間のスペースの管理が甘くなることも多く、カナダ戦の1失点目などはこの典型例と言えるだろう。

 バックラインは裏への対応も遅れがちになることが多い。大外でボールを持った時にセットでニアに裏に抜ける選手についていくかどうかを迷う時がある。サイドに流れたり、前に出ていったりしても潰せる能力があるグバルディオルが躊躇しているのを見ると、バックラインとしてどこまでのリスクを取るかどうかがあまり定まっていないのかなと思う。日本としてはこの出遅れは狙い目になる。

 日本の戦い方を考えた時に最も難しいのはこのクロアチアのDFラインの粗を顕在化させることである。クロアチアのDFラインが判断を迷うためには中盤とDFラインに広いスペースを生じさせる必要がある。クロアチアの中盤がサイドの守備のフォローに出れるならば、グバルディオラが壁になることに専念できるからである。

 そのために日本にはきっちり中盤を手前に引き出すことが求められる。中盤がフォローに入れるローラインでコンパクトな4-5-1であればバックラインのそうした粗は見えてきにくい。バックラインからのポゼッションで中盤を引き出し、DFラインとのギャップを作るというのは今回の日本にとっては難儀なこと。コスタリカ戦で未達で課題となった部分である。

 その中でもドリブルで相手を見ながら縦パスを刺すことができる板倉の不在は大きい。もちろん、冨安が万全であればカバーはできるとは思うが、状態に不安があることとそもそも併用することでクロアチアの中盤と駆け引きをしたかったところ。

 ちなみにコスタリカ戦で封印したことからも4-3-3川崎式でバックラインで相手を引き出す試みはやらないと予想する。レシーバーとなる鎌田の状態も含め、中央への縦パスが刺さるかどうかは日本が主導権を握るための大きなポイントになる。

 右サイドの裏を取る動きがここまで見れていること自体は朗報。前田や伊東には早い段階からどんどんソサとグバルディオルの間のスペースへの走り込みをしてもらいたいところである。

 非保持においては前線の高さというこれまでの相手にはあまりなかった要素に板倉なしでどのように対処するかがポイントになる。スペイン戦でクロス対応には不安を見せているが、クロアチアとの力関係を考えてもセットプレーやクロスから同数でのエアバトルで失点することは避けたい。

 マンマークでのハイプレスというこれまでの日本の非保持における十八番が機能しなそうなのも頭が痛い。広い行動範囲の3センターと相手を剥がすことに長けているスキルを考えれば、過度に追い回すだけではおそらく中盤に穴を開けてしまうことになる。WG、CFとの守備の連携はこれまで以上にシビアになるだろう。

 ただ、これまでの選手の使い方を見ると90分を通したフィジカルコンディションは日本が有利な可能性が高い。主力に勤続疲労があるクロアチアに対してはこれまで通りの後半の強度勝負に狙いを絞ることができれば、悪くない戦いに持ちこめる。早い段階での複数失点でのビハインドだけは避けたい。

 マンマーク以外の守備、ポゼッションでの相手の中盤を引き出す駆け引き、高さのある前線への対応。いずれもこれまでの森保ジャパンがW杯で見せてきた持ち味とは異なるところが問われることになる。いわば未履修ポイントの克服がベスト8進出のポイントだ。スタメンが見てやすいクロアチアに対して、ここまで先発メンバーが予想しにくい日本がどのような用兵で望むか。今から楽しみである。

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