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「Catch FIFA World Cup QATAR 2022」~Day 8 ハイライト~ 2022.11.27

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【グループE 第2節】日本×コスタリカ

スタメンはこちら。

■山根の日常のトライが実を結んだ右サイド

 ドイツに金星を挙げた日本が2戦目に戦うのはコスタリカ。連勝を達成すれば、この後行われるドイツ×スペインの結果次第では最終節を待たずして突破が見えてくる。

 そのために必要なのは得点である。この試合は日本のボール保持を軸に展開されていたため、日本に求められていたのはボール保持で解決するプランの提示である。

 まず、コスタリカがどういう陣形で来たかを整理する。初戦はスペイン相手に4-4-2で撃沈したが、この試合では5-4-1を採用。スペイン戦でもかなり似通った5-4-1を途中から活用しており、日本戦ではこの形を頭からやってきた形だ。

 5-4-1ではあるが、プレスの開始位置はミドルゾーン。余談ではあるけども、ローライン型の5-4-1というのは今回のW杯でスタートで採用しているチームはほとんど見ない。最も撤退意識が高いコスタリカですらこうなのだから、W杯に出るレベルのチームならほぼこのプランでスタートするという考えは全滅なのだろうと思う。

 5バックを壊すには「溶かすように」という話を聞いたことがある。後ろへの重心を高めているチームに対して、1人1人を動かしていきながら開けた穴をどのように活用するか?という部分ができていなくてはダメということだろう。

 この「相手を溶かす」という部分で日本が最も可能性を感じたのは右サイドだった。コスタリカの5-4-1のシャドーはインサイドにボールを入れられることを嫌ったのか、インサイドよりに立つことが多かった。そのため、SBはボールを比較的自由に持つことができる。

 右サイドで際立っていたのは山根である。この日の山根が素晴らしかったのはインサイドへのパスを刺すという意識の高さだ。たとえば、7分のシーン。山根→上田のパスから鎌田が前を向けた場面だ。この場面では上田と鎌田の周辺には3人のコスタリカの選手がいるが、山根→上田へのパスと鎌田の方向転換により、相手を外した鎌田が前を向いてボールを持つことができている。

 後ろに重たい重心の相手に対しては、なるべく多くの選手の動きの逆を取ることが肝要だが、この場面ではそうした連携に必要なものが詰まっている。山根の斜めのパス、上田のポスト、鎌田の動き直しはいずれも重要なピースと言えるだろう。

 山根のインサイドへのパスが絡むシーンはこの場面以外にも。全体的に右サイドは1人の動きに合わせるように他の選手がオフザボールの動きでフリーになることができていた。

 川崎サポ視点をねじ込むと、山根のFWに向けた斜めのパスは2年間ひたすらチャレンジしてきた部分である。過密日程においてなかなかボール保持の精度が伴わなかった試合においても、相手の懐に差し込むこのパスへのトライを止めることはなかった。その部分がこの大舞台で垣間見えたことは川崎サポとして彼の背中を追い続けていた身として非常に誇りに思える部分だ。

 右サイドでは前を向く選手は時折作ることができていた日本。難しかったのは前を向いた選手のクオリティである。特にブレーキになっていたのは鎌田。前を向くことができた後のプレー選択やドリブル、パスの精度が噛み合わないことが多く、前を向いた後の時間をうまく使うことができなかった。上田ももう少しボールを収める役割を期待されていたと思うが、思ったよりもボールコントロールが跳ねてしまった印象だ。

 オフザボールの動き直しの意識をもう少し求めたい堂安と警告をもらってしまったせいで退場のリスクが発生してしまった山根にも懸念はある。ただ、それでも選手に前を向かせるスペースを生み出す仕組みについてこの日の日本の中で一番できていた場所は山根がいた右サイドと言えるだろう。

 逆サイドは長友、相馬の2人の関係性で完結していた感があった。15分のシーンなどはそもそも長友のパスが長くなってしまったこともあるが、この場面のように左サイドは3人目の登場人物が出てこないことが多い。

 左サイドは大外に入る相馬の突破力頼みになってしまっており、彼が枚数を剥がすことで攻撃を機能させるしか選択肢がない。かつ、相馬が仕掛ける状況を他の選手の立ち位置によって整えられているわけではないので、左サイドはPAに入る有効な手段としては右サイドと比べると存在感はなかった。

 中央への縦パスもトライしていた日本だが、先に述べたポストとライン間で受けた選手のプレー選択には難があり、狭いスペースを壊すのには十分なクオリティとはいえず。ボールを持ちながらの解決策を見出すのが難しい状況になった。

■堂安と相馬を退けられプレスは機能不全に

 ボールを持っての解決策が見出せない日本。だが、敵陣に襲いかかる手段としてはもう1つ手段がある。もちろん、プレッシングだ。日本は立ち上がりから敵陣に積極的なプレスを仕掛けてきた。

 コスタリカのボール保持は3バックがそのまま並ぶケースが多く、真ん中に入ったワトソンが1列前に入る形でGKを含めて菱形を形成していた。日本はこれに対して上田、鎌田がチェイシング。それに加えてボールサイドのSHの相馬と堂安のどちらかがプレスに出ていく形でマークつくことが多かった。

 コスタリカのバックラインはそこまでボールを蹴って捨てる意識は高くないが、繋ぐためにはバックラインのプレス耐性が高くない状況。はっきり言ってボールを持っている時はプレスのかけ甲斐があるチームである。

 そんなコスタリカにおいて厄介だったのは左のSHのキャンベル。低い位置に降りてきてはボールを預けて起点となっていた。このキャンベルに日本は手を焼いた。

 日本にとってこの試合の想定外だったのは中盤におけるフィフティーのデュエルで思ったよりも劣勢に陥っていたこと。ファウルなしでクリーンにボールを奪えるケースは限られており、その中心人物であるキャンベルに対してはファウルを犯してしまってFKを与える場面もあった。

 もっとも、キャンベルが降りてボールを受けることで日本に恩恵がないわけでもなかった。最も得点の可能性を有する彼が位置を下げてボールを受けることでコスタリカの得点の可能性はだいぶ下がっていたと言えるだろう。

 だが、日本がボール保持で達成できなかったスペースをうみだし、攻撃に移行することを目的とすれば話が違ってくる。高い位置から取り切ってカウンターに移行するという流れを断ち切るキャンベルの存在はうざい。保持で相手を動かせなければ、プレスで保持をひっくり返せばいいじゃない!という日本のプランを邪魔したのがキャンベルである。

 キャンベルの左サイドの登場によって困ったのは堂安である。自陣のサイドの低い位置で自分がマークすべきかどうか悩む選手が出てくるというのはちょうどドイツ戦でミュラーが登場した時の久保と同じである。

 前半途中から、コスタリカが保持において4バック気味に移行したことはさらに堂安を悩ませることになる。SBロールを担う目の前のカルボと降りてくるキャンベルの挟み撃ちに遭う堂安は時間と共に前向きのプレスを担うことができなくなる。

 時を同じくして日本が行ったのは3バックへのフォーメーション変更だ。キャンベルの降りる動きやバックラインの4バック変形によって乱れてしまった守備の基準点をはっきりさせるためというのが真っ先に思いつくこの変更の理由である。

 しかしながら変更以降も日本はプレスのスイッチを入れることはできず、堂安は出ていくべきか背後をケアするかの迷いが継続した状態。前からハメきれない日本の前線の守備を見れば左WBの立ち位置になった相馬がポジションをひとまず下げる形になるのは致し方がない。

 日本はこのように相馬と堂安が前プレから排除されたことで序盤のようにプレスを効かせる展開を失ってしまった。こうして非保持においてもリズムを掴むことに失敗した前半の日本だった。

■三笘にボールが届かなかった理由は?

 後半、日本でまず存在感を発揮したのは浅野拓磨。高い位置からでていくことを選択したコスタリカの守備陣に対して、サイドからの裏抜けで牽制を行うフリーランを見せたのはさすがである。加えて、インサイドにおいてもポストプレーから守田のシュートを誘発。ボールを収めることで裏抜け以外の価値も証明する後半の立ち上がりとなった。

 もう一人の交代選手である伊藤も立ち上がりは持ち味を発揮していたように思う。58分のようにコスタリカの右のシャドーであるトーレスの背後に顔を出し、インサイドにボールを運ぶなど中央でのプレーは悪くなかった。

 気になったのは中盤3枚の振る舞いである。鎌田、遠藤、守田の3人は明確に前半よりもプレーエリアが下げることが多かった。そのため、先に述べた高い位置までボールを運んだ伊藤にはパスの選択肢があまりない!という状況に陥ることになる。

 伊藤に関しては交代で入った三笘を左サイドでうまく活用できていない!という指摘が多く見受けられる。その要因の一つはこの中盤の列落ちである。日本の後半の保持時の立ち位置は相馬以外の4人のDFラインの選手に、中盤の1人が降りる形で加わる陣形である。

 一般的に左の大外でWGロールを行う選手に1on1をさせるための最も有効な手法はSBロールの選手が絞ることである。この動きによって、大外への動線を確保することができる。この試合のコスタリカのように三笘に対してシャドーとWBでダブルチームを敷いてくるチームに対しては、尚更インサイドで相手の注意を内側に向ける必要がある。

 だが、この試合においては伊藤は外に開く立ち位置をとっていた。そのため、三笘にボールをつけるために適切ではなかったのは確かだろう。しかしながら、なぜ伊藤が外側のレーンに立っていたかと言えば、中央の低い位置には降りていたCHが渋滞していたからである。この位置に立たれてしまっては伊藤は一旦外に開くという発想になっても不思議ではない。

 加えて、上の図で大外への出し手となる吉田は68分に左足で外に出したパスをミスしている。というわけで伊藤が絞った上でも大外をうまく活用するには、また別の技術的な問題があるということである。

 いずれにしても左サイドにおいては後半追加タイム手前まで三笘に1on1で勝負する機会を与えられなかったのは、日本の左サイドがインサイドでマーカーを惹きつける動きができなかったからという部分が大きい。相手を背負っている状況や2人にマークがついている状況でボールをつけたとしても三笘からはすぐにボールがリターンしたことからも、三笘に「適切な状況で」ボールを出せなかったことはこの日の左サイドのユニットの失策と言えるだろう。

 うまくいかなかった要因がはっきりしていた左サイドと比べると、他のポジションでは不可解なことが多かったのも事実だ。中央では2トップに入った一見そこに長所がないように思える伊東と浅野が細かいパス交換から抜け出しを狙っていたし、右サイドには山根が交代して相馬が入ってきたことで複数人でスペースを作りながらフリーマンを作れる状況は消滅。相馬と堂安が個人でなんとかしよう!という状況になっていた。こちらはなぜ機能しなかったかよりも、そもそも何をしようとしたのかのところから読み取ることができなかった。

 浅野によってコスタリカのプレスを退けた日本は、押し込む時間帯によって解決策を見出すことができず。逆に75分以降にプレスのスイッチを入れたコスタリカに高い位置からボールを奪われて失点してしまう。吉田、伊藤、守田、権田にはそれぞれの悔いが残るプレーになってしまっただろう。

 後半追加タイムにようやくいい形でボールを持つことができた三笘からの2回のチャンスを日本は生かすことができず。ドイツに勝利した興奮を打ち消してしまう手痛い敗戦で日本のGS突破には黄色信号が灯ることとなった。

あとがき

■ドイツ戦とは異なるベクトルの課題抽出

 勝てない可能性はそこそこあるかなと思ったけども、まさか負けるとは思わなかった。45分間リスクをかけて敵陣に迫るアプローチを敷いたドイツ戦の日本と比べても、この日のコスタリカが得点を取るのにかけたコストは非常に小さく、コスタリカが勝つ確率はドイツ戦の日本勝利と同等かそれ以下と言ってもいいだろう。

 とはいえ、ボール保持によって状況を解決できなかった時間は明らかに課題としてチームにのしかかる。個人的には予選で保持の解決策となった川崎式4-3-3をやるかな?と思っていたのだが、本線仕様の4-2-3-1ベースから布陣をいじることはなかった。

 ドイツ戦のレビューにおいては「10回やって1回しか勝てない相手」という状況を長期的に解決していく必要性を説いたが、この試合においては「10回やって1回負けるかどうか?」の相手に対して勝ち切るプランを用意できなかったというまた違った部分の課題が見つかったと言えるだろう。

 「10回やって1回しか勝てない」相手に勝ち、10回やって1回負けるかどうか?」の相手に負ける。ある意味「おあいこ」のような状況である。そうした状況を引き起こす課題を毎節毎節突きつけてくる感じはいかにもW杯だなといった風情である。

試合結果 2022.11.27 FIFA World Cup QATAR 2022 Group E 第2節 日本 0-1 コスタリカ アフメド・ビン=アリー・スタジアム 【得点者】 COS:81′ フレール 主審:マイケル・オリバー

【グループF 第2節】ベルギー×モロッコ

■後半に機会ごと取り上げたモロッコがベルギーを完全制圧

 勝てばフランスに続いて2チーム目のグループステージ突破が決まるベルギー。強豪国が軒並み突破を決めることに苦しんでいることからも、2節目で通過を決めることができれば大きなアドバンテージになる。開幕節でクロアチアが手を焼いたモロッコは難敵ではあるが、なんとか連勝を決めたいところである。

 ベルギーのフォーメーションは4バックを採用。2CB+2CHが基本でCHの2人は縦関係に変形したり、最終ラインに入り込んだりもする。2-2も3-1もある形だ。モロッコはこのビルドアップ隊の動きを1トップとIHの2人で対応していく。降りる動きが基本になっているため、深追いしすぎずに受け渡したり放置することも重要。守備ブロックのコンパクトさの維持を優先していた。

 ベルギーはSBがビルドアップに関与することもしばしば。だが、そうした枚数調整に対してもモロッコは柔軟に対応。サイドにはきっちりと枚数を合わせることで自由を許さなかった。

 低い位置までデ・ブライネが降りていくことでさらに+1を作ろうとするベルギー。だが、モロッコのブロックに対してデ・ブライネがボールを運ぶスペースを作ることができておらず、フリーで持っても何も行わない状況が続く。ホルダーについていくところと守備ブロックのバランスの匙加減がモロッコはお見事だった。

 一方のモロッコはサイドからのカウンターが主体。右サイドのツィエクを先導役として、大外からベルギーのゴールに迫っていく。機会はそこまで多くなかったけども、停滞感のあるベルギーのボール保持に比べれば得点の期待感はあったように見える。

 ポゼッションにおいても相手を動かしながらスペースに入り込んでいくことはできていたモロッコ。非保持だけでなくボール保持においてもモロッコは安定した戦い方を見せたと言っていいだろう。

 前半終了間際にはセットプレーからネットを揺らしたモロッコ。ツィエクのクロスに見事に合わせたかのように思えたが、これはオフサイドで取り消し。ベルギーはなんとか命拾いする格好である。

 巻き返したいベルギーだが、後半はそもそもボール保持の時間がモロッコの方が長かった。モロッコの方がボールを持つことができたからといって、ベルギーがカウンターから勢いを取り戻す!ということも特になく、得点のきっかけを掴めないまま時間だけが経過していくことになる。

 後半も優位に進めたモロッコはベルギーに反撃の糸口を与えることはなかった。苦しいベルギーはなんとか得点を決めたいところだが、先制したのはモロッコ。角度のないところからのFKをサビリがゴール方向に蹴り込み、これをサイスがわずかに触って押し込む。クルトワの裏をかくという形での失点はベルギーにとって最後の砦をこじ開けられたガッカリ感が強かったはずだ。

 得点後、モロッコは素早く5-4-1に移行。スペースを消して逃げ切り体制に移行する。ローラインで迎え撃つモロッコに対して、ベルギーはガンガンクロスを放り込み、外から力技で叩き壊すやり方で対応。ルカクにとってはなかなかシビアな復帰戦になった。

 最後までベルギーの攻撃を跳ね返したモロッコは終盤に追加点をゲットし、ゲームを完全に制圧。手痛い一敗を喫したベルギーは次節のクロアチア戦にプレッシャーがかかる結末となってしまった。

試合結果 2022.11.27 FIFA World Cup QATAR 2022 Group F 第2節 ベルギー 0-2 モロッコ アル・バイト・スタジアム 【得点者】 MOR:73′ サイス, 90+2′ アブカウ 主審:セザール・ラモス

【グループF 第2節】クロアチア×カナダ

■先制点の懸念と数年の停滞を吹き飛ばす圧巻の攻撃陣

 敗れてしまえばカタールに続き2チーム目のグループステージ敗退になったしまうカナダ。絶対に負けられない一戦となる。初戦がドローで、3戦目にベルギーとの試合を控えるクロアチアにとっても状況としては似たようなもの。互いに勝ち点3を奪い合うサバイバルマッチだ。

 先にネタバレをしてしまうと、この試合はクロアチアが圧勝する。のだけど、手放しで「クロアチアすごいな!めっちゃ強いな!」と賞賛することができないのは開始早々に決まったカナダの先制点のせいである。起点となったカナダのGKからのフィードはそこまで狙い澄ましたものではないのだけど、クロアチアのバックラインが自動的にロングボールに対して下がった対応をしたせいで簡単にカナダの前線はスペースを得ることができていた。

 ボールが収まったカナダはサイドに展開し、ファーのクロスを入れてあっさりと先制。前節は勢いを持った入ったものの手にすることができなかった先制点を早い時間帯に得ることに成功する。

 クロアチアのバックラインの淡白な対応はこのシーンに限らない。バックラインはカナダの前線にアプローチするよりもリトリートを優先。そのせいでクロアチアはMF-DFラインが間延びしており、かなり簡単にカナダにチャンスを与えていた。グバルディオル、ロブレンの対応ははっきり言って不可解であり、この部分だけでも決勝トーナメントでは致命傷になるレベルと言えるだろう。試合が進むにつれて落ち着いた部分ではあったが、彼らの能力が低いわけではないので、なんでもそもそもそうなった?の部分がよくわからない怖さはある。

 しかしながら、この日のクロアチアは守備面での懸念をあっさりと打ち消すレベルのボール保持を見せる。カナダは2トップが中盤の受け渡しをしながらCHと連携し、相手を捕まえにいくがこの部分で劣勢に陥ってしまったのがクロアチア優勢の原因だろう。

 モドリッチ、コバチッチ、ブロゾビッチの3人のCHはクロアチアの中でかなり自由に動き回る裁量を与えられている。どの選手も低い位置でプレーができる選手であり、ビルドアップにおいては比較的均質的。それぞれがポジションを入れ替えても無理なくプレーをすることができる。

 そうした均質性ゆえにクロアチアのCHはポジションの入れ替えに寛容である。彼らの実績もそうした自由度の高いプレーの許容に寄与しているのは間違いない。この動きに対してカナダの中盤はついていくことができなかった。受け渡すのか、ついていくのか?の判断の連続に完全に後手に回ってしまい、クロアチアは中盤がフリーでボールを受けることができていた。

 中盤がフリーで持つことができたことで自在に前線に展開ができたクロアチア。左サイドに張るペリシッチもかなり高いパフォーマンスを見せたと言えるが、なんと言ってもこの日輝いていたのはクラマリッチ。右に張るというよりはストライカータスクで圧倒的に輝きを放っていた。

 クラマリッチはボールを収めると卓越したボールコントロールでカナダの守備陣を無力化。難しいボディコントロールから際どいコースのフィニッシュまでなんでも来い!というイケイケのものだった。動き直しを繰り返しでフリーになり続けるモドリッチを相棒に、カナダ陣内で大暴れを続けてみせた。

 アタッキングサードでの攻撃の流麗さだけで言えば、この日のクロアチアは大会最高クラスだったと言える。後半もこのペースは変わらず、クロアチアは流れるような攻撃で得点を重ね続けている。

 カナダの守備は(前半のクロアチアほどではないにせよ)確かにコンパクトさに欠けていたとはいえ、ここまでやられるのは完全に想定外。この日のクロアチアに当たってしまったのは不運で片付けてもいいレベルなように思う。後半は3バックにシフトしたことでやや押し返すことができていたが、それでもクロアチアペースをひっくり返すことができなかった。

 守備への若干の不安を見せつつ圧倒的な攻撃力でカナダをペシャンコにしたクロアチア。不安定さを伴う爆発力がトーナメントでどう転ぶかは読みにくいが、EUROやW杯第1節で感じた消化不良感を払拭する躍動したフットボールを彼らが見せたことだけは確かである。

試合結果 2022.11.27 FIFA World Cup QATAR 2022 Group F 第2節 クロアチア 4-1 カナダ アル・バイト・スタジアム 【得点者】 CRO:36′ 70′ クラマリッチ, 44′ リヴァヤ, 90+4′ マイェル CAN:2′ デイビス 主審:アンドレス・マトンテ

【グループE 第2節】スペイン×ドイツ

■プレスの開始位置が主導権を決める

 グループEどころか、グループステージ48試合の中でも最注目と言っていいカード。ドイツにとっては日本がコスタリカに敗れたことで、予選突破に再び希望が灯った形での一戦となった。

 立ち上がりからボールを持ち続けたのはスペインの方である。アンカーのブスケッツこそ、常にギュンドアンにマークされる状況ではあったが、その分CBには時間がある形。バックラインからボールを繋ぎ、サイドにおいては三角形を形成。ドイツ陣内の深い位置までポゼッションを行いながら、ボールをロストすると即時奪回。ずっと自分たちのターンを続けてみせる。

 スペインのハイプレスのポイントはドイツのホルダーに対してマイナス方向に帰陣しながらきっちりと挟むことが多かったことである。一般的に即時奪回の目的でまず挙げられるのは素早いショートカウンターへの移行。高い位置で奪うということで、敵陣深い位置で相手の守備者が少ない人数の中で素早く攻略をしてゴールを陥れるという方向性になることが多い。

 ただ、スペインに関してはハイプレスはボールを握り直すことや、相手の進撃を止める意味合いが強い。無理にショートカウンターまで行かなくても、ボールを奪い返しさえできればきっちりと自分たちのサッカーに持っていくことができるということだろう。その分、人数をかけても奪い返す。アタッカーが前に残らなくてもボール奪取後にポジションを整える時間を作れば問題がない。

 ドイツはなかなか自陣から脱出できない立ち上がり。ボール保持に関してもバックラインにプレスがかかっている状態で前進する隙を探るかきっかけを見つけることができない。日本戦でも見たようにムシアラなどは前を向ければ多少強引でも前進はできるが、スペインの即時奪回はそれを許さない立ち上がりだった。

 しかしながら、ドイツにもチャンスがなかったわけではない。ドイツ陣内に押し込んだ時のボール保持に関しては明らかに分があったスペインだったが、自陣側でのボール保持は思ったよりも余裕がない。特にサイドからウナイ・シモンにボールを戻す際には時間がないことが多く、苦し紛れのキックがドイツに渡りショートカウンターになることも多かった。

 よって、この試合の優劣を決めるのはスペインがプレスを受けるエリアである。スペインが一度敵陣にきっちり押し込めば、バックラインを活用してもドイツが簡単にボールを奪うことはできないが、スペイン陣内でドイツがプレスのスイッチを入れた時には一気に苦しくなる。前半の終盤は敵陣後方でボールを奪うことができていたドイツのペースだったと言っていいだろう。

 後半もメインとなるトピックスはドイツのプレスの開始位置である。ドイツが敵陣深くでスイッチを入れてマンマークで追いかけ回すことができるか、スペインがCBがオープンでボールを持てる状況まで押し返すことができるか。その部分のせめぎ合いであった。

 後半で少し気になったのは前線にボールが入った時のスペインのプレーである。特にアセンシオにボールが入った時にアバウトでもゴールに向かう動きを挟むようになった。不確実なゴールチャンスより、確実なポゼッションを選ぶ方が彼らのスタンスからすると自然。アセンシオのこの立ち上がりのスタンスはスペイン基準で言うとやや不自然なものだったと言えるだろう。

 よって、この時間帯はやや縦に速いプレーの応酬が見られるようになった。試合のテンポが早くなったら躊躇なく敵陣までスピーディにボールを運ぶようになったドイツからすると、この部分では十分に勝算があるということだろう。

 陣取りゲームの様相で不利になりかけたスペインは前線にモラタを投入。右サイドの裏抜けを中心に、陣地の押し下げに貢献する。モラタはフィニッシャーとしても活躍。フリーになったブスケッツから左サイドを加速させるパスが通ると、最後は折り返しをモラタが押し込む。ズーレに対して明らかに一歩先の動き出しができており、オフザボールの動きに定評があるモラタのスキルとスペインのポゼッションとが見事に融合したゴールと言えるだろう。

 スペインは以降はボール保持を優先。ドイツは失点シーンにも代表されるように先発メンバーで引っ張り続ける中盤のプレスの機能性がやや低下したように思えた。フレッシュなトップが前に出ていっても、中盤がついていけないシーンが目立つようになる。

 しかし、交代したアタッカーが躍動するのはスペインだけではなかった。ドイツの交代選手の中で目立ったのはザネ。右サイドからの横ドリブルに裏抜けを合わせる形でゴールへの導線を切り拓く。同点ゴールのシーンでこの動きを見せたのはこちらも交代で入ったフュルクルク。相手の背中を取る動きと豪快なフィニッシュの組み合わせで試合を振り出しに戻してみせる。

 スペインからするとラポルトのキャリーがミスになったのは痛恨。フリーでボールが持てていた選手からの不安定な展開で、連勝を逃したことは彼らにとっては苦しいところだろう。

 保持で試合を殺しきれなかったスペインに牙を向いたドイツ。依然グループ最下位ながらも、最終節に向けての逆転突破が十分視界に入る勝ち点1を奪い取ることに成功した。

試合結果 2022.11.27 FIFA World Cup QATAR 2022 Group E 第2節 スペイン 1-1 ドイツ アル・バイト・スタジアム 【得点者】 ESP:62′ モラタ GER:83′ フュルクルク 主審:ダニー・マッケリー

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