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「Catch up Premier League」~アーセナル編~ 2021-22 season

 アーセナル、21-22シーズンの歩み。

目次

第1節 ブレントフォード戦(A) 

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■押された波状攻撃のスイッチ

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 初昇格となったブレントフォードが迎える初戦はアーセナルとのホームでのロンドンダービー。まずはアーセナル相手にプレーオフで通用した手法が通用するかを試すように2トップに長いボールを当てていく。序盤こそ、アーセナルのCB2人は長いボールを跳ね返せてはいたものの、10分を過ぎたころにはトニーは徐々にボールを収められるように。

 ブレントフォードはトニーが落としたボールをインサイドハーフが広い、サイドに展開。ここから仕上げのクロスを上げていく。さらに攻撃が跳ね返された後も高い位置からの即時奪回を含めて『ブレントフォード・タイム』というべき波状攻撃を仕掛けてくるのが彼らの攻撃のスタイルである。

 先制点もこのブレントフォード・タイムのスイッチが押されたところから。スペースに出たロングボールでアーセナルのDFラインが一気に下がると、そこから波状攻撃に。最後はクロスではなく左サイドのカットインからのミドルでカノスが今季のプレミアのオープニングゴールを飾る。シュートはうまかったが、アーセナルは大外からのカットインのシュートが威力十分に届いてしまうほど、圧力に屈してラインを下げてしまったのが痛恨だった。

 徐々に波に乗るブレントフォードとは対照的に、アーセナルはブレントフォードのプレスに屈するように。特に最終ラインのボール回しにおいて、ブレントフォードの誘導を外せず、時間を前に送るようなボール保持ができない。スミス・ロウやペペはボールを持てば好調であることをアピールしていたが、アーセナルの最終ラインが前に時間を送れないことで、前線にボールを渡せる中盤の重心は徐々に下がっていく。

 後半は悪い循環を脱し、相手陣に迫る場面も増えるが、崩しのもうひと工夫が見られず、PAの動きでもブレントフォードを出し抜けない場面が目につくように。数十分のいい流れで試合をひっくり返せるほど、今のアーセナルの状態は良くない。

 むしろ、セットプレーでニアに合わせる動きを潰しきれずに決定的な2失点目。その直後にも同じ形であわや3点目を喫したように全く対応できていなかった。

 攻撃のリズムから流れに乗れたブレントフォードはホームでアーセナルを完全に飲み込むことに。歴史上50チーム目の初のプレミア挑戦はホームでのアーセナル撃破という勢いのつくスタートとなった。

試合結果
2021.8.13
プレミアリーグ 第1節
ブレントフォード 2-0 アーセナル
ブレントフォード・コミュニティ・スタジアム
【得点者】
BRE:22′ カノス, 76′ ノアゴール
主審:マイケル・オリバー

第2節 チェルシー戦(H)

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■ぺぺとジェームズに見るコントラスト

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 立ち上がりに勢いをよく入ったのはアーセナル。高い位置からの積極的なプレッシングと自陣深い位置からのロングカウンターでチェルシー相手にチャンスを作っていく。

 アーセナルで好調だったのは前線のスミス・ロウとぺぺ。深い位置まで押し込まれても、彼らが2人くらいを一気に剥がしながら前線まで持ち運べるため、アーセナルはカウンターの糸口を見つけることができていた。加えてアクセントになっていたのはロコンガ。大きなサイドチェンジは自陣からの脱出の鍵になっている。

 だが、アーセナルがよかったのは序盤くらいだろう。この日のアーセナルは4-2-3-1のハイプレスと5−4−1のローブロックを使い分けているのだが、徐々にチェルシーがアーセナルに守り方を使い分けさせないようなスピードで前進をするように。コバチッチとジョルジーニョは少しでも隙があればボールを前進させることができるし、マウントとハフェルツはボールをギャップで受けるのが非常にうまかった。そして深さを作れるルカク。チェルシーは深い位置まで進むための手段が豊富だった。

 こうして4バックから5バックに移行するキーになっていたジャカが最終ラインに戻れる時間を与えないチェルシー。ルカクがマリにピン留めされているため、ジェームズが高い位置をとってしまえばティアニーは1人で2人を見なくてはいけなくなる。

 こうして機能不全に陥ったアーセナルの左サイドからチェルシーはあっさり先制。敵地のエミレーツでルカクが2回目のチェルシーデビューを祝う得点を奪った。

 左はシステム的に、中央は個で不利なアーセナルは右サイドでも劣勢。セドリックがアロンソに地上戦で歯が立たないというのはなかなかにスカッドの構成を考えさせられる内容だったと思う。アタッキングサードの全方位で優位を取ったチェルシーが左サイドからの打開でジェームズの追加点を奪う。

 後半も構図は同じ。立ち上がりの10分くらいはアーセナルがリズムを取り戻したかのように思ったが、チェルシーはすぐさま対応。たちまち主導権はあるべき場所に戻って行ってしまったかのようだった。

 対応力、そして押しているときのクオリティの差。サイドで楽々とクロス上げたりシュートを打ったりするジェームズの姿と常に2枚を剥がさなければチャンスにならないぺぺのコントラストは両チームの現在の立ち位置を如実に示しているものと言えるだろう。

試合結果
2021.8.21
プレミアリーグ 第2節
アーセナル 0-2 チェルシー
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
CHE:15’ ルカク, 35’ ジェームズ
主審:ポール・ティアニー

第3節 マンチェスター・シティ戦(A)

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■説得力に欠けるグアルティオラの言葉

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 開幕2戦で無得点の2連敗で苦しむアーセナル。よりによって第3節で立ち向かわなければいけないのは王者であるマンチェスター・シティ。逃げ腰になってはいけない!と思ったのだろう。立ち上がりのアーセナルはオーバメヤンとサカを並べながら前から積極的なプレッシングをかけていく。

 マンマークと中間守備を使い分けながら行うアーセナルのプレスは序盤はやや効いていたし、カウンター気味にゴールに迫る場面もあった。しかし、こういう状況はシティにとってはお手の物である。プレスが効いている相手を乱す移動は彼らにとっては死ぬほどやってきたことである。

 変形の源流となったのはベルナルド。こちらも動き出す選手としては王道中の王道。中間ポジションで外と中の両方を見ていたスミス・ロウを惑わすポジショニングでボールを引き出して、アーセナルのプレスのリズムを破壊する。

 しかし、アーセナルはシステム云々以前の問題だ。一度目のプレス回避で、敵陣まで進んだシティに対して、なんの変哲も無いクロスをチェンバースが被り、あっさりとギュンドアンが先制点を上げる。撤退は間に合っていたし、人数も足りていたアーセナルだが、個人のエラーから不用意に失点する。

 もともと薄かった勝ち筋はこれで崩壊。高い負荷をこなしていたプレス隊は下を向きながら撤退するようになり、シティの保持のモノトーンの展開に。セドリックの失態やジャカの退場など更なるエラーを重ねるアーセナルは『それぞれが頑張る』以上のことが用意されておらず。

 マンチェスター・シティにとってはスパーリングにもならなかっただろう。2点と退場者で試合を早々に決めると、局所的に力を使う部分以外はローギアを維持。前節のノリッジに続いて、完成度もコンディションもイマイチわからないままワンサイドでゲームを終える。

 ミスでただでさえ薄い勝ち筋を壊し、俯いて戦うのを辞めたアーセナルはマンチェスター・シティに挑戦することすらしなかった。おなじみになった完勝した試合後のグアルディオラのアルテタに対する賞賛の言葉も、この日のピッチにおける監督や選手のパフォーマンスに比べれば明らかに説得力にかけるものだったと言わざるを得ない。

試合結果
2021.8.28
プレミアリーグ 第3節
マンチェスター・シティ 5-0 アーセナル
エティハド・スタジアム
【得点者】
Man City:7′ ギュンドアン, 12′ 84′ トーレス, 43′ ジェズス, 53′ ロドリ
主審:マーティン・アトキンソン

第4節 ノリッジ戦(H)

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■上々のデビュー戦となった冨安

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 3連敗、得失点差マイナス9という地獄のようなスタートを切った両チーム。共に伸び悩んでいるのはまずは得点の部分。両軍3試合合わせて取った得点はノリッジがレスター戦で得たPK1つという状況である。

 どちらかといえば両チームとも苦しんでいるのはストライカーの質というよりはゴールまで迫る機会の創出が出来ていない点である。その点でまず手を打ってきたのはアーセナル。バックラインにホワイト、ラムズデイル等の足元に自信のある選手を起用して相手を押し込む。

 3-2-5もしくは2-3-5の形でビルドアップをしたアーセナル。この点で光っていたのは冨安。ホワイトの持ち運びに合わせて高いポジションをとったり、あるいは低い位置でサポートに入ったりなど自在に立ち位置を取り直し、3-2-5と2-3-5の使い分けに貢献していた。連携面ではもちろんまだ向上の余地はあると思うが、冨安の高い状況判断の片鱗は見られたといっていいだろう。

 高い位置からの即時奪回でも冨安は貢献。ハイプレスを仕掛けるアーセナルに対して、長いボールでの脱出を試みるノリッジだったが、冨安のところはロングボールでアーセナルの完勝。低い位置に移行する際の周囲との連携しての守備はまだ難があったが、高い位置で回収し、波状攻撃を仕掛ける流れを作り出すことには成功していた。

 前半の終盤、やたら縦に早くなった時間帯はノリッジにペースを受け渡したアーセナルだったが、後半に再び丁寧に保持を再開してペースを引き戻す。アーセナルのPA内でのバタバタ感とクルルの攻守に阻まれ無得点が続いていたが、ようやく65分に先制点。ゴールに迫ったペペからのこぼれ球をオーバメヤンが押し込み先制点。苦しむチームに今季初得点をもたらした。

 終盤はノリッジに攻め込まれ、最後まで落ち着きない形となったアーセナルだったが今季初勝利は死守。屈辱の逆天王山で最低限の結果を残した。

試合結果
2021.9.11
プレミアリーグ 第4節
アーセナル 1-0 ノリッジ
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:66′ オーバメヤン
主審:マイケル・オリバー

第5節 バーンリー戦(A)

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■重いビルドアップで厚みが出ない

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 立ち上がり、バーンリーのプレッシングを警戒してか、アーセナルは非常に慎重な入りを見せる。並びは4-3-3なのだが、アーセナルはIHを最終ラインの手前まで下ろすことで、後方に人数をかけてポゼッションを安定化。バーンリーに強烈なプレスで前から来ることを諦めさせる。

 だが、プレスを沈静化させたからといって、アーセナルの攻撃が順調だったわけではない。IHが低い位置まで落ちてくることで、アーセナルの攻撃は後ろに重たくなる上に、CBが運ぶスペースを食い合ってしまうことに。

 4-3-3の狙いのひとつであろう、ライン間への縦パスを入れた際にもサポートが少なくなってしまうことで厚みがもたらせず。アーセナルの攻撃は、狙ったパスが通ったであろう場面においてもうまく回っていない。

    特にサカのアタッキングサードでのオフザボールの動きの少なさとスミス・ロウが落ちた動きを取った後に、高い位置を取り直すまでの遅さが非常に目立つ。そもそもの設計がおかしい部分があるので、なんとも言えないけども、この試合の中で停滞した要因を選手別であげるならば、彼ら2人の責任によるところが大きいと思う。そうした停滞感が否めないだけにウーデゴールがFKで沈めた先制点は大きかった。

 一方のバーンリーもなかなか効果的なロングボールを蹴ることができず。スペースではなく人に蹴り続けたためにガブリエウや冨安など空中戦で強みがあるアーセナルのバックス相手に競り合いでアドバンテージをとることができない。

 終盤に押し込む機会が増えたことでクロス攻勢に出れた状況においてはアーセナルのゴールを脅かせていたバーンリー。ラムズデールの牙城はそれでも崩すことはできなかったけども。

 終盤は交代で役割を整理した分、攻撃の質は上がったアーセナルだったが、ビルドアップとプレッシングの不安要素は勝った試合においても拭うことができない。連勝で迎えるノースロンドンダービーで空気を変えることができるだろうか。

試合結果
2021.9.18
プレミアリーグ 第5節
バーンリー 0-1 アーセナル
ターフ・ムーア
【得点者】
ARS:30′ ウーデゴール
主審:アンソニー・テイラー

第6節 トッテナム戦(H)

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■揺らぐ余地なく真っ赤に染まるノースロンドン

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 9月の頭には首位から高みで最下位のアーセナルを見下していたトッテナム。だが、そこからの連敗で立場は大きく変化。この一戦で敗れてしまうと連勝を重ねてきたアーセナルに順位をひっくり返されてしまう可能性すらある。

 試合は立ち上がりからアーセナルの保持が中心の展開に。トッテナムは今季おなじみの3トップ+3センターで中央を封鎖する六角形システムを焼き直してこの試合に臨む。

 アーセナルはシティも苦しんだこのシステムを非常に機能的に破壊した。左の大外のティアニー、右の大外のサカとウーデゴールをまんべんなく使い、まずはトッテナムのIHを広げる。アーセナルはトッテナムの六角形の内部にトーマスとジャカを残しているのがミソで、彼らが気になるトッテナムはこれまでほどスムーズにサイドに六角形をスライドさせることができない。

 中盤の3枚の距離が広がると今度はIH-アンカーの間にアーセナルは縦パスを入れるようになる。これが攻撃のスイッチングになる。配球センスが非常に優れていたのがガブリエウ。内に入れるか、外に散らすか、奥を狙うかの判断が素晴らしかった。

    中でもジャカとの関係性はピカイチ。自陣低い位置まで引いてホイビュアを背負いながらワンタッチで奥に送る流れはこの日のアーセナルの攻撃のスイッチが入る肝だった。これにより、前半から得点を重ねていくアーセナル。ウーデゴール、サカ、スミス・ロウは絶好調でスピーディなアタックを演出。

   近年はさえないパフォーマンスに終始しがちなオーバメヤンもポストと守備に奔走し、自らの得点だけでなく最前線からチームを引っ張る活躍を見せた。

 対するトッテナムは苦戦。アーセナルのプレスに対して中央にボールを入れることはできず、ケインとソンに丸投げのやり方では厳しい。アーセナルもこの放り込みを予期していたようでCHとDFラインは非常にコンパクト。ケインを逃がさないホワイトの守備の意地も見えた。

 ホイビュアの負荷を軽減するスキップの投入と、レギロンのパートナーとなったブライアン・ヒルの活躍で後半は多少は盛り返したトッテナム。だがそれも慰め程度にしかならない。

 シーソーゲームがトレードマークのノースロンドンダービーだったが、この試合に関してはそれは当てはまらない。熱狂するエミレーツのファンの声援を背に攻守に圧倒したアーセナルが順位表でもトッテナムを交わして今季初めてのトップハーフ入りを果たして見せた。

試合結果
2021.9.26
プレミアリーグ 第6節
アーセナル 3-1 トッテナム
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:12′ スミス・ロウ, 27′ オーバメヤン, 34′ サカ
TOT:79′ ソン
主審:クレイグ・ポーソン

第7節 ブライトン戦(A)

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■負傷者の手当てに奔走

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 ノースロンドンダービーを制し、一気に上昇気流に乗りたいアーセナルと勝てば首位というM23ダービーで引き分けてしまい、勝てば順位という絶好の機会を逃してしまったブライトンの一戦。雌雄を分けるダービーを越えた直後の両チームの対戦である。

 前節から形を変えたのはブライトン。5-2-3から5-3-2型のフォーメーションに変更してこの一戦に臨む。狙いとしては攻守にビスマの不在を補うためだろう。顕著だったのは守備の修正で、中盤3枚をかみ合わせる形で構える。

 今年のブライトンは高い位置からのプレッシングにトライしていたのだが、広範囲をカバーできるビスマの欠場以降はプレッシングの強度を据え置きに。だが、この日はアーセナルの中盤に枚数を合わせて高い位置からのプレッシングに再度トライする。

 このプレッシングの成否は微妙なところ。アーセナルの保持を阻害できたといえば阻害出来てはいたのだが、後方が広い範囲をカバーしなければいけない状況で受けるとやはり弱みが出る。

PKを与えた前節と同様にやはりアキレス腱になっていたのは左サイド。カバーの意識が薄いククレジャとスピードが足りないバーンのコンビはサカに好き放題やられており、少ない攻撃機会ながらも決定的なダメージを与えられてもおかしくなかった。収支としてプラスかどうかは微妙なところだ。やはり、前に出るなら中盤までで攻撃は食い止めたい。そのためにはビスマは欲しい。

 攻撃面では中央を経由できなかった前節からの修正を狙いたいところ。真ん中からの前進は前節ほどは消極的ではなかったものの、今節もククレジャへの偏重はそこまで改善せず。ただ、この試合のアーセナルは大外に一度つけることでSBをつり出すことが難しくなかったので、そのSBの裏をIHやFWがつきやすい5-3-2は悪くなかったかもしれない。

 修正するために変更したのがブライトンならば、ジャカの負傷で修正せざるを得なかったのがアーセナルである。そのままリプレイスとして入ったロコンガは積極的に左サイドに流れてティアニーを押し上げる形で起用。

 しかし、相手のズレを狙ったこの形はブライトン側のマンマークでついてくる作戦によって不発。中盤が空洞化したためにバックスが無理なミドルパスを多用するせいで、ボールをひっかけ発動した相手のカウンターをスカスカな中盤で受けなければいけないという悪循環に陥っていた。

得点の機会はなくはなかったが、仕組みの部分ではブライトンに上回られたアーセナル。一方のブライトンも修正の成果は見られたものの、攻守のクオリティの詰めの甘さが垣間見える。ビスマだけでなくウェルベックの不在も痛かった。

 ブライトンの視点から見ても、アーセナルの視点から見てもこの相手ならもっとやれた気がするという消化不良の部分が残る試合だった。

試合結果
2021.10.2
プレミアリーグ 第7節
ブライトン 0-0 アーセナル
アメリカンエキスプレス・コミュニティ・スタジアム
主審:ジョナサン・モス

第8節 クリスタル・パレス戦(H)

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■ため息だらけのエミレーツ

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 立ち上がりにペースを握ったのはホームのアーセナル。バーンリー戦で頓挫した4-3-3にリベンジしたこの日の彼らだったが、ビルドアップはそのバーンリー戦よりも明らかに進歩していた。

    無駄に落ちることが少なかった中盤と、持ち運ぶ機会が増えたCB。特にこの役割が整理されていたのは彼らの左サイド。今季、守備面だけでなく配球においても好調なガブリエウを軸に攻撃を組み立てていく。

 IHのプレスを外される形になったパレスはザハの不在もあって、簡単には陣地回復はできない状況であった。そうこうしている間に先制点を取ったのはアーセナル。ペペと冨安の連携から右サイドを突破すると最後は角度のないところからオーバメヤン。徐々に調子が出る試合が増えてきた感じがするエースが、簡単ではないシュートを難なく決めて見せた。

 だが、これで終わらないのが今年のパレスであり、今年のアーセナル。この試合でもアーセナルは前線がプレスで敵陣でのボール奪取を狙いつつ、ボールがある程度自陣側に進んできたら一気にリトリートするというバランス。このプレスにいくかどうかの舵取り役を任されているのは中盤だった。時間が経つと、このプレスに行くか否かという判断にギャップが出てくるようになる。

 そうすると徐々に縦に間延びするようになるアーセナルの陣形。孤立していたベンテケの周りにパレスはサポートに行けるように。こうしてベンテケへの楔から押し込む機会を増やしたパレスが前半に勢いを取り戻す。

 後半のアーセナルは負傷交代+保持とプレスの修正で4-2-3-1へ移行。2CHで保持での押し上げと被カウンター対応で中央を閉じやすくする方向にシフトする。しかし、この日のシステム変更はあまり効果が高かったといえなかった。

 パレスの後半の2点はいずれもハイプレスから。特に視野が十分確保できていた中でカウンターにつながるミスをしてしまったロコンガにとっては悔しい結果になっただろう。

 それでも逆転の直前に投入されたラカゼットで前線に起点を作ったアーセナル。左サイドを中心に終盤は攻め込む。すると後半追加タイム、CKの流れから最後はラカゼットが決めて土壇場で同点に追いつく。

 アーセナルのサポーターはまだ引き分けで喜ばなきゃいけないのかとため息をついただろうし、パレスのサポーターはM23ダービーに続き、また土壇場で引き分けかとため息をついたことだろう。どちらにとっても満足いかない結果になってしまった。

試合結果
2021.10.19
プレミアリーグ 第8節
アーセナル 2-2 クリスタル・パレス
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:8′ オーバメヤン, 90+5′ ラカゼット
CRY:50′ ベンテケ, 73′ エドゥアール
主審:マイク・ディーン

第9節 アストンビラ戦(H)

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■ダイナミズムといぶし銀、対極な両SBが4-2-3-1の解決策

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 ジャカ不在での4-2-3-1のトライに失敗した前節のアーセナル。彼らが今節取り組んだのは4-3-3への回帰ではなく、4-2-3-1への再チャレンジだった。もっとも、そのままの焼き直しではなく、彼らがトライしたのはラカゼットとオーバメヤンを中央で組ませる2トップ式に近いやり方だった。

 主導権を握ったのはホームのアーセナル。5-3-2で守るアストンビラに対して、優位を取ったのは負傷したティアニーに代わって抜擢されたタバレスがいる左サイドである。内に絞るスミス・ロウが空けた大外のスペースを強襲できる脚力を活かしてのオーバーラップで、早い攻撃からエリア内にチャンスを供給する。

 前に出ていくタイミング、頻度などタバレスは攻撃面では即レギュラーになってもおかしくないパフォーマンスでアストンビラを押し込む。攻め上がりへの積極性とは裏腹に、スミス・ロウとポジションを入れ替えながら相手の空いたスペースに立ち位置を取る賢さはイメージとは異なる部分だった。

 逆サイドの冨安はより慎重なプレーながらもチームに貢献。WBを引き出し、サカの裏抜けのスペースを作ったり、逆サイドへの展開で攻撃のスイッチを入れるなど自陣深い位置での貢献が目立った。後半は自分の裏を狙うワトキンスを察知するや否や前方へのプレスをやめるなどの臨機応変さも披露。2点のビハインドで後半を迎えたアストンビラの反撃の芽を摘んだ。

 アストンビラは今季ワーストクラスのパフォーマンスといっていいだろう。定点攻撃ではアーセナルにやられっぱなしだったし、プレスで自陣からの脱出をすることすらできなかった。気になったのは前線の動きの重さ。ワトキンスはサイドに流れながらのプレーが前半から少なく、後半も冨安に素早く対応され行動範囲の広さが活きなかった。こうなるとイングスは消えてしまうのは当然。ワトキンスは開始1分での無駄な警告も含めて、前節の悪い流れを引きずっているかもしれない。

 前半終了間際のPKが文字通り決着の一撃だっただろう。完璧だった前半戦の最後に得たPKでオーバメヤンが跳ね返りを押し込み、ゴールマウスを守るかつての仲間に膝をつかせる。マルティネスの2回目のエミレーツ凱旋はいい思い出にはならなかったようだ。

試合結果
2021.10.22
プレミアリーグ 第9節
アーセナル 3-1 アストンビラ
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:23′ トーマス, 45+6′ オーバメヤン, 56′ スミス・ロウ
AVL:82′ ラムジー
主審:クレイグ・ポーソン

第10節 レスター戦(A)

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■VSかつての自分たち

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 序盤戦の不振から脱し、徐々に勝利を積み重ね始めた両チーム。ついにはトップハーフに復帰し、今節は直接対決である。

 立ち上がりから主導権を握ったのはアウェイのアーセナル。前節に引き続き今節も保持で相手を動かすことに成功。安定したポゼッションで相手のプレスを外しながら敵陣に迫る動きを見せる。

 特に効いていたのは2試合連続のスタメンとなったラカゼット。レスターの中盤の裏で受ける役割をこなすことで同サイドのサカを押し上げることに成功。若手アタッカーのお膳立て役として十分な役割を果たす。

 アーセナルはこの右サイドの1on1でレスターのラインを揺さぶる。サカとL・トーマスの1対1はアーセナルに軍配。サカが押し下げたラインのおかげでバイタルに他のアタッカーが飛び込むスペースが出来る。得点シーンでここに飛び込んだのはラカゼットとスミス・ロウだった。理想的なボール運びと互いにスペースを供給し合うアーセナルのアタッカ―陣の連携でセットプレーの先制点に続く追加点を手にする。アーセナルは順調な立ち上がりでレスターを突き放す。

 レスターは重心を下げすぎてしまい、なかなかボールを危険な場所に運ぶことが出来ない。マディソンやティーレマンスが低い位置まで下りてきてしまうのがその一因。後ろばかり重くなり、保持は出来るけど前進できない様子はまるで悪い時のアーセナルを見ているかのようだった。

 ただ、アーセナルもそのレスターに甘えて重心を下げすぎてしまうように。すると修正したレスターが徐々にライン間にボールを運べるようになってくる。主導権は前半途中からレスターに移ることになる。

 後半はレスターが4-2-3-1に変更。サイド攻撃という前半にはなかった切り口でアーセナルを攻め立てる。中でもバーンズは復調の兆し。独りよがりの突破にこだわるのではなく、周りを使ったプレーを徐々に見せることでアーセナルが怪しい縦の守備の連携を突く。

 左右からの無限ハーフスペース裏抜けに苦しむアーセナルだったが、ガブリエウとラムズデールを軸とした堅守に助けられると、苦しい時間を0でしのぐ。

 オフザボールの動きが落ちてくると共にゴールに迫れなくなってくるレスター。終盤はややアーセナルが押し返したところでタイムアップ。序盤の貯金を活かして逃げ切ったアーセナルがさらなる上を目指すための連勝を飾った。

試合結果
2021.10.30
プレミアリーグ 第10節
レスター 0-2 アーセナル
キング・パワー・スタジアム
【得点者】
ARS:5′ マガリャンイス, 18′ スミス・ロウ
主審:マイケル・オリバー

第11節 ワトフォード戦(H)

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■幸運だけでは守りきれない

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 最下位だった9月から足掛け2カ月。7試合負けなしで4位との勝ち点差は3。悲願であるチャンピオンズリーグ出場権を争えるところまで、アーセナルはようやく帰ってきた。上位を争うリバプールとの直接対決を次節に控えていることも考えると今節のワトフォード戦は絶対負けられない試合でもある。

 直近の試合では前半の早い時間から先制点を奪うことで先行逃げ切りに転じるスタイルが馴染んできたアーセナル。この試合でも開始早々にネットを揺らす。ボール奪取からエリア内までスムーズに進むパスを出したメイトランド=ナイルズのプレーから最後はサカが叩き込む。惜しくもオフサイドで取り消されてしまったが、アーセナルにとっては順調な滑り出しとなった。

 一方でワトフォードは相変わらず守備面での課題は際立つ。特に久しぶりの先発に復帰したローズは相変わらずの低調さ。対峙するとファウルを犯すか、簡単に裏を取られるの繰り返し。同サイドの冨安がオーバーラップしなくてもデニスはサカのフォローのために自陣に下がっていた。

 ラカゼットへのファウルも軽率そのもの。ゴールに向かっていない選手に対して、わざわざしなくてはいけないチャレンジではないだろう。先のオフサイドの場面しかり、この場面で得たPKを決められなかったオーバメヤンが本来の調子ならば、試合は前半に決していてもおかしくなかった。

 それでもこじあける強さがあるのが今のアーセナル。後半に重心を上げて一気に畳みかけに行くと、試合を決めたのは新10番のスミス・ロウ。リーグ戦3試合連続のゴールは連勝を重ねる原動力となる決勝点となった。

 終盤、受けに回ったアーセナルはやや危うさこそあったものの、逃げ切りに成功。ファンにとっては嬉しい若武者の躍動と、新戦力がすっかり柱として君臨する守備ユニットの活躍でいよいよ次節はアンフィールドに乗り込むチャレンジに臨むこととなる。

試合結果
2021.11.7
プレミアリーグ 第11節
アーセナル 1-0 ワトフォード
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:56′ スミス・ロウ
主審:ケビン・フレンド

第12節 リバプール戦(A)

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■3強は遠い

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 アーセナルにとってはトップ4へのチャレンジの一戦。前節、ウェストハムがリバプールを破り、CL出場権争いに挑む資格があることを示したように、彼らもまたアンフィールドで自身に同じ価値があることを証明したいはずだ。

 高い位置からプレスにいった序盤はアーセナルの気概が見えたといっていいだろう。アーセナルが対強豪相手に見られる1枚余らせる形でのプレスはこの試合でも健在。

    今まではCHのジャカが前線の守備が水漏れを起こしそうになった時に出ていくスタンスだったが、この試合ではリバプールのLSBであるツィミカスのところを後方からの援軍対応でカバーすることにしていた。したがって後方から支援役になるのはCHではなく冨安である。

 個人の資質を考えるならば、より前に適性があるタバレスを押し出す方がベターな気もするが、リバプールのストロングである右サイド側でこうしたズレを進んで作るのは難しいのはわかる。ツィミカスはずれた分、時間を享受できていたが、アーセナルは少なくとも前半に致命的なダメージをここから食らうことはなかったのでアルテタの判断はあっていたように思う。

 リバプールはチアゴの列落ちでボールの落ちつけどころを見つける。アーセナルはこれをスルーして撤退を決めるが、これが悪手だったか。ライン間を狙うジョッタ、マネに加えてサイドに流れるオックスレイド=チェンバレンなどリバプールのあらゆる動きに対して、アーセナルはCHが守備における優先度を定めきれずに動けない状態になってしまう。

 こうなると押し込み放題になるリバプール。さらにこの日はアレクサンダー=アーノルドが大当たり。大外からバシバシクロスをピンポイントで合わせてくる。

 さらにアーセナルはトランジッションでも後手。ファビーニョ、ファン・ダイクはもちろん古巣対決で気合入りまくりのオックスレイド=チェンバレンもアーセナルのカウンター潰しに大きく貢献。陣地回復を許さない。

 40分手前にセットプレーからマネが先手を奪ったリバプールは後半にハイプレスで畳みかける。後方にスペースを空けたハイプレスはかいくぐることさえできればアーセナルにとって大きなチャンスになりうる局面だが、ここでも勝者はリバプール。タバレスのミスを誘い早々に2点目をゲット。セーフティリードを確保する。

 なりふり構わないプレスに出る必要がでてきたアーセナル。すなわち、もうプレスは同数で前から行くしかなかったのだが、このギアを切り替えられなかったのが冨安。彼が対面のツィミカスへのアプローチが遅れてしまったことが3,4点目の遠因である。

 あらゆる局面でアーセナルとの格の違いを魅せたリバプール。序盤はラムズデールの攻守を軸に粘りを見せたアーセナルだったが、打開策を見つける前に決壊を迎えてしまい、アンフィールドでのチャレンジの結果は残念なものになってしまった。

試合結果
2021.11.20
プレミアリーグ 第12節
リバプール 4-0 アーセナル
アンフィールド
【得点者】
LIV:39′ マネ, 52′ ジョッタ, 73′ サラー, 77′ 南野拓実
主審:マイケル・オリバー

第13節 ニューカッスル戦(H)

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SBと若手アタッカーの活躍で籠城を打ち破る

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 アンフィールドで大敗したアーセナル。ホームで最下位のニューカッスルを迎えて再起を図ることになる。エディ・ハウを迎えて前節はポゼッション志向の強まりも見えたニューカッスルだったが、この試合では非常に現実的なプランを選択。ローライン+ロングカウンターでエミレーツから勝ち点を持ち帰る作戦である。

 したがってアーセナルはローラインのニューカッスルを崩せるかというチャレンジに臨むことになった。いつもよりも攻撃意識を高めてエリアに侵入していく冨安と、いつも通り脱兎のごとく大外を駆け上がるタバレスがアクセントとなり、アーセナルはニューカッスルを押し込んでいく。

 冨安はいつもよりも攻撃的な役割を任されながらも守備面でも奮闘。トーマスやホワイトと連携しながらニューカッスルのカウンターのキーマンであるサン=マクシマンを抑え、ロングカウンターによる反撃の芽を摘む。攻守に冨安はこの試合では大きな貢献を果たしたといっていい。

 相手陣にニューカッスルを押し込んだアーセナルは仕上げの一手がなかなか決まらない。サカに前を向かせる形を作れればある程度打開の可能性が見られてはいるが、右の大外からのアイソレーションだけでは決定的な場面を作り上げることが出来ない。そんな中で効果を発揮したのはサカが左サイドに移動しながらのプレー。

    スミス・ロウやタバレスのような細かいパス交換を好む選手との距離を近づけることでサカ自身の持ち味である抜け出しから決定的なチャンスメイクをするように。前半のチャンスはスミス・ロウ、オーバメヤンともに決めきることが出来なかったが、後半再びサカが左サイドから抜け出すと自らファーに打ち込み先制。押し込む相手を壊し切る一撃を決める。

 こうなると前に出てこざるを得ないニューカッスル。最終ラインが高い位置をとりだしたところで決定的な仕事をしたのはサカと交代で入ったマルティネッリ。冨安の浮き球を裏に抜けながら受けるとそのままシュートを放ち、嬉しい今季初ゴール。

 先制点と仕上げで2人の若武者が活躍したアーセナル。上位への再挑戦に向けてのホームでの再始動に成功している。

試合結果
2021.11.27
プレミアリーグ 第13節
アーセナル 2-0 ニューカッスル
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:56′ サカ, 66′ マルティネッリ
主審:スチュアート・アットウェル

第14節 マンチェスター・ユナイテッド戦(A)

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■当たり前を当たり前にでOK

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 暫定監督に就任し、スタンドで見守るラングニックのもと、ユナイテッドには未勝利街道を脱することが求められる。対するアーセナルも勝てばウェストハムを交わして4位浮上。CL出場権争いのライバルであるユナイテッドとのマッチレースで考えてもかなり引き離すことができる状況である。

 試合は両チームともそれぞれの持ち味を見せる一戦に。アーセナルはIHのポストを中心に、CHが前を向く形を作りポゼッションからの前進を見せつければ、ユナイテッドはプレッシングからチャンスを作り出す。

 SHのラッシュフォードとサンチョが絞りながら守備をするのが特徴。彼らが絞った立ち位置をとり、アーセナルのCHにプレッシャーをかけることで前を向かせない。

 どちらかといえばポゼッションからのハイプレスを見せたアーセナルの方が押し込む機会が多い序盤だっただろうか。セットプレーから先制点を獲得。スミス・ロウが味方との接触で傷んでいたデ・ヘアの横をすり抜けるミドルを放ちユナイテッドファンにとっては拍子抜けする形で前に出る。セットプレーからの得点というのも今季のアーセナルらしい部分である。

 だが、ここからアーセナルが撤退守備に大きく舵を切ったことで試合の主導権は大きくユナイテッドに流れる。今季のバックスの守備の堅さと引いた相手に対するユナイテッドの手詰まり感を考えれば確かにこのやり方も悪くはないのかもしれない。

 しかし、この試合のアーセナルの守備は撤退ブロックで凌ぎ切れる基準を大きく下回っていた。ボールホルダーを捕まえることを怠り、ニアを防げず、悪戯にサイドに流れてはバイタルをあける。

    特に中盤の守備における優先順位の設定は無茶苦茶。エリア内で何度も自由にパスを繋ぐことを許し、あわやというシーンを作られる。前半終了間際、ブルーノのゴールはオールド・トラフォードのファンにとってはようやく得点が入ったかと思ったのではないだろうか。

 後半になっても流れは変わらないアーセナル。ポジトラでなんとか陣地回復を図ろうとタバレスが積極的な攻め上がりを行うが、ユナイテッドの逆転弾はそのタバレスの裏から。右からのラッシュフォードのクロスに機械のように正確で速いシュートを合わせたのはロナウド。仕事人に決定的な役目を見事に与えることができたユナイテッド。

 ニアを防げない悪癖は後半も継続したアーセナル。決定的な3点目のPKもまたしてもニアのハーフスペースを防げなかったところからである。多くのミスを重ねたアーセナルに対して、フレッジやロナウドが当たり前を当たり前にこなしたユナイテッド。ラングニック色を打ち出すまでもなく、ユナイテッドが未熟なアーセナルをホームで飲み込み、未勝利に終止符を打った。

試合結果
2021.12.2
プレミアリーグ 第14節
マンチェスター・ユナイテッド 3-2 アーセナル
オールド・トラフォード
【得点者】
Man Utd:44′ ブルーノ・フェルナンデス, 52′ 70′(PK) ロナウド
ARS:13′ スミス・ロウ, 54′ ウーデゴール
主審:マーティン・アトキンソン

第15節 エバートン戦(A)

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■自業自得でドラマティックな逆転劇

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 8試合勝利がないエバートン。今節の相手はユナイテッドに敗れて再起を図るアーセナル。過去の戦績でみればアーセナルが優勢だが、直近2試合はエバートンが連勝中の一戦である。

 ボールを握ったのはアーセナルの方。だが、復帰したジャカのプレースタイルやボールを受けられないウーデゴールの関係で全体の重心が下がりに下がる。ビルドアップに人数を割きすぎてしまい、前進がままならない状態に。

    結局、出すところに迷っては蹴っ飛ばすの連続でアーセナルは満足に前進ができず。元々できていたことができなくなるというアルテタ政権になってからのアーセナルでよく見られる『リセット』現象が起きてしまったかのようだった。

 エバートンも特段復調した感じは受けないのだが、後ろ向きな人数の掛け方をするアーセナルのスタイルのおかげで、前がかりになりすぎて後方がスカスカになりやすいという欠点が炙り出されなかったことが大きかったように思う。前進が許してもマイナス方向のプレー選択があまりにも多いアーセナルに対してならば、プレスが無理でものんびりと4-4-2を組むリトリートを選択してしまえば間に合ってしまう。

 攻撃においても、最終ラインの枚数調整や前線のボールの収まり方はエバートンの方が上。リシャルリソンの収まりの良さを利用した連携はアーセナルを苦しめた。単独で運べるグレイや意外なオフザボールの巧みさを見せたタウンゼントとのコンビネーションでアーセナルのゴールを脅かす。

 前半終了間際に決まったウーデゴールの得点はむしろ試合の流れに逆らうゴールといえる。リードをしたことでさらに消極性を増すアーセナルに対して、エバートンは4-3-3にシフト変更してプレスの噛み合わせ+強度をアップ。加えてダイナモであるドゥクレが攻撃に絡む機会が増えたことで攻め上がりの迫力も増すことになった。

 ショートカウンターからの雪崩こみでゴールを脅かすことができるようになってきたエバートン。そもそも、この日は前線からの守備がピリッとせず、何度もリシャルリソンにネットを揺らされている(オフサイドだったけど)アーセナルにとってはこの状況を打開できる策はない。

 結局、3回目の正直でゴールが認められたリシャルリソンの同点弾と終盤に魔法の一振りを見せたグレイの得点で終盤にエバートンは逆転。9試合ぶりの勝利と後半追加タイムの決勝点はエバートンファンから見れば劇的だろうが、当事者以外からすればクオリティの低さと後ろ向きな姿勢のアーセナルが自ら呼び込んだ自業自得のストーリーにしか見えなかった。

試合結果
2021.12.6
プレミアリーグ 第15節
エバートン 2-1 アーセナル
グディソン・パーク
【得点者】
EVE:80′ リシャルリソン, 90+2′ グレイ
ARS:45+2′ ウーデゴール
主審:マイク・ディーン

第16節 サウサンプトン戦(H)

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■開くCBとサイドの優位でセインツを圧倒

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 あと一歩で4位というところから連敗を重ねて、CL出場権争いから後退してしまったアーセナル。相手は前節、前々節と同じく4-4-2を使うサウサンプトンだ。

 この試合のアーセナルは前節と異なり、CBが広い幅を取りながらビルドアップ。GKのラムズデールを織り交ぜながら前進するような形を作り、サウサンプトンのプレス隊に狙いを絞らせない。

 立ち上がりこそプレスの勢いでボールを取れそうなサウサンプトンだったが、徐々にボールを運ばれるようになると苦しい展開に。左右のマルティネッリとサカへのロングボールも織り交ぜながら前進するアーセナルに対して押し込まれる。

 左右の優位を助けたのが冨安。先制点のシーンでは同サイドのサカにプレスを脱出するパスを送ると、そのままPA内まで走り込みつつ囮になってラカゼットのゴールをアシストした。

 2点目の場面では逆サイドへの大きな展開からウーデゴールの追加点に貢献。オフザボールでもオンザボールでも高い貢献を示し試合のペースをアーセナルに引き寄せる。

 サウサンプトンもサイドの三角形からの抜け出しでゴールに迫るシーンを作る場面はあるものの、アームストロングの負傷交代でポストが出来る選手が減ってしまったのが痛恨。SBの攻め上がりの機会を稼ぐことが出来ず、むしろ彼らの軽さをアーセナルに利用されてしまった形となった。

 後半にセットプレーからガブリエウが追加点をとり、試合は完全に決着。ホームでの連勝と連続無失点記録を伸ばしたアーセナルが連敗を2で止めて見せた。

試合結果
2021.12.11
プレミアリーグ 第16節
アーセナル 3-0 サウサンプトン
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:21′ ラカゼット, 27′ ウーデゴール, 62′ ガブリエウ
主審:ジャレット・ジレット

第17節 ウェストハム戦(H)

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■4位争いに向けて前を向ける成功体験

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   遡ること4節前。アーセナルはオールド・トラフォードで敗れ、かつての定位置だった4位浮上のチャンスをフイにしてしまった。そこから2週間、各チームの日程消化の影響もあり、アーセナルは再びミッドウィークに直接対決で勝てば4位浮上のチャンスの機会を得ることとなった。

 過去の戦績でいえば圧倒的にアーセナルが優位なウェストハムとの一戦はその相性が前面に出るような戦いとなった。アーセナルは早々に攻めのルートを見つけた様子。前節は中央にサイドにあらゆるところのマッチアップでサウサンプトン相手に前進を決めていたが、今節は中央でウーデゴールが降りることで8対6の数的優位を作り出しつつ、右サイドのサカに預けるやり方に偏重した。

 偏重というと聞こえは悪いかもしれないが、それだけアーセナルがサカとマスアクのマッチアップに自信をもっていたということだろう。ウェストハムはここに対してライスやランシーニを当てて1対2で対応していた。すると、自身のマークが空いて時間を得ることが出来た冨安がアタッキングサードの仕上げにトライする。

 冨安は前節のサウサンプトン戦のように逆サイドに振る大きな展開もありつつ、同サイド奥を使うスルーを見せる。切り返して左足も使えるバリエーションの豊富さはこれまでのアーセナルの右サイドバックにはなかったものである。

 サカと冨安で敵陣に押し下げることができた好影響は守備にも波及。全体が押し上げられているため高い位置からプレスに行けるアーセナルはウェストハム得意のロングカウンターをシャットアウト。アントニオや2列目のアタッカーに前を向かせる前に取り切ることで反撃を封じる。

 唯一足りなかった先制点もラカゼットとマルティネッリの連携で後半早々にこじ開けたアーセナル。追加点を得るチャンスだったPKを失敗した直後はやや消極的さが見られたため、無駄に勝ち点を落とすパターンを恐れたファンも多かったかもしれない。だが、それを払拭したのがスミス・ロウ。途中出場でワンチャンスを逃さない決定的な働きを見せて、自身のシーズンハイの得点数をまた一つ更新してみせた。

 追加点を呼んだのは直前の冨安の前向きな守備だろう。とかく消極的になりやすいリードしたアーセナルの悪癖を拭い去るような前にベクトルを向けた守備はこの試合だけでなく、今後の4位争いを見据えた貴重な成功体験になるはずだ。

試合結果
2021.12.15
プレミアリーグ 第16節
アーセナル 2-0 ウェストハム
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:48′ マルティネッリ, 87′ スミス・ロウ
主審:アンソニー・テイラー

第18節 リーズ戦(A)

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■正面衝突はお任せ
 
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 控え選手は見知らぬ名前ばかり。リーズは非常に厳しいスカッドでこのアーセナル戦を迎えることとなった。アーセナルとのマッチアップで最も苦しかったのは1人で2人のCBを監視しなくてはいけなかったCFのゲルハルトのところ、そしてラカゼットにどこまでついていくか迷いが出たCBのコッホのところ。リーズにとっては数的均衡ではない2か所のポジションで悩みが出た。

 アーセナルの攻撃はこの2つの歪みをうまく活用したものだった。CBがボールを運んで中盤を引き出す動き、そしてCFが降りてきて最終ラインに裏抜けのスペースを作る動きの2つ。

    ライン間のジャカ、ウーデゴール、トーマスなどが前を向き、マルティネッリやサカ、ティアニーの裏抜けを待ちながらボールを動かす。そうして裏を取り、メリエのいるゴールを強襲する。こうして流れでチャンスを量産したアーセナル。

 もう1つ、トランジッションの局面においてもアーセナルは優位に。大きな展開を出せる選手も前でタメを作れる選手もいないこの日のリーズ。ラカゼットのプレスでショートパスを誘導されるとそこからSH、SB、CHが囲むようにボール奪取。アーセナルの先制点はこの形から生み出されたショートカウンターによるものである。

 ゲルハルトが苦労したプレッシングの誘導からあっさりと点をとって見せたアーセナル。縦への裏抜けが刺さりすぎてしまう副作用として、縦に急ぎすぎてしまい保持で落ち着けない時間帯もあったのは難点ではある。

    しかし、正面衝突すればこの日のリーズにはまず負けることはないだろう。途中出場でもきっちり役目を果たしたスミス・ロウも含めて2列目の4人がいずれも得点に絡んだアーセナル。アウェイでの連敗を止める快勝でリーグ戦3連勝を果たした。

試合結果
2021.12.18
プレミアリーグ 第18節
リーズ 1-4 アーセナル
エランド・ロード
【得点者】
LEE:75’(PK) ラフィーニャ
ARS:16’ 28’ マルティネッリ, 42’ サカ, 84’ スミス・ロウ
主審:アンドレ・マリナー

第19節 ノリッジ戦(A)

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■厚みを増した前線をサイドチェンジで生かす

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 とりあえず引いて守って攻守の切り替えを減らし、粘り勝負に持ち込むことが多かった監督交代後のノリッジ。だが、この試合は4-4-2でアーセナルのCB相手に積極的なプレッシングを敢行。ボールを奪い返そうという意識が高かった。

 しかし、アーセナルはこのプレスを意にも介さず。彼らにとっては直近葬ってきたウェストハムもサウサンプトンも4-4-2。ノリッジよりも強度が高いプレッシングを掻い潜ってきた彼らにとってはこのプレスは難なく交わせるもの。そして、開始早々に右サイドのサカがウィリアムズとの1on1を制してあっさりと先制。ノリッジのプランはあっという間に崩壊してしまう。

 アーセナルは相変わらず好調な2列目の面々に加えて、この日はジャカが高い位置をとるというこれまでにはない形を披露。左サイドの攻撃に厚みを加える。左サイドの高い位置に人が増えたことにより、右サイドからボールを引き取ったウーデゴールのサイドチェンジが抜群に刺さるように。

 さらにはラカゼットが組み立てに降りる際でもジャカが前線に張っており人は足りているというなかなか見慣れないやり方でアーセナルは厚みのある攻撃を披露していた。前半の終盤はやや小競り合いの多い乱戦模様になりはしたが、この日のポイントになった右から左のサイドチェンジからティアニーが追加点をとったことで試合はアーセナルペースに。

 後半はややふわふわしたカウンターの応酬になるが、今のアーセナルに自由にカウンターを打たせればノリッジに勝ち目はないだろう。サカのカットインから試合を決定づける3点目が生み出されると、すっかり終盤のギアチェンジャーとしての役割が定着しつつあるスミス・ロウが仕上げを担当。

 縦パスでラカゼットのPKを演出すると、後半追加タイムには自身の得点でこの日5点目をゲット。途中出場で4試合連続得点という凄まじい効率で完勝劇に花を添えた。

 立ち上がりのプラン遂行に失敗したノリッジを絶好調の2列目の中心に飲み込んだアーセナル。苦しんだ昨年とは違い、いい流れで12月の試合を終えた。

試合結果
2021.12.26
プレミアリーグ 第19節
ノリッジ 0-5 アーセナル
キャロウ・ロード
【得点者】
ARS:6’ 67′ サカ,44′ ティアニー, 84′(PK) ラカゼット, 90+1’ スミス・ロウ
主審:グラハム・スコット

第21節 マンチェスター・シティ戦(H)

■残された手応えと逃した勝ち点にどう向き合う?

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 内容でも結果でもシティがアーセナルを圧倒。近年のこのカードは例外なくこの流れになるのがお決まりだった。加えて、直近ではアーセナルがつまらないミスから失点をして、シティが省エネのまま変身を残して90分を終えるという明らかな力の差があるストーリーになることも珍しくなかった。

 だが、この試合はこうしたこれまでのストーリーとは異なる筋書きだったと言っていいだろう。単刀直入にアーセナルがシティに互角以上に立ち回ったのである。

 最大の要因はコンディション面だろう。中2日の2セット目に入ったシティに対して、中5日のアーセナルは明らかに元気。プレスもビルドアップも明らかに頭も体もクリアにシティを振り回していた。サカ、マルティネッリを中心に前線のアタッカーが体をはり、中盤でトーマスに前を向かせてサイドチェンジ。そこから最終ラインの裏を取り、クロスで決定機を生み出すというポゼッションチームのお手本のような流れでシティを圧倒する。

 プレスにおいてもシティのポゼッションは脱出口を見つけられず。何よりシティは前線の選手のオフザボールの動きがすこぶる悪く、前節出番がなかったスターリングとアーセナルが降りる動きを捕まえきれなかったジェズスを除けば、足元に要求してはボールロストをひたすら繰り返していた。サカの先制点も元を辿ればデ・ブライネのドリブルがホワイトに咎められたところから。そこからのアーセナルの崩しの流麗さも含めて、この試合の両チームの出来をぎゅっと凝縮したような崩しとなった。

 後半も流れは変わらない立ち上がりだったが、シティは得意のハーフスペースアタックからPKを奪取。アーセナルにとっては大いに不満が残る判定となったが、ここから試合はシティペースに。直後の決定機をマルティネッリが外すと、早い縦の攻撃からジェズスの潰しにガブリエウが失敗し、2枚目の警告を受けて退場する。

 いくら、シティが不調とはいえ10人で余裕で守れるほど容易いチームではない。シティはストロングの右サイドを中心に、敵陣深い位置まで攻め込むとエリアの外からカンセロとデ・ブライネが、カットインではマフレズとベルナルドがそれぞれゴールを脅かす。

 不調のシティはラストパスが刺さらないまま攻撃をだらっと続けるが、最後の最後に仕事をしたのはデ・ブライネ。難しい軌道のクロスにアーセナルはクリアし切ることが出来ず。最後はエリア内にロドリが押し込んで決勝点を奪った。

 悲願となったシティ撃破最大のチャンスだったが、アーセナルはこの機会を逃してしまう。首位相手へのやれた手応えと勝ち点を逃した結果にどう向き合うかで今季のトップ4争いはもちろん、今後のアルテタのアーセナルの行く末は決まっていくことになるだろう。

試合結果
2022.1.1
プレミアリーグ 第21節
アーセナル 1-2 マンチェスター・シティ
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:31′ サカ
Man City:57′(PK) マフレズ, 90+3′ ロドリ
主審:スチュアート・アットウェル

第23節 バーンリー戦(H)

■深さは違えど悩みは同じ

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 直近5試合のリーグ戦で2点。移籍したウッドとAFCONに派遣されたコルネの離脱により、ただでさえ少ないチームの得点源の大半が奪われてしまったバーンリー。今節の相手はこちらも2022年4試合で1得点と貧打に苦しむアーセナルである。

 とはいえ、悩みの深さはさすがに両チームでは段違い。スカッドに複数得点者がベン・ミーただ一人というバーンリーに比べれば、アーセナルはチャンスを作ることはできる。

 この試合でとてもよく目立ったのはベン・ホワイト。冨安の欠場でSB起用となった今節は対面のマクニールを引き出しながらバーンリーの中盤の陣形を歪めることに成功する。

 ここから同サイド大外に張るサカ、サカの空けたスペースを狙うウーデゴールやラカゼット、逆サイドに張るマルティネッリなど様々な選択肢を選びながら前進する。

 アーセナルにとっての誤算は3つ。まず、バーンリーの割り切りが非常にしっかりしていたこと。特にリトリートの判断が早く、ジャカとトーマスの居ないアーセナルの中盤では縦へのスピードが間に合わず、先に帰陣されてしまうことが多かった。

 その点をカバーするサイドチェンジ役のロコンガの顔出しが少なかったのも誤算。2トップの裏に隠れる形でボールを受ける機会を狙っていたロコンガだったが、もう少しサイドや前線など横や前方からボールを受ける際の立ち位置修正はこまめに行いたいところ。

 ホワイトからマルティネッリの一発のサイドチェンジは精度は十分だけど、速度としてはやはり落ちてしまう。バーンリーはサイドをボールを動かした先のサイドをカバーする陣容を整える余裕はある。ロコンガがこの部分でチームの手助けする機会をもう少し作れれば、アーセナルはより多くゴールに迫る機会を創出できたはずである。

 最後はベンチメンバー。わかっていたことではあるが、この日のベンチメンバーの多くはトップチームでの経験が乏しく、スタメンに比べるとまだ力が十分でない選手たちが多かった。そういう中で序盤に手を焼き、終盤まで勝負がもつれてしまったことは誤算だったはずだ。

 無論、バーンリーの苦悩はこれ以上。試合終盤に前がかりになるアーセナルをひっくり返したカウンターで、パスの出し先を見つけられなかったマクニールが仕方なくシュートを打っているシーンを見れば、闇の深さは感じてしまう。

 両軍、苦しむ貧打問題は解決せずに継続。ジリ貧の一戦はスコアレスドローとなった。

試合結果
2022.1.23
プレミアリーグ 第23節
アーセナル 0-0 バーンリー
エミレーツ・スタジアム
主審:デビッド・クーテ

第24節 ウォルバーハンプトン戦(A)

■悪癖健在も英断で逃げ切り成功

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 立ち上がりからジリジリした試合だった。両チームともシュートまで辿り着かず、チャンスを作る場面はそう多くない。どちらかと言えば、前進の手段を持っていたウルブスの方が優勢だっただろうか。

 ウルブスが前進できたのは左右に展開ができるパサーに前を向かせる形から。最終ライン付近まで落ちて浮遊するネベスとライン間で反転して前を向くことができるポデンスの2人がフリーでボールを持てば、広く幅を使った展開が可能。

 WBが高い位置をとるという構造を考えると、ウルブスは常に高い位置に選手を配置転換されている状態。薄いサイドにボールを届けてからクロスを上げてチャンスメイクを行う。

    ウルブズはクロスに対しても前線に加えて中盤からデンドンケルが飛び込むことで厚みを増す。精度の部分ではそこまでではなかったが、押し込んでエリア内にクロスを入れるところまではうまくいっていた。

 アーセナルは4バックで幅を守るのに苦心。ジャカやトーマスが最終ラインに入りながらクロス対応に追われることになる。彼らが前半のうちにカードをもらってしまった要因は、多岐にわたる守備時のタスクも関係しているだろう。バイタルもサイドもPA内も守る必要がある彼らの負荷はこの日は非常に高かった。

 ボール保持に関してもアーセナルは苦労が多かった。気になったのは右サイドの前進のスキーム。冨安→セドリックに変わったという人選の部分というよりは、ラカゼットとウーデゴールがともにラインの手前でパスをもらいたがったという要素が大きいように思う。彼らが引き出したDFラインの裏を使う選手がいなかった。どちらかが裏を狙うランを増やせれば、もっとチャンスメイクは簡単だったはずだ。

 苦しい展開のアーセナルだが、先制したのは彼ら。CKからのワンチャンスをガブリエウが押し込んで一歩前に出る。リードしたアーセナルは後半にプレスラインを下げて試合をコントロール。保持でも時間を作りながら、押し返しつつ時計を進めるゲームマネジメントを行う。

 そんな状況が変わったのはマルティネッリの退場。短時間で2回警告を受けるという荒技を見せてあっさりいつも通り10人になってしまうアーセナル。慣れているからなのかは知らないが、素早くホールディングの投入で5バックに移行。割り切って逃げ切りパターンに動く。

 引きこもるには少し時間が長かったように思えたが、4バックのまま守ったら明らかに失点していたように思うので、アルテタのこの動きは英断と言えるだろう。入ったホールディングも難しい展開の中でよく試合に溶け込むことができた。

 青息吐息になりながら逃げ切ったアーセナル。退場者を出すという悪癖は直らなかったが、一安心することができる2022年初勝利を挙げたことで事態が好転することを期待したいところだ。

試合結果
2022.2.10
プレミアリーグ 第24節
ウォルバーハンプトン 0-1 アーセナル
モリニュー・スタジアム
【得点者】
ARS:25′ ガブリエウ
主審:マイケル・オリバー

第26節 ブレントフォード戦(H)

■ハイプレス解禁を逆手に取る

 前節、ようやくリーグ戦の連敗を5で止めたブレントフォード。とはいえ、内容はスコアレスドロー。できれば勝利で苦しむシーズン後半戦の活路を見出したいところ。今節の対戦相手は一足早く公式戦で勝てない苦しみから脱することができたアーセナルである。

 開幕戦に続いた勝利でアーセナル相手にシーズンダブルを決めたかったブレントフォードだったが、この試合ではかなり厳しい立ち上がりからの展開となった。試合を支配したのはアーセナル。ボールを握るのはもちろん、ゴールに迫る機会も十分に確保。サイドの攻撃が機能しブレントフォードを守備に奔走させる。

 アーセナルの選手は軒並みパフォーマンスが良かったが、今季ここまでの出来と比較して良かった選手はセドリックだろうか。開始から高い位置を積極的に取ることで、同サイドのサカやウーデゴールをフォロー。逆サイドからのボールの引き取り役という黒子としての働きも十分。サイドを変えるキックも備えており、これまでの保持の局面での仕事と比べてもこの日は高い水準の仕事をこなせたと言っていいだろう。もう1人、パフォーマンスが良かったのはラカゼット。これまでの試合に比べるとより、ゴール側の仕事に意識を向けたアクションが多かった。

 一方のブレントフォードは自陣に押し下げられたことでなかなか前に進むことができない。ムベウモは高い位置でボールを収めることができず、カノスやヘンリーなどWBがクロスを上げる機会を確保することができない。

 というわけで後半、ブレントフォードはハイプレスを解禁。積極的にボールを奪いに動き出していく。ところが、アーセナルはこのハイプレスに見事に対応。前半は高い位置で背負う役割をこなしていたラカゼットはプレス回避に動くことで起点となり、スミス・ロウの先制点をお膳立てすることに成功。ブレントフォードの反撃の仕掛けを跳ね返して見せた。

 先制した後もブレントフォードのだらっとしたペースに付き合ったアーセナル。殴り合いになっても勝算があると踏んだのだろう。そして、そのアーセナルの賭けは結果的に正解。79分のサカの追加点を無理矢理にでも奪い取ったことで、最終盤のノアゴールの得点が致命傷にはならなかった。

 メンバーが揃い、2月にようやく上昇気流に乗っかってきたアーセナル。2022年初勝利を連勝でつなげ、CL出場権のポールポジションを奪いにいく。

試合結果
2022.2.19
プレミアリーグ 第26節
アーセナル 2-1 ブレントフォード
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:48′ スミス・ロウ, 79′ サカ
BRE:90’+3 ノアゴール
主審:ジョナサン・モス

第20節 ウォルバーハンプトン戦(H)

■10日前以上に劇的な大逆転

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 およそ10日前のリマッチとなった一戦。4位争いの主導権を握りたいアーセナルと、欧州カップ戦争いに食らいつきたいウルブスが再び激突する。

 試合は早々にウルブスが先制点をゲット。ファン・ヒチャンがガブリエウのバックパスを掻っ攫い、ラムズデールを交わして無人のゴールに押し込んで見せる。アーセナルのバックラインはこのシーンの前においても、どこにパスを出したらいいか悩むシーンがあり、ガブリエウに関してはそれが特に顕著だった。ここはウルブスの受け手をきっちり絞る形のプレスが効いていたと言っていいだろう。

 反撃のため、ボールを持って敵陣に進むアーセナル。SBで駆け引きをしながらウルブスのWBを引き出してくるムーブは比較的うまくいっており、裏のWGからゴールを狙っていく形は悪くはなかったが、ウルブスの中央の堅さに手を焼いてしまう。サイドの崩しは人数をかけることができており、PAに入ることはできていたが、PA内で相手を剥がすことができない。象徴的だったのはラカゼット。コーディに捕まり、反転しながらもシュートブロックにあってしまうなどなかなか自由にプレーをすることができない。

 押し込まれるウルブスはカウンターからチャンスを見出したいところ。序盤こそポデンスを中心に幅を使う攻撃でアーセナル相手にクロスまで持ち運ぶことができていたが、徐々に高い位置に出てくるアーセナルの守備ブロックに対して苦戦。ただし、ボールをロストしても高い位置で相手を食い止めることができていたのはさすが。反撃はできないが、ピンチにも至っていないという均衡した状況を維持することができていた。

 後半、アーセナルは前半に引き続き攻勢に出るも最後の最後をこじ開けることができない。勝負に出たいアルテタはセドリックに代えてエンケティアを投入して2トップに移行する。2トップの採用により効いたのが内側から外側へのラン。これにより最後の壁になっていたコーディを退かすことに成功するアーセナル。セットで投入されたペペのエンケティアとクロスする内側へのフリーランで同点ゴールをゲットする。

 さらに試合終了間際の決勝点も右サイドから。ペペのお膳立てを受けて抜け出したラカゼットがジョゼ・サのオウンゴールを誘発。10人で凌ぎきったモリニューでの一戦を上回る逆転勝利を見せたアーセナル。昨年のリベンジとなるウルブス戦ダブルをこれ以上ない劇的な形で達成した。

試合結果
2022.2.23
プレミアリーグ 第20節
アーセナル 2-1 ウォルバーハンプトン
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:82′ ペペ, 90’+5 ジョゼ・サ(OG)
WOL:10′ ヒチャン
主審:マーティン・アトキンソン

第28節 ワトフォード戦(A)

■イケイケの3得点はさすがに重い

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 ホジソン就任以降、守備の立て直しを図ることには成功しているワトフォードだが、攻撃面ではどこかピリッとしない試合が続いている。そんな中、今節のアーセナル戦ではサールとキングという攻撃の主力2枚が欠場。ロースコアに持ち込んで何とか勝ち点をもぎ取りたかったというのがホジソンの本音だろう。

 しかし、試合は早々にアーセナルが先制。今は2枚つけるのが常識といえるほど絶好調のサカに対して、1枚で受けてしまったワトフォード。サカはウーデゴールとのコンビであっさりと右サイドを攻略する。ラストパスを受けたウーデゴールは斜めのランから糸を引くようなコントロールショットでフォースターの守るゴールマウスを打ち抜いて見せた。

 いきなり出鼻をくじかれたワトフォードだったが、攻撃面ではきちんと準備。トップの3枚が頻繁に横のレーンを入れ替えることでアーセナルのバックラインを混乱に陥れる。特にアーセナルの左サイドの裏は狙い目。ティアニーをフリーランで内側に引っ張ると、大外には守備に難のあるマルティネッリが残る。

ここからワトフォードは同点弾。マルティネッリの足を止めて2対1の構図をサイドで作ると、フリーで挙げたクロスを最後はクチョ・エルナンデス。アクロバティックな同点弾で早い時間に追いつくことに成功する。

 だが、この日はアーセナルのアタッカー陣の勢いが止まらない。先制点に絡んだサカ、ウーデゴールはもちろんのこと、中央の前線と中盤で攻撃をつかさどるラカゼットやトーマスも絶好調。自在にワトフォードの守備陣を振り回し、難しいパスを少ないタッチでバシバシと決めていく。

 ラカゼットとサカの阿吽の呼吸で決めた2点目も美しいが、やはりこの日の真骨頂は3点目。サカのスローインを受けたセドリックがそのまま攻めあがると、ウーデゴール、ラカゼットとつなぎ、落としを受けたマルティネッリが豪快にミドル。まさしくアーセナルらしいゴールでさらにワトフォードを突き放す。

 攻撃陣がイケイケだった分、アーセナルには試合をコントロールする気がなかった。ちょっとハイになっていた感じ。その分、ワトフォードにもチャンスが回ってきたのは幸運。守備の軽さが目立つアーセナルの最終ラインをシソコがこじ開けて1点差に追い上げたおかげで終盤まで勝ち点の可能性を残すことができた。

 ただし、反撃もそこまで。堅守をベースに立て直しを図っているワトフォードにとって、この日絶好調だったアーセナルのアタッカー陣に背負わされた3点はあまりにも重たいものだった。

試合結果
2022.3.6
プレミアリーグ 第28節
ワトフォード 2-3 アーセナル
ヴィカレッジ・ロード
【得点者】
WAT:11′ エルナンデス, 87′ シソコ
ARS:5′ ウーデゴール, 30′ サカ, 52′ マルティネッリ
主審:クレイグ・ポーソン

第29節 レスター戦(H)

■後半に見せた大人なアーセナル

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 連勝中のアーセナルにECLとの二足の草鞋でスカッドが苦しいレスターが挑む構図のこの一戦。レスターは4-4-2でコンパクトなブロックを維持しながら、アーセナルにボールを持たせることを許容する慎重な立ち上がりを見せる。

 アーセナルは長いボールを織り交ぜながら最終ラインの押し下げる動きをアクセントに使う。加えて、SBが低い位置で受ける機会を増やすことで、レスターのSHを引き出し、空いたスペースにIHタスクのジャカやウーデゴールをスライドさせる。相手を動かしながら穴を作れるようになったのは後半戦のアーセナルの成長である。

 これで相手を動かすきっかけを見つけたアーセナル。レスターの2列目が出ていったSHのカバーに横にスライドするところでできたズレから、コンパクトなインサイドでもパスを回せるようになる。

 押し込む機会を得ることができたアーセナルはセットプレーからあっさりと先制。ニアに入り込んだトーマスがヘディングでネットを揺らす。その後も左右のサイドから攻略のきっかけを掴んだアーセナルが試合の主導権を握る。

 前半の中盤、徐々にレスターがテンポを取り戻す。攻め手となったのは左サイド。バーンズを軸にデューズバリー=ホール、ルーク・トーマスを走らせる形で、左サイドの空いたスペースからアーセナル陣内に侵入する。このサイドのSBであるセドリックは、以前に比べれば守備も安定はしてきてはいる。だが、さすがに一定のレベル以上の相手だと分が悪い。バーンズはその一定のレベル以上の相手に該当する選手だった。

 アーセナルは前がかりのレスターを裏返そうとチャレンジングなパスで反撃を狙う。だが、苦しい流れの中でも難しい難易度のパスは相手に攻撃機会を与えてしまう形で裏目になってしまう。

 なんとか苦しい前半を凌いだアーセナル。後半はレスターのハイプレスに屈しない場面も増えていくように。肉弾戦を仕掛けてくるレスターのプレッシングをいなすことで再び主導権を得るように。すると50分過ぎ、セットプレーの流れからソユンクのハンドを誘いPKをゲット。これをラカゼットが技ありのキックで沈めてレスターを突き放す。

 ここからのアーセナルは前半の反省を生かしたかのよう。安易にチャレンジを仕掛けて相手にボールを渡すようなことをせず、バックパスや横パスを織り交ぜながら、時計の針を進めることができるように。前半の反省を活かし、一段大人な振る舞いを見せたアーセナル。90分で見れば内容も含めて完勝と言っていいだろう。次節はリバプール。優勝争い真っ只中の強豪に胸を借りる一戦となる。

試合結果
2022.3.13
プレミアリーグ 第29節
アーセナル 2-0 レスター
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:11′ トーマス, 60′(PK) ラカゼット
主審:アンソニー・テイラー

第27節 リバプール戦(H)

■健闘も完成度の違いは明白

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 5連勝と8連勝。CL出場権獲得と逆転優勝という目標は違えど、この連勝街道で互いの目標を現実的なターゲットとして捉えつつある両チームによるミッドウィークのビックマッチだ。

 試合早々に降り掛かったリバプールのセットプレーの波状攻撃を凌いだアーセナル。保持で時間を作れるのか?というのがこの試合の課題だったが、早々に中央でのパス交換で前進を決めるなど、立ち上がりから好調をアピール。特にトーマスとウーデゴールへのチェックが後手になりやすいチアゴのところを突きながら中央でフリーマンを作ることに成功していた。

 だが、ここから先でアーセナルの攻撃は難航。崩しの切り札と言っていいサカのマークにファン・ダイクがサイドにスライド。危険は早めに潰す!と言わんばかりの出張でそこから先の展開を許さない。逆サイドのマルティネッリはアレクサンダー=アーノルドを1on1で抜く場面があったが、守備で低い位置に押し下げられることが多いうえに、時間の経過とともにヘンダーソンやファビーニョのカバーに遭い、徐々に苦しくなってくる。

 一方のリバプールもアーセナルのプレスに苦戦。サカ、ラカゼット、ウーデゴールの3人のプレスにCBとアンカーは消されてしまうし、降りてきたチアゴを使いながら攻撃を始めようとする頃にはアーセナルのブロックは組み上がってしまう。二段構えの守備を使い分けるアーセナルになかなか攻め手を掴みきれない。

 リバプールがようやく解決策を見つけたのが後半。マネとジョッタを中心に左のハーフスペースを重点的に攻略。46分のオフサイドのシーンのように、奥行きと細かいレーンの使い分けを駆使しながらチャンスメイクを行うように。

 アーセナルもよく対応していたが、54分に決壊。外のロバートソンと内に入り込んだマネによってわずかに空いた縦のコースにチアゴからジョッタに絶妙なパスが通る。これを角度のないところから沈めるのがジョッタ。直近はあまり結果を出せていなかったが、得意なアーセナル戦でまたしてもゴールを決める。

 ここが勝負所と踏んだリバプール。即時奪回でボールを取り返そうとゲーゲンプレスを開始。これにより、同じくリバプールキラーのフィルミーノのダメ押しゴールまでの流れを作る。

 アーセナルは最後まで健闘はしたが、終盤の攻撃の引き出しの乏しさを見ると、マルティネッリが1on1で優勢に立てた時間帯でリードを奪っていないと厳しかったように思う。

 素晴らしいチームであることを内容で証明したアーセナルだが、流れを引き寄せるメソッドの豊富さと勝負所を見極めるエンジンの掛け方は明らかにリバプールの方が数段上。正面からぶつかり合い、完成度の違いを見せた試合と言っていいだろう。

試合結果
2022.3.16
プレミアリーグ 第27節
アーセナル 0-2 リバプール
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
LIV:54‘ ジョッタ, 62’ フィルミーノ
主審:アンドレ・マリナー

第30節 アストンビラ戦(H)

■不可解な2トップ不採用

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 中2日×2セット目、かつ直近の試合はリバプールとの一戦。今季ここまでゆったり目のスケジュールですごしてきたアーセナルとしては厳しい日程に直面している。中2日のランチタイムにビラ・パークというのもなかなかにハードな行程である。

 だが、そんな心配もどこ吹く風。アーセナルは好調なパフォーマンスで試合の頭から主導権を握る。最も大きかったのはアンカーのトーマスをビラがうまく捕まえられなかったことだ。一応、ワトキンスが背中で消す形で監視はしていたが、動きなおしてしまえば簡単にフリーになれる。

ビラはボールサイドと逆のシャドーに絞ることでアンカーを捕まえる要請が出ていたっぽいけど、ここはタイトさに欠けており、トーマスはストレスなくボールを持つことができた。そのため、アーセナルはトーマスから攻撃を展開。ビラ自慢の3センターのスライドも、トーマスの素早いサイドの展開を前にすれば厳しいものがあるのは火を見るよりも明らかだった。

 サイド攻撃も好調。左サイドのスミス・ロウはマルティネッリと比べると中央でラカゼットとつながりながらのパス交換が多く、大外のティアニーのフリーランのスペースを空けるのもうまい。リバプール戦の硬いサイドの連携はこの日は幾分かほぐれたように見えた。

 右サイドの攻撃も好調そのもの。アーセナルのプレミア通算2000ゴール目となる先制点を奪ったのはサカ。セットプレーからの流れでミドルシュートを仕留めて見せる。

 ビラは選手選びがやや不可解だったように思う。トーマスを捕まえるにしても普段のトップ下+2トップの形の方が楽だろう。ライン間を締めてブエンディアとコウチーニョを締め出されているビラにとっては、長いボールを受けるターゲットがワトキンスだけなのは心もとない。

 後半、突破口となったヤングのクロスに対しても受け手としてエリア内で勝負できるFWは2枚ほしいだろう。結局イングスを投入したのはワトキンスと入れ替わる形。外からのフリーランよりも絞ってエリア内勝負をさせたトラオレの投入は不可解で、エリア内に2トップを置いてヤングからクロスを上げまくればよかったように思う。

 そうした嫌がることをしてこなかったビラに対して、アーセナルは大人の試合運び。先制点以降はペースを落とすと、そこから試合の流れを掌握。PA内での対応も比較的安定しており、本当に危険だったシーンはワトキンスがポストを叩いたシーンくらいだろうか。

 この日、久しぶりの出番となったレノもきっちりクリーンシートを達成。ラストプレーで仕事をしたことも相まって、チームメイトに祝福を受けるレノの姿を見れば、今のアーセナルの雰囲気の良さは明らかだろう。目標達成に向けてポジティブな流れを取り戻しての代表ウィーク突入となった。

試合結果
2022.3.19
プレミアリーグ 第30節
アストンビラ 0-1 アーセナル
ビラ・パーク
【得点者】
ARS:30′ サカ
主審:アンディ・マドレー

第31節 クリスタル・パレス戦(A)

■嫌な予感が的中した『月曜のセルハーストパーク』

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 チェルシー、マンチェスター・ユナイテッドが共にこけたことでCL出場権で優位に立つチャンスを得たアーセナル。アーセナルファンにとっては嫌な予感がしたことだろう。こうした好機を逃し続けるのが近年のCL争いの定番。この心情はアーセナルファンだけでなくチェルシーファンも、ユナイテッドファンも、スパーズファンも決して人ごととは言えないはずである。

 そしてその予感は的中したといっていいだろう。アーセナルははっきり言ってひどい内容だった。バックラインから時間を作ることが出来ず、時間を作ったとてトーマスがパスミスで相手にチャンスを献上。別格の存在感を見せていたウーデゴールは嘘のように試合から消えてしまい、ビルドアップの中核といえる2人が完全に機能不全に陥る。

 これによりパレスのプレスを脱することができず前進の機会を奪われたアーセナル。すると、セットプレーからパレスが先制点をゲット。ガブリエウが被り、タバレスが競れなかったボールはアーセナルの誰も触ることが出来ず、アンデルセンの折り返しをマテタが押し込むのをただ見ていることしかできなかった。

 パレスの追加点もこの2人のギャップをつかれたところから。最後はガブリエウのエラーとなったが、この場面はリスタートのスローインからゴールに至るまでに問題点がたくさん。抽出したのでこのツイートのツリーを見てほしい。

 パレスの中で存在感を放ったのはマテタ。正直、ザハやギャラガーに好き放題やられるのはある程度覚悟していた部分があったのだけど、マテタにこれほどガブリエウを抑え込む力があるとは思わなかった。彼の奮闘により、アーセナルが高い位置からのボール奪取が出来なかったことも試合が終始クリスタル・パレスのペースになった要因の一つである。

 後半はマルティネッリの投入で左サイドの攻撃が整理された分、ゴールに迫る動きを見せたアーセナル。だが、自陣を固めてカウンター狙いにシフトするパレスに攻めあぐねると、終盤にはザハが独走でPKを奪取。人数をかけたのに止められないのはこの日のアーセナルの守備の脆さをよく示しているようだった。

 結局、試合は3-0でパレスの勝利。2017年、直近でのこのカードのパレスの勝利と全く同じ『月曜の夜』『セルハーストパークで』『3-0でパレスが勝つ』という奇妙な一致が見られることに。アーセナルとしては月曜日のセルハーストパークはもう勘弁という心境だろう。

試合結果
2022.4.4
プレミアリーグ 第31節
クリスタル・パレス 3-0 アーセナル
セルハースト・パーク
【得点者】
CRY:16′ マテタ, 24′ アイェウ, 74′(PK) ザハ
主審:ポール・ティアニー

第32節 ブライトン戦(H)

■暗雲が立ち込める連敗

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 クリスタル・パレスに敗れて再開初戦を白星で飾れなかったアーセナル。今節の対戦相手は直近7戦でわずか1得点のブライトン。苦しい局面を脱出するための両チームの一戦である。

 序盤からペースを握ったのはアウェイのブライトンの方だった。極端に左サイドに人を集めてのポゼッションでアーセナルの注意を片側サイドに集める。アーセナルはそのまま窒息させるようなプレッシングをできればよかったのだけど、そうした圧力のかけ方はこの試合ではできず。

 ブライトンは左サイドからの斜めのパスからエリア内に迫る形を作る。だが、オフザボールの動きの悪さは少し不調を引きずっている感じ。このサイドからは決定機を作れなかった。

 しかし、決定的な機会は逆サイドから。大外に張るグロスでSBのジャカを引き寄せると、大きく空いたアーセナルのSB-CB間をダンクのフィードが強襲。抜け出したムウェプから最後はマイナスの折り返しを受けたトロサールが決めて先手を奪う。

 アーセナルとしては人をかけていたサイドではなく、逆側から崩されるという意味で虚を突かれた形といっていいだろう。こちらのサイドの連携は攻撃でも不調。ジャカのような供給力のある選手をプレッシャーのかかりにくいSBに置く形を活かしきれず、好調のマルティネッリにいい状態でボールを持たせることが出来なかった。

 それでも前半追加タイムにセットプレーから同点。かと思いきや、これはオフサイドで取り消し。おそらくオフサイドなんだろうけど、サンチェスの陰に隠れてカメラから見えないはずのククレジャから引かれたオフサイドラインに納得できないアーセナルファンも多かったはずだ。

 後半はアーセナルがジャカを中央に戻す3-4-3に布陣変更。マルティネッリとサカという突破力のある両WBを配置することで相手を横に広げたアーセナルは中盤に縦パスを通せるように。

 しかし、後手に回ったブライトン相手に得たセットプレーの山を活かすことが出来ず。そうこうしているうちにムウェプのスーパーミドルでさらに突き放されるという苦しい展開に。

 終了間際にウーデゴールのロングシュートで追いつくもアーセナルとしてはここが一杯。CL出場権獲得に暗雲が立ち込める重たい連敗を喫することになってしまった。

試合結果
2022.3.16
プレミアリーグ 第27節
アーセナル 1-2 ブライトン
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:89‘ ウーデゴール
LIV:28‘ トロサール, 66’ ムウェプ
主審:デビッド・クーテ

第33節 サウサンプトン戦(A)

■刺さらなかった順足WGの速攻

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 4位争いを演じながらも連敗中のアーセナルをこちらもリーグ戦で6試合勝ちがないサウサンプトンが迎え撃つ互いに調子のあがらないチーム同士の一戦だ。

 スタメンの並びを変えてきたのはサウサンプトン。前節は4-4-2で好き放題やられたことやアーセナルが5レーン的な攻撃をしてくることを加味して、5-4-1でのメンバー構成でこの試合に臨む。しかも、WBからはリヴラメントを外してくるという念の入れよう。まずは守備からという狙いを明確にしたスタメンとなった。

 一方のアーセナルは順足のWGを採用。サカとマルティネッリをいつもと逆に入れ替えた配置する。おそらく狙いは早い攻撃だろう。サウサンプトンの攻撃の狙いは裏。4-4-2であろうが、5-4-1であろうが越えるべきラインの数は同じだし、サウサンプトンのバックラインとのかけっこ勝負でいえば分があると踏んだのだろう。

 そのためには抜け出した後に素早くシュートやラストパスまで移行できる順足のWGの方が得策。攻守のバランスを考えると普段は高い位置を取るジャカが低い位置でも攻撃が完結できるようにという工夫も入っていたかもしれない。
実際、アーセナルの狙いはある程度はうまくいっていた。マルティネッリ→サカの決定機などはまるっきり狙い通りの形だし、CFに入ったエンケティアもラカゼットよりは機動力を生かした攻撃が得意。斜めのランで最終ラインを引っ張りながらファウルを奪うなど、この日の前半のやり方にはマッチしていた。

 サウサンプトンはなかなか自陣から出ることができず、カウンターも打つことが出来ず。苦しい戦いを強いられている状況だったが、セットプレーからワンチャンスをモノにする。ほとんど保持の時間がなかったサウサンプトンだったが、唯一狙っていたのは左サイドの奥をとることだった。先制点の場面ではセットプレーからの流れからこのスペースを決め打ちして蹴りだしていたのかもしれない。対応が遅れたアーセナルのバックラインをよそにベドナレクが先制点を奪う。

 前半の途中から逆足WGに戻し、人数をかけたサイド攻撃に切り替えたアーセナルは後半も狙いを続行。サウサンプトンにカウンターの脅威がほとんどなかったことを考えても、SBを次々削ってアタッカーを入れるやり方は妥当といえそうである。

 右サイドのサカを中心に敵陣を脅かす頻度は確実に増えたアーセナル。しかしながら、最後に立ちはだかったのはフォースター。守護神によって守られたゴールマウスを破ることが出来なかったアーセナル。撤退からの先制点で引きこもることを許されたサウサンプトンがトンネルの脱出に成功した。

試合結果
2022.4.16
プレミアリーグ 第33節
サウサンプトン 1-0 アーセナル
セント・メリーズ・スタジアム
【得点者】
SOU:44‘ ベドナレク
主審:ピーター・バンクス

第25節 チェルシー戦(H)

■EUROを悪夢を振り払ったサカ

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 互いに前の試合からメンバーは入れ替え。チェルシーはCLとFA杯を掛け持ちしての勤続疲労がメンバー入れ替えの主要因なのに対し、アーセナルはリーグ3連敗という悪い流れを断ち切るためのタクティカルな判断が濃い。

 変更したメンバー構成で対症療法的なプレッシングを行ったのはアーセナル。チェルシーのバックラインに対して、3トップ型でプレスに向かい、時間を奪いに行くアプローチを見せた。

 チェルシーのバックラインはアーセナルのプレスを利用して前進するほどの手練れが不在。ジョルジーニョ、リュディガーのどちらかがいれば、相手のプレスを裏返す前進ができたかもしれないが、彼ら2人がいないスタメンではアバウトなボールをルカクとヴェルナーに蹴り込むのが精いっぱいだった。

 一方のアーセナルにも難はあった。この日のアーセナルは自陣深くでのボール奪取後にショートパスをつなぎながら前進を狙うことが多かった。だけども、このパスの精度が非常に低い。それゆえ、自陣で引っ掛けてはチェルシーのショートカウンターを食らい続けるという悪い流れになってしまう。

 どちらも難がある中で先に失点したのはチェルシー。クリステンセンがロングボールの対応をミスってしまい、エンケティアにプレゼントパス。メンディとの1対1を冷静に制したエンケティアが今季初めてのリーグ戦のゴールを決める。

 だが、アーセナルもその直後にミス。そのエンケティアのポストがずれたところからチェルシーのショートカウンターを食らい、ヴェルナーに同点ゴールを許す。

 共にミスから失点が続いていたが、アーセナルはミス後も自陣からのショートパスでの前進を継続。継続したことでようやくチェルシーのプレスを回避し、チャンスにつながったのが2点目のゴールのシーンである。ジャカの自陣からの前進でカンテ、アロンソ、ルカクを剥がすと、サカ→ウーデゴールとつなぎ、最後はスミス・ロウが決める。

しかし、これも直後にチェルシーが同点に。前半から共に2点ずつを奪う打ち合いになる。

 後半もアーセナルはハイプレスを継続。するとこれがアスピリクエタのミスを呼び、この日2点目のエンケティアのゴールを呼ぶことに。チェルシーはバックラインの足元という不安要素が失点につながってしまった。

 この日3回目のリードを奪ったアーセナルはこれ以降は撤退。5-4-1でプレスを控えつつ、チェルシーのバックラインの中で最も不安定だったサールをロングボールで狙い撃ちにする。

 チェルシーはハフェルツを投入し攻勢を強めるが、バックラインが我慢できないという課題が先に来てしまう。後半追加タイムに差し掛かる少し手前でアスピリクエタがボールに関係のないところでサカを倒してPK。この一連のプレーもアーセナルが狙い撃ちしたサールのサイドからだった。

 このPKをサカが自ら沈めて試合は決着。サカにとってはリーグ戦2桁ゴール達成に、EUROの悪夢を払拭するPK成功と個人にとっても大きな意味を持つ勝利となった。

試合結果
2022.4.20
プレミアリーグ 第25節
チェルシー 2-4 アーセナル
スタンフォード・ブリッジ
【得点者】
CHE:17‘ ヴェルナー, 32’ アスピリクエタ
ARS:13‘ 57’ エンケティア, 27‘ スミス・ロウ, 90+2’(PK) サカ
主審:ジョナサン・モス

第34節 マンチェスター・ユナイテッド戦(H)

■不安定さは健在ながらも勢いには差が

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アーセナル”あるある”を乗り越えて。ユナイテッド撃破でCL出場へ前進 | footballista | フットボリスタ


3連敗でCL出場権が遠のいたかに見えたアーセナルだったが、チェルシーとのロンドンダービーを制して連敗ストップ。4位を争うマ


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 共に絶不調で目標となっているCL出場権から遠ざかっている両チーム。アーセナルは前節、そのトンネルを脱してチェルシーに勝利した一方、ユナイテッドはリバプールに仕留められて大敗。マグワイアへの脅迫が発生するなど、チームはサポーターともども不穏な空気になっている。

 この試合の立ち上がりはその両チームの勢いの差を反映したものとなった。前半3分。先制したのは前節連敗を止めたアーセナル。セドリック、ジャカの2人で左右に大きくボールを振りながら、ユナイテッドの守備陣を横に振り回す。最後に決めたのは左サイドの大外から入ったタヴァレス。こぼれ球を押し込み、開始早々に大仕事を成し遂げる。

 先手を取られたユナイテッドは高い位置のプレッシングでアーセナルのビルドアップを阻害にかかる。前節もバックラインからの不安定なボール回しを見せていたアーセナルを相手陣側で追い詰めていく算段だ。アーセナルは前節ほどの不安定さはなかったが、バックラインのレギュラーが入れ替わった影響は感じられるボール回しの出来。時折、ひっかけてユナイテッドにショートカウンターのチャンスを与えてしまう。

 もう1つアーセナルにとって怖かったのはロナウドの存在。カウンターの旗手、エリア内での空中戦の強さ、マイナスのパスを刈り取るプレスバックの勘の鋭さ。ユナイテッドの前線でアーセナルのバックラインを苦しめるために立ちはだかっていた。34分に奪い取ったゴールも駆け引きでガブリエウを上回ったもの。年季の違いから前に体を入れてマティッチのクロスを押し込んだ。

 幸運だったのはアーセナルにとってこれが同点弾ではなかったこと。その直前の30分付近。アーセナルはユナイテッドのバックラインのラインコントロールの不安さに漬け込んで2点目を挙げていた。大外のサカで相手の最終ラインの高さを決めると、サカにマークが集中した分、浮いたウーデゴールが決定的な仕事を果たす。ウーデゴールは自身に注意が向いたヴァランをあざ笑うかのようにヴァランの後ろに入り込んだサカに浮いたラストパス。これをテレスが倒してPK。2試合連続でPKを決めたサカによって、前半をリードのうちに折り返せたアーセナルだった。

 後半は互いに撃ち合いの入り。アーセナルも前半に引き続き、ユナイテッドのバックラインにちょっかいをかけることは出来てはいたが、中盤が間延びしている分、ユナイテッドにもチャンスは十分。中央で浮くマティッチから大外のサンチョなどいくつか攻略できそうな糸口はあった。

 同点のチャンスを得たのはユナイテッドの方。タヴァレスのハンドで得たPKは同点の絶好のチャンス。だが、ブルーノ・フェルナンデスがこれを枠に決めることが出来なかった。

 ブルーノのミスを取り返そうと必死に同点ゴールを狙うユナイテッド。その攻撃を耐えきったアーセナルはこの試合の行方を決定づける3点目を手にする。試合を決めたのはジャカの左足。エリア内からスピード、コース共に完璧なミドルで打ち抜いて見せた。

 さすがに2点差がつくとトーンダウンした来たユナイテッド。交代選手が流れを変えることも出来ず、アーセナルに逃げ切りを許してしまうことに。リバプール戦大敗の連鎖を止められなかったユナイテッドとは対照的に、アーセナルはこれで2連勝。CL出場という悲願に向けてまた一歩その道のりが近づく大きな勝利だった。

試合結果
2022.4.23
プレミアリーグ 第34節
アーセナル 3-1 マンチェスター・ユナイテッド
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:3′ タヴァレス, 32′(PK) サカ, 70′ ジャカ
Man Utd:34’ ロナウド
主審:クレイグ・ポーソン

第35節 ウェストハム戦(A)

■ギリギリの防衛策

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 チェルシー、ユナイテッドと上位勢を倒して結果は出ているが、どこか不安定な試合運びが目立っているアーセナル。特に気になるのはバックラインからの組み立てが非常に不安定であること。トーマス、ティアニーという2人の主力を欠いている影響は大きく、バックラインからのパスワークをやたら引っ掛けてしまうことが多い。

 この試合ではユナイテッド戦でふくらはぎを負傷していたホワイトが欠場という更なる窮地に。さらに主力を欠くことになったアーセナルは案の定、この試合でもビルドアップに難を抱えることになる。一番の要因は後方にやたら人数をかけすぎてしまうことだろう。サイドに流れるウーデゴール、最終ラインまで下がってしまうエルネニーなどボールを後ろから受けるルートを意識しすぎるあまり、前線に残る選手を作ることができなくなってしまう。

 そのため、ウェストハムの守備ブロックを攻略する人員が手薄になったアーセナル。ここ数試合と同じく、ウェストハムの守備ブロックはライン間の管理がルーズで隙があるものだったが、アーセナルにはその隙をつくことができず。数人をターンオーバーで入れ替えたウェストハムはカウンターからチャンスを作り出すことができており、アーセナルに対してやや優位に試合を運べていた。

 それだけにセットプレーからの先制点は大きかった。本職CBを2枚揃えることができなかったり、アントニオとソーチェクを温存した影響などで空中性は明らかにアーセナルが優位。ホールディングが空中戦での優位を生かして自身のプレミアリーグ初ゴールを決めて見せた。

 ウェストハムは前半のうちに反撃。左に流れてゲームメイクしたライスから逆サイドへの展開を使い、アーセナルのPA内の守備が緩くなったところをボーウェンが仕留める。

 後半、アーセナルは前プレを強化しつつ、ウェストハムの幅を使った攻撃に対応するため、マルティネッリの守備の負荷を引き上げることに。再び、セットプレーでガブリエウが勝ち越しゴールを早い時間に決めることができなかったら、アーセナルはなかなかハイプレスを止めることができず、マルティネッリの守備の負荷はエグいことになっていたはずである。

 以降のアーセナルは撤退守備に軸足をおきながら左サイドの裏に抜けるエンケティアを軸にカウンターから反撃に専念する。ウェストハムはアントニオ、ソーチェク、ヤルモレンコとサイド攻撃と最終局面に関われる人材を続々と投入する。

 アーセナルはなんとか対応していたが、サイド攻撃の防衛に奮闘していた冨安の負傷交代でさらに自陣の守りは危ういものに。いつもだったら守備固めで投入しているエルネニーやホールディングはすでにピッチに立っているため、守りを強固にする一手を打てずに不安になったアーセナルだったが、ウェストハムの攻撃をなんとか凌ぎ連勝をキープ。直前に勝利したトッテナムを再び交わして4位を取り戻した。

試合結果
2022.5.1
プレミアリーグ 第35節
ウェストハム 1-2 アーセナル
ロンドン・スタジアム
【得点者】
WHU:45′ ボーウェン
ARS:38′ ホールディング, 54′ ガブリエウ
主審:マイク・ディーン

第36節 リーズ戦(H)

■初コーナー初シュートで復活した勝ち点への意欲

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 CL出場権獲得に向けてチェルシー、ユナイテッド、ウェストハムという強敵相手にアーセナルは猛チャージ。ここに来て4位争いのポールポジションに立ったのはアーセナルであった。しかし、リーズも後がない状況。エバートン、バーンリーという残留争いから1ポイントでも離れたいところ。

 立ち上がりは両チームともそうした思いがぶつかるプレスの応酬だった。ここ数試合、アーセナルの最終ラインがやたらひっかけることもあり、リーズにとってはこのプレッシングの方向性はある程度勝利の算段があるものだったはずである。

 しかしながら、そのプレッシング局面で先手を取ったのはアーセナル。メリエのパスをエンケティアがハイプレッシングで引っ掛けて一気にゴールに流し込んだ。

レビューにも書いたが、メリエの癖はアーセナルに見抜かれている感がある。右から受けたボールは左足を蹴る癖があるため、持ち替えようとしたところをうまく狙ったという印象である。献身的なプレスが得点につながるというエンケティアにとっては非保持の貢献が目に見える結果につながった。

 この先制点でリーズのプレスを鎮圧したアーセナル。左サイドの冨安、ジャカ、マルティネッリをメインユニットとして左サイドから崩す形を模索する。すると10分、その左サイドの突破からマルティネッリがラストパス。再びエンケティアが決めて、前半のうちにリードを2点に広げる。

 30分手前にはマルティネッリに危険なタックルをかましたエイリングが一発退場。リーズは10人で試合を進めることになる。

 一方的な前半を過ごしたアーセナルはこれ以降も10人のリーズを攻め立てる。後は追加点を獲るだけという時間帯が徐々に増えてくると、アーセナルは左サイドを主戦場にしながら、敵陣を深くまで入り込むことでリーズのカウンターの機会をかなり削っていた。

 だが、隙を見つけたリーズが反撃。初めてのコーナーキックから初めてのシュートにつなげ、それを得点にまで持って行く。フィルポのニアでのそらしに合わせたのはファーに待ち構えたジョレンテだった。

 この追撃弾でリーズは勝ち点への意欲を復活させる。5-3-1にしたフォーメーションを2トップ気味に戻し、89分にはすでにセットプレーでメリエが前線に上がる状況になっていく。ラフィーニャがすでにピッチを退いていたことに胸をなでおろしていたアーセナルファンは多いはずだ。

 アーセナルはほとんどの時間を保持で消化していたが、途中交代のペペと保持で不安のあるセドリックがコンビを組んだ右サイドが不安定。隙だらけのサイドから反撃に打って出たリーズはラストプレー直前で同点のチャンスを迎えるがロドリゴのシュートはミートしなかった。

 結局、試合はアーセナルが逃げ切り。危うい展開まで持ち込まれての苦しい終盤となったが、ノルマの勝ち点3は確保。勝ち点差4のアドバンテージを有し、ノースロンドンダービーに臨むことになる。

試合結果
2022.5.8
プレミアリーグ 第36節
アーセナル 2-1 リーズ
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:5′ 10′ エンケティア
LEE:66′ ジョレンテ
主審:クリス・カバナフ

第22節 トッテナム戦(A)

■超内弁慶型ダービー

レビューはこちら。

 アーセナルにとっては勝てばCL出場権が確定する一戦。その相手となるのは同じくCL出場権を目指しアンフィールドから虎の子の勝ち点1を持ち帰ったトッテナム。両者の勝ち点差は4。CL出場権争いの直線対決となる大事な大事なノースロンドンダービーだ。

 トッテナムの苦手な展開はボールを持たされることというのはすでに自明。そうした中でアーセナルがどれだけ嫌がることをするのか?というのが注目な立ち上がりだった。そういう意味ではアーセナルは比較的自分たちのスタイルを貫く形でトッテナムに向かっていったといっていいだろう。

前線からのハイプレスはいつもより人数をかけたものであり、ジャカは高い位置に常駐する形でトッテナムの最終ラインにプレッシャーをかける。この形は手ごたえとしては悪くなかった。バックラインの3枚はいずれも時間を奪いに来るプレスにあわててしまい、うまく対応ができなかった。

 意外だったのはこれにエメルソンが冷静に対応したこと。低い位置の右の大外でボールを引きとり、クルゼフスキやベンタンクールの手助けを借りながら縦パスのコースを作り、アーセナルのハイプレスを打ち破るシーンがあった。

 アーセナルはハイライン破りに対して冨安やガブリエウが粘り強く対応。トッテナムのアタッカーに走られるシーンもなんとかつぶし切って見せる。

 アーセナルの保持はマルティネッリのいる左サイド偏重。右から左へのボール供給で大外のマルティネッリまでつけて単騎での突破を図る。2枚付くことがありつつも向かっていったマルティネッリだったが、味方との連携が合いきらず得点のチャンスまではたどり着かない。

両チームとも攻撃の形が刺さり切らない中で先手を取ったのはトッテナム。PK判定はアーセナルにとっては厳しいものではあったが、クルゼフスキのカットインからファーへのクロスというのはトッテナムの得意な形。この試合初めて得意な形でゴールに迫った場面が得点を呼んだといってもいいだろう。このPKをケインが決めてトッテナムが先制する。

 もう1つ流れを変えてしまったのはホールディングの退場。ソンへの対応で前半の早い時間に警告を受けていたにも関わらず、ピッチ内でも指揮官でも修正を施すことができないまま退場してしまった。外に釣りだされてのスピード勝負という苦手な土俵で戦うことになったゆえ、こういう状況は予期できた部分ではあったが、アーセナルは対応できなかった。

 セットプレーで追加点を奪ったトッテナムは前半で2点のリードと数的優位を得る。迎えた後半、反撃に出たいアーセナルだったが、PA内の対応で後手を踏んでしまい後半早々に3点目が入り終戦。60分を過ぎれば両チームともトーンダウンし、次を見据えたカードを切ることとなった。

 今年のエミレーツでの対戦は前半終了時にアーセナルが3-0でリード。そしてトッテナムホームではまさに逆転した構図でトッテナムが前半に決着をつけることになった。近年のNLDは内弁慶のイメージが強いが、今年はどちらのカードも前半決着。内弁慶に輪をかけたワンサイドな展開でトッテナムがライバルのCL復帰に待ったをかけた。

試合結果
2022.5.12
プレミアリーグ 第22節
トッテナム 3-0 アーセナル
トッテナム・ホットスパー・スタジアム
【得点者】
TOT:22‘(PK) 37’ ケイン, 47‘ ソン
主審:ポール・ティアニー

第37節 ニューカッスル戦(A)

■全てを飲み込んだセント・ジェームズ・パーク

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 先に試合をしたトッテナムが暫定で4位に浮上。アーセナルは勝たなければいけないプレッシャーを背負いながらセント・ジェームズ・パークに乗り込むことになった。

 セント・ジェームズ・パークで待ち受けていたのはニューカッスルによる手荒な歓迎だった。高い位置からのプレスでボールをここまで積極的に奪い取りにくるニューカッスルはそこまで記憶にない。だが、WGが外のコースを切り、中盤がそれぞれのマーカーに張り付きながらのハイプレスはアーセナルには効果は十分だった。

 こうしたプレッシャーに晒されてしまうと、アーセナルの保持は脆い。特にエルネニーは完全に圧力に負けて消えてしまう。左サイドからジャカがターンで持ち運ぶ場面もあったが、それも限定的。アーセナルは左サイドに進路が限定されていることがバレてしまったため、ギマランイスやシェアなどがある程度決めうちで高い位置からつぶすことが出来ていた。

 ニューカッスルの保持に対するアーセナルのプレスは通常通りといっていいだろう。2トップに加えて、やや右のサカが高い位置を取りながらプレスを強めていく。サン=マクシマンに対しては冨安がタイトにマークをする。マークを受けたサン=マクシマンは前を向いての活躍は限定的だったが、自身にマークがついているという状況を利用するのがうまかった。

 ニューカッスルはサイドに穴を空ける形で冨安の裏にウィルソンやジョエリントンを走らせることで縦に速く突破する形で敵陣に一気に侵入する。逆サイドは人数をかけたクロス攻勢。クロスをファーに狙うことでアーセナルのクリアの距離を出にくくし、その後のセカンドボール回収に向かいやすいように工夫がされていた。

 ニューカッスルの攻撃にあえてケチをつけるならば無駄なファウルや避けられるオフサイドで攻撃がぶつ切りになってしまったこと。それでもアーセナルがかかえているプレス回避の問題からすればそれも大したことではないだろう。

 後半も同じくニューカッスルペースが続く。いつまでも回避できないプレスに業を煮やしたアルテタはマルティネッリを投入するが、彼が先発に名前が連ねられるコンディションではないことを証明しただけだった。

 そんな中で均衡を保っていた試合を動かしたのはやはりニューカッスル。狙いを付けたのはやはりサン=マクシマンが空けた裏のスペース。飛び出したジョエリントンをエルネニーは捕まえることが出来ずにアーセナルはオウンゴールを喫してしまう。

 ここからは2点取らないといけないアーセナルの無限アタッカータイム。左の大外をマルティネッリ、右の大外をペペにしてエリア内にできるだけアタッカーを増やす。しかし、並んだ名前ほどの攻撃力を発揮することは出来ず。逆に手薄な守備陣に対して、ニューカッスルがとどめの一発を決めることになった。

 90分間、アーセナルをプレスで圧倒し続けたニューカッスル。CL争いでプレッシャーのかかるアーセナルを文字通り飲み込み、ホーム最終節を勝利で飾った。

試合結果
2022.5.16
プレミアリーグ 第37節
ニューカッスル 2-0 アーセナル
セント・ジェームズ・パーク
【得点者】
NEW:55′ ホワイト(OG), 85′ ギマランイス
主審:ダレン・イングランド

第38節 エバートン戦(H)

■早い段階でお祭りムードに

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 ニューカッスルに完敗を喫し、4位をおとなりさんに譲ることになったアーセナル。ノリッジがトッテナムに勝たない限りはCL復帰の夢は断たれることになる。

 一方のエバートンは最終節を前に完全にやり切った感である。グディソン・パークで劇的な逆転勝利で残留を飾り、最終節はボーナスステージにほかならない。

 エバートンは残留争い真っ只中に使っていた5-4-1でアーセナルを迎え撃つ。これによりボールを持つことが出来たアーセナル。ここ数試合、高い位置から相手にとがめられることでビルドアップの不安定さを露呈していたアーセナルにとっては、このエバートンのスタンスは助かるものだった。

 問題なく高い位置までボールを運べるアーセナルは左サイドのマルティネッリとタバレスのところから、PA内に迫っていく。対峙するイウォビにとってはマルティネッリとの1on1はやや重荷だったように思う。

 そのイウォビがシュートに対してハンドを犯てしまいPKを献上。アーセナルはマルティネッリがこれを決めて先制する。

 ここからアーセナルはゴールショーが開幕。そのマルティネッリがニアに入り込んで、スラしたことでファーに入ったエンケティアが追加点を叩き込む。

 前半終了間際に1点を返されたのはご愛敬。しかしながら、クロス対応の緩さは要改善。特に出場停止から復帰したホールディングにとっては、この部分は妥協できない要素なはず。PA内での対応の厳しさではだれにも負けないくらいの気持ちは欲しいところである。

 後半もアーセナルはセットプレーを中心に加点していく。セドリックがバイタル付近からミドルでベゴビッチを打ち抜くと、4点目はガブリエウがストライカー顔負けの抜け出しから左足で豪快にフィニッシュ。

 締めとなったのはウーデゴール。今季、アーセナルを力強いリーダーシップで引っ張っていった8番が今季のアーセナルの最後のゴールを飾ることとなった。

 裏のカードが結果を祈らなくてはいけないような展開にならず、早々にCL出場権については諦めがついたのだろう。エミレーツ・スタジアムは1つ1つのゴールに沸く平和な雰囲気だった。

 対するエバートンも5失点したものの陽気そのもの。自身の残留が決まったのはもちろん、隣人がタイトルを逸することが濃厚になったのだから笑いが止まらない。この試合で彼らが一番盛り上がったのは間違いなくエティハドからギュンドアンの3点目のゴールが入った速報が入った時に違いない。

 というわけで速い段階でお祭りムードになったエミレーツ。平和な形で最終節の幕は閉じられた。

試合結果
2022.5.22
プレミアリーグ 第38節
アーセナル 5-1 エバートン
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:27′(PK) マルティネッリ, 31′ エンケティア, 56′ セドリック, 59′ マガリャンイス, 82′ ウーデゴール
EVE:45+3’ ファン・デ・ベーク
主審:アンドレ・マリナー

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