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「味わい深い先制点」~2022.5.28 UEFA Champions League Final リバプール×レアル・マドリー レビュー

目次

レビュー

■慎重同士だがフラットではない

 プレミアリーグの優勝こそ逃したものの、終盤戦まで4冠を争っていたリバプール。それに対するはパリ・サンジェルマン、チェルシー、マンチェスター・シティと映画みたいな面々を倒してきたレアル・マドリー。異なる道筋を歩みながらもこの舞台に立つ説得力しかないチームがフランスの地で顔を合わせる21-22のCLファイナルとなった。

 立ち上がりは非常に慎重だった両チーム。ある意味ファイナルらしい流れといってもいいかもしれない。お互いに相手のバックラインに強引にプレッシングに行くことが少なかった序盤戦。そのため、攻守の切り替えがとても少ない展開になる。

 互いにプレスには積極的ではなかったけども、両チームとも均衡した展開というわけではない。試合はレアル・マドリー陣内での時間が長かった。つまりリバプールが押し込む展開だったということ。押し込んではいるが、ロスト後に相手を深追いをせずに即時奪回にいかないというのがこの試合の彼らのスタンスである。

 立ち上がりはIHのヘンダーソンがトップのマネに追従して高い位置にプレッシャーに出ていくことをスイッチとしてリバプールはハイプレスを起動させていたが、ヘンダーソンはかなり控えめ。その他の前線も無理にプレスに行くよりはリトリートを軸とした形で自身のスペースを埋めることを優先する。

 基本的にはヘンダーソンにどこまでプレスに行くかは一任されていた印象。彼が自ら頻度を決めていたのか、クロップから明確な指示はあったのかはわからないが、ヘンダーソンがプレスに行かないことでマドリーにまったりボールを持たせる傾向になったのは確かである。

 というわけで遅いテンポの中で戦うことを決めたのがリバプール。本来であればもっと打ちあうことができるチームだとは思うのだけども、ここは慎重策を取ったといってもいいだろう。というか、それでもある程度支配できるというのが彼らの判断だたのかもしれない。

 ということで押し込む時間が長くなるリバプール。その中でチャンスもそれなりに作れていた。ライン間の縦パスを刺し込む形でPA付近にマドリーを押し込む。中央にボールを入れて、反転にトライ。1枚相手を剥がしたところでシュートまで持って行くという形からチャンスを作りに行く。

 低い位置からのビルドアップでの今季の特徴はアレクサンダー=アーノルドが絞った低い位置から縦にパスを送る役割を買って出ていることである。

 右のハーフスペース付近から大外と同サイドハーフスペースへの縦パス、あるいは逆サイドへの展開などこの位置での司令塔的な振る舞いが増えているのは今季のリバプールの特徴。もちろん、機を見た大外への開きも健在で従来の役割にプラスアルファする形でモデルチェンジを狙っている感じである。

 ただ、リバプールは幅を使いながらの攻撃はいつもよりはできなかった印象。ディアス、ロバートソンの左サイドはマドリーにバッチリ止められていたというのが大きいだろか。どこからでも攻められるリバプール!というテイストが薄かったのはこの左サイドが止められていたからなのかもしれない。サイドをバチっと止められるからこそ、リバプールのチャンスは中央起点の物が多かったというか。

■何の為のポジションチェンジ?

 一方のマドリーの狙いはなるべくリバプールの中盤をなるべく縦に広げた状態でボールを縦に入れることである。マドリーとしてもドン引きされるよりはある程度はヘンダーソンやチアゴには前に来てほしかったはず。マドリーの中盤はIHを軸にポジション交換が多いのだけども、これはプレス回避というよりはポジションチェンジを繰り返しながら相手の陣形に穴を空けるためのように思えた。

 モドリッチ、クロースはSBとレーンを入れ替えながらサイドに開いたり、あるいはアンカーのカゼミーロのポジションを前後に入れ替わる形でのポジションチェンジをよく使う。特にカゼミーロとIHの縦関係が入れ替わる形は今季のCLでは見られる回数が増えた。マドリーを普段から見ている友人によると、リーガでもたまにあるらしい。長いボールを当てるにも悪くない選択肢だとか。個人的にはカゼミーロはオフザボールの動きがよく、顔を出すタイミングが秀逸のように思う。

 ズレを作るためのポジションチェンジを繰り返しているマドリーだが、奥に入り込むにはもう一歩足りない印象があった。

 マドリーがチャンスを作るには背後を突く形がベター。特にバルベルデが裏に抜ける形が最もチャンスに近づいていた印象である。

 ただ、バルベルデが攻略しきれたのはあくまでサイド。中央の重心さえ崩されなければリバプールは問題なくクロスを跳ね返すことができる。中盤のポジションチェンジから右の大外への脱出までは形を作れているマドリーだが、最終ラインを引き出して相手の逆を取る形まではなかなか行けず。ベンゼマが惜しい形は作ったが、こちらはオフサイドとなる。

 ブロックの外側でパスを回しながら中央に刺すパスでスイッチを入れて前進するリバプールと、中盤のパス交換から大外のバルベルデがフリーランで裏を取るマドリー。お互いがお互いに頻度という部分では満足いかなかったが一応攻撃の形はあった前半。点を決めていなければおかしい!とまではいかないが、リバプールの方が支配的な形を維持しながら試合を進めていたといっていいだろう。

■先制点に詰まっているもの

 後半、スタンスを変えたのはリバプール。前半よりも積極的に大きな展開を作る形から得点を狙っていく。

 2つのサイドからバランスよく攻めるため!というよりは本命である右サイドから攻めやすくするために左を使って広げていく!という雰囲気が正しいだろうか。時間がたつにつれてリバプールはアレクサンダー=アーノルドとサラーの存在感が高まっていく。

 そして、リバプールは非保持面でもスタンスを変える。WGでの外からのプレスを解禁させることで前半に比べて明らかにハイテンポな展開にレアル・マドリーを引きずり込む。リスクを取りながら得点に近づこうというアプローチである。

 しかしながら、ハイプレスは失点のリスクも高まる諸刃の剣である。先制点を奪ったのはリバプールのプレスを振り払ったマドリーだった。

 この先制点はとてもいろんな要素が詰まっているものだった。きっかけはディアスが外切りのプレスを外されたところから。この試合のリバプールの後半の修正点をマドリーがかいくぐったところからである。そこから中盤でポジションを大きく動かしたモドリッチが時間を作り出してリバプールのポジションを動かす。

 低い位置を取るモドリッチに合わせて高い位置を取ったのはカゼミーロ。ボールを受けるとワンタッチで右の大外で裏に抜けるバルベルデまでボールを届ける。

 ロバートソンが留守にしている右に走ったバルベルデはファン・ダイクと対峙することになる。ファン・ダイクと対峙するときの最善策は相手の間合いに入るまえに決着をつけること。自分の持ち場に穴を空けさせながらホルダーにも影響が及ばず、パスコースも防げない状況が理想。バルベルデはこの理想形を作り出してヴィニシウスにラストパスを送った。

 モドリッチとカゼミ―ロ、バルベルデによるこの試合のマドリーの前進のメカニズムと外切りプレスの回避とダイクへの対処法というリバプール対策ががっちり噛み合った先制点だった。モドリッチもすごいが、時間を作り出したカゼミーロとバルベルデもなかなかである。カゼミーロはこの動き直しができちゃうならもう世界最強かもしれない。

 リバプールは選手交代で流れを引き寄せようと試みる。特に効果があったのはフィルミーノ。横に動きレーンを入れ替わりながら不確定要素を増やす作業と、ボールを収めるスキルの組み合わせで、リード後に引き気味になったマドリーの守備陣に穴を空ける。

 右サイドのサラーとアレクサンダー=アーノルドのコンビと中央のフィルミーノを軸としたスペースメイクで徐々にゴールに迫るリバプール。だが、クルトワという最後の牙城はそれでも崩れない。

 一方のマドリーはカウンターから反撃。すべてを投げうって攻めてくるリバプールの裏を突きながら、数的優位で何とも決定的な場面も迎えていた。得点は決まらなかったけども。

 試合は最後の最後までレアル・マドリーが凌ぎきり、1-0で勝利。プレミア勢とパリという考えられうる限り最悪の相手をうっちゃり続け、見事にCL優勝を達成して見せた。

あとがき

■ミラクルを重ねる中で見られた成長

 これまでのラウンドのようにまたしてもマドリーは劣勢に立たされながらも勝利をつかみ取った。ドンナルンマがベンゼマにちょっかいをかけられるあの瞬間より前では今年のマドリーがCLを取るというのは少し想像がつきにくかった。

 ミラクルとか運のような部分も当然あるが、やはりこの日1点目を考えると積み重ねの大事さと相手を見ての対策が大事であると痛感する。カゼミーロは成長しているもの。ミラクルの中で積み重ねがあるチームである。この形の先制点で優勝を決めるのはなかなかに趣深い。

 リバプールもこの舞台に立つにふさわしいチームであることを示した。彼らは攻撃の手段は幅広かったし、左サイドを封じられたくらいでは主導権は渡さない!という意志を感じた。後半にかけてのたたみかけも見事ではあったが、この日はクルトワを破ることが出来なかった。

 アンチェロッティは『スタイルがわかっている分、リバプールは対策しやすかった』と述べているが、実際にはリバプールは細かくあらゆる仕掛けを施してくるチーム。マドリーがチームとして対応できる幅が広く、それを実現できるスカッドがあったということだろう。いずれにしてもファイナルの名に恥じないレベルの高い戦いだった。

試合結果
2022.5.28
UEFAチャンピオンズリーグ
Final
リバプール 0-1 レアル・マドリー
スタッド・ド・フランス
【得点者】
RMA:59′ ヴィニシウス
主審:クレマン・テュルパン

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