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「大舞台に繋がる日常」~2022.2.1 カタールW杯アジア最終予選 第8節 日本×サウジアラビア マッチレビュー

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目次

レビュー

■サウジは前、日本は後ろ

 首位のサウジアラビアにはグループ突破がかかった一戦、2位の日本にとっては次節のオーストラリア戦での必要条件が決まる試合。日本にとってはここが全てではないが、勝てば次節は引き分けでOKという難しい舵取りの試合である。

そんな大事な一戦だが、どちらのチームも普段とは異なるメンバー構成。サウジアラビアは今予選を通じてトップ下のレギュラーだったアル=ファラジが不在。1トップでアル=ブライカーンとプレータイムを二分していたアル・シェフリも欠場。攻撃的なオプションを欠く状態のサウジはCH起用が定番のカンノをトップ下に置くことで3センター色の強い配置で挑んできた。

 サウジアラビアの想定外が前ならば、日本の想定外は後ろのメンバー。ここにきて絶対的主軸である吉田と冨安が揃って欠場という危機的な状況。抜擢されたのは東京五輪組の板倉と国内で実績を黙々と積み上げてきた谷口。前回のサウジ戦ではサウジの定点攻撃のズレをCBが全て跳ね返すことで何とかしていた感が強かったが、今回CBが入れ替わったことでそこがどう転がるかがキーポイントだった。

■均質化+動き直しがキーワード

 まずは日本の保持の局面から。2CBを軸にアンカーと四角形を形成しながらボールを前に進めていくやり方を探っていく。アンカーがこの数的優位を使って前を向ければ一番楽。だけど、アンカーを受け渡しつつプレスをかけるアル=ブライカーンとカンノに対して、アンカーが自分で反転して前を向くのはハードである。というわけで登場したのがIHの守田と田中。アンカーがサリーする機会は限定的だったが、その分IHが縦方向に動き続ける。

 列落ちというと悪いイメージを持たれることも多いけど、この日のIHはそこから相手に迫る手段を有していたように思う。落ちていくIHに相手がついてくれば南野や大迫に縦パスを刺しての前進。

 ついてこなくて、真横のサポートが空いているならば横に付けて自らが1つ奥に侵入する形もある。

    サウジアラビアの中盤は人を見る意識は比較的強かったが、試合を通してやたら動き回る田中と守田にかなり手を焼いており、完全についていくのはきつそう。守田と田中はこうした列の移動を繰り返せるので、一度ポジションを下げることが問題として顕在化しにくかった。一度下がっても、結局前に進めれば問題ない。

 仮に真横もふさがっているのならば大外の伊東純也まで飛ばす形である。1on1でも渡してしまえば十分に戦えるこの大外の選択肢があるというのは非常に重要なことだった。

 この日の中盤3人の仕事は攻守に非常に多岐に渡っていた。中央で鎮座するアンカー役、相手の2トップの脇に立って最終ラインからボールを引き出す役割、そしてサイドのサポートでの崩しの手助けとPA内になだれ込むというフィニッシュワークに近いタスクも背負っていた。

 柴崎が起用されていたころと比べてこの3センターの強みは均質性が高いこと。全員がどの役割もできるので、ポジションの入れ替えが問題になりにくい。Jでいえば橘田が入った川崎の3センターはそんな感じである。この試合の中盤に託されたタスクはどこに力を入れるかという濃淡は違えど、川崎と結構似ていたように思う。

 サイドでも高い位置まで積極的に手助けに行くIHの恩恵を受けていたのが長友。中国戦よりも頻繁にIHがサイドのサポートに出ることで、大外からクロスを上げる機会は多かった。惜しむらくはキック力の問題でファーにクロスが届かなかったこととニアに速いボールを転がせるほど余裕のある形でクロスを上げられなかったことだろうか。後半部分はおそらく連携面で改善可能な部分だと思う。

 IHが高い位置でSBをサポートするとなると負荷がかかるのはCB。だが、ここは谷口が高い位置から相手のピンチを摘み取るなど、高いリスクをチャラにするはたらきを見せる。ここがアカン!となれば、IHは攻め上がりを自重しなければいけない。

中国戦のまとめ記事でも書いたが、同サイドのWGである南野はサイドで長友とつながるよりも、中央で大迫のサポートに入ることを優先していたので、IHが高い位置を取れなければ中国戦と同様に長友が孤立する可能性は高まったといえるだろう。

■前線は左右非対称

 左がそこそこでも問題はなかったのはもちろんほかに解決策があるから。当然右の伊東純也である。裏抜けでの決定機創出はもちろん、1on1でもOK。サイドからはタッチライン側をえぐってマイナスクロスのチャンスも作るという中国戦に続いた大暴れぶりで決定機を創出する。

   日本の右サイドは大外の伊東に合わせてハーフスペースに酒井やIHが突撃する形で厚みを加えていた。サウジはSB1人だけでは抑えるのは無理で、中盤や最終ラインからのサポートが入るため、日本のこのハーフレーンの突撃も効いていた。

 伊東純也にあえて注文を付けるならば、中盤の選手がフリーでボールを持てた時にもう少し外に開いてほしい時はあった。シュートのパンチ力を見れば中央でとどまりたい気持ちもわからなくはない。

    だが、中央では大迫&南野の密集打開という選択肢があった以上、サウジには大外の伊東と中央の大迫&南野という2つの異なる選択肢を突きつけたかった感がある。一度開いてから中に入る形を使えていればよりチャンスが構築できたと感じられた場面はあった。

 ただ、それでも十分すぎるおつりがくるくらいに伊東の存在は偉大。サイドをえぐられてのクロスに対してはサウジのCBが体を張って防ぐことが出来てはいたが、日本は右サイドからサウジのゴールエリアに迫る機会を作ることが出来ていた。

 日本は均質性が高い3センターに対して、3トップは比較的特化型。厳密にいえばサポート役に回るのはトップの大迫で南野と伊東が左右非対称の異なる役割を担うのが特徴的だった。基本的にはオーストラリア戦から引き継いでいる日本の戦い方のベースをこの試合でも踏襲したという理解で問題ないように思う。

■キーとなるマッチアップを支えたのは・・・

 サウジアラビアの攻撃は2CBを軸に中盤2枚、さらにはトップ下のカンノ、それに加えてSHの2人も絡んできて中央を使うという形。ここはSHの2人とカンノを中心に枚数を調整しつつビルドアップしていくという方針だった。

 日本はこれに対して大迫とWG1枚でCBを監視する形。CFと外切りで寄せてくるWGのコンビネーションでCBから時間を奪っていく。日本にとって幸運だったのはサウジアラビアのGKのフィードがそこまで優れていなかったことである。

 前から後ろまでプレスを嵌め切ることを狙ったのならば、後方では板倉か谷口がアル=ブライカーンとの1対1を受け入れなければいけない。代表経験の少ない彼らにとってはややリスキーである。ここは余らせておくという判断は自然である。

    最終ラインに人をかけた分、浮いていたのがサウジのSB。ここだけは日本のWG、IH、SBが中間ポジションで監視するような形になっていた。

 日本にとって大きかったのは割と早い段階でサウジのGKがここにボールをつけるフィードを蹴れなかったこと。3分のゴールキックでがら空きのSBにボールを付けずにCFへのロングキックを選択した場面で『ああ、このGKは蹴れないんだな』とわかった。

 川崎ファンならよくわかるだろうが、4-3-3のWG外切りプレス発動時にアキレス腱になりうるのはSBの裏である。ここにダイレクトに低弾道で素早くフィードが蹴れるGKがこの4-3-3プレスの天敵である。イルギュ、ジンヒョン、高丘とかはこれに当たる選手だ。

 サウジはこれができないので、地道につなぎながらズレを作る。相手の中盤をサイドに引き出す形がサウジの攻撃の理想。SBのケアは日本のIHにさせる形を作り、ここから逆サイドに展開。左のSBのアッ=シャハラーニーまでボールを届けてサイドチェンジは完了となる。

 サウジアラビアにとって、この大外のアッ=シャハラーニーを使う形は今予選を通してみられる鉄板。ここの攻め上がりから5レーン的な攻め方をすることでチャンスを得る。前節の対戦相手だったオマーンは明確に対策を敷いてきていた。

 日本も大外とハーフスペースをどのように埋めるか?というのは当然ポイントとなる。オマーンのようにサイドの高い位置の選手が下がるのもあり。だが日本はIHがこの位置を埋めるケースが多かった。またしても出てくるIH。この試合は本当にどこでも顔を出していた。

 IHにこの役割を託せるのは日本としては非常に大きかった。というのも、伊東純也の優位は攻撃時における日本の生命線。ここの優位が維持できるかどうかは死活問題である。中国戦でも見られたようにさすがの伊東でも90分間スピードで対面の選手を圧倒するのは簡単ではない。

 そんな伊東がアッ=シャハラーニーに合わせて自陣深くまで戻る頻度が増えてしまえば、当然カウンターで走る距離も長くなってしまう。個人的にはこの伊東とアッ=シャハラーニーのマッチアップの優劣はこの試合の主導権に直結すると思っていたので、伊東が前に残り、ロングスプリントを繰り返せる形でアッ=シャハラーニーを迎撃できたことは非常に大きかった。

 日本の先制点はその伊東のカウンターから。一度手前で受けてアッ=シャハラーニーを引き出しておきながら、裏へのスプリント勝負。これに勝利し抜け出した伊東が出したマイナスのクロスを大迫の先にいた南野が仕留めて先制する。

 まさしく、この日の日本のフォーメーションの狙いが詰まった先制点といっていいだろう。右サイドでの走り合いからの決定機、そして大迫のサポートを優先し続けた南野。左右非対称のWGがそれぞれの役割を結実させた先制点となった。

■黒子に徹した大迫と流れに乗った長友

 先手を取った日本はここから優勢を強める。サウジアラビアのプレスは日本のCBにより強くいくようになったが、後方がついてきているかは微妙。寄せて時間を奪うことはできているが、パスコースを塞ぎきれていないという状況ならパスコースは空いている。

    体の向きとパスを出す方向が同じという理由でビルドアップの難を指摘されることも多い谷口だが、わかっていてもパスコースが埋められていなければ正確にボールを付けることができる。しかも、パスのテンポは折り紙付き。速いけど雑なプレスは谷口のボールさばきからすれば得意分野といってもいいくらい。

    CBコンビはビハインドになったことで強気になったサウジの寄せを問題にしなかった。むしろ、この日の彼らの得意な方向に転がってくれたのは幸運といってもいいだろう。

 後半になり、日本は少し守り方を変える。大迫が中央に立ち、WGはサイドにボールが出てきてから迎撃。並びは4-3-3により忠実な形。WGは縦を切りながら寄せる。内側へのパスはIHと大迫でサンドするように奪取。ここを起点にカウンターを発動し好機を演出する。

 攻撃においてはサウジの右のSBの裏を取る場面が増えた。大迫がこちらに流れたり、田中碧が+1として飛び出したりなど、前半の右サイド偏重とは異なる形でのチャンスメイクを行うように。まずはラインを下げることで、サウジの反撃の可能性を減らすことを選ぶ。おそらく、ハイラインにおけるこの日の日本のCBは信頼できると考えたのだろう。

 中盤と前線の前向きな守備の流れにうまく乗っかったのが長友。サウジは高さのミスマッチを使えそうな長友のところへのロングボールを増やしたが、競り合わずに前に入り込む守備でこれを跳ね返しカウンターの起点として機能させた。

 左サイドからの攻勢を強めた日本は伊東の強烈なミドルでさらにサウジアラビアを突き放す。ここからはいつも通り、快足前線ユニットと中山の投入で逃げ切りを図る日本。

    ただ、交代選手たちはやや不本意な出来だっただろうか。中山は撤退守備で入れ替わりやカバーリングに関しては難を露呈してしまっていたし、前田や浅野はもっと積極的に裏への動き出しを見せても良かったように思う。

 前田は大迫との交代が少し重荷だった部分もあったか。後半の大迫は前半に増して守備でのプレスバックや攻撃での起点作りに効いていたので、同じ役割を前田に求めるのは少し酷だったかもしれない。だからこそ、もっとガンガン裏に抜けて良さを出す方向を見せてほしかったのだけども。

 それでも、このシステム運用の生命線であるIHの運動量は最後まで落ちず。ハーフスペースのカバーも前線への飛び出しも最後までサボらなかったことで基本的な攻守の機能は90分維持することが出来たように思う。

 首位のサウジアラビアを下しての3ポイント。苦境を乗り切った日本代表はワールドカップ本戦に王手をかける大きな1勝を挙げた。

あとがき

■懸念はあるが一つの形は見えた

 オーストラリア戦や中国戦を経た4-3-3は一つの形となった感じはした。もちろん伊東が封じられたときの攻撃の手段は?とか、より左右に振れるビルドアップができる相手にはどう守るの?とか、短期決戦におけるIH過負荷システムは五輪のように先細りなのでは?という指摘はごもっとも。課題はまだたくさんある。だけども、進歩は見えたといっていいように思う。

 森保ジャパンを語る上でのキーワードとして挙げられるのは『選手たちの対応力』なのだけど、個人的にはそこをIHの均質化+守田と田中のマルチタスクの上乗せで解決した感じ。本文では触れる機会が少なかったけど、非保持時の遠藤の外で追いやってカウンターを遅らせる動きと、保持時の守田の相手を見ながら空いているところに刺すスキルは別格。高水準の中盤の中でも一次元上だった。

■川崎でのベースが国際舞台で輝く

 最後に川崎の話を少し。実は近年の川崎のような擦り切れるような強度を追い求め続けるスタイルってどうなの?もっとゆっくりプレーする時間を増やした方が長丁場のリーグ戦を戦う上で有利では?と思ったこともあった。見てて面白いけど、スタイルが持続しないのでは?とか。

    ところがシーズンが進んでいくと、強度の部分で相手を置いていくという試みが生むものは結構あるんだなという風に思うようになった。インテンシティの高いスタイルを続けたことに何度もチームが救われた。で、そのスタイルで優勝を手にしているのである。

 そして今、日本代表において守田と田中はMOM級の働きをしている。近年の川崎の中心人物である彼らは強度の高い動きを繰り返すということでチームを助けることが出来た。海外に出てスケールアップした部分はあると思うけど、基本的には川崎で培ったものをベースに上乗せしているといってもいいくらいである。

    谷口、板倉(仙台でのプレーが多かったが)も含めて、川崎で培った日常の強度が日本代表を助けたことはファンとして感慨深い。自分にとってこの試合は日本代表を応援するものとしてもうれしい1勝であると同時に、川崎サポーターとしても日ごろのリーグ戦がアジアの舞台で日本代表の勝利につながることを実感できる最高に誇らしい勝利となった。

試合結果
2021.2.1
カタールW杯アジア最終予選 第8節
日本 2-0 サウジアラビア
埼玉スタジアム2002
【得点者】
JAP:32′ 南野拓実, 50′ 伊東純也
主審:コ・ヒョンジン

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