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「外循環でも壊せる」~2021.11.27 J1 第37節 川崎フロンターレ×ガンバ大阪 レビュー

スタメンはこちら。

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目次

レビュー

■G大阪の守備ブロックの狙い目

 川崎にとっては前節のC大阪戦に続く、大阪勢との連戦である。G大阪はC大阪と同じく4-4-2を採用してこの試合に臨んだのも同じ点であった。

 だけども、当然ながら前節と同じことばかりではない。C大阪戦のポイントは川崎が幅をとりながら攻略できたことである。川崎は最終ラインの数的優位を作りながら、大外のマルシーニョやトップのダミアンに長いボールを当てる一つ飛ばしのパスを当てる。

 深さを作ることができた中で川崎が活路を見出したのはマイナス方向のやり直しのパスである。C大阪はFW陣がリトリートでの守備を免除されていたので、一度深さを作る事ができれば中盤がフリーで前を向いてボールを持つことができた。やり直しでフリーを作る事ができるからこそ、川崎は中盤でフリーマンを作る事ができた。

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 正直、個人的には結構意外だったのだが、G大阪は立ち上がりからFW陣がかなり守備に力を割いていた。なので川崎はC大阪戦でできたようなサイドから縦に進みさえすれば中盤にフリーの選手を作る事がこの試合ではできなかった。中盤での呼吸は前節よりも苦しかったという事である。

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 FWの献身的な守備に加えて、マルシーニョとダミアンが想像以上に深さを作るのに苦戦したのも一因である。マルシーニョの対面の柳澤はもちろん、菅沼と井手口のフォローも早く抜け出すことができるシーンを量産はできず。ダミアンもマッチアップ相手である昌子に封じられたこともあり、そもそも深さを作るフェーズのところで苦戦していたのもC大阪戦との違いである。

 そうなると何が起きるか。家長が中盤に顔を出すといういわゆる出張モードの始まりである。もちろん、この動きは中盤で時間を作れないという川崎の問題を解決してくれる方法の一種である。けどもC大阪戦の成功は両ワイドが幅を取ってこそ成立した部分が大きい。両サイドのバランスをとりながら攻撃するというお題目においては、家長の出張なしに前進することができたC大阪戦の方がうまく行っていた。

 その分、G大阪戦で狙い目になっていたのがサイドの裏のスペースである。G大阪はSBが前に出てくる形。G大阪から見て右サイドは先に述べたように井手口や菅沼の精力的なカバーリングであっさり破られることは少なかったが、問題は左サイド側。藤春の裏側は昌子がカバーに飛び出してはいたものの、このカバーが間に合わない場合もしばしば。川崎的にはチャンスになる。

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 川崎が立ち上がりうまく行っていたのはこのサイドの裏のスペースへの抜け出しがサイドの攻略のセットになっていたからである。この試合で川崎が作ったビックチャンスはほぼサイドからラインを一気に下げる形である。

 家長の出張で大外サイドのバランスが偏っていても、川崎のサイドを変える動きが効いていたのは、サイドを変えるパスのタイミングでG大阪の最終ラインを下げる動きを伴っていたからである。典型例が1点目のシーンである。マルシーニョから山根のパスはG大阪のラインを後退させる類のパスだ。

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 FWのプレスバックで中央への侵入を許さなかったG大阪だが、外を循環されるパスからラインを下げられ、マイナス方向にスペースを作られてしまったのは痛恨だった。山根からダミアンへの1点目もそうだし、家長からマルシーニョの折り返しを旗手が押し込んだのもそう。サイドからの旋回する動きから逆サイドで深さをとり、中央でマイナスの折り返しを押し込むという流れは関わった選手が違っても、旋回の起点となるサイドが異なっていても同じ。G大阪はPA付近での致命的な欠点を川崎に突かれてしまい、早々に2失点を喫することになる。

■局地戦では勝機を見出せるが

 G大阪が好機を見出すことができたのは、川崎が外を循環させずに中央から強引な突破を行おうとしたタイミングである。サイド→中央へのパスを引っ掛けてのショートカウンターとか。G大阪は攻守において非常に個々の能力が高いというのがこの試合を戦ってみての印象である。体を寄せたボール奪取とか、取った後の攻撃に転じた後の1on1とか。1人同士でも当然やることができるし、相手が2人いても1人引きつけて、1人は交わしてという形でなんとかなることもある。

 パトリックや宇佐美はもちろん、福田や小野瀬の両SHも簡単にはボールを手放さない力を持っている選手だ。SBの柳澤は球持ちがいいし、司令塔の奥野も視野が広く先の局面を見据えた縦へのパスを出せる選手。26分の奥野のパトリックへの縦パスは時間の作り方、コースの作り方、井手口ではなくパトリックまで飛ばすという判断も含めて完璧。まさしくスイッチを入れるパスだった。

 だが、局地戦では勝機を見出せるものの、ショートパスを繋ぎながらの前進はあまり得意ではない。この辺りはチームとしての設計図の部分が甘く、前進のフォーマットとなるような形が見えてこない部分が関係しているように思う。与えられた個人の局面をなんとかする形が優れている一方で、コントロールしながらある状況にチームを持っていくといったようなことはあまり得意ではないようである。

 だからこそ、選択肢が少なく即興で共通の絵を描きやすいショートカウンターこそ絶好の機会ということだろう。川崎としてはこういう局面での1on1が一番得意なのは怪我をしてしまったジェジエウである。この試合の危なっかしいところを見ると、やはり彼の抜けた穴は感じる部分はある。

 だが、そんなことを嘆いていても怪我が治るわけではない。川崎的には相手の攻撃をなるべく中盤より敵陣側で止めること、加えて中盤をこされてしまったとしてもある程度陣形を整える余裕を作ってから攻撃を受け止めないといけないという課題が見えてきたように思う。

 G大阪は特に宇佐美が前を向く時間を作ることができればかなり高い確率で局面を前に進めることができる。1点目のようなマーベラスな個人技も含めて、この試合の宇佐美は好調で、近年の川崎戦の中でも最も良い出来だったように見える。局地戦となったチームを牽引し、個のスキルで川崎に対抗していた。

■状況を味方につけた遠野

 川崎は徐々に時間が経つと、手詰まり感が出てくるように。G大阪攻略の生命線となっていた藤春のサイド裏へのオフザボールのランが少なくなったことがその大きな要因である。こうなると、中盤が根性で前を向く必要性がある。

 そんな中で輝いたのは橘田。強靭なG大阪の面々に体を当てられても吹っ飛ばされなかったし、プレスが来ていない方向にボールを逃しながら安全に手元からボールをリリースすることを早いテンポと高い精度でやってのけて見せた。

 脇坂と旗手とのユニットは終盤戦で徐々に成熟度を増しており、後半頭のマルシーニョの決定機を産んだパスワークは中盤3人の持ち味がよく出ていた場面といえる。

 非保持では頑張れていたG大阪の中盤なのだけど、自陣からのショートパスを駆使したビルドアップとなると旗色は悪くなる。中盤をクリーンに超えることができなければ、持ち込みたい前線でのデュエルを良い形で迎えることができない。川崎は途中からG大阪の縦パスを中盤でカットする場面が時間がたつに連れて増えていくことになった。

 そうなるとどうしようもないので、G大阪はFWがサイドに流れながらロングボールで登里相手にミスマッチを作る作戦に変更。パトリックが右に流れながら中盤省略型でのチャンスメイクに徐々にシフトしていく。川崎は苦労しながらもなんとか水際でG大阪のロングボールを食い止めていた。

 試合のオープン色が強くなることで川崎が輝いたのは交代選手。特に目立ったのは遠野。C大阪戦に続き、非常に展開が向いたと思う。彼が入った時は川崎の攻撃はカウンターで迎える状況がかなり多くなっていたし、ややアラが目立つ狭いところでのコントロールを問われる場面はあまりなかった上に、スペースへのランやゴールに迎えるところの良さはだいぶ使えていた。

 3点目のシーンのように一旦止まってから強めのベクトルを出すことができるのも最近見られる遠野の強みの一つ。強靭な体幹ゆえのスキルなのだろう。体から遠いボールを止めることで相手の逆をとり、小林に展開する。ダミアンのゴールはほぼこの逆サイドへの展開で決着したようなもの。小林にボールが渡った時点で上がってくる山根から決定的なクロスが飛んでくる画が見えていた川崎ファンは多いのではないだろうか。

 ちなみにこの3点目の場面も前半に紹介した『サイドチェンジで大外からラインを押し下げての折り返し』である。G大阪は後半もこの形から失点を重ねてしまうことになった。

 仕上げとなる4点目はCKからの車屋のヘッド。正直、ボールと得点王争いをしているダミアンばっかり見ていたので、ちょっと面食らった感があった。ダメ押しとなったのは生え抜きの車屋の等々力での初ゴール。苦しみながらも最後10分で押し切った川崎が2021年のリーグ戦のホームゲームを無敗で締めくくることに成功している。

あとがき

■絵を描ける指揮官を招くことができれば

 来季の監督の名前が既に出始めているG大阪。既報通り、仕組みを作れる片野坂さんが実際に就任することになれば、率直に厄介なチームになるように思えた。この試合は川崎がスコア的には大勝したが、局地戦で優位を取ることがなかなか取ることができないG大阪とは天皇杯でのリマッチがなくてよかったというのが正直な感想でもある。

 元代表選手のデュエルのパワーも若い選手たちの視野の広さや落ち着きなど、ポテンシャルは高いチームである。来季以降、どうなるかが楽しみでもあり、川崎ファンとしては怖さがあるチームだなと感じた。

■残る上乗せ要素は

 守備における中盤の越され方が危うく、CBが晒されてしまう際の耐久力に不安があるという課題は見られたものの、早々にG大阪のブロックの攻略方法を見出した上にそれを実行に移すことができたのは非常にポジティブ。

 先発メンバーも交代メンバーも割とテンプレ化しているものの、中盤のユニットの完成度や、遠野が徐々に存在感を増しているなどチームは最後の目標である天皇杯優勝に向けて伸びている部分も見られる。

 おそらくはこの18人を中心に天皇杯は戦うことになるはず。残りのシーズンでここまでややおとなしめな小林悠と大島僚太の活躍がチームを今年2つ目のタイトルに導くことができれば満足の2021年の締めくくりになりそうだ。

今日のオススメ

 脇坂→マルシーニョの縦パスと迷ったけど、遠野の3点目のサイドチェンジで。起用法も含めてようやく終盤戦に光が見えたのは大きい。

試合結果
2021.11.27
明治安田生命 J1リーグ 第37節
川崎フロンターレ 4-1 ガンバ大阪
等々力陸上競技場
【得点】
川崎:7′ 85′ レアンドロ・ダミアン, 9′ 旗手怜央、90+4′ 車屋紳太郎
G大阪:17′ 宇佐美貴史
主審:岡部拓人

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