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「W杯の予習は計画的に」~EURO 2020全チーム総括 part4~

 part1~3はこちら。

目次

スペイン

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■儚い優雅さと火事場の泥臭さのハイブリッド

 もしサッカーが得点を争うスポーツではなく、芸術点を争うフィギュアスケートのようなスポーツだったfとしたら、恐らくこの大会の優勝はスペインである。今大会において中盤は飛ばされるし、ソリッドに守備をする部分。カウンターの方が効率がいいし、点が取れれば引きこもればクローズができる。それがナショナルチームの潮流である。逆に言えば、それだけ多くのチームにとってポゼッションというのはコストだった。

 そんなコストを払い続けたのが今大会のスペインだった。開幕から一貫してボール保持を大事にして、自陣からゆっくりとボールを進めていく。その上、ポゼッション型のチームにありがちな押し込んでから手詰まりになるパターンにハマったかといわれれば必ずしもそういうわけでもない。

 相手陣に押し込んだ状態でのスモールスペースでのつなぎや動き出しはむしろ見事な部類で、押し込んだ後の崩しの種類も十分。つなぐコストに見合った質の高いものだった。だが、ゴールが決まらない。ゴールが決まらないのだからコストに見合った質の高さを見せたとしても、ペイできたとは言えないのが苦しいところである。

 モラタは重要な局面で得点を決めてはいるが、それよりも外した場面の強烈さが印象に残るはず。おそらくEURO2020で刻まれる人々の記憶はイタリア戦で咆哮をあげるモラタではなく、頭を抱えるモラタであるはずだ。数字の面でより貢献できなかったのはジェラール・モレノの方でオープンプレーはおろかPKすら相手に止められてしまう。

 それでも徐々に得点力に光が見えたのはWG陣に好調さが出てきたから。サラビア、オヤルサバル、F.トーレス、ダニ・オルモなど途中交代からオープンな展開でWGが点を決める流れで、スロバキアやクロアチア相手には大量得点を決めた。

 だが、そのコンディションの上積みがあっても、イタリアには正面からぶつかるのは難しいと判断したのだろう。この試合ではゆったりとしたポゼッション型を捨てて、CFにダニ・オルモを起用。マンマーク型のハイプレスと縦への早いスイッチの併用でトランジッション型に大幅にモデルチェンジを図ったことでイタリアを120分間苦しめた。

 最後は3試合連続の延長戦の影響か体力が尽きてしまったが、スタイルと共に沈むタイプかと思ったルイス・エンリケのイタリア戦での対策は個人的には高く評価したいところ。真っ向から戦って散っただけでは、淡白な大会としか記憶に残らなかった存在であろう。だが、イタリア戦で彼が見せた采配によるもがきはスペイン代表が華麗さと儚さに加えて、泥臭さを持つことを合わせて証明したことになるだろう。

頑張った選手⇒ペドリ
 ルイス・エンリケが意地でも代えなかったスペインの至宝。華麗なチームの至宝なのに、雑用からなにやらすべてをやらされて本当にかわいそう。晩年でなおモドリッチみたいなスタイルになったら、きっと早死にしてしまうので、各方面は彼のことを大事に扱ってあげてほしいし、年内は少しサボっても怒らないでほしい。

今大会まとめ

デンマーク

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■ヒーローたちの逆境物語

 仮にデンマークがこの大会を優勝していたとしても、この1か月間に起きた彼らにとっての最も大きなニュースはフィンランド戦で倒れこんでしまったクリスティアン・エリクセンが危険な状態を経て、何とか一命をとりとめたことだろう。本当に良かった。いつの日かまたピッチでエリクセンの躍動する姿が見れることを切に願いたい。

 開幕戦で大きなショックに包まれてしまい、この大会でのデンマークでの戦いは困難を極めるものになった。単純に戦力としてエリクセンを失ったことは非常に痛手になるし、それ以上にショッキングな離脱の仕方が選手の精神に影響を及ぼしても仕方がない。初戦でフィンランドの歴史的なEURO初ゴールを果たしたポーヤンパロがノーセレブレーションなのだから、デンマークの選手たちがいかに非常事態下において戦っていたかがよくわかる。

 続くベルギー戦でも立ち上がりこそ神がかった勢いを見せたものの、デ・ブライネという異なる神様を降臨させてきたベルギー相手に逆転負け。2連敗で窮地に立たされる。だが、ロシア戦でデンマークは再び神を降臨させる。チーム全体の推進力で後半はロシアを圧倒。特にクリステンセンのミドルまでの一連のゴールは背景も含めると大会ベストクラスといえるゴールだった。

 この得点で一気に勢いに乗ったデンマークはオーストリアとチェコに快勝。自分たちの強みがある時間帯に一気に突き放し、リードを守り切った。戦力的なエリクセンの穴を埋めたのはサンプドリアの新星ダムスゴー。ライン間での受けてからのゴールに向かう推進力を併せ持った今大会有数のワンダーボーイはイングランドの先制ゴールを叩きこみ、ピックフォードに『今大会全試合出場で無失点』という看板を下ろさせた。

 最終ラインにおいてはケアーが精神的な支柱となりチームを支え、クリステンセンは先に挙げたミドルシュートや、アンカー起用での戦術的な幅などこの大会においては普段のリーグとは異なる意外性を見せていた。

 大会中にしなやかさを見せてレギュラーCFの座を掴んだドルベリから、どんな展開においてもハードワークを欠かさずに攻守に貢献ができるポウルセンへのリレーは盤石。チェコに競り勝つことができたのはCFのリレーの質が彼らより高かったことが一因だろう。

 さすがに戦力で圧倒的な物量を誇っているイングランドには兵糧攻めに遭ったことで苦しんだが、延長までもちこむ粘り強さを見せた。120分を戦う体力面では劣っていたのは否めないが、スターリングのPKを取らない審判が主審だったらという思いが頭をよぎった人は多いはずである。

 それでも彼らは英雄だ。自身のために、国民のために、そしてエリクセンのためにデンマーク代表が駆け抜けた1か月の物語は多くの人の心を揺さぶった。サッカーが全てではないが、サッカーでなにかができることを示してくれたのが今大会のデンマーク。そんな彼らに大きな拍手を送り、この項を締めたい。

頑張った選手⇒全員

今大会まとめ

イングランド

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■持久戦最強の負けない集団

 ドイツ×フランスには及ばないものの、第1節のイングランド×クロアチアはなかなかにネームバリュー的にも豪華なカード。そんなGSの初戦でイングランドについて思ったことは2つ。1つはエンタメ性を有しているサッカーを行うことが難しそうということ、そしてもう1つは前線からバックスまでサボる選手が少なくこのチームには勝つのはめんどくさそうだと思ったことである。

 ざっくりとした初戦でのこの感想は終わってみれば今大会のイングランド代表をよく表しているものといえるだろう。イングランドは退屈でつまらないけど負けないチームだった。今回大会も多くの候補選手を抱える中で中盤CHの1stチョイスに選んだのはライスとフィリップス。それぞれの所属チームの中でも非常に守備的な役割を務める選手である。一番サウスゲートのカラーが強く出ているポジションといってもいいだろう。

 攻撃においてはビルドアップで工夫しながら押し上げるよりは、鋭い縦のパス1つや裏抜けで一気に局面を動かす。その中核を担うのがケインとスターリング。特にケインは圧巻。序盤戦こそやや不調が目立ったものの、徐々に調子を取り戻していくと間受け、サイド流れ、裏抜けを織り交ぜながらボールを引き出す。

    多少精度が悪くても、最悪ファウルを取るくらいはやってのけるのが今のケイン。そもそも前と後ろがつながらずにFWが孤立しそうだから自分がつなげてしまおうというのもなかなかすごい。本人はスパーズで慣れているのかもしれないけど。

 守備面ではマグワイア、ピックフォードを中心に大崩れする試合は皆無。複数失点がないチームとして大会を終えた。豊富な戦力を活かした兵糧攻めが采配のお決まりパターンで、交代カードを切るのは軒並み遅い。その上に現実的な交代をすることが多く、まずは失点しないことを優先するように思えた用兵だった。献身的な守備が出来る前線がいればまず守りからというのはわからなくはない。実際、デンマーク戦は延長戦ではヘロヘロのデンマークに前に進ませることを全く許容しなかった。

 逆に点を獲りに行くための采配はあまりうまくはない。グリーリッシュを投入すればチームのスタイルはガラッと変わるのだが、ドイツ戦を除けば彼が伸び伸びプレーできる環境や仕掛けを与えていたとはいいがたい。兵糧で活きるはずの延長戦で勝ち切る一手が見いだせないことが最後の最後で高くつくことに。決勝のイタリア戦では120分で試合を制せず、ドンナルンマにみすみす目前で優勝を阻まれてしまった。

 健闘はしている。なにせ2大会連続ビックトーナメントでベスト4である。育成の成功もこの負け1つで霞むものではない。サウスゲートもチームをまとめる役割は果たしており、敗戦後のコメントを見てもチーム内の雰囲気もかなりいい様子が窺い知れる。それでもタイトルは欲しい。実質代替不可能なケインが今の多岐にわたるタスクを90分全試合高い質で通せるのはおそらく来年のW杯がラストチャンスである。新世代の集大成となるカタールを照準に再起動する彼らを楽しみに待ちたい。

頑張った人⇒ハリー・ケイン
 正直、宗教上の理由であんまりほめたくない選手なのだけど、これだけやられてしまっては仕方がない。大エースとして彼にボールを集めるのは当然だし、一つ一つのプレーで責任を取ろうという意識が非常に強い。スパーズという浮き沈みがあるクラブの中で背負ってきたものが違うんだろうなという覚悟が見えた大会だった。

今大会まとめ

イタリア

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■古きを知り、新しきを知るマンチーニ・アズーリ

 優勝おめでとう!新生アズーリは負けなしで大会を駆け抜けて53年ぶり2回目のEURO優勝である。パチパチ。新生といわれるには理由がある。このイタリア代表はCBとGKで守り、ワンチャンスをモノにする代表ではない。ボールを保持し、押し込み、崩して点を獲る代表である。そして、中盤から前の選手と共に堅牢な守備網を敷く。CBやGKはその上に鎮座するものである。

 まず目を引いたのは戦力豊富な中盤。他のポジションに比べて絶対的なレギュラーにはやや悩んだかもしれないがバレッラ、ヴェラッティ、クリスタンテ、ペッセッラ、ロカテッリなどタイプは違えど攻守に汗をかけるタレントたちが揃っている。これだけ数がいれば120分の試合を続けても簡単に質が落ちることはない。

 攻撃の核となったのは左サイド。インシーニェとスピナッツォーラの縦関係は大会随一の破壊力であった。香車型WBで最強のスピナッツォーラの大けがでコンビが解体されてしまったのは残念。それでもインシーニェはエメルソンと共に左サイドで奮闘し続けた。逆サイドのキエーザも試合を重ねることにアタッキングサードにおける決定的な仕事を増やし存在感を高めていった。

    大会全体の開幕戦となったのトルコ戦から強さとしぶとさのハイブリットであれよあれよいう間に決勝を制してしまったようにも見えるが、特に決勝トーナメントは楽な試合が1つもなかった。

    オーストリアには持ち味であるハイプレスを外されて前進を許したし、ベルギーには1つ目のビックチャンスを作られた。ドンナルンマが止めていなければ結果は変わっていたかもしれない。その試合に向けて特殊な策を講じたスペインとイングランドにも手を焼かされた。最後の2戦は特に激戦。どちらのチームにも前半は特に苦戦を強いられた。

 だが、どちらの試合も後半に巻き返すことが出来た。目を見張るのはキエッリーニとボヌッチの足して70歳のCBコンビ。試合が後半に進むにつれ、決定的なDFや得点でチームをピンチから救い、チャンスを得点に結びつけた。特にキエッリーニはボールを押し付けられたスペイン戦でもなんとかしようと持ち運びに奮闘。もちろん下手である。でも、打開するためには何でもやるという姿勢が好感を持てる。

    キエッリーニとボヌッチはイタリアの伝統的な強度を有するDFでありながら、モダンなスタイルにトライし続ける気概を持っているクラック。まさしく、旧来のDFの堅さにモダンな要素を上乗せしたマンチーニ・アズーリの象徴となる存在として優勝に大きく貢献した。とにかく優勝おめでとう!

頑張った人⇒ジャンルイジ・ドンナルンマ
 決定的なミスをしても平気な顔をして手を上げる姿からは、ミランのゴールマウスを16歳で守った男としての風格が漂う。足元こそ現代では並以下だろうが、セービングに関しては疑いの余地なし。特にPK戦においては相手の駆け引きに動じず、ぎりぎりまで動かない状態からの俊敏なセーブ動作で、キッカーに大きなプレッシャーを与えた。2戦連続でPK戦を制した彼は今大会のMVPにふさわしい。

今大会まとめ

 おしまい!楽しかったね。

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