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「予行演習であり、延長戦である」~2021.7.17 J1 第18節 清水エスパルス×川崎フロンターレ レビュー

スタメンはこちら。

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目次

レビュー

■宮城天の良さと課題

 プレビューで述べたようにロティーナのチームの基本コンセプトは攻守両面を制御下におくこと。トランジッションを制限しながらゲームをコントロールしておくことが基本的な方針である。おそらく、この清水においても同様の方針は示されているように思う。

 しかし、そうなったときに今の清水には問題がある。それは自陣からのビルドアップでの効果的な前進が難しいこと。相手を引き付けながら空いたスペースを使い、適切なスピードで前に進むという部分は未整備である。具体的には得点までの道のりが非常に遠くなってしまう。

 この試合の清水のやり方はその懸念が前提にあってのトライのように見えた。非保持における清水はミドルゾーンに構えプレッシングに出ていくことにした。現地で見ていたが、最終ラインからのラインを上げるための声掛けが非常に印象的だった。中盤はコンパクトに、そして最終ラインは高めに。清水は後方が広いスペースを賄うリスクを承知で高い位置からボールを奪いに来る。

 清水の前線のプレス隊であるサンタナと鈴木はアンカーを受け渡しながら3枚を2トップで監視する形。2トップのうち、ボールサイドではない方がアンカーを見る。特に右側にいることが多い鈴木がアンカーを監視する際(つまり、川崎が山根のサイドにボールを置いているとき)には、ボールの側に2トップがグッと寄ることが特徴である。

 したがって、川崎としては山根から谷口までボールを届けることができれば、簡単に1列目を越えることができる。

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 ただし、横に動かすというのはリスクも伴う。ゴールを横断するようにボールを動かすということはカットされれば即カウンターでゴールを陥れられるというピンチがあるということである。川崎としてもそういうリスクを負いながらボールを横に動かし、谷口の縦パスでラインを越えるシーンを作っていく。

 薄いサイドを作ることができれば前に進むことができる川崎。先述の事情の通り、川崎が前進するのは左サイドの方が多い。この試合において、川崎のスカッド的な注目は宮城がどれだけやれるかである。

 試合を通じた印象としては大体1人は抜ける。その一方で抜いた後の判断がややもたつく。36分のシーンなどは象徴的。家長、ダミアンとつながったサイドチェンジを受けて広いスペースから1人を抜いた後、2人目の選手と対峙するまでの間にタッチの数が増えてしまい、ボールロストにつながっている。1人は抜いているので宮城のいいところも課題の部分も見えたシーンである。

 ポジションやタイミング的に三笘と比べられがちというのは非常にプレッシャーのかかる環境ではあるが、その重さをしょって立てるほどの人材ではあると思う。そのためにはまず相手を抜いたりパスをしたりなど、1つプレーがあった後の状況に対して、次々判断を下していくことが大事なように思う。いきなり90分これをやるのは多分しんどいので、プレータイムを制限しつつ、次のプレーにつなげていくイメージを構築することに専念してもいいのかもしれない。

■川崎が見出した対抗策

 川崎の左サイドは非常にボールはスムーズに回っていたが、連携の構築はまだ不十分。特にここで崩す!という部分のタイミングが合わないこともしばしばである。もちろん、攻撃がうまくいかなかった要因の1つは清水側のタイトな守備にもある。特にCHの宮本は細かくポジションを取り直しながら他の選手が空けた穴を埋めていた。新加入の井林がいたこともあり、こちらも連携面には難しい部分はあったはずだが、この試合においては大きな穴を開けるシーンはあまり多くなかった。したがって、川崎はサイドに閉じ込められた後からの脱出がうまくいかなかった。

 そんな状況でも川崎は冷静だった。清水の守備の部分での狙い目は1つ飛ばされた時に弱いということである。ホルダーへのチェックは厳しい、そして一番近くの選手へのプレスも厳しい。でも一番近くの選手の次に近い選手へのプレスはそこまで厳しくはない。

 7分のシーンが一例。山根がボールを持っているときに一番近くにいる脇坂にはタイトなマークがいる。しかし、似た角度の奥にいる家長はフリー。山根は脇坂を飛ばして、1つ奥の家長を使うことで狭いスペースを脱出。家長のポストを受けた脇坂は結局前を向いて自由にボールを持つことができた。タイトな状況において1つ飛ばして相手の目先を変える。

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 相手のプレスに対抗して、策を講じる川崎の冷静な対応で清水の守備網は徐々に自陣側に押し込まれていく。そして、先制点は17分。このシーンも先に挙げた7分のシーンの応用編。登里に最も近かった川崎の選手は大島だった。しかし、この場面において登里が選択したのは奥のダミアンの方である。

 もっとも、ダミアンへのマークがタイトでなかったわけではない。井林はしっかりとダミアンについていった。だが、表裏の駆け引きの流れから吹っ飛ばされて完敗。裏に悠々と抜け出したダミアンが脇坂にラストパスを送り先制する。

 そりゃふっとばされなきゃいいだろ!という話なのかもしれないが、さすがに井林は責めにくいだろう。この場面ではホルダーである登里へのチェックを厳しくするしかなかった。ただ、片山は対面の選手を見るだけでなく、前に出ていったり内に閉じたり様々なタスクを負っていたから、登里へのマークだけに専念できなかったのだろうと思う。

 なかなか自陣深くからのビルドアップできないからプレスにでた!といったけど、以前よりもこの試合の清水は自陣からの攻めはショートパス志向が強くなったように思う。清水のボール循環の中心が右サイドだったことも踏まえると、この部分は井林の加入が大きいのではないだろうか。右サイドからのビルドアップはヴァウドが先発の際に比べればできたように思う。それでもまだ精度、速度の部分では物足りない。チャレンジする姿勢が見えたし、これから良くなっていくかもな!くらいの印象を持った。

 もう1つ、右サイドでビルドアップの出口になっていたのは片山。単純な空中戦では対面の登里に対して、明らかなミスマッチを作ることができている。GKやバックラインからはロングボールから片山の競り合いでマイボールし、一気にゴールまで進む場面も。片山はシミッチを交わしたりなど、結構いろんなことができるんだなという印象を持った。

 それでも自陣からのビルドアップだけでは機会の部分では不十分。やはり清水の本命はこの試合で取り組んだプレッシングからのカウンター。特に、狙っていたのは谷口の縦パスの部分。宮本と片山がサイドを閉じながら縦パスの受けどころを締めることでボールの狩りどころにする。ここから前に出ていけるようになることで前半の終盤は清水がやや押し込む時間帯になった。

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 ただ、最大の武器である右サイドからのクロスは頻度を十分に確保できず。原はここ数試合に比べるとどうしても存在感は薄かった。対面の川崎の左サイドが上手く抑え込んでいたといえるだろう。清水は谷口とジェジエウを置いてけぼりにするカウンターが前半最大のチャンスだったが、サンタナは強引なシュートを選択。逆サイドの片山が見えていれば、前半のスコアは川崎リードの1-0ではなかったかもしれない。

■清水が問われたビルドアップ

 後半の立ち上がり、清水はトップの守備位置を下げてより中盤のスペースを圧縮。中盤より前で回収する部分を強化し、トランジッションの機会の増加を狙う。実際に後半の頭には清水にチャンスがあった。しかし、ここで立ちはだかったのはシミッチ。中盤の防波堤が清水のスムーズな前進を妨げる。

 立ち上がりから攻めムードだった清水に対して、反撃をしてみせた川崎。後半の早い時間に追加点を決める。左サイドから登里のクロスをポストした脇坂に合わせて抜け出した大島がフィニッシュ。5レーンのお手本のような崩しだった。

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 清水としては大島を離してしまった段階で、脇坂にポストをさせたので詰み。このコースを消せる可能性があるとすれば井林。しかしながら、井林が高い位置に残ってしまうと大外の宮城のカバーに入れなくなってしまうし、この場面においてはDFラインは下げる方向性だった。ホルダーにプレスがかかっていないときにラインを下げることが原則なのだとしたら井林は原則を守っただけになる。

 オフサイドを取るのはノーチャンスだろう。立田は残っていたが、仮にラインを揃えていたとしても完璧に抜け出した大島をひっかけられるかは怪しい。むしろ、最後のシュートのシーンで大島のコースを限定できたようにやることはやったといえそう。やはりこのシーンも登里がスイッチを入れられたところが根本原因だろうか。1点目と同じく登里がスイッチを入れたことをきっかけに、レーンを変えながらハーフスペースを攻略した川崎に清水は完璧にやられてしまった。

 川崎視点で言えばこの場面は中央のポストに合わせてIHが飛び込んで得点に絡む直近で力を入れている形。ACLに続いてこの形で結果を出せたのは、プロセス的にも大きかったはず。もちろん、この時間帯に2点目を獲れたことも大きいし。

 清水はこの得点を境に徐々に中盤のプレスの強度が落ちてくる。したがって、ボールの取りどころが段々と後ろの方になってくる。そうなると問われるのは清水のビルドアップの部分。だが、やはりどうしてもパスの精度とスピードがついてこない。特にミドルレンジのパスが刺さらない。ここは継続的な課題になってくるはずだ。

 一番効いていたのは左サイドバックにコンバートされた片山。左サイドからインスイングでアーリー気味に上げたクロスを大外の中山に合わせて鈴木が飛び込んでくる形は非常に効果的だった。70分に見せたこの形が清水にとって90分でもっとも大きなチャンスだった。

 押し込む機会は増えた清水だが、決定的な機会の大幅な増加には至らず。川崎はロングカウンターから家長のキープなどで時計の針を回しつつ、遠野や橘田を投入することでプレスをやめない意志も押し出していく。ガッツリひきこもる時間をなるべく減らそうとするスタンスは川崎のチームカラーに合う調整といえるだろう。

 試合はそのまま2-0で川崎の勝利。自分たちの流れの時間で得点を取った川崎が清水を完封で下した。

あとがき

■スタイルとスカッドのジレンマ

 清水のこの試合でのトライは前向きなものだったように思う。井林が加入した意味も分かりやすかったし、自陣からのビルドアップを頑張る姿勢は見せられた。精度はまだだが、やりたいことは伝わってきた。

 けども、ショートカウンターにおいてどうしても攻撃を少ない手順で完結させたり、カウンターで自陣から運べる選手を外してしまっているので、どうしても攻撃を完結させる力に欠ける。カウンターで走れる戦力はいるだけに、そういう選手を使わない方針はちょっともどかしく思うファンはいるかもしれない。西澤とか。そうなると、ビルドアップでの未完成さにサポーターの我慢が効かなくなっても不思議ではない。そこはちょっと清水が抱えるジレンマな気がする。

■ACLと陸続き

 五輪組の移籍や離脱、ACL帰り、そして小林悠や塚川の負傷。この試合は総力戦だったし、ここから先は多分こういう試合は増えると思う。移籍する選手たちの分は再構築もあるわけだし。圧倒的な支配力で勝ち切りまくるというよりは、優勢な時間も劣勢な時間もありながら、精度の差で結果を出す!みたいな。そういう意味では清水戦は頼もしい勝ち方だったように思う。

 ちなみにこの試合はACLの延長戦のようだなと思った。清水は結構蔚山に似ている。攻めの主な手段が大外からのクロス、4-4-2からのサイド閉じ込め、最終ラインの選手に広い範囲の守備のカバーを託すなど。ACLの予行演習と言えば聞こえはいいが、選手たちはACLの激しい戦いを終えたばかり。予行演習というよりは延長戦という感覚だったかもしれない。とりあえずは結果を出したことに安堵しつつつかの間の休息で回復に努めてほしいところだ。

今日のオススメ

 29分、縦パスを引き出す登里。今日はどう相手を1つ飛ばすか?というのが重要なテーマだったわけで、得点シーンはどちらも彼は1つ飛ばす役割。そしてこのシーンでは飛ばす手助けをする役割。高さの部分で車屋が起用される機会も増えているけど、保持局面における登里の強みが出た試合だと思う。

見返しメモ



「清水×川崎の見直しツリー。 清水…」、@seko_gunners さんからのスレッド – まとめbotのすまとめ


せこさんから「清水×川崎の見直しツリー。 清水の2トップはアンカーを受け渡しながら川崎の2CBとアンカーの3枚を監視。SH


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試合結果
2021.7.17
明治安田生命 J1リーグ
第18節
清水エスパルス 0-2 川崎フロンターレ
IAIスタジアム日本平
【得点者】
川崎:17′ 脇坂泰斗, 50′ 大島僚太
主審:今村義朗

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