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「三笘さん、ブライトンに行っちゃうかもよ」〜川崎フロンターレ ACL 2021グループステージまとめ

 ACLのグループステージお疲れ様でした。中2日×6試合ということと、割と実力差がある試合も目についたので全試合レビューは敬遠。EUROもあったしね。だけど、まぁ6試合やって色々目についた部分を振り返っておくのも悪くないでしょう。ここでは5つの論点と共に川崎のACLのグループステージを振り返る。

目次

1. 家長昭博を主体とした右サイドの活性化

■サイド偏重解消は役割変化の予感?

 この記事の多くの部分に関わってくる話なのだけど、結果的には川崎はこのACLを三笘の移籍後を見据えた形で過ごしたというのが個人的なまとめである。

 ここで述べる右サイドからの崩しの活性化というのもその三笘後を見据えた潮流の1つなのかもしれない。三笘の移籍報道が出る前の段階で、すでに自分は家長の言動には変化の兆しを感じていた。例えば鹿島戦(以下の引用)や天皇杯の長野戦のコメントなど。

── 試合を振り返って
最後の最後で勝ち越すことができて、結果としてはよかった。ただ、全体的には技術的なミスや判断ミスが多かった。このままでは勝ち続けるのは難しいと思っている。チームとして成長しなければいけないし、個人レベルでもできることをもっと増やしていかないと優勝までまだ少し距離があるのかなと。より高い質のプレーを見せなければいけないと思う。次の試合から代表で何人かいなくなるが、これまで試合に出ていなかった選手がいい刺激をくれると思う。チームとして個人として、もうひと伸び、ふた伸びしていかなければと感じている。



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 もちろん、言っていることに説得力はある。けど、あまりチーム全体のパフォーマンスに警鐘を鳴らすタイプではなかったような気がする。特に勝った試合では。5/30の鹿島戦の段階で三笘や田中碧の移籍がどの程度チーム内で具体的なトピックスとしてとらえられていたのかはわからない。一部報道では三笘の移籍はACL前には意志が固まっていたとの話もあるけど、真偽のほどは定かではない。

 そんな中でACLで川崎が見せたパフォーマンスには今までとは違いがあった。崩しの部分でより機能していたのは右サイドのパターンが多かったように思う。今回対戦した相手は旋回しながらの川崎のポジションチェンジに対応できなかったチームが多かったけど、この旋回がうまくいっていたのは右サイドが多かった。

 今までは崩しといえば左。IHやWGが逆サイド出張してでもこちらから崩すという意識が見えた試合も多かったが、今季これまでのJリーグほどはその左サイド偏重は感じられなかった。

 右サイドの中でも家長の存在感は大きく、特に自身がゴールに向かう動きを見せることが多くなった気がする。三笘の移籍を契機に、家長は収めどころやチームを押し上げる役割以上に得点に絡む意識を高める方向にシフトチェンジを図るのだとしたら、ちょっと楽しみでもある。ACLという舞台要因なのか否かは帰ってきてからのJでチェックしたい。

2. ダミアンのポストの使い方

■不動の理由はIHとのリンク?

   これも個人的には三笘後を想定した部分だと思う。これまでも中央でのポストからはダミアンが相手陣を押し下げるシーンはよく見られたものである。一方で、これまでのJリーグではサイドに流れながらもポストを行う様子も見られた。

 このサイドに流れる目的としては三笘や家長のようなチームを押し上げる選手に前を向かせるためということが考えられる。ダミアンがゴールから離れた位置で起点になることで、ゴール前での脅威が落ちるという難点が上げられる。だが、三笘や家長のようなタメが作れる選手にいい形でボールを持たせることで、ダミアンがゴール前に迎える時間を再度捻出できるというものである。

 だが、この大会においては今季これまで好連携を見せていた三笘とダミアンのホットラインはあまり多く見られなかった。連携が合わなかったというよりは三笘が大外に張り、ダミアンが中央から動かなかったことが要因としては大きい。

 三笘に代わって、ダミアンとの連携が増えたのがIH。特にこれが顕著だったのが1試合目のユナイテッド・シティ戦。ライン間に入り込んでダミアンのポストを受けた大島と橘田は非常に効果的な仕上げに貢献できた。

   今まではダイナミズム重視だったIHの人選だったけど、この試合で大島と橘田を起用。起用された理由は受けた後にスモールスペースでのコントロールやプレー選択がうまいからではないか。となると今後、川崎のIHのカラーは変わってくる必要がある。

 もっとも、全てをスタイル変更と決めつけるのは早計だろう。今回のACLに関しては自陣からのビルドアップに関して相手チームから川崎の最終ラインが時間を奪われることがほぼなかった。したがって、押し上げる局面にダミアンのポストや三笘や家長のキープはそもそも必要がなかった。そのため、それぞれがそれぞれの持ち場で躍動できたと考えるべきかもしれない。

 したがって、より最終ラインに対してプレスの強度を高めてくるであろうJリーグやACLのノックアウトラウンドでは勝手が違ってくる可能性はある。だが、IHとダミアンのアタッキングサードでの連携を新しいダミアンのポストの活用法としてテストしたと見ることができるのではないか。

3. 4-2-3-1のトライ

■大島の帰還はもちろんだが…

    この部分に関して大きな影響があったのはもちろん大島僚太の復帰である。今季ここまでのアスレティック能力が優先されがちな川崎のIHのタスクにそのまま大島を当てはめるのは(中期的な怪我のリスクも含めると)無理がある!というのはこれまでの自分の記事で何度か述べてきた部分である。

 4-2-3-1へのシフトは大島の居場所を作るための1つの手段となるのは間違いないだろう。だが、第1節の大邱戦ではむしろ、問題の解決に大島の存在を活用したように見える。立ち上がりは普段通りの4-3-3で大邱に立ち向かった川崎だったが、シミッチの縦パスをひっかけるところからカウンターの裏返しをされる場面が目立ってしまう。

 無理に縦パスを狙い、ミスになってしまっているシミッチの手助けとして大島を横に配置しようというのがこの試合における4-2-3-1へのシステム変更による修正だった。保持の部分でストレスなくボールをもてる大島の復帰は川崎にとって武器が1つ増えたことになる。

 4-2-3-1を採用する問題点としては、これまでJリーグで披露してきている高い位置からのプレッシングにおいてどうしても圧力が下がってしまうこと。今季目指すコンセプトが鬼木監督が常日頃言っている部分から大きく変わらないのだとしたら、IHが即時奪回に参加しやすいい4-3-3を放置して、4-2-3-1を常時重用するようになるというのはやや考えにくい。

 一方で、三笘と田中碧不在で殴り合いに勝てる前提の4-3-3の一本でシーズンすべてを制するというのは個人的には無理があると思う。4-3-3システムでキーマンとなりうる旗手怜央はリーグ戦もフル稼働な上に、五輪代表にも参加する。後半にパフォーマンスを落としたり、あるいはやや休息を与えるマネジメントに切り替えても無理はないはずだ。

 殴り合いで支配的な状況を作り出せない要素というのは夏以降の川崎にいくつか転がっている。その先を見据えて、保持の安定や相手を引き出してから進む部分を整備しながら4-2-3-1を点が取れる手段にしていき、4-3-3と並ぶもう1つの形として仕上げていくのが今後の課題になるのではないだろうか。

4. 橘田健人の重用

■特筆すべき万能性だが補いきれない懸念も…

   早速中間報告における川崎の今後の展望として予想した内容が当たった感!書いた甲斐があったというものである。

   どうやら、後半戦の川崎のキーマンの1人は橘田ということで間違いないだろう。開幕から出番を得た大卒ルーキーの姿に守田英正の姿を重ねるファンも多かったはずである。落ち着きや川崎のスタイルに対する適応度がその主要因ではあるが、この大会においては守田を想起させるもう1つの橘田の特性であるマルチロールの部分が存分に生きることとなった。

 今回の大会で橘田が起用されたポジションはIH、SB、そしてアンカーの3か所である。リーグ戦と同じ役割なのはIH。川崎の今季のIHに求められる即時奪回の要素を維持しつつ、先に示したようなスモールスペースの入り込みからの得点能力を開花したACLとなった。

 SBは天皇杯の終盤のオプションで見られたのが初出だろうか。機を見た攻め上がりのセンスはさすがで、攻守における安定感という意味ではイサカ・ゼインよりも高い水準をSBとしても有している。

 最も意外だったのはアンカー起用だろう。最終節の北京戦では今までと異なる役割も務めた。IHと同様に高い危機察知能力でスペースを埋める姿は本職のシミッチに対しても引けを取らない部分である。

    ただし、SBの時もそうなのだが橘田のアンカー起用はどうしてもサイズの問題から逃げることはできない。長いボール主体で圧力をかけてくる相手ではなかったため、北京戦では問題にならなかったが、低い位置で起用する際には空中戦のミスマッチを利用されるリスクは必ずついて回る。

 少し、本題からは逸れるが主に田中碧が担っていたシミッチ以外のアンカーの問題はなかなか解決しない部分ではある。シミッチが負うタスクはざっくりと以下の3つ。

1. 最終ライン前の高さの防波堤となること
2. 縦への刺すような楔のパスを入れること
3. 前線のプレスが同サイド圧縮をかける素振りを見せた時にサイドに動きプレスで出口を塞ぐこと

 橘田で最もネックになるのは1の話。3の部分は相手のレベルを考慮しないといけないとは言え、問題なくできていたし、橘田のキャラクターを考えても伸びしろが十分ある部分だと思う。2を含めたゲームメイクの部分では北京戦ではほぼ問われなかった部分なので、据え置きとするのが妥当だと思う。

 逆に山村や谷口の場合は最も大きな問題は3である。シミッチのような刺すようなパスはないものの、高い空間把握能力を生かした持ち運びとミドルパスに長けた山村はゲームメイク部分では問題ないはず。だが、ビルドアップによって剥がしてくるチームに対しては、同サイド圧縮が間に合わずに最終ラインがさらされる頻度は増やしてしまうかもしれない。

 機動力もサイズも問題なさそうな塚川が保持の部分におけるボールコントロールを身に付けるにはもう少し時間がかかりそうな予感がしたACLでもあった。頭部負傷の状況も織り込むと、塚川が短期的な特効薬となる可能性はあまり高くはない。

 アンカーの2番手問題にどう立ち向かうかも川崎の後半戦の大きなポイントだ。

5. 盤面的な駆け引き

■強敵との一戦で心をへし折る

    この部分はいい部分も悪い部分もあった話である。とはいっても個人的にはいい部分の話の方が多い。基本的に材料が少ない中で相手のことを非常によく研究していたと思う。川崎の分析スタッフの優秀さには今一度脱帽である。

   Bチームで臨んできた北京相手には正直、普段通りやれば負けることはなかったと思う。相手がそもそもプレスに来る意志がなかったし、敵陣でのブロック強度の部分でも難あり。北京は川崎に勝つために必要なことに取り組む姿勢が見られなかった。あるいは、取り組んでいたのだが目に見えてそれが成果になる様子が外からは確認できなかったというのがより正確だろうか。

 ユナイテッド・シティはより歯ごたえがある相手ではあったが、ライン間のスペース管理の甘さからIHを存分に生かした攻撃はおそらくスカウティングの賜物。ダミアンのポストを受けた選手の抜け出しには思うように対抗できていなかったし、川崎もわかっていて同じプレーを連発した節がある。

 大邱はグループ内では最も強敵だったし、劣勢になる場面もあった。一方で手打ちとしては2試合ともうまくやったように思える。1試合目は先に挙げた大島をシミッチの横に添えることで押し込む手順を強化した。2試合目はイ・グノをカウンターの先鋒として投入し、彼を起点としたドリブルでの陣地回復を行おうとした矢先、脇坂のプレスでそこを狙い撃ち。決定的な得点を挙げた。大邱の修正策のコンセプトを台無しにする心をオルゴールだったといっていいだろう。

 一方で6試合を通してそこまで効かなかった部分があった。それはハイプレス。高い位置からのプレスはショートパス、あるいはWG裏のサイドバックを活用したロブパスのコンビで抜けられてしまうこともしばしば。プレッシングで相手を捕まえられた時もファウルで止めてしまう場面が目立つ。もちろん、それでもいかれてしまうよりはいいのだが、川崎のハイプレスの意義はそこからのショートカウンターへの転換なので、ファウルではその意義の一部は失われてしまっているといってもいい。

 非保持における強気な姿勢は後方のCB陣の質的優位が前提となる。だが、大邱戦でエジガルにジェジエウが苦戦したように、相手のレべルが上がった場合はここの無理が効かずにむしろ劣勢になってしまう可能性もある。後方の優位が薄まることを視野に入れるなら、なおのことハイプレスの強化には力を入れていきたいところである。

 そんなところです。6試合全勝&グループステージ突破お疲れ様でした!

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