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「EURO 2020 チーム別まとめ」~スイス代表編~

目次

チーム情報

監督:ウラジミール・ペトコビッチ
FIFAランキング:13位
EURO2016⇒ベスト16
W杯2018⇒ベスト16

招集メンバー

GK
1 ヤン・ゾマー(ボルシアMG)
12 イヴォン・ムヴォゴ(PSV)
21 ヨナス・オムリン(モンペリエ)

DF
24 ベチル・オメラギッチ(チューリッヒ)
25 エライ・キュメルト(バーゼル)
3 シルヴァン・ヴィドマー(バーゼル)
26 ジョルダン・ロトンバ(ニース)
17 ロリス・ベニート(ボルドー)
2 ケヴィン・ムバブ(ヴォルフスブルク)
5 マヌエル・アカンジ(ドルトムント)
4 ニコ・エルヴェディ(ボルシアMG)
13 リカルド・ロドリゲス(トリノ)
22 ファビアン・シェア(ニューカッスル・ユナイテッド)

MF
20 エジミウソン・フェルナンデス(マインツ)
15 ジブリル・ソウ(フランクフルト)
14 シュテフェン・ツバー(フランクフルト)
6 デニス・ザカリア(ボルシアMG)
8 レモ・フロイラー(アタランタ)
10 グラニト・ジャカ(アーセナル)
23 ジェルダン・シャキリ(リヴァプール)

FW
9 ハリス・セフェロビッチ(ベンフィカ)
7 ブレール・エンボロ(ボルシアMG)
18 アドミール・メーメディ(ヴォルフスブルク)
11 ルーベン・ヴァルガス(アウクスブルク)
19 マリオ・ガブラノビッチ(ディナモ・ザグレブ)
16 クリスチャン・ファスナハト(ヤング・ボーイズ)

各試合振り返り

GS第1節 ウェールズ戦

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■優勢に進めるも脆いところに付け込まれる

 日ごろから代表シーンのサッカーを見ることがない。というわけで第1節は名鑑とのにらめっこになる。スイスはショートパスを軸に進んでいくチームで、プレスに晒されてもロングパスに逃げることは少ないということである。一方のウェールズはコンパクトな守備ブロックでボールを絡め取り、ベイルにボールを預けて頼んだぜ!がお決まりのパターンのようである。

 そういった名鑑に乗っている両チームの事前情報通りの試合になったように思う。立ち上がりからボールを持つのはスイス。3バックを軸とした数的優位でのビルドアップ+シャキリをフリーマンにした仕上げで押し込む。

 一方のウェールズは割り切ってスイスにボールを持たせていた。プレミアファンがあのベイルまで自陣深い位置まで撤退をしているのを見れば、彼らの狙いは一目瞭然といったところだろう。ただし、ベイルが深い位置まで下がっている状況では、すぐにボールをベイルに託すことはできない。したがって、1トップのムーアにボールを当てることで陣地回復を図った。

 イタリア相手に撤退したトルコと異なり、ウェールズはトップがサイドに誘導する。さらにはSBが高い位置に出てくることでスイスを食い止めるなど押し込まれないための工夫を施していた。撤退守備の完成度は同じくボールを持たせたトルコよりも上といっていいだろう。

 保持ではスイスも工夫を見せていた。特にキレていたのはゾマーとアカンジの縦パス。特にアカンジの縦へのパスを前線が受けて反転し、そのまま推進していくことでチャンスメイク。特に脅威になっていたのはエンボロ。彼の加速力を軸にスイスは徐々に前進できる機会を得られるように。スイスの先制点はセットプレーから。ロバーツにとってはエンボロとのエグいミスマッチになってしまっていた。

 しかし、スイスもクロスの対応に難あり。ウェールズにとっては押し込めればチャンスがある様相であった。同点に追いついたのはスイスと同じくセットプレーから非常に練られた形から最後はムーアが仕留める。全体的に優勢の時間が多かったのはスイスだったが、少ないチャンスからウェールズに上手く絡めとられてしまった。

試合結果
ウェールズ 1-1 スイス
バクー・オリンピック・スタジアム
【得点者】
WAL:74′ ムーア
SWE:49′ エンボロ
主審:クレマン・トゥルパン

GS第2節 イタリア戦

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■前後半で圧倒した中盤が完勝の源

 両チームとも第1節と比べて大きく方針は変わらなかったように思う。イタリアは最終ラインからゆっくりとつなぎつつ、サイドから相手を押し込む。ハーフスペース付近の裏抜けかもしくは大外からSBがラインを押し下げるように抉る攻勢をかける。立ち上がりはやや右からの攻めが多いという左から攻めがちな前節との傾向の違いはあったが、大枠は同じといっていいだろう。

 一方のスイスも第1節と同様、最終ラインからの縦パスでの前進を試みる。メンバー表だけを見るとジャカが司令塔となり、縦横無尽にパスを供給する役を命じられているように思うかもしれない。だが、組み立てにおけるこのチームのジャカの存在感はあまり大きくない。

 相手のトップのプレスラインが中盤に設定されることが多く、ジャカにマークがつくことが多いこと、そしてプレッシャーを受けた状況でのプレーが不得手であるジャカをフリーにする仕組みを特にスイスが有していないことが大きな要因だと思う。そのため、後方から時間的に余裕があるCBが前線に縦のボールを付けるのが今回のEUROでのスイスだ。

 第1節と似たスタンスで臨んだ両チーム。圧倒的に苦しめられたのはスイスである。イタリアは前線のプレスラインこそそこまで高くないものの、中盤のプレスの仕留め方が秀逸。ロカテッリ、バレッラのボールハント能力は抜群。個々のボールハントでスイスの攻撃はほぼ機能不全に陥っていた。第1節では推進力を発揮して大活躍したエンボロもボールが来なければ話にならない。

 高い位置からのボールハントからの速い攻撃を活かして、イタリアは得点までたどり着く。ベラルディのタメから最後はロカテッリが走りこんでフィニッシュ。内容に見合った先制点を手にする。

 後半のスイスは非保持で高い位置からのプレスを仕掛けることでイタリアの保持をひっくり返すことを狙う。しかし、ここはジョルジーニョを軸にイタリアの後方がロングボール、ショートパスを交えながら回避。10分もしないうちにスイスのプレスは交わされ、イタリアのロングカウンター祭りになってしまった。2点目をロカテッリが再度決めた時点で勝負は決しただろう。残りの時間も3バックを試しつつ、3点目を取ったイタリアの支配下だった。

 前半と後半、それぞれでスイスの狙いを打ち砕いた中盤のトライアングルの活躍でイタリアがノックアウトラウンド進出一番乗りを果たした。

試合結果
イタリア 3-0 スイス
スタディオ・オリンピコ
【得点者】
ITA:26′ 52′ ロカテッリ, 89′ インモービレ
主審:セルゲイ・カラセフ

GS第3節 トルコ戦

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■立ち上がりからの殴り合いの代償は・・・

 最終節における両チームの狙いは同じ。なるべく多くの得点を奪って相手に勝つことである。2位通過を狙うスイスはウェールズを得失点差で逆転する必要があるし、3位通過を狙うトルコは勝ち点3での得失点差をなるべくプラスに傾けておきたいという思惑がある。

 したがって、この試合がオープンになることに両チームとも全く抵抗はなかったといっていいだろう。試合が立ち上がって早々に仕掛け合いを見せる。左サイドに人を集め打開を狙うトルコをあざ笑うかのように先制点を決めたのはスイス。この大会はここまで沈黙を続けてきたセフェロヴィッチが豪快なミドルを突きさし、一歩前に出る。

 トルコの攻めは左右対称。左の攻めはCFのユルマズを中心に人を集めるのに対して、逆サイドはウンデルに広いスペース勝負での打開を託す。右サイドに人が集まっても、あまり互いの様子がわからなかった動きをしていたので、このアプローチは正しかったように思う。

 対するスイスも押し上げは左サイドから。今日は3バックの左に入ったリカルド・ロドリゲス。攻撃時にはSB可視、同サイドのツバーの攻撃参加を促す。ツバーはほぼWGとして前線を駆け上がっていた。

 狙いはサイドだけでなく中央も。トルコのアンカー脇に縦パスを刺すのも前進の手段の1つ。今大会、ここまで厳しいマークを受けてきたジャカやフロイラーはやたらオープンになった一戦でようやく機能したというのはなかなか皮肉な感じである。ってことはより堅い展開が予想されるノックアウトラウンドではまた機能しなくなりそうということでもあるので。

 前半のうちに追加点を得て一気にまくしたてるスイス。トルコは後半に1点を返すも、スイスに3点目を決められて試合は終わってしまった感。スイッチを勝手に切るのはトルコの終盤の悪い癖である。攻守に動きなおすことをやめてしまい、サボりまくってしまうモードに突入する。一方のスイスも90分間殴れるガソリンはなし。終盤は偶発的にもたらされた好機にそれぞれが取り組むという最終ラウンドのボクサーのような展開となった。

 終盤はスコアは動かず、勝ったのはスイス。他グループの結果次第での3位通過に望みを託すことに。トルコは3戦全敗での敗退となった。

試合結果
スイス 3-1 トルコ
バクー・オリンピック・スタジアム
【得点者】
SWI:6′ セフェロヴィッチ, 26′ 68′ シャキリ
TUR:62′ カフヴェジ
主審:スラブコ・ビンチッチ

Round 16 フランス戦

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■『嵐』を乗り越えた勝利

 まだEURO2020は終わってはいないが、ここまでの中での謎采配No.1は今のところはこのスイス戦におけるデシャンの臨み方である。これまでのフランスからの変更点は最終ラインの枚数を増やしたこと。ラングレを最終ラインに置き、3CBでスイスに挑むことになった。

 3バックにしたことが最悪だったというわけではない。そういうやり方もあるだろう。相手を引き込むことができればムバッペを中心にロングカウンターに転じることができる。フランスにとって問題だったのはラインを下げてからの攻撃の手段ではなく、守備においてラインを下げることのとらえ方である。

 フランスは前の形は3-2。グリーズマンは3トップの右ではなく、インサイドハーフの左に入る形。これだとスイスの3-2のビルドアップとは噛み合わない。噛み合わないなら噛み合わないで仕方ない部分もあるだろう。

    だが、後ろに重いチームでやっていけないのは、後から慌てて出ていった挙句、交わされ運ばれること。スイスのホルダーに対してフランスが後追いでプレスに行くと、一番近くのスイスの選手が空いたままに。まるでスイスにポゼッションの道筋を締めているかのようなフランスのプレスだった。特に大きく縦に進められるジャカの存在はフランスにとっては厄介だった。

 フランスはCBを増やして高い位置からのチェイスを整備するわけでもなければ、エリア内での跳ね返しの強度が上がったわけでもない。単純にローラインに晒される機会が増え、その分ピンチが増えただけ。セフェロヴィッチの先制点は理に適ったスイスの崩しが機能したことが要因である。

 4バックに移行後のフランスは攻撃面で苦戦。フランスは左サイドから作りたさが見えたものの、フィニッシャーのムバッペも左で構えるという矛盾に苦しむようだった。同サイドを崩しきれるほど整備はされていないし、右サイドに展開した後の手薄さも否めない。リカルド・ロドリゲスのPKを止められたことが唯一フランスにとってポジティブなトピックスだった。

 保持の局面で苦しむフランスを救ったのは好調を維持し続ける2人のタレント。特にベンゼマの同点ゴールは圧巻。なんだそれは。見たことのないトラップから得点までつなげてしまうエースの貫禄をこれ以上ない形で示したシーンだった。これで勢いに乗るベンゼマは直後に逆転ゴール。これで一気に流れはフランスに。ポグバのスーパーゴールが決まった時はさすがに勝負は決まったとする向きが多かった。

 しかし、クロアチア同様、フランスの守備も根本が解決したわけではない。地道につなぐ部分がぶれなかったスイスは『ベンゼマの嵐』を過ぎ去った後に、再度ペースを握る。自陣からのつなぎで右サイドにつないだスイスはムバプのクロスから再びセフェロヴィッチ。組み立ての局面でも絶大な存在感を見せたエースの一撃で1点差に迫る。

 その後もフランスのプレスを交わし攻撃に転じるスイス。すると、後半追加タイムにその時はやってくる。ジャカのグラウンダーの縦パスは直前にオフサイドで得点を取り消されたガヴラノヴィッチの元に。キンペンベを交わし、今度は正真正銘の得点を生み出して見せた。この期に及んでジャカへのマークが甘くなったのは痛恨だろう。あそこで寄せないのならば、シソコは投入された意味が分かっていないといわれても仕方がない。

 コマンのシュートがポストを叩くなど90分のラストプレーまで見どころ満載だったこの試合。延長戦でも互いに好機を生む。個のフランスとつなぎのスイスというそれぞれの形からシュートまで持ち込むも、決定打には欠けたまま試合は大会初のPK戦に。

 本戦ではPKストップを決めたロリスだったが、完全にスイスに動きを研究されていた感が否めない。むしろ、読まれた部分に対応しようとして4本目はタイミングが合わなくなってしまうなど、スイスのシュートが枠からそれることをフランスは祈るしかなかった。その中で試合を決めたのはフランスの5本目。不調が目立つうえに、終盤は足を引きずっていたムバッペのシュートが止められるというこの日のフランスを象徴する形で試合は決着。

 結果だけ見れば大波乱。だが、試合を通して地道に相手を剥がしてゴールに向かっていたのはスイスの方。『嵐』を乗り越えた掴んだPK戦での勝利は彼らのポテンシャルの大きさをまざまざを世界に見せつけるものだった。

試合結果
フランス 3-3(PK:4-5) スイス
ブカレスト・ナショナル・アレナ
【得点者】
FRA:57′ 59′ ベンゼマ, 75′ ポグバ
SWI:15′ 81′ セフェロヴィッチ, 90′ ガヴラノヴィッチ
主審:アンドレス・ラパッリーニ

Quarter-final スペイン戦

■プレスをめぐる駆け引きの先にはGK劇場

 ここまでの試合を見てくるとスタイルがよりはっきりしているのはスペインだろう。彼らのポゼッションを軸としたスタイルに対して、ジャカを出場停止で失ったスイスがどのようなスタイルを取るか?という部分が注目ポイントになる。

 スイスはこれまでの5-2-1-2のフォーメーションを放棄し、4-4-1-1にシフトチェンジ。2トップの一角だったエンボロをサイドに流し、中盤に組み込む形である。スイスの非保持のコンセプトとしてはシャキリがアンカーのブスケッツにマンマークを行う。後方のフロイラーとザカリアはインサイドハーフを監視。中盤は人を捕まえる様相が濃かった。

 しかし、それだけであれば5-2-1-2のフォーメーションを維持したままでも形的にはできる。4バックに変えたフォーメーション変更の意図としてはサイドの数もあわせたいという所だろう。

 もう1つのスイスの特徴はボール奪取後。セフェロヴィッチ、シャキリ、エンボロのアタッカー陣だけではなく、CHの2人も含めた多くの選手がボール奪取と共に前線に駆け上がる。おそらく、瞬間的にはスペインに対して数的優位となる人数に高い位置を取らせているはず。中盤でボールを奪った時は縦に一気に向かう形である。中盤の要だが、機動力に難があるジャカがいないことを逆手に取った中盤の厚みを使った攻撃だった。

 人は捕まっている、そして引っかけると早々にカウンターに打って出られることを把握したスペインはすぐに対応。後方からの長いボールでスイスのライン間を開けさせる。そして数的優位の状態のCBから、セフェロヴィッチのマークがついていない方(主にラポルト)がボールを運び、中盤のホールドを解除する。

 スイスの一気呵成のカウンターに対しては、スペインは特に対策を講じている様子はなし。『中盤はミスらないでね』というやや前時代的な保持に関するスタイルはいかにもスペインらしい。個人的にはどこか懐かしく好感を覚える。

 ボールをロストした場合はスペインは即時奪回に移行。スイスに蹴らせてボールを回収し、無限の攻撃のループに突入。アルバのミドルから誘発したオウンゴールで先制点を手にしたこともあり、序盤はかなり支配的な展開だった。

 とはいえ、このスペインのスタイルで90分をまるっと支配するのは至難の業。特に連携面でほころびが出やすいナショナルチームであればさらに難易度が上がるといっていいだろう。

スイスが講じた対策は2つ。1つは自陣からのボール保持でつなぐ意識を高め、1stプレスを外すこと。顕著だったのはCBの動き直し。決してポゼッション傾倒ではないバックスがショートパスでポジションを取り直すことで、スペインの1stプレスをいなすことを強く意識するようになった。

 もう1つはプレスを外した先の部分。高い位置を取るスペインのSBの裏を取り、ラインを押し下げる。スペインは即時奪回が決まらなければ、攻撃時の重心が前に傾いている状態からポジションを整え直す時間を作ることができない。スイスはこの部分を露わにするために、危険を冒してショートパスをつなぐ意識を高めたのだと思う。

 だが、スイスのこれまでの得点はサイドから合わせる形よりも、直線的にゴールに向かう形であることが多い。したがって、サイドからフィニッシュに向かう部分でどうしても刺さる形を作ることができない。スペインはスペインで撤退守備の強度は明らかな弱点なので、ハマらないハイプレスもノーミス発注のボール保持もやめるわけにはいかない。というわけでスペインの先制点以降は互角な状況が続く。

 そんな均衡が崩れたのは68分。サイドからの攻撃に蓋をしようと出ていったラポルトの勝利がパウ・トーレスに当たり、跳ね返りを拾われる。これをシャキリが決めて同点に。跳ね返りを拾ったのはCHのフロイラー。サイドからの押し下げと中盤の手厚いカウンターサポートというスイスの方針がかなった同点ゴールだった。

 しかし、直後にスイスはそのフロイラーの退場で数的不利に。そこからはゾマー劇場。10人でしのぐスイスの最後尾で大きな壁となり、スペインにたちはだかる。

ただし、延長戦をしのいだ先に待っていた主役はウナイ・シモン。2,3本目と立て続けにグラウンダーのボールをストップし、4人目のバルガスはふかしやすい上側を狙うプレッシャーをかけられてしまった感。線で見てスイスのキッカー陣に圧をかけ続けたウナイ・シモンが圧倒したPK戦だった。

 両GKの目覚ましい活躍が見られた120分だったが勝者はスペイン。スイスはフランス戦に続き、PK戦での強敵撃破には至らなかった。

試合結果
スイス 1-1(PK:1-3) スペイン
サンクトペテルブルク・スタジアム
【得点者】
SWI:68′ シャキリ
ESP:8‘ ザカリア(OG)
主審:マイケル・オリバー

大会総括

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■躍進の理由はアップデートにあり

 この大会のトレンドの1つにグループステージとは全く異なる顔を見せる中堅チームの躍進というものがある。自分たちのこだわりや中心選手たちとの心中を避けられなかった列強を尻目に、練度も強度も高めつつバリエーションを広げながら上位に進出していく様子は非常に魅力的に映る。

 スイスはこのトレンドの代表格のチームといっていいだろう。正直、グループリーグでは見栄えがあまり良くなかった。3バックの数的優位を軸としたゾマーやアカンジの縦パスを軸に、エンボロが楔を受けて反転しゴールに突き進むという形のサッカーを展開していた。

 後方の優位+一本の縦パスから楔を入れて前進という形は個人のポテンシャルに拠るところが多く、あまり躍進の可能性を感じることが出来なかった。現に第2節のイタリア戦では3-0と厳しい現実を突きつけられた。

 風向きが変わったのは第3節のトルコ戦から。ポイントは2つ。1つ目は左サイドの用兵である。WBだったリカルド・ロドリゲスをCBの一角に起用して、攻撃時にSBを任せる。その代わりにWBに入ったツバーに自由を与え、時にはストライカーのような振る舞いで前線に飛び出すように。これで左サイドに可変性と厚みがもたらされることになった。

 もう1つはビルドアップ時におけるジャカの積極的な活用。すでに述べた通り、これまではバックスからの1本のパスがキーだったため、ジャカのビルドアップは飛ばされる傾向にあった。だが、勝利が絶対条件だったトルコ戦でこれを解禁すると、フランス戦では勝利のキーとなる活躍にまで昇華。1人1人がバラバラでプレスに来るフランスとジャカの縦パスの相性は最高。前進からのフランス攻略に大いに貢献した。同点弾となるガヴラノヴィッチの得点を演出したのもジャカの縦パスである。

 そのジャカが出場停止となったスペイン戦では自陣ブロック守備+カウンターの意識を徹底。中盤以前の機動力勝負に持ち込み、ジャカ不在ならではのスピードを生かした人選でスペインにカウンターの刃を突きつけ続けた。

 惜しくも二度目のPKで涙を飲んだが、存在感は十分見せたトーナメントに。試合ごとにできることを増やしていく様子には多くのファンがうならされたことだ労。成長を試合ごとに見せてくれる姿にラウンドが進むごとに期待を思わずかけたくなる好チームだった。

頑張った人:ハリス・セフェロヴィッチ
 チーム単位でできることが増えていったスイスだが、個人単位でラウンドごとにできることを増やしていったのがセフェロヴィッチ。当初はフィニッシャー止まりだったが、ショートパス主体の組み立てに代わっていくにつれ、崩しの局面でも欠かせない存在になっていった。ゾマーと迷ったけど、スイスらしさを象徴しているのでこちらで。

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