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「素直な90分で見えたもの」~2021.5.22 J1 第15節 川崎フロンターレ×横浜FC レビュー

スタメンはこちら。

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目次

レビュー

■バランスの偏りがもたらすメリットは?

 試合は予想通り川崎の保持が中心で始まった。基本的な試合のペースは非常にゆったりしたもの。試合のペースは非保持側が決めるというのはこのレビューで常々よく言っている話。この試合でも非保持に回ることが多かった横浜FCはそこまで激しいプレッシングを仕掛けてくることはなかった。

   加えて、ボールの保持側であることが多かった川崎もあまりテンポアップを望んでいなかった様子。自陣からのダミアンの長いボールは使うものの、そこから家長に預けてスローダウンという形が目立った。攻撃に転じて縦に縦に!ではなく、攻撃に転じて縦からのタメて組み直しというイメージである。

 横浜FCのプレッシングはプレビューで予想した通り、シミッチ+2CBを2トップのクレーベとジャーメインの2人で監視する形。3分のシーンのように川崎の最終ラインのマイナス方向のパスに呼応して、時たま前からプレッシングをかけていく。

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    川崎はシミッチが2トップの間の背後に立つこと(鬼木監督が列落ちをしないように声掛けをしていた)で、ボールが中央にある時は2トップの間を狭めるように。そしてサイドにある時は面が被らない位置に立つことでサイドチェンジの起点になる役割を果たしていた。

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    川崎の前進はここ数試合おなじみの形である。特徴的なのはWGとIHのバランス。スタートポジションは右サイドである家長や田中のうち、どちらかの選手が左サイドに出張に行く。そして、もう片方の選手はダミアンよりもファー側に立ち、左から上がってくるクロスを待ち受ける形である。

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 このやり方のメリットとしては多くの崩しのパターンが見られること。川崎は大外のホルダーにまず持たせて、そこからラインブレイクする形で左サイドを攻略する。が、人数が多ければその工程の部分をいくつか用意できる。

1. DFの間をラインに張っている選手が抜ける

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2. ラインに張っている選手のポストを後方から追い越す

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3. 大外からホルダーを追い抜く

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 スタート(大外を取る)とエンド(同サイドの裏に抜ける)の形が決まっているが、プロセスを工夫できるのがこのやり方のメリットである。静止した状況から一気に加速するのがポイント。正対する選手やポストで相手のDFラインの足を止めて、追い越す選手で相手のDFラインの重心を崩し、それによって発生したズレを叩くというのが川崎のやり方である。

 先制点のPKの場面は上の2.のパターンに当たる。大外は取っていないが、2人に囲まれた田中碧がその間を通す形で楔を入れることで、スイッチを入れる。受けた家長がポストで相手のDFラインを止めて、後方から加速している三笘にボールを落とす。この対応を誤った手塚がPKを与えてしまうという流れである。

 余談だけど、川崎は『動』の状態(=この場面でいうと三笘の役割)を担える選手は非常に多い。というかオフザボールで引き出せるのは前で出る上の必須条件といえなくもないくらいである。ちなみに三笘は昨季終盤くらいからオフザボールの質が非常に高まっているように思う。ダミアンのポストとセット売りで。

 しかし、『静』の状態を作り出せる選手は少ない。相手と正対した状態で、味方の動き出しを待てるタメを作れるのは三笘と家長くらいだし、ポストでピン止めが出来る選手はダミアンと家長くらい。今のスタメン3トップが抜けると攻撃が厳しくなるのはこの静の役割がぼやけるから。試合終盤の攻撃がきつくなるのは静を作ることなく前に突き進むことで、チーム全体を押し上げる攻撃が出来ないからである。

 話が逸れました。まとめると川崎が同サイドに人を集めるのは相手を止める人、動かす人のパターンを同サイドのハーフスペースと大外の両方で持ちたいから。そして、ここの選択肢を増やすことで相手に狙いを絞らせないためである。ちなみに、デメリットは守備に転じた時に大きな展開を許すと脆いことと、オフザボールの動きを誰もしなくなると単に足元祭りになって相手を動かせないことである。

■中盤の分断が狙い目

 飲水タイムを挟んでペースはさらに川崎に。前半の終盤は非保持のプレッシングをきっかけに攻勢を強める。ハイプレスという言葉があるけども、この試合の川崎がハイプレスにあてはまるのかは微妙なところ。前線がフルスロットルで追い回す『ハイインテンシティ』なプレスではないものの、『ハイライン』で高い位置からプレスに行くことは間違いなかった。

 2点目のゴールは高い位置からプレスに行ったご褒美のようなシーン。市川には十分に時間があったし、大外の前嶋への浮き球もしくは中盤の瀬古への速いグラウンダーへのパスを通すチャンスはあったが、判断が遅れた分パスをひっかけてしまい、痛恨の失点につながってしまう。

 川崎はプレッシングで同サイドに閉じ込めることさえできれば中盤まででボールを回収できていた。特にシミッチの横への移動が効いていた。ボールサイドに忍び寄り、閉じ込めた先でのボールハントは好調。機動力に難はあるけど、守備力が低いわけではないことを川崎では証明している形だ。

 横浜FCの保持での崩しのポイントはざっくりと2つ。1つは武田が家長の裏で受けること。ここはある意味川崎的にはデフォルトで狙われる部分ではある。同サイドのIHが根性で対応するのがもはやお決まりになっている。

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 もう1つは川崎のIHの包囲網を潜り抜けての前進である。イメージとしては中盤をばらしてしまう形。たとえば34分。三笘の決定機の後のシーンだ。川崎のプレスは田中碧が大外まで出ていく。内側では旗手が手塚へのボールハントを試みようとするが、降りる素振りを見せるジャーメインのせいで手塚を離す判断に。ジャーメイン、いい走りです。

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 これにより手塚からクレーベへのポストを許した川崎。実際にこのあとは横浜FCはクレーベは大外にパスを逃がすが、シミッチを引き付けた分、がら空きになっている逆サイドに走りこむ瀬古に落とせれば、横浜FCはよりスピーディーにゴールチャンスを迎えられたはずだ。

 よって、川崎の中盤のばらし方としてはIHの2人を縦に揺さぶり、アンカーのシミッチを横に揺らすやり方が効果的といえるだろう。このシーンではそのやり方が実現しかけた場面である。

 ただ、横浜FCは後方の可変が少なく、そもそもズレを作りにくかった。外切りのWGプレスの影響か、バックスの足元の問題も相まって、大外にまずボールに逃がすことが出来ず、内側にパスを通しては川崎に回収される繰り返し。主導権を握り返せないまま2点ビハインドでハーフタイムを迎えることになった。

■修正が完璧にハマった反撃弾

 後半は横浜FCはシステム変更を実施。5-3-2か5-2-3というべきか。守備においては5-3-2色が強かった。おそらく、川崎の前半の基準となった大外をきっちりつぶすことだろう。後方に人数を揃えた横浜FCだったが、あくまでそろえたのは横の方向。縦への脆さは解決されていない。

 それを突かれてしまったのは川崎の3点目。中盤のボールロストの仕方が悪かったため、大外の家長へのアプローチが遅れてしまった武田。パスを出す余裕を与えてしまうと、ニアに抜けた山根に中塩がついていけず。最後は抜け出しのタイミングを合わせた三笘にアシストを決めて追加点を奪った。

 プレビューでも触れた通り、横浜FCはCBの行動範囲は狭くしていきたいタイプのチームなので、こういうCBの駆け引き勝負になってしまうと少しシビア。とはいっても、この場面ではボールを失うところから始まっているので、大外の武田になんとかしてよ!というのは厳しい。少し秩序が乱れると一気に苦しくなるのが横浜FCの現状である。

 ちなみに横浜FCの5バックはめちゃめちゃ引きこもってのライン設定ではなかったからか、川崎は相手のDFラインに張りながら裏抜けを狙う選手がやたら数が多かった。

 攻撃面での横浜FCの5バック採用は効果が高かった。ボールの起点に両ワイドのCBが機能するようになると、徐々に前線の守備が効きにくくなる。そもそも相手の最終ラインに広がられてしまうと、川崎のWGの外切りプレスはカバーできる角度が狭くなる。パスを出せる方向が幅広くなったCBを起点に横浜FCは川崎を内に外に振ることで中盤を無力化する。

 前進の段階で効果的だったのは松浦。3センターの一角ともつくし、3トップの一角ともつく曖昧なポジションで旗手に混乱を引き起こしていた。横浜FCは後半にシミッチの脇で起点を作る意識が高く、右は松浦が、左はジャーメインが前を向くことが出来ていた。

 横浜FCの得点の場面は後半の狙いが完璧にハマった。旗手は前にプレスに行った分、松浦を後方に受け渡したつもりだったのだろうが、三笘と登里は同タイミングでオーバーラップをした前嶋の受け渡しに気を取られたせいで松浦へのケアが遅れてしまった。

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 ここから横移動でシミッチを外し、逆サイドに展開した後の武田のフォローのタイミングも完璧。最後のクレーベのファーに競りかける動きは立ち上がりからよく見られたシーンであるが、プロセスを改良したことでこの最終的な着地点がより強力なものになったイメージである。

 しかし、終盤になると横浜FCはガス欠が目立つように。交代選手が遅かったことを見ると、ちょっと選手の層の部分で辛い部分があったのかもしれない。松尾みたいにサイドを1人で何とかできるアタッカーがいれば。早くコンディションを上げて欲しいところだろうが。

 交代選手で攻守にスピードアップが出来なかった横浜FC。小林、脇坂、長谷川、遠野の投入で今度はインテンシティの部分をONにした川崎を前に徐々に支配力を失っていく。1点は取られたものの、強度を引き上げることで終盤は逃げ切った川崎。10日ほど後に再びぶつかる両チームだが、まずは川崎がホームで先勝を決めた。

あとがき

■素直な展開で見えた収穫と課題

 展開に素直な試合だったと思う。主導権が打ち手によって変わっていくし、それは選手交代やそれぞれの狙いに合わせてもきっちりハマった時は点を取れるし、そうでないときはピンチに陥るという理不尽さが少ない試合だった。横浜FCの修正も川崎の中盤に狙いを絞らせずに、ばらすことが出来ていたのでとてもよかったように思う。

 川崎もスローな展開から一気に加速で先制点を得たのは大きい収穫。逆に、本文中における『静』の部分を作れる人が限られているというところと、ゲームクローズのところをガッツリ馬力で押し切った感があるので、手なずけながらクローズするやり方は現状のスカッドでは難しいんだろうなと思ったところであった。

今日のオススメ

 23分の小川を止めた谷口。高さ的な強度では少し難があっても、広いスペースの管理能力は今冴えている部分。代表戦でもこういう部分を活かせる部分が出てくると。

見返しメモ

 今週はわけあって直リンクだ。すまん。

試合結果
2021.5.22
明治安田生命 J1リーグ
第15節
川崎フロンターレ 3-1 横浜FC
等々力陸上競技場
【得点者】
川崎:19′(PK) 家長昭博, 28′ 田中碧, 47′ 三笘薫
横浜FC:63′ クレーベ
主審:飯田淳平

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