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「名古屋式4-4-2攻略の3ステップ」~2021.4.29 J1 第22節 名古屋グランパス×川崎フロンターレ レビュー

スタメンはこちら。

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目次

レビュー

■対名古屋色が強かったボール保持

 この試合は最高の盾と最高の矛の対決という名前で銘打たれていたようである。なんかこの試合は銘打たれやすいカードな気がする。風間ダービーとかね。

 まぁ、それはさておき確かにこの試合においては名古屋の非保持に対して川崎がどう立ち向かうかがポイントになる。名古屋の非保持のポイントはプレビューにまとめた通りである。

 結果的に川崎は名古屋の4-4-2を解体することに成功したのだが、いかにして名古屋を攻略したのかについてまずは見ていく。ちなみにだけど、この日の川崎は名古屋への対策色が結構強かったように思う。

 名古屋を4-4-2攻略においてのポイントは以下の3つである。

1. 2トップをどかす。
2. 4-4ブロックから人を引き出し、空いたスペースを使う。
3. エリア内に勝負できる部分を作る。

 まずは名古屋の4-4-2についてである。この日の名古屋の立ち上がりはボールサイドに圧縮をかけつつ、4-4ブロックのメンバーは飛び出しを自重する。やり方としては個人的には思いつきうるベストなやり方で名古屋は臨んだように思う。

 では、その名古屋に対して川崎はどのように対抗したかについてみていく。川崎のこの日のコンセプトは『DF-MFのライン間のスペースを最大限に活用すること』である。プレビューでも触れた稲垣や米本を引っ張り出したスペースの活用について下図のように述べたが、このスペースのようにDF-MF間のスペースに入り込むことがこの日の川崎のやり方の中核を担う。

 このコンセプトに基づいて、3つのステップを踏んだのがこの日の川崎である。

1. 2トップをどかす。

 名古屋のプレッシングの特徴は数合わせである。2列目の4-4ブロックから稲垣や米本を引き出しても、1列目との距離が近ければカバーリングに入られてしまう。プレビューで紹介した以下の図のように。この図では齋藤学がトップ下の想定で書かれているが、実際には柿谷曜一朗がこの役割を務める。

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 なので川崎としてはまずはこの2トップをどかして4-4ブロックから遠ざけないといけない。川崎がこの日まず狙い撃ちしたのは名古屋の右のハーフスペース。ちょうどこのレビューの1枚目の図で示した部分である。そのため初手のキーマンになっていたのが山根だ。

 立ち上がりの川崎はとにかく右からの攻めが多かった。特に右のIHの田中碧が右の大外に開くのが目についた。これに対して名古屋は2トップがこのサイドに流れ、2列目もスライドする。

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 山根がこの日低い位置でボールタッチを行ったのは確実に名古屋の2トップをこちらに引き寄せるためである。川崎は右にプレス隊を誘導したのち、左に展開し、このサイドの中盤から人を引き出すことで従来ならばカバーに入れるであろう1列目を2列目から引きはがしている。最もわかりやすいのは2:30付近の場面。山根が引き付けたプレス隊を尻目に谷口に長いボールをつけている。

 この日の山根はプレーエリアが低いことが話題になっていた。彼が低い位置にいることは相馬に対するカウンター対策の側面も当然あるだろうが、保持におけるプレス隊の右サイド誘導(オーバーラップしてしまうとプレス隊には放っておかれてしまう)と、決めに行くのが川崎の左サイドからという部分もあったはずだ。

 余談だが、この日の川崎は相手陣に進んでからのサイドチェンジが少なく、密集を意図的に作っている節があった。おそらくその理由はネガトラ対策。ボールを奪われたとしてもその場で即時に囲むことができればダメージは少ない。名古屋のアタッカーが躍動するにはスペースが前提だし、後方の選手は川崎ほどはスモールスペースでのボールスキルがない。仮に失敗しても川崎に有利な狭いスペースでのトランジッションになるように誘導していた。前半にいい形での名古屋のカウンターが数えるほどだったのは、川崎が密集でのパス交換にこだわったからこそだと思う。

2. 4-4ブロックから人を引き出し、空いたスペースを使う。

 2トップをどかす手順を踏んだら次のステップは4-4ステップの攻略である。原則としては4-4ブロックの手前で前を向いた選手にはまずはライン間の選手に通せるなら通す!というプレーを狙っていたように思う。この場面では引っかけてしまうと最終ラインがカウンターに晒される形になるので、ホルダーがフリーで高い確率で楔を受けるところにこだわってボールをつけていた。

 ただ、4-4ブロックをコンパクトに維持されている場合もある。その状況においては2列目を引っ張り出す動きが必要になる。同じく2:30のシーンがいいサンプルになる。旗手が降りる動きで稲垣を釣りだす。

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 いわゆるこのレビュー1枚目の図で触れたスペースがこの旗手の動きによって晒されることになる。このスペースが引き出された場合のみ、川崎はこの場面の旗手のように、半身の状態で前につけるギャンブル性の高い体勢での楔が多く見られた。裏を返せば、この場面の旗手の動きに対して必ず川崎の選手が1列前に入る動きを見せるということである(この場面では登里が侵入する)。

 ややギャンブル性の高い楔が推奨されているのはここから先は攻略のスピードが問われるからだ。繰り返すが、名古屋のブロック守備は数合わせが第一優先。うかうかしているとリトリートされて空いたスペースは埋められてしまう。したがって、この空いたスペースは素早く攻略する必要があった。

 ちなみに前半の給水タイム以降によく見られた形ではあるが、三笘がこの位置に入り込んでしまうと、SBを引き連れてきてしまうので数の論理が働きにくくなる。なので、彼には大外を取ってもらうことが好ましい。

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3. エリア内に勝負できる部分を作る。

 先制ゴールで感じた違和感こそがこの日の川崎が名古屋対策であると感じた理由である。まずはダミアンの位置。どちらかと言えば彼は左サイドに流れ、三笘と近い位置に立ちコンビネーションで打開するプレーを特徴としている。

 しかし、この日のダミアンは右サイドで吉田に競りかけるような立ち位置でクロスを待ち受けていた。もしかするとこれまでの下準備(右で相手を引き付け、左を攻略する)はこの最後の形ありきで決まっていたのかもしれない。空中戦対策として先発された右のCBの木本もこれではできることがあまりにも限られている。

 もう1つ、ゴールシーンで気になった部分は登里が非常に高い位置を取っていたこと。ゴールシーンに限らず、登里はインサイドの高い位置を取る機会が多かった。ここから類推される約束事は4-4ブロックの手前に立つ人数を少なくすることである。すなわち、手前に多く立つくらいなら本来攻略したいライン間に少しでも人を置きましょうということである。

 先制点のシーン、ブロックの手前に立っている家長の立ち位置に必要な選手は1人でいい。その代わり、ライン間には旗手と登里という2人の選手をかけることができる。

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 このゴールはとても芸術点が高い。三笘⇒ダミアンのルートを作り、その落としを受ける選手がいればチェックメイト。登里は裏に抜ける動きで木本と米本を引っ張る。木本をどかすことにより三笘⇒ダミアンへのルートは空くし、米本をどかすことでバイタルを空けてダミアンの落としを受ける選手の入りこむスペースを空ける。

 旗手はそれに呼応し、自身のマークマンであった稲垣から離れるようにバイタルに移動。稲垣とのマッチアップを制した三笘がダミアンへのパスを開通させた時点で全ての下準備が整っていたゴールである。美しい!一応図示してみたけど、これは普通に動画を見てください。

 家長のオーバーロードに目が活きがちだけど、これも攻略するルートを定めたからこそ。そしてライン間に入る人数を2人に増やしたことにより、パスコースの創出(登里)とフィニッシャー(旗手)の役目の両立に成功したのである。

 登里のフリーランでのサポート能力の高さは随一で、2点目のシーンにおいても内側を走ることでクロスを上げた家長へのマークを分散している。40分の動き出しとかも見てほしい。自身がパスを出したシミッチの向こうから米本が見えてくることを把握して2,3手先のポジショニングをとることができる。

 旗手も相手の死角で進路を細かく変える動きが秀逸で、狭い範囲でのパス交換からベクトルを次々変えていくこの日のプランにベストマッチ。名古屋のDF陣は目が回りそうだったのではないだろうか。

 ダミアンへのファーサイドへの競り合いやPAでのポストを機能させるために、このように左サイドではライン間での駆け引きが細かく行われていたのである。それにしてもこの日のダミアン、DFラインゴリゴリ押し下げていたな。名古屋がラインが上げられないのも無理はない。

■強いられた感のあるシステム変更

 名古屋のボールの保持は自陣に押し下げられた状態からの物が多かった。よく見られた形は右サイドから外切りにプレスに来る三笘を外し、SBからマテウスにボールをつけて、内側の柿谷を経由し、逆サイドの相馬にオープンな形で届けること。

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 ただし、速いテンポでプレーをつなぐ必要があり、かつ限られたルートでの前進が目立ったので、川崎に先読みされる場面も。特にマテウスから柿谷へのボールはシミッチが狙い撃ちしていた。

 リードを3点奪った川崎のプレスがやや落ち着きミドルゾーンに構えるようになると、名古屋はいつものようにCBとCHからフリーマンを作り、楔や裏を狙っていく。だが、ここは川崎の最終ラインが前を向く状況を簡単に作らせず。名古屋はセットした形からは攻撃パターンを作ることができなかった。

 名古屋は30分に山崎、宮原を下げて長澤と成瀬を投入する。マテウス、相馬は内に絞り大外にSBが高い位置を取る頻度を増やす。ただ、この交代に伴う4-1-4-1気味のシステム変更はあくまで守備におけるライン間を締めるための意味合いが強い。攻撃においては4-1-4-1は3枚同士で川崎の中盤に対して噛み合う形であるし、アタッカーが前を向く手助けの仕組みが入っているわけでもない。純粋にアタッカーが少なくなった分、相馬とマテウスの負荷は上がったように見える。

 個人的には山崎を下げるかどうかは微妙なところだたt。というのもこの時間から三笘がやたら内に絞る傾向が強まり、川崎の大外を取るというチームとしての意識が薄まったから。名古屋は4-4ブロックのままでもこの後はうまく守れたかもしれない。そこは賭けになるけど、3点を追いつく姿勢としてはそこしかないかなと思う。もっとも、マテウスは徐々に戻りが遅れていたし、その分の手当てという意味では長澤を投入する妥当性は十分にある。ただ、得点を狙う姿勢としてはやや遠回りした感が否めないのも事実である。

■気になるバランス悪化

 前半の終盤からは名古屋の奮闘が光った。特に存在感を放っていたのはカウンターの起動装置となるマテウスからのボールを受ける柿谷と長澤。柿谷は個人的には『名古屋には絶対合わなさそう』と開幕前に思っていたのだが、守備における実直さとオフザボールに汗をかくという意外な方向でフィットしたのには驚きである。

 長澤もシステム的には妙手とは言えない形で投入されたが、個人としてのパフォーマンスは悪くなかった。特に73分のターンは秀逸。相馬とマテウスに加えて彼らが高いパフォーマンスを発揮することで、少なくとも相馬が下がったタイミングまでは名古屋には得点の空気を感じることができた。

 名古屋のカウンターの可能性を感じさせたのには川崎側にも責任がある。後半の川崎は田中と旗手の左右のIHを入れ替えた。左の大外を田中が賄うことで、三笘が内側に入る動きは正当化されたように見えるが、逆サイドの家長も内側に寄ってきているのでちょっとポジションバランスが悪いように見える。

 例えば、62分の家長のシュートシーン。3トップの動きが美しく連携したシーンだが、直前のプレーを見ると両IHは共に左サイドにいる。加えて両SBも高い位置を取っているため、仮にシュートを完結できなかったらシミッチが広大なスペースのカバーリングを丸投げされたであろうシーンである。

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 攻撃は水物なので、こういう部分で隙が出てくると名古屋にもチャンスが出てくる。細かい話は等々力でのリターンマッチでのプレビューで書くことにする。

 それでも4点目が入ったのは川崎の方。米本は外に誘導するように脇坂に対峙したが、誘導した先にいる遠野はフリー。高い位置を取る成瀬の戻りが間に合っておらず、誘導が裏目に出たといえる。シュートは最高

 川崎は4得点で完勝。まずは第一ラウンドを制して等々力でのリマッチに備えることになる。

あとがき

■プランと実行力に脱帽

 本文が長いし、言いたいことは次のプレビューに書けるので少しだけ。初見では名古屋の守備にブロックの拙さに先に目が行ったが、紐解いてみると川崎が多くの仕掛けを施しており、それが10分までの得点につながった試合に思える。名古屋のブロック守備におけるスピードダウンに屈せずに攻撃を完結させた精度は見事。あとはこの制御の時間がどれだけ続くかである。チャンスができてもなかなか点は入らないこともあるからね。いずれにしても素晴らしいプランと実行力で首位にふさわしいゲームを見せたのは間違いない。

今日のオススメ

 2点目の少し前のソンリョンのフィード。だから蹴るのは上手いって言ってるじゃん!でも、そういいだした時よりもうまくなっているかもしれない。

観戦メモ

    試合を見返しながら思ったことをダラダラとリンク先のツリーで。より流れにった形で。

試合結果
2021.4.29
明治安田生命 J1リーグ
第22節
名古屋グランパス 0-4 川崎フロンターレ
豊田スタジアム
【得点者】
川崎:3′ 旗手怜央, 10′ 23′ レアンドロ・ダミアン, 84′ 遠野大弥
主審:荒木友輔

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