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「得点で一変した正義」~2021.4.23 プレミアリーグ 第33節 アーセナル×エバートン レビュー

スタメンはこちら。

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目次

レビュー

■前進がスムーズにいかなかった理由は?

 両チームともソリッドな立ち上がりだった。互いにプレッシャーは早く、動きは激しい展開に。保持の局面においてより効いていたのはアーセナル。ジャカ、マリ、ホールディングの3枚に対してリシャルリソン、キャルバート=ルーウィン、ハメスがプレスを積極的に欠けたエバートンだが、アーセナルは長いボールを交えながらプレス回避する。エバートンの中盤の裏のスペースでエンケティアが受けることでプレスをいなすことに成功する。

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 アーセナルが直近で取り組んでいるジャカのSBシステムにおいて攻撃のルートを決めるのは右のCH。この試合で言えばトーマスだ。左のCH(主にセバージョス)は同サイドのSBであるジャカが低い位置を取る分、高い位置にサポートに入る役割を担う。その分中央における逆のCHの裁量は非常に大きい。ここに入るトーマスがどこにどのような配球をするかでアーセナルの攻撃のルートが決まる。

 好調だったシェフィールド・ユナイテッド戦、スラビア・プラハ戦はジャカが左サイドでボールを引き付け、中央のトーマスにボールを預けて素早く逆サイドにつけるというやり方でが効いていた。フルハム戦ではこの役割をエルネニーが務めたため、逆サイドへの展開のスピードが足りなかった。だが、トーマスならばこの課題はクリアできるため、エバートン戦では期待がかかっていた。

 しかしながら、この日はそこまで左から右への展開がスムーズにいかなかった。この理由はエバートンの2列目の撤退の速さにあるように思う。トーマスの右サイドへのパスが2列目を超える役割を果たしていたため、シェフィールド・ユナイテッド戦はうまくいった。だが、この試合は同サイドの2列目のアンドレ・ゴメスとシグルズソンが同サイドをクローズするのが速く、トーマスの逆サイドへの展開が列を超える役割を果たさなかったため、右サイドでの崩しにつながらなかった。

 仕組みとしてはまずバックスが縦パスの受け手にタイトに当たり、ボールのコントロールをゴールとは逆方向に仕向け、プレスバックしたSHと挟み込む時間を作る。

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 こうして攻撃のスピードダウンを誘う。特にスミス=ロウのようにパスをつなぎながら攻撃を加速させる選手にとってはこのやり方は効果があった。相手の2列目の加速を防ぎ、自分の2列目を整えてラインを越させない。アーセナルがスムーズに最終局面に進めなかったのはエバートンの2列目の献身性が大きな要因だ。

■気になる全体のバランス

 一方のアーセナルにも一応打ち手はあった。それは左サイドからの前進である。この日先発だったペペはマルティネッリに比べると保持におけるレパートリーが多い。

 ペペは球持ちがよく、SBのコールマンと駆け引きをしながらラインコントロールをすることができる。なので、アーセナルはこれまでの2試合とは異なり、人が少ない左サイドでも裏抜け以外の保持で起点を作ることができた。

 ただ、この日気になったのはそれぞれのサイドにおける前進の手段ではなく、前進の際の陣形全体のバランスである。アーセナルの保持において問題となったのは選手間の前進の速度にギャップがあったこと。例えば、ある選手が縦に進んだとしても、逆サイドやPA内に人が揃わずに結局は攻め切ることが出来なかったりする場面が多かったことである。アタッキングサードにおける局面が進まないサイドチェンジが散見されたのはこの両サイドのギャップが整理され切らないではないかと思う。

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 そうなると全体が押しあがった状態でボールを前に進めないといけない。トーマスの縦パスが一撃必殺感が増してきたのはそれゆえで、効果的なものも多かった反面で引っかける頻度も少なくはなかった。そのトーマスの縦パスを引き出すアシストをしていたのはエンケティア。降りる動きと受ける際の前方向の動きを組み合わせることで相手を反転で交わしながら前を向いて攻撃に移行することができていた。正直、こんなできるとは思わなかった。後半は沈黙気味だったが、前半のエンケティアの出来は特筆すべきものがあった。

 エバートンとしてはある程度保持は許してもOK。休養明けで本調子ではないものの、キャルバート=ルーウィンはロングボールを収める能力が高く、一発で陣地回復が可能。飛び道具がある彼らにとって、陣地回復に保持率は不要である。

 ゆったりとした保持はハメスとシグルズソンという2列目の列落ちが中心。間受けと直線的なゴールに向かうオフザボールが中心で、プレビューで指摘した大外からのクロスはそこまでは多くなかった。

 この日はハメスがやや左に流れることが多く、ディーニュとの長いレンジでのパス交換が少なかったことから、いつもよりも大きな展開による横の揺さぶりは少なめだった。その分、エバートンは攻撃における決定打にやや欠けたように思う。

■『持てるけど進めない』から『持てればOK』に

 互いにスコアレスで迎えた後半。ペースを握ったのはどちらかと言えばアーセナルだった。エバートンは保持では押し上げられず、非保持では前からのプレスを交わされるという苦しい展開。押し上げられない状況を非保持で無理に押し上げることでアーセナルに交わされる事象が目につくようになる。ハメス、シグルズソンが列落ちをすれば保持自体は安定するが、前進はできないというジレンマに陥っていたエバートンであった。

 こうなると前半に前を向けなかった縦パスを受ける選手はスピードに乗る状況を作れるようになる。エバートンは徐々に警告を受ける選手が増えていくようになる。

 こうした状況を一変させたのがエバートンの先制点である。長いカウンターからリシャルリソンが誘発させたレノのミスはアーセナルに重くのしかかる。これによりエバートンの『持てるけど前進できない』というタイスコアでは歓迎できない状況が一変して正義になる。先ほどまではダメだったプレーがある出来事を境に正解になるというのはなかなかに残酷。

 アーセナルとしてはエバートンを徐々に壊しかけていたのだが、先制点を得た終盤には再びトーンダウン。サイドで違いを見せることができたペペが交代で下がったことや、他の選手交代に伴いサカがあらゆるポジションに移ることで保持における威力が半減。打開できた前節とは異なり、後ろを固めるエバートンにはアーセナルはなす術がなかった。

■勝利に足りなかった部分は?

 ここからはアーセナルの保持の問題点について深堀していきたい。勝手に前進を4段階に振り分けながら考える。

1. プレス回避
2. スイッチON
3. サイド打開
4. PA内での動き

 少し各項目について定義の説明。

1. プレス回避

 相手の1列目のプレスラインをどう回避するか。

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2. スイッチON

 相手の2列目を超えるパスが入ること。

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3. サイド打開

 相手陣に踏み込み、ラストパスを入れる準備が整うこと。

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4. PA内での動き

 そのまんま。シュートを撃つためのボックスの人の揃え方、あるいは相手DFとの駆け引き。

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 以上が前進におけるフェーズの仕分け。まず、エバートン戦のメンバーでは4が最もボトルネックになる。エリア内での動きに長けているラカゼットとオーバメヤンという2枚看板はこの試合では不在。ビジャレアル戦でも起用可能かが不明である。

 2枚看板を抜きで考える場合、4のフェーズの試行回数を増やすことを念頭に考えないといけない。少ないチャンスを活かして得点する考え方の優先度を下げるべきだ。エンケティアやマルティネッリがCFに入る場合はラカゼットと同じ得点機会で仕留めるのは難しい。

 したがって、アーセナルは2や3のフェーズの質をより上げて、PA内での試行回数を増やす必要がある。この部分はある程度スカッドでの伸びしろだと思う。実際にエバートン戦ではトーマスを中心に縦パスを通した!と思っても、相手の2列目のプレスバックが効いていたためトーマスはこの前進の役割を担うことができなかった。本当は縦パスを受けた選手へのサポートを早くしたかった。どの選手が出てもここのSBのフォローのところは物足りないので、SBと2列目のタイミングが合えば列を越えたり、サイドを打開できる機会を増やすことができると思う。

 なのでエバートン戦は2や3のフェーズの質が足りずに、4のゴールに迫る部分の頻度が少なかったことと、ゴールに迫ってもシュートが相手DFに当たってしまうなどPA内での動きの質が低かったことが問題になると思う。

 ちなみにジャカのSB起用の発端は1の低い位置でのビルドアップの強化。セドリックが左で起用された際のプレス耐性の怪しさから、まずはハイプレスで引っかけてみようとプレスに来る相手を引き込むやり方である。

 ここから先のELのラウンドにおいては、この試合の問題点も参考にどの要素を強化する用兵をしていくかを注視していきたいところ。個人的にはセドリックがSBで、ジャカが中央に入ったときの1~3のバランスを見てみたかった。セドリックでサイド攻撃が活性化したり、あるいはパススピードの速いジャカが中央に入ることでパススピードや展開の部分でトーマスのサポートになったりするのではないかなと思う。

 セドリックをSBに、ジャカをCHに入れる変更を実際に行ったとすれば、1が弱くなるけど、2,3がよくなるような気がする。なので相手のプレス強度を見てそれを変えていくとかそういう部分をここ2試合のPLで試してほしかったのが本音である。

あとがき

■ELの糧になれば

 あー、これで負けてしまうのもサッカーなんだなという試合だった。エバートンの撤退のスピードはここ数試合の中では間違いなく一番ソリッド。前半に決定機を作れなかったのは相手を褒めるべきである。キャルバート=ルーウィンがいれば全体の重心が下がろうが、陣形を回復できるしね。

 ただ、後半のPK取り消し後から失点までの流れは、エバートンのカウンター対応の部分を殴りながら徐々に決壊に近づいていた感覚があるので、流れが続いていればなという気持ち。後半はエバートンの前進がうまくいってなかったしね。いや、もっと短時間で仕留めないとだめでしょと言われたらそれはもうその通りです。

 ビジャレアル相手には90分の中で保持における1~4のバランスを変えながら、相手の弱いところを殴っていく必要がある。1stレグは慎重に入るやり方もあるけど、アウェイ開催なのでできれば積極的な試行錯誤をしてほしい。ここで躓いたとしても、ELで結果を出すための糧にしてくれればサポーターの溜飲は下がるはず。チームとしてはいい流れとは言えないが、いよいよ今季の成否を大きく分ける運命の180分にアーセナルは立ち向かうことになる。

試合結果
2021.4.23
プレミアリーグ
第33節
アーセナル 0-1 エバートン
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
EVE:76′(OG) レノ
主審: ジョナサン・モス

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