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「受け入れられた攻めの核」~2021.4.6 UEFAチャンピオンズリーグ Quarter-Final 2nd leg パリ・サンジェルマン×バイエルン レビュー

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レビュー

■亜流なパリの保持の理念

 最低でも2点を取らなくてはいけないバイエルン。ビルドアップの際のバイエルンはバックス4枚を大きく動かさず、アラバとキミッヒという両CHが縦の段差を付けることでビルドアップの部分は工夫を付ける。

    パリはムバッペとネイマールの両FWに頭から積極的なプレスを要求しなかったので、組み立てで大きく配置を動かさなくてもOKという状況。無論、そのためにボールを運べるアラバとキミッヒをこの位置で起用したのだろうけど。ちなみにこの日はアラバが前、キミッヒが後ろという形が多かった。

 基本的に立ち上がりのバイエルンは安全第一だった。攻撃の主なパターンはパリのラインを越えることよりも、ラインの手前で対角なパスを右のWGのサネに送るところから。後方の4枚を動かさないビルドアップも含めて、パリの超高速カウンターに備えたリスク低減を図っているように見えた。

 この場合、点が欲しいバイエルンにとって問題になるのは全体を押し上げる局面をどう作るかである。ボトルネックになるのはレバンドフスキの不在。直線的にゴールに迫れるFWへのロングボールが使えず、アバウトなクロスも通用しないとなれば、サイドの崩しの質をどうやって高めるかが重要になる。

 となるとSBの上がる時間をどうやって稼ぐのか?がポイントになる。理想なのは1stレグでミュラーのゴールをアシストしたパヴァールのクロスのような形だが、単にバックスから対角パスを投げるというこの日のバイエルンの配球の指針だけでは全体が押しあがらない。SBがオーバーラップする時間も、CHがエリア内に助太刀に行く時間も得ることが出来ない。パリに常にカウンターの刃を突き付ける中で、この命題をどう達成するかがバイエルンの前半のポイントとなった。

 一方のパリは非常に割り切っていた。ゴールキックとビルドアップは長いキック一辺倒。ほぼ捨てていたようなもので、攻撃における組み立ての要素は皆無。ムバッペとネイマールにひたすら勝負する機会を与えることでバイエルンに立ち向かう。

 その状況でにらみ合いが続く中、試合が動き始めたのは20分。バイエルンがプレッシングを強化し、敵陣から追い回して圧力を高める。これがバイエルンなりの相手陣での人員を確保したまま攻撃につなげるという命題に対する答えなのだろう。

 これに対するパリのリアクションは面白かった。ボールを奪い返した直後、相手にプレッシャーをかけられた場合は彼らはつなぐことを選択する頻度を大幅に上げる。普通は逆だろう。プレッシャーがかかっているときは遠くに蹴るし、かかっていないときは1枚ずつずらしながら進む。この試合のパリはその真逆。プレッシャーがかかっているときはつなぐし、かかっていないときは遠くに蹴るというのが傾向として見られた。

 おそらく、これは決めたい形から逆算したものなのだろう。普通はバックスの足元を大きな要素として、ビルドアップで蹴っ飛ばすかつなぐかを考えるものだが、FWが走るスペースの有無を基準として考えたら発想は真逆になる。1枚ずつ剥がしていけば後ろに入り込むスペースは相対的に小さくなるし。前から1枚1枚剥がすことが出来ればアバウトに蹴らなくても前進するだけでDFラインの背後にスペースができる。そういうパリの算段だったのではないだろうか。

 そして、実際にパリの見積もりは当たる。バイエルンが前に来るほどパリにはカウンターのチャンスが広がることに。パリ陣営に誤算があったとすれば、このカウンターの仕上げ役であるネイマールのシュートの精度がさっぱりだったことだ。まぁとにかく入らない、クロスバーにぶち当てるシュートが3つあれば1点みたいな銀のエンゼル的要素があればよかったのだが、残念ながらサッカーにはチョコボール方式は導入されていないので、パリはゴールを得ることが出来なかった。

 トランジッション局面を増やしたことで恩恵を受けるのはパリだけではない。パリの攻撃もバイエルン同様、前のみで完結する類のものなので、バイエルン側も間延びした陣形を使えるのである。バイエルンはネイマールが迎えた決定機の直後のカウンター返しで好機を得る。最後に仕上げたチュポ=モティングは1stレグに連続得点。流れに沿って先制点までゲットしたバイエルンに対し、ネイマールは昨季のCLがフラッシュバックするシュートミスのオンパレードだった。

■制限が多いバイエルンの思惑

 後半に入る前にもう一度バイエルンの状況を整理したい。1stレグはホームで2-3で負けている。勝利には最低2点が必要。すでに1点は手にしている。勝ち抜けのためには最低でももう1点、パリがカウンターから一度でもあたりを引けばもう2点が必要になる。

 加えて、この日の彼らのベンチメンバーは7人。登録上限の12人を大きく下回る苦しい台所事情である。控え選手たちは軒並みトップ経験が少ないメンバーだった。特に攻めの核であるWGのサネとコマンはなるべく90分引っ張る必要がある。

 ここからは想像だが、おそらくまず延長戦は避けなければならないだろう。早い時間にパリに攻勢をかけられて撃ち合いになれば3-2というスコアはあり得るものである。これらを加味すれば交代選手に乏しいバイエルンが後半頭からフルスロットルで行くにはリスクがある。

 なので『パリにゴールは与えず』『バイエルンは目標に少し近づき』『かつ依然点が必要なのはバイエルン』という前半終わっての状況は、非常にバイエルンにとっては理想的なものだったように思う。試合の展開を決めるのは多くの場合、点が必要なチームであることが多いからである。

 したがって後半頭のバイエルンはポゼッションの時間を増やしながら、時計を進めることを優先していた。もちろん、あわよくば点は取りたかっただろうが、まずはパリの攻撃の機会を減らし、自分たちが勝負の2点目を決めるタイミングを見計らっていたように思う。

 パリもこれを受け入れた形。ムバッペとネイマールが自陣に戻る守備を行わないため。バイエルンとしては容易に保持のやり直しがきく形である。ただ、15分も経つと徐々にパリがエンジンがかからないように見えてくる。具体的にはカウンターに打って出るときの精度が怪しくなってくる。

   前半はネイマールが積極的に降りることでカウンターの起点としての役割を果たしていたのだけど、後半はつぶされたりそもそも降りてこなかったりなど、バイエルンの攻撃の終わり方の都合でカウンターの機会を得たとしても前にうまく進めなくなってくる。したがって、攻守の切り替えのテンポを上げられずバイエルンのペースに試合は流れていったように見えた時間帯だった。

    しかし、バイエルンにはもう1点を取るというミッションがある。そのため、どこかで火力を上げる必要がある。個人的には68分のコマンのシュートがここから勝負をかける!という合図だったように思う。

    勝負の時間帯に入るにあたってパリには負傷者や病人だらけのバイエルンと違ってスカッドを活用した様々な戦い方を選ぶ余地がある。彼らの方針として見られたのはSHは内側を切るように守り、バイエルンの攻撃を外に誘導していたということだった。

   特に72分に入ったモイゼ・キーンはこれが顕著。同サイドではSBのディアロが負傷し、バッケルが途中交代で入ったがここでのサネとのマッチアップを受け入れた形である。逆サイドのダグバもすでに警告を受けていたが、ここも手当てせずにコマンとのマッチアップを90分間続けることに。

 カウンターの第三の矢の役割を担うことになったモイゼ・キーンが内側に絞りながら守備していたのはわからなくはないが、ここに来て若いSB2人に相手の最もストロングなポイントのマッチアップをシンプルに任せるのはなかなかにすごいなと思った。

 うがちすぎかもしれないけど、フランスにはバイエルンはいないのでぐんぐん経験値詰ませるにははこういう舞台しかないのかもなとか。考えすぎかもしれないけど、いずれにしてもバッケルとダグバはえげつない経験値を積むことになっただろう。結果的にはサネもコマンも彼らを前に後半に決定的な仕事を果たすことはできなかった。惜しい場面は作ったのだけども。

 最終的にバイエルンはムジアラをCHに、そして1トップにハビ・マルティネスというできる限りの火力を投入。しかしながら最後まで欲しかった2点目を得られることはなかった。というわけで突破を決めたのはパリ。悲願の優勝に向けてまずはベスト4に駒を進めた。

あとがき

■受け入れられた部分で結果を出せなかったバイエルン

 ネイマールはこの日、決定的な得点を奪う働きをすることはできなかった。ポストに当てたり、惜しくも枠を外れたシュートのうちのどれか1つでも入ればバイエルンにとっては非常に難しい展開になったはずである。ただ、この日はシュートが入らない悪循環に入ってもチームのために切らすことなくプレーを続けていた。

 これも想像だけどネイマールからは『勝てなかったら自分のせい、でも突破できれば問題ない』という矜持を感じた。このPSGの座長としての風格を終盤での落ち着きや、守備での戻りから読み取ることが出来た。ネイマールのスキルの数々はもちろんゴールがなくても輝かしいものだが、それ以上にチームと彼自身が大人になったことを感じさせる180分だった。あと黒子としての両CH、特にレアンドロ・パレデスはえぐい。

 バイエルンは後半途中まではこのスカッドで描ける中での完璧なゲームプランだったと思う。特にパリを無得点に抑えるというところは相手のミスと自軍守備陣の奮闘の両輪が揃わなければ土台無理な話である。ボアテング、リュカ、ノイアーのトライアングルはほぼパーフェクトだったように思えた。

 ただ、パリはサイドにおけるサネ、コマンとのマッチアップを許容した部分があった。相手が許容して挑むことに決めた部分で結果を出せなかったのはバイエルンサイドも同じである。そして、1stレグまでその話の範囲を広げれば、甘んじて受けなければいけない攻撃機会の方で隙を見せる機会が多かったのはバイエルンの方である。

 できることはやった上で勝ち抜けなかったということをどうとらえるかは難しいが、1stレグのビハインドを背負ったことも踏まえればバイエルンがパリに屈した夜だったといえるだろう。

試合結果
パリ・サンジェルマン 0-1 バイエルン
パルク・デ・フランス
【得点者】
BAY:40′ チュポ=モティング
主審:ダニエレ・オルサト

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