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「炎天下の『目の上のたんこぶダービー』」~2018.10.7 J1 第29節 鹿島アントラーズ×川崎フロンターレ レビュー

 スタメンはこちら。

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目次

【前半】
両チームの事情

 差し詰め「目の上のたんこぶダービー」といったところだろうか。直近4試合のリーグ戦は川崎の4連勝。昨年末の最終盤には優勝をさらわれた。鹿島にとっては川崎は邪魔で仕方がない存在だろう。
 かといって川崎に対鹿島でのいいイメージばかりがあるわけではない。直近のルヴァンカップでは完敗しているし、16年のCSや天皇杯で川崎の前に立ちはだかったのはほかならぬ鹿島である。大げさに言えば「鹿島を乗り越えずせずしてタイトルなし!」という意識が川崎側にもある。タイトルを前にいつも大きな壁となって表れる象徴的な存在といってもいいかもしれない。

 日程面でいえば中3日の鹿島に比べ、1週間空いた川崎が有利。鹿島もリーグの優勝争いは数字上では可能だが、ACLを残しているためここの取捨選択は難しいところ。前日に広島が負けていたため、引き分けでも前に出れる川崎に対して、逆転優勝ならば全部!勝つ!な鹿島というのも両チームの違いだ。

 そしてとにかく暑くなったピッチ。これも両チームに影響を与えた大きな要素だ。

 【前半】-(2)
3段階構造の鹿島の守備VS大外のエウソン

 鹿島アントラーズの非保持時の特徴といえば、人に厳しく素早くつくこと。素早いチェックで時間は与えない。その代わりプレスが空転した際にスペースは与えてしまうことがある。この試合でも基本はその印象通りだった。ただし、日程が過密だった分、優先順位をつけて局地戦を挑んできたように思う。ここからは3段階に分けて鹿島の守備の狙いを考察したい。

 川崎のボール保持はいつも通り最終ラインが3枚の形がメイン。鹿島の1stプレス隊は2トップなので、川崎の最終ラインは数的有利でボールを運ぶことができた。3対2の形でのボールの前進は2トップの間、もしくは2トップ脇からの2パターンしかない。あるいはロングキックで飛ばすか。川崎はやらないけど。

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 この試合の川崎は②の2トップ脇から侵入する方法で前進していた。特に左サイドから侵攻するパターンが多かった。ただ、これはむしろ鹿島の2トップは①を防ぐのを徹底するために、②をやらせることを許容したというほうが正しいかもしれない。鹿島が嫌なのは、大島のような素早くプレスをいなして空転させることができるプレイヤーにボールが入ること。ピッチ中央でギャップを作られれば即致命傷になるというのが鹿島の認識だろう。2トップが縦関係になってまで間のボランチ(上図でいえば大島)にマンマークに行くほどではなかったが、常にプレスバックで挟み込めるような距離感で守っていた。まずは鹿島の2トップが最優先で間を締めた守備を実践。

 というわけで川崎は2トップ脇から侵入。鹿島の守備はここから2段階目に入る。鹿島の強みといえば両ボランチの対人能力の高さ。2トップ脇からの侵入者は同サイドのボランチが捕まえに行く。刈り取ることができればいうことなしだが、最終ラインに戻させること、もしくは展開を同サイドでとどめることが最低限のミッションとして与えられていたことだろう。特に可動範囲の広いレオ・シルバはこの役割にうってつけ。川崎に時間を与えないように広範囲を動き回っていた。

 3段階目はサイドで対人に負けないこと。単純だがここは重要なファクターだ。特に今季好調の登里を封じた遠藤と安西は見事。左サイドでいい形でボールが届く場面はいくらかは見えたが、ここを川崎は打開できなかった。単騎突破だけではなく、入れ替わりながら打開を図ろうとする登里と車屋のコンビをしっかり封じていたのも素晴らしい点として付け加えたい。川崎からしたら、この日は対人に強い登里が機能しなかったのは痛いところだ。

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 まとめると鹿島の非保持3段階ステップは
1.  2トップ間を締めて間のボランチに受けさせない
2.  2トップ脇からの侵攻はボランチが撃退
3.  サイドでの対人負けない
 この3つで川崎に危険なエリア(中央MFとDFの間)でボールを扱うことを許さなかった。

 じゃあ、川崎がなにもできなかったかというとそういうわけではなかった。鹿島が手を焼いたのはエウシーニョ。中央で時間ができたときの川崎の右サイドの裏だった。左サイドで突破できずとも、引き分けで中央にボールが戻ることがある。8分にポストをたたいたシーンは左サイドで「引き分け」た後、中央の中村から大外のエウシーニョへの展開だった。同サイドを内側に引っ張った阿部の動きも見事。時間を与えられると鹿島が作ったスペースを突くことができるという、近年の川崎×鹿島を象徴するシーンだったと思う。鹿島がPKを与えたシーンも全く同じ展開だったし、少ない頻度でポストシュートとPKの局面を演出したエウシーニョの質は鹿島を苦しめたといえる。PKはスンテうまかったぜ!ドンマイキャップ!

【前半】-(3)
天候、日程、出場停止

 10分を過ぎたあたりからは鹿島はプレスラインを全体的に下げた。鹿島の前進はロングボールとカウンターがメイン。組み立て色が弱かったのは、相手が川崎なのに加えて、西の欠場の影響もあったかもしれない。鈴木と山本がターゲットとして、サイドバックに競りかけるように意識してロングボールを引き出す役割。山本は本当にエアバトル強い。川崎が怖かったのは、カウンターの流れで鈴木+セルジーニョとDFラインが対峙すること。両FWともに出し手、受け手として優秀で、カウンターユニットとしてはJリーグでもかなり凶悪な2トップだろう。関係ないけど、鈴木が最終局面のクロスの待つ位置がやたらファーが多かった気がするんだが。いつもなの?ニアや中央で待ち受けるイメージの方が強かった。奈良と谷口に手を焼いていたことも関係あるのだろうか。
 話がそれたが、プレスラインを下げた理由はロングカウンターに自信があることに加えて、過密な日程とこの日の気温を考慮して、デュエルの回数自体を減らして体力の消耗をおさえたかったからではないか。なお、前進できた時は全体の陣形を押し上げることは厭わなかったので、自陣引きこもりというよりは、陣形が大幅に動く頻度を抑えた意味合いが強いように感じた。

 天候に影響を受けたのは川崎も同じ。家長の不在は痛かった。上にも記したとおり、川崎は同サイドでの打開にはかなり苦しんだ。人を引き付けることでスペースを作り出す能力は家長の特筆すべき能力。ボールが収まる分、テンポが落ちるのは諸刃の剣ではあるが、暑さが厳しいこの日にボールの収めどころ兼相手プレイヤーの集めどころである家長が不在だったのは大きい。川崎は炎天下の中で、相手を外すために動き回ることでチャンスを狙い続けるしかなかった。
 鹿島としては普段なら「川崎にテンポがいいパスを素早い寄せで阻害→家長をなんとかする」の二段で対処の必要があったのだが、今日は一段で済んだため、だいぶ楽だったのではないか。

【後半】
勝負の鹿島、修正の川崎

 中3日の鹿島に比べれば川崎は体力面で優位と書いたが、あくまでそれは一般論の話。2017年の天皇杯を覚えているサポーターならば、日程の過密さよりも勝利を重ねて波に乗る鹿島の恐ろしさは身に染みているはずだ。もちろん私もその一人。鹿島は勝利を重ねて鹿島になるのであろうし、いい流れで迎えた首位相手のホームゲームで彼らが燃えないはずはない。そんな鹿島の意気込みを前面に押し出すかのように、後半は鹿島優勢で試合が始まる。
 後半の頭に指示があったのか、あるいは初めから後半勝負だったのか。前半と比べてプレスの強度が上がり、川崎はよりパスコースを見つけるのが難しくなった。

 谷口のハンド疑惑のシーンについては「ノーハンドで正しいと思うが、世の中には取る審判もいる」というのが私の見解。谷口の腕は体に完全に密着はしていないが、不自然な位置にはなく、手も動いていない。私は意図的にあそこに手は置かないと判断するが、そう判断する主審は世の中にはいるかもしれない。
 ただし、解説の福田さんの「意図的ではないと思うが、シュートコースに手が入っている」というのは完全なる認識の誤りであるのは間違いない。現行のルールでは意図的な部分や未必の故意を含まない限りはハンドにならないので、福田さんの解説はハンドになる基準がそもそも間違っている。
 谷口の手の位置は意図的とはいわずとも未必の故意はあったと考える主審もいるだろうというのが、私の見解。そして、個人の裁量によって変わる程度の判定はたとえVARがいようとも覆らない。このシーンでは村上主審のアクションからプレーを見たうえで「意図的ではない」と判断した可能性が高いため、自らレビューを要求する可能性も低いといえる。このnoteの趣旨とは異なるかもしれないが、少し話題になっていたので一応見解を述べた。

 土居を加えて最終局面のスペース攻略を強化したい鹿島。ただ、安部を下げることにより突破力がトレードオフで低下した感じはあった。
 川崎の交代は守田→知念。中盤のプレスを鹿島が強化しているということは、楔を入れる余裕はあるはず。前線の的の枚数を増やし、縦パスの収まりどころを作る交代だ。家長不在の川崎が個の質的優位で勝負するなら知念の部分という思惑もあっただろう。ボールの預けどころとしても機能する。ルヴァンカップではカシマスタジアムで得点しているので、本人としてもいいイメージを持っているかもしれない。同時に中村憲剛の位置を下げることによりプレッシャーからやや離した形。ただし、ボランチの守備の可動域は狭まるので、あくまで点を取って勝つためにリスクを冒した交代といえる。

 プレス強化する鹿島、縦パスを収めさせた川崎。この流れが行き着く先は当然カウンターの応酬ということになるだろう。試合の流れは徐々にダイレクトな色が強まっていく。内田を入れて推進力がある安西を前に置いた鹿島も、走力があってトランジッション向きの長谷川を入れた川崎もともにその様相を考慮してのものだろうか。

 試合を最後に分けたのは決定的なカウンターを2枚目のイエローカードを出させて止めた阿部。3枚目の交代カードである鈴木雄斗が阿部の退場後の試合の流れを読めてないように感じたのは少し残念だったが、そのあとのクロスの雨を防いだ谷口と奈良を中心とした守備陣もよく粘りを見せた。
 それにしても鹿島の出足の良さは最後まで落ちなかったのにはたまげた。ちなみに92分のCKの場面でリスタートを素早くしなかった永木を批判していた鹿島サポがいたのは、いかにも鹿島ならではだなぁという所感である。

 灼熱の環境での上位決戦はスコアレスドローに終わった。

まとめ

 過密日程の中で川崎を追い詰めた鹿島。前半はある程度テンポを抑えながら後半勝負を仕掛けた点や、強みを押し出す試合運びは調子がいいチーム状況が全面に出ていたといえる。特にレオ・シルバは圧巻のパフォーマンス。今季頭はやや調子を落としていた印象だったが、完全に復調したようだ。この引き分けでJリーグ制覇はかなり厳しくなったが、カップ戦に照準を合わせて終盤に底力を見せたいところ。ACLでは日本代表として応援したい。

 川崎としてもドローは受け入れざるを得ない結果だ。小林のPK失敗は痛恨だが、決定機を作れたのは数える程度。暑いコンディションでの苦手なトランジッション合戦に負傷者と退場者まで出したのだから、勝ち点1は御の字だろう。
 殊勲者は決定的なファウルを冒してチャンスを未然に防いだ阿部と前半に攻撃のアクセントになったエウシーニョ。特に阿部が退場になったシーンでの判断は、この試合の勝ち点を大きく左右するものだった。イエローを1枚もらっている中で、迷いなくこの決断を下せる選手は今の川崎にはとても少ない。
 次節は出場停止の守田、阿部に加えて小林にも欠場の可能性がある。満員御礼の等々力でリージョの神戸をいかに迎え撃つか。

あとがき

 勝利こそアイデンティティの鹿島とスタイルから勝利を見出す川崎はJリーグでは対極の存在だ。どちらが優れているということはないし、両チームのサポーターやチームカラーは相容れない部分はあるかもしれない。私は川崎サポーターだが、鹿島の「勝利こそ全て」というモットーはスタイルへの帰結がない分、とてもハードルが高く難しいものであると思っている。そういった看板を背負う中で毎シーズン何かしらのタイトル争いに絡む鹿島にはリスペクトを払っている。
 そんな鹿島と全く異なるアプローチで、川崎が新たな常勝軍団を作ろうとする現在の状況はとても興味深い。Jリーグファンの一人としては「ライバル」とは異なる、互いに邪魔な「目の上のたんこぶ」同士としてJリーグを盛り上げてほしい。

試合結果
2018/10/7
J1 第29節
鹿島アントラーズ0-0川崎フロンターレ
県立カシマサッカースタジアム
主審:村上伸次

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